異世界の辺境でサキュバスにTS転生した。歪んだ愛を向けてくる姉から貞操と尊厳を守るには、魔王となって世界を統べるしかない。   作:パッタリ

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73話 蘇りし魔王と弱き肉体

 「……はぁ」

 

 少女の姿をした魔王は、とても深いため息をついた。

 そして、自分が一糸まとわぬ素っ裸であることに気づくと、呆然と立ち尽くしているエドガーを一瞥した。

 

 「おい、エドガー。布でも服でもいい、何か着るものを持て」

 「は、ははっ! ただちに!」

 

 畏れ多くも敬愛する魔王のあまりにも予想外な姿と絶対的な威厳のギャップに、この城の代表者たるエドガーは、慌てふためいて部屋の奥へ走っていった。

 その隙を突いて、ティエラが目を輝かせながら魔王に飛びついた。

 

 「ああもうっ、可愛い〜っ! 最高じゃないの!」

 

 裸の魔王に躊躇いなく抱きつき、その金髪の頭をわしゃわしゃと撫で回す魔女。

 

 「……変態はさっさと死んだ方がいいぞ」

 

 魔王はひどく冷たい声で吐き捨てながらも、抵抗する力はまだ完全には戻っていないのか、されるがままになっていた。

 やがて、ティエラをなんとか引き剥がした魔王は、俺の後ろで静かに佇むお姉さんへと視線を向けた。

 

 「……まだ生きているようだな、イリス」

 「ええ。長らく隠れ住んでいましたから」

 

 お姉さんが静かに頭を下げる。

 かつての主従。そこには、裏切りと死闘を経た者同士にしかわからない、ほんの少しだけしんみりとした空気が流れていた。

 だが、その空気はすぐに魔王の視線が俺に移ったことで霧散した。

 

 「ふむ」

 

 魔王の緑の瞳が、俺の頭の先から足の先までを値踏みするように舐め回す。

 

 「……その外見。イリスの愛玩動物か」

 「い、いや! まだ愛玩動物にはなってない! 俺はこれでも、南部を統一した魔王だ!」

 

 俺が慌てて言い返すと、魔王は小さく鼻を鳴らし、クイクイッと指を曲げて俺を呼ぶ。

 

 (なんだ……?)

 

 恐る恐る近づいた瞬間、魔王の小さな手が、俺の顔面をガシッと鷲掴みにした。

 

 「なっ、んぐっ……!」

 「まあ待て。少し読み取っているだけだ」

 

 抵抗しようとしたが、魔王の手から脳髄に直接、冷たい魔力が流れ込んでくるのを感じて動けなくなった。

 数秒後、パッと手が離される。

 魔王は、どこかひどく同情するような、可哀想なものを見る目を俺に向けていた。

 

 「……前世は男。今は少女か。そして、イリスに反発しながらもその寵愛に惹かれており、完全に堕ちかけている、と」

 「っ!?」

 「ついでに、条件付きながら面倒な魅了まで備わっているようだな。……難儀なことだ」

 「あ、あぁぁ……」

 

 知られたくなかった心の奥底の秘密を、初対面の大魔王に数秒で丸裸にされ、俺は羞恥心で顔から火が出そうになった。

 顔を真っ赤にして両手で顔を覆う俺を見て、城に入ってからずっと空気と同化していたカーミラが、肩を叩いて慰めるように言った。

 

 「心配ありませんよ、ミア様。……ミア様がイリス様と、その、口にできないようないやらしい関係なことは、ここにいる者は全員理解しておりますから」

 「慰めになってない!」

 

 俺が涙目で叫ぶと、ティエラがなんだかひどく興奮した様子で目を輝かせ、お姉さんに身を乗り出した。

 

 「ねえねえイリス! あとどれくらいで、ミアちゃんは完全に堕ちきるの!?」

 「そうねぇ」

 

 お姉さんは艶然と微笑み、俺の背後に回った。

 

 「朝から晩まで、一日中一緒にベッドにいれば、完全に堕ちるわ」

 「やめろやめろやめろ! そんな恐ろしい予定を組むな!」

 

 俺は慌てて逃げようとしたが、時すでに遅し。

 お姉さんに背後からガッチリと抱きすくめられ、逃げ場を封じられた。

 

 「んふふ……ミアは照れ屋さんね」

 

 スルスルと、お姉さんのサキュバスの尻尾が俺の服の中に滑り込む。

 

 「ひゃっ!?」

 

 スペード型をしてる先端が、俺の平らなお腹を滑るように撫で回し、下腹部……子宮のあたりを外側からグリグリと押し潰すように刺激してきた。

 

 「あ、んっ……だめ、そこ……っ!」

 

