異世界の辺境でサキュバスにTS転生した。歪んだ愛を向けてくる姉から貞操と尊厳を守るには、魔王となって世界を統べるしかない。   作:パッタリ

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72話 支配の証明と復活の儀式

 門番が城の奥へと消えてから数分後。

 重々しい足音と共に、城門の奥から代表らしき人物が姿を現した。

 三十代くらいに見える、野性味のある男だ。

 

 「話は聞いている。エドガーだ。この城の管理を預かっている」

 

 エドガーは、俺の足元で四つん這いになっているお姉さんとティエラを見るなり、ギリッと奥歯を噛み鳴らし、殺意の籠もった鋭い視線を向けた。

 だが、怒りを爆発させることはなく、ふーっと深く息を吐いて感情をコントロールしてみせた。

 

 「……魔王ミア、だったか」

 

 エドガーは俺を見据え、静かな、しかし威圧感のある声で言った。

 

 「申し訳ないのだが……本当にその者らが支配下にあるというなら、その証拠を見せてもらいたい。その者らを手荒に扱ってもらえるだろうか?」

 (えっ……手荒に?)

 

 俺は内心で冷や汗を滝のように流した。

 やり過ぎたら、帰った時にどんな仕返しが待っているかわからない。

 しかし、ここで躊躇すれば偽装がバレて、問答無用で殺し合いになる。

 

 「……ふん、造作もない」

 

 俺は精一杯の虚勢を張り、冷酷な魔王を演じきった。

 そして、足元にいるお姉さんの後頭部に足を乗せ、ぐいっと体重をかけて地面に押しつけた。

 

 「んぅっ……♡」

 

 お姉さんがピクッと体を震わせ、艶っぽい吐息を漏らした。その反応に、俺はビクッとなって寿命が縮みそうになる。

 

 「……次は、そこの魔女だ」

 

 エドガーが顎でしゃくる。

 俺はティエラの肩を足で小突いて仰向けに転ばせると、顔を踏むのはさすがにあとが怖いので、おでこの辺りに靴底を乗せて、ぐりぐりと踏んづける。

 

 「あはっ……いい足してるわね……っ」

 

 ティエラが、踏まれながら意味深な笑みを浮かべてくる。

 

 (二人とも、演技じゃなくて素で楽しんでないか……?)

 

 これ以上やるとボロが出そうだったので、俺は誤魔化すように握っている二本のリードを強く引っ張った。

 

 「黙れ。おとなしくしていろ」

 

 強い口調で命じると、二人は「はい、ご主人様」と言って首を垂れた。

 

 「……なるほど。確かに、支配下にあるようだな」

 

 その光景を見たエドガーは、胸の奥で渦巻く感情を押し殺すように一つ頷き、俺たちを城の中へと招き入れた。

 

  ◇◇◇

 

 城の内部は、外観の威容とは裏腹に、ひどく殺風景だった。

 装飾品はほとんどなく、すれ違う兵士や従者の数もまばらだ。

 ただ、その一人一人が異様なほどの魔力と、濁ったような暗い瞳の光を宿していた。

 立ち上がって俺の後ろを歩くお姉さんとティエラは、周囲の視線がなくなるたびに、俺のお尻を撫で回したり、腰に抱きついてきたり、いやらしく触ってくる。

 

 (帰ったあと、絶対やばいことになる……)

 

 俺は迫り来る貞操の危機に内心で涙を流しながら、案内された応接室のソファに腰を下ろした。

 

 「それで。本当の目的は何だ?」

 

 エドガーは席にもつかず、いきなり本題を切り出してきた。

 

 「観光と言っていたが、それならばわざわざそこの二人を連れてくる意味はないだろう」

 

 探るような、鋭い目。

 俺がどう答えるべきか迷っていると、俺の足元で控えていたティエラが、あっさりと口を開いた。

 

 「魔王復活のためよ」

 「…………」

 

 エドガーはかなりのしかめっ面になり、ティエラを睨みつけた。

 

 「あの方を討ち果たした、勇者パーティーの一員だった魔女の言うこととは思えんな」

 「あら、信じないの? そっちだって、魔王の復活を考えてるはずでしょ?」

 

 ティエラは首輪をつけられたまま、不敵に笑い返した。

 

 「だから、あなたたちは大陸北部の旧魔王軍に合流しないで、この城に立て籠もっているんでしょう? あいつらは、あの強大な魔王亡きあとの大陸を、自分たちで統一し支配することを前提に動いている者たちだからね」

 

 エドガーからの返事は、重い沈黙だった。

 しかしそれは、言葉以上に雄弁にその通りだと肯定しているようなものだった。

 

 「……魔女。お前はなぜ、魔王様の復活を考えている?」

 「あら、あなたたちみたいな狂信者に勝手に復活させられたら、また世界征服とか言い出して、こっちの大陸に攻め込んでくるかもしれないでしょ?」

 

 ティエラは肩をすくめた。

 

 「攻め込まれる側としては、迷惑なのよ。だから、私が復活に手を貸す代わりに、世界征服なんて面倒なことはせずに、この大陸を支配するだけで満足してほしい……ってお願いしに来たのよ」

 (……なるほど!)

