異世界の辺境でサキュバスにTS転生した。歪んだ愛を向けてくる姉から貞操と尊厳を守るには、魔王となって世界を統べるしかない。   作:パッタリ

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71話 空への警告と屈辱の通行証

 翌朝、ズワルトの背に乗り、大陸の中央へと向かって飛ぶこと数時間。

 荒涼とした景色が徐々に鬱蒼とした森へと変わり、その中心に巨大な建造物の影が見え始めた頃だった。

 

 ヒュンッ!

 

 突然、眼下の森からいくつもの光の筋が上空へ向かって放たれ、ズワルトの進行方向で爆発を起こした。

 

 「ちぃっ……!」

 

 ズワルトは舌打ちをしながら急旋回し、魔法によるものだろう弾幕を躱す。

 

 「な、なんだ!?」

 「地上からの警告射撃だ。これ以上、空から城に近づくことは許さんということだろう」

 

 ズワルトは一度引き返すと高度を下げ、魔王城からかなり離れた森の入り口付近に静かに降り立った。

 その大きな背から降りた俺は、冷や汗を拭いながら尋ねた。

 

 「……なぁ。竜族にとって、あの魔王城ってどんな扱いだったりするんだ?」

 

 ズワルトは大きな鼻息を吐き、魔王城の方角を睨みつけた。

 

 「何を考えているかわからぬ者たちの根城、だ。……先代魔王は消え、大陸は乱世となった。それでもなお、他と交流をせず、あの城に留まり続けている。かつて、竜族の内部において、一部の先走った者が力ずくで城を制圧しようとしたことがあった」

 「制圧? どうなったんだ?」

 

 どこの勢力下にもない特別な場所。

 まあ、取りに行こうとする気持ちはわかる。

 

 「返り討ちにされた。それだけの戦力が、あの城にはまだ残っている。ゆえに、どの勢力も手を出さず、孤立状態を保っているのだ」

 

 淡々と語られる内容に、俺はごくりと喉を鳴らした。

 竜族の部隊を返り討ちにするほどの戦力。それが狂信者たちの実力か。

 ズワルトはドスンドスンと歩き、近くの開けた場所に寝そべった。

 

 「空から近づこうとすれば、ああして警告される。……そなたは観光などと言っていたが、中に入れるとも思えん。それに、我が竜の姿のまま向かえば、話がより拗れるだろう。人の姿になるつもりはないため、我はここで待つ」

 「そ、そうか」

 

 俺は心底ホッとした。

 ズワルトがついてこないのは、これから行うふざけた潜入作戦において非常にありがたい。

 だが同時に、魔王城にいる者たちの面倒臭さと強大さに、今のうちから内心で頭を抱えるしかなかった。

 

 「……というわけだから、カーミラ。向こうとの最初の交渉は、お前に任せるぞ」

 

 俺が堂々と宣言すると、カーミラは「はい?」と一瞬、本気で嫌そうな顔をした。

 

 「……ミア様。わたくしに、その変態的な作戦の口火を切れと?」

 「頼む。俺の口から言うと、威厳がなさすぎる」

 「……承知いたしました」

 

 カーミラは深いため息をついた。

 俺たちはズワルトを残し、かろうじて存在する森の中の獣道を進んだ。

 ズワルトの視線が完全に届かなくなった辺りで、俺は足を止めた。

 

 「……よし、お姉さん、ティエラ。約束通り、これをつけてくれ」

 

 俺は荷物から、レジエから没収しておいた黒い革製の首輪を取り出し、二人に差し出した。

 リード付きの、かなりしっかりした作りの代物だ。

 

 「はーい♡  ミアちゃんに首輪をつけてもらえるなんて、光栄だわ」

 

 ティエラがニコニコと笑いながら首を差し出してくる。というか、むしろノリノリに見える。

 俺は複雑な気持ちで、彼女の細い首にカチャリと首輪を装着した。

 続いてお姉さん。

 

 「ふふっ……ミア、そんなに震えなくてもいいのよ? もっと乱暴につけてくれてもいいのに」

 「か、からかうな!」

 

 俺は顔を真っ赤にしながら、お姉さんの首にも首輪をつけた。

 そして二本のリードをしっかりと握りしめる。

 伝説の魔女と、最凶の副魔王。その二人をペットのように連れ歩くサキュバスの少女。

 

 (……どんな悪夢だ、これ)

 

 絵面が犯罪的すぎる。

 さらに数分ほど歩くと、鬱蒼とした森が唐突に途切れ、開けた空間に出た。

 そこには、今もなお威容を誇る、巨大な魔王城がそびえ立っていた。

 巨大な城門の前には、門番らしき男女が二人立っていた。

 彼らはのんびりとした様子だったが、先ほど空に竜がいたことから警戒を強めていたのか、俺たちが森から姿を現すと、すぐに武器を構えて戦闘態勢を取った。

 