 さらに、尻尾はつつつ、と胸元をなぞるように上へ移動し、そのまま俺の口元へ。

 

 「ほら、あーんして?」

 

 俺が抗議の声を上げようと口を開いた瞬間、お姉さんの尻尾の先端が、おしゃぶりのように口の中へ侵入してきた。

 

 「んぐっ! んーっ!」

 

 俺は必死に抵抗し、口の中の尻尾を強く噛んでやった。

 だが、それがお姉さんのよくない部分のスイッチを押してしまったらしい。

 

 「もう……悪い子ね」

 

 お姉さんは俺の首筋に顔を埋め、そのまま吸いついた。

 

 「あぁ……!?」

 

 血ではなく、魂そのものを吸い出されるような精気の吸引。

 全身の力が抜け、脳味噌がドロドロに溶かされるような蕩ける感覚に襲われる。

 

 「はぁ……ぁ、んん……ぁぁ……」

 

 俺の口はだらしなく半開きになり、噛む力も失せ、自力で立つことすらできなくなった。完全に腰が抜け、お姉さんに抱っこされる形でズルズルと体重を預けることしかできない。

 その、あまりにもいやらしいというレベルを超えた光景に、カーミラは顔を真っ赤にして目を逸らし、ティエラは「わぁお……」とニコニコしながら熱心に観察している。

 そして、復活したばかりの魔王は、心底呆れた様子でため息をついた。

 

 「……イリス。何も愛せなかったお前が、そのように愛情を注ぐ存在がいるとはな。世界も変わるものだ」

 

 魔王はエドガーが持ってきたローブを無造作に羽織ると、今度はティエラを鋭く睨み据えた。

 

 「さて、勇者の仲間だった魔女よ。……私の力が、本来の半分も引き出せていない。本来の実力が発揮できぬよう、魔法陣を弄り、器となる肉体を変化させ、意図的に弱体化させての復活といったところか」

 「ええ、その通りよ」

 

 勝手に細工をしたティエラだが、悪びれもせず頷いた。

 

 「さすがに、いきなり完全復活されて『さあ世界征服だ!』ってやられるのは勘弁願いたいので。こっちの国に攻め込まれたら、また私が働かされちゃうし」

 「勇者パーティーの中で、今も生きている唯一の者だからか」

 「そう。長生きも転生も断りやがったのよ、みんな。いずれ訪れる老いを、死を、受け入れた」

 

 数秒間、金髪の少女な魔王と、普通ではない魔女が無言で見つめ合い、睨み合う。

 やがて、魔王が静かに口を開いた。

 

 「……それで。なぜ私の新たな器が、このような少女の姿なのだ? どういう趣味だ」

 

 威厳に満ちた声での至極真っ当な疑問。

 ティエラは胸を張り、堂々と宣言した。

 

 「私が女の子を好きだからよ! ……あ、でも、勇者だけは例外に入れてもいいかなって思ってるけど。個人的には女の子に転生させたかった。それで毎日愛し合うの。ふふふふ」

 

 魔王の目が細められた。

 これ以上、戯れ言を聞く意味がないかのように。

 

 「そうか。……死ね」

 

 詠唱すらない。

 魔王が指を弾いた瞬間、圧縮された超高密度の魔力がティエラに向かって撃ち出された。

 

 「おっと!」

 

 ティエラは即座に何重もの防御結界を展開したが、その圧倒的な衝撃に耐えきれず、部屋の端まで吹き飛ばされて壁に激突した。

 

 「かはっ……さすが、弱体化しても強いわね」

 

 ティエラは咳き込みながらも、致命傷は避けて立ち上がった。

 魔王は自身の手を見て、忌々しげに顔をしかめた。

 

 (……魔王は一撃で殺すつもりだったけど防がれた。それだけ弱体化が深刻だということか。それでもかなりの強さだけど)

 

 俺が観察している間に、ティエラはローブについた埃を払いながら、不敵に笑う。

 

 「ふ、ふふ……。昔なら、勇者を筆頭にパーティーを組んでなんとか倒せるってところだったけど。……今の弱体化した魔王なら、私一人でも相討ちにまで持っていけそうね」

 

 その言葉は強がりではない。魔王もそれを悟ったのか、舌打ちをして魔力を収めた。

 

 「……これ以上は無益か。エドガー、下がれ」

 「は、しかし……!」

 「お前たちが束になっても、あの魔女とイリスを相手しては勝てん。どちらか片方だけならまだしも」

 

 冷徹な事実を突きつけ、魔王は玉座の代わりとなる石の台座に腰を下ろした。

 こうして、先代魔王の復活という魔界を揺るがしかねない大事件は、なんとも締まらない奇妙な均衡状態の中で幕を開けた。

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