 

 このやり取りを聞いて、俺はようやくティエラの思惑を理解した。

 こちらから魔王復活に手を貸すという貸しを作れば、嫌でも向こうはこちらの言い分に耳を傾けざるを得なくなる。

 これにより侵略を止められるなら、あえて復活を手伝う価値があるということだ。

 

 (ただ、その復活が“弱体化させた状態での復活”だってことがバレたら、激怒されてやばいんじゃないのか……?)

 

 俺は心の中で冷や汗を拭ったが、もはやこの流れに身を任せるしかなかった。

 

  ◇◇◇

 

 話し合いが一段落したあと、俺たちはエドガーの案内で、魔王復活の儀式を行っているという地下深くの部屋へと向かうことになった。

 その道中、エドガーがふと立ち止まり、俺の後ろを歩くお姉さんを見て、それから俺を見た。

 

 「……魔王ミアよ。そこの魔女のように、イリスもただ支配されているという演技をしているだけではないのか?」

 

 当然とも言える質問が飛んでくる。

 ティエラはともかく、お姉さんについては支配しているのではなく、俺が支配されているというのが事実に近い。

 

 (どう誤魔化すべきか……)

 

 エドガーの疑念を晴らすため、俺は咄嗟に行動に出た。

 

 「おい、イリス。四つん這いになれ」

 「はい」

 

 突然の命令にもかかわらず、お姉さんは膝をつく。俺は素早く自分の靴を脱ぎ捨て、素足を突き出した。

 

 「……足を舐めろ」

 「ほう?」

 

 エドガーが見つめる。

 お姉さんは一瞬だけ驚いたように目を丸くしたが、すぐに蕩けるような笑顔になり、「はい、ご主人様♡」と言って俺の素足に顔を寄せ、足の甲から指先までを、信じられないほど丹念に舐め回し始めた。

 

 「…………」

 

 エドガーは完全に呆気に取られていたが、やがてかすかに、本当にかすかに笑みを浮かべた。

 

 「……あの忌々しい裏切り者の、そのような屈辱的な姿を見ることができただけでも、城に招き入れた価値はあるかもしれないな」

 

 疑いは晴れたらしい。

 俺が安堵して靴を履き直していると、お姉さんが俺の耳元で淫靡にささやいた。

 

 「……美味しかったわ、ミア。ごちそうさま♡」

 

 帰ったら致死量の愛が待ち受けているのは確実。

 しかしどうすることもできない。

 

  ◇◇◇

 

 さらに地下へ降りると、そこには床一面に複雑な魔法陣が刻まれた、広大な石造りの部屋があった。

 部屋の中央には、禍々しい装飾が施された巨大な棺が安置されている。

 

 「あの棺の中に、魔王様の魂が眠っている。そして、新たな器となるべく練成した肉体の素材も一緒に入っているのだが……」

 

 エドガーが悔しそうに顔を歪めた。

 

 「なかなか、肉体の作成と魂の固着が進まずにいるのだ。我らの魔力だけでは、足りないらしい」

 

 ティエラは慎重に魔法陣へと足を踏み入れ、棺をペタペタと触りながら何かを考え込んだ。

 

 「ふーん……。なるほどね。ここまで術式が進んでるなら、イリスの膨大な魔力と私の技術を使えば、今すぐ復活までいけるかもね」

 

 ティエラがぼそりと呟き、にやりと笑った。

 

 「よし、やっちゃおうか」

 

 言うが早いか、ティエラは勝手に魔法陣の端を蹴り飛ばし、自らの魔力で術式を部分的に書き換え始めた。

 おそらく、弱体化させるための細工だろう。

 

 「なっ……貴様、何をしている! 勝手に触るな!」

 

 予定外の行動に、エドガーが激怒して槍を構え、ティエラに襲いかかろうとする。

 しかし、その前に黒い影が立ち塞がった。

 

 「邪魔はさせないわよ」

 

 首輪をつけたままのお姉さんが、圧倒的な魔力の壁を展開してエドガーの槍を弾き返した。

 

 「ちっ、儀式が大きく延期されることになろうとも、貴様らはここで殺す!」

 「や、やばい!」

 

 完全に戦闘状態に突入してしまった。

 俺は慌ててエドガーの懐に飛び込み、体当たりを食らわせた。

 

 「ぐっ……小娘が!」

 

 だが、エドガーの戦闘技術は俺の素人タックルを遥かに上回っていた。いとも簡単に俺の力をいなし、そのまま襟首を掴んで、ゴミでも捨てるように部屋の壁へと投げ飛ばした。

 

 「がはっ……!」

 

 背中を強打し、息が詰まる。

 しかし、それで時間が稼げたからか、ティエラの明るい声が地下室に響き渡った。

 

 「はい、おっけー! 成功したわ!」

 

 中央の巨大な棺が、眩い光を放ちながら、内部からゆっくりと押し開かれていく。

 エドガーもお姉さんも動きを止め、その光景を息を呑んで見つめた。

 棺の中から、ゆっくりと一つの人影が立ち上がる。

 そして、鈴の転がるような、それでいて絶対的な威厳を持った声が響いた。

 

 「……魔女よ。これが、お前の企みか?」

 

 光が収まったあとに現れたのは、かつて世界を恐怖に陥れた大魔王の姿……ではなく。

 透き通るような金髪と、宝石のように輝く緑の瞳を持った、息を呑むほどに美しい少女だった。

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