 「止まれ! 何者だ!」

 

 鋭い声で槍を突きつけられる。

 俺は深呼吸をし、リードを軽く引っ張りつつ、お姉さんとティエラを引き連れて堂々と前に出た。

 

 「魔王ミア。サキュバスだ。……ここには、観光に来た」

 

 堂々と名乗った俺の言葉に、門番の二人は顔を見合わせた。

 

 「……観光? またか」

 「ほんと、物好きな連中が絶えないわね」

 

 門番たちは毒気を抜かれたように槍を下ろした。

 どうやら、大陸の中央にあるこの曰く付きの城に、観光と称して肝試しや物見遊山でやって来る者は、たまにいるらしい。

 

 「ちびっ子魔王様には悪いが、ここは予約制なんだよ。悪いことは言わないから、帰ってくれ」

 「そうそう。痛い目を見たくないでしょ? お嬢ちゃん」

 

 手でシッシッと追い払うような仕草。

 

 (おや?)

 

 いきなり殺されるかと思ったが、意外にも普通に帰れと言われただけだった。狂信者と聞いていたが、案外話が通じる連中なのかもしれない。

 だが、門番たちの視線は、当然ながら俺の後ろ……首輪をつけられ、深々とフード付きの外套を被った二人の人物に向いていた。

 

 「……で、そっちの二人は何なんだ? 奴隷か?」

 

 門番の男が怪訝そうに尋ねる。

 俺は笑みを浮かべた。

 

 「ああ。こいつらは、俺のペットだよ」

 

 俺は二人のリードを引っぱり、引き寄せると同時に、彼女たちが被っていた外套のフードを後ろへ跳ね除けた。

 ティエラの顔。そして、イリスの顔が、白日の下に晒される。

 

 「なっ……!?」

 「き、貴様ら……!!」

 

 門番たちの顔色が一瞬で青ざめ、次いで激しい憎悪に染まった。

 

 「勇者パーティーの魔女ティエラ! そして、裏切り者のイリス! なぜここに!」

 

 即座に殺気を放ち、魔法を詠唱しようとする門番たち。

 だが、彼らが攻撃を放つより早く。

 お姉さんとティエラは、示し合わせたようにその場にスッと四つん這いになり、俺の足元で従順な犬のようにじっとひれ伏したのだ。

 

 「「……え?」」

 

 門番たちは、詠唱を途中で止め、ぽかんと口を開けた。

 彼らの脳内で、目の前の光景が処理しきれていないのだ。憎き仇敵たちが、サキュバスの小娘の足元で、首輪をつけられて犬の真似をしている。

 その完璧な隙を突き、カーミラが一歩前に出て、澄み切った声で説明を始めた。

 

 「……お見苦しいところをお見せして申し訳ありません。わたくしの仕えております魔王ミア様ですが……幸運と偶然が重なり、この通り、裏切りの副魔王と、かつての魔王の敵対者である魔女を、完全に支配下に置いたのです」

 

 カーミラの嘘八百のハッタリが、魔王城の門前に響き渡る。

 

 「え……? し、支配下……?」

 

 混乱する門番たち。

 俺はダメ押しとばかりに、四つん這いになっているお姉さんの背中に「よっこいしょ」と言いつつ腰を下ろした。

 そして、足置き場としてティエラの背中に足を乗せる。

 

 「んぅ♡」

 「あはっ、ご主人様ぁ……」

 

 お姉さんとティエラが、完璧な演技で恍惚とした声を漏らす。

 

 (いや、なんかお姉さんだけ素だったりしてるような……)

 

 疑問は残るが、今の状況で聞くわけにもいかない。

 圧倒的な強者であったはずの仇敵が、完全に心を折られ、屈辱的なペットとして調教されきっている姿。

 それを見た門番たちは、激しい憎しみと同時に、どうしようもないほどの暗い歓喜を刺激されたようだった。

 俺は、お姉さんの背中に座ったまま、にっこりと笑いながら言った。

 

 「どうだろう? こいつらを見世物として持ってきた。……これが魔王城への通行証ということで、いいかな?」

 

 門番の男女は、ごくりと生唾を飲み込んだ。

 

 「……す、少し待て。上の者に確認をとる!」

 

 男の方が慌てて門の奥へと走り出す。

 残された女の門番は、武器を構えたままではあったが、その視線は俺の足元で這いつくばる二人を見て、ゾクゾクとした嗜虐的な笑みを浮かべていた。

 

 (……よし。ひとまず、第一関門は突破だ)

 

 俺は内心で冷や汗を拭いながら、このまま何事もなく中に入れることを祈った。

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