異世界の辺境でサキュバスにTS転生した。歪んだ愛を向けてくる姉から貞操と尊厳を守るには、魔王となって世界を統べるしかない。   作:パッタリ

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77話 魔女の兵器と地雷を踏み抜いた代償

 ある日の深夜。

 温かいベッドの中で眠りについていた俺は、不意に体を揺すられて目を覚ました。

 

 「……んぅ……お姉さん……?」

 

 寝ぼけ眼をこすると、暗闇の中で、お姉さんが人差し指を口元に当てて「静かに」と合図をしていた。

 次の瞬間、俺はお姉さんに正面からぎゅっと力強く抱きしめられ、視界がぐにゃりと歪んだ。

 

 「えっ? うわっ……!?」

 

 空間が切り替わり、足の裏に伝わる感触が石の床から、硬く揺れる木の床へと変わる。

 いきなりの転移魔法。困惑する俺の鼻を突いたのは、むせ返るような潮の匂いだった。

 

 「……ここは?」

 

 薄暗いランプに照らされた、見知らぬ木造の部屋。かすかに波の音が聞こえる。

 どうやら船の中らしい。

 

 (まさか、こんな夜更けに転移してまで連れ出されるなんて……俺の貞操、ついに終わるのか?)

 

 密室、夜、サキュバス。役満すぎる状況に俺が内心でガクガクと震えていると、部屋の奥から呑気な声が響いた。

 

 「あらら、ミアちゃんったら、訳がわからないって顔をしてるねー」

 

 声の主は、ニコニコと人の良い笑みを浮かべた魔女のティエラだった。

 

 「ティエラ? なんでここに……」

 

 ティエラは、手のひらサイズの金属の円盤を指先で弾いて見せつけた。表面に複雑な術式が刻まれた魔道具だ。

 

 「イリスからこれを渡されててね。長距離でも安全に転移魔法が使えるアンカーをね」

 「……それで、いきなり転移してまで俺を連れてきたのはどうしてなんだ?」

 

 警戒しながら尋ねると、お姉さんは俺の頬をサキュバスの尻尾でつんつんと突きながら説明してくれた。

 

 「ティエラから、竜族に対抗するための手段の用意ができたって連絡があったから、見に来たのよ。監視役のズワルトには内緒でね」

 「竜族への対抗手段……」

 「そう!」

 

 ティエラはポンと手を叩き、俺たちを船の甲板へと案内し始めた。

 夜の海風が吹き抜ける甲板に出ると、ティエラは懐かしむように夜空を見上げた。

 

 「昔ね……あの世界征服をしようとしてたイカれた先代魔王が、竜族と共に大量の船で南の大陸に攻めてきたことがあった」

 

 ティエラの目が、かつての激戦を思い出すように細められる。

 

 「で、こちとら勇者パーティーの最強な魔女として、バッタバッタと魔王軍の兵士とかを魔法で蹴散らすでしょ? でも、さすがに空を飛ぶ竜族相手はそう簡単にはいかなくてね。結局、遠征軍の船ごと沈める方向に切り替えて、撤退にまで持っていったってわけ」

 「なかなかの激戦じゃないか……」

 「まあね。でも、魔王本人と直接戦うことに比べれば、それ以外の戦いはすべてちっぽけなものだったわ」

 

 ティエラはそう言って笑い、甲板の中央に置かれた分厚い布をバサリと取り払った。

 

 「これが、対竜用の魔法兵器よ」

 「んん……?」

 

 俺は首をかしげた。

 そこにあったのは、大砲でも、巨大な魔道具でもなかった。

 人間と同じくらいの大きさがある、巨大な宝石の塊だったのだ。形は整っておらず、だいぶゴツゴツしている。

 

 「これが、兵器……?」

 

 俺が訝しげにティエラを見ると、彼女は得意げに胸を張った。

 

 「これは魔力の増幅装置よ。いやまあ、宝石を加工した時に出る欠片とか粉とかを、錬金術で無理矢理一つの塊にしただけの急造品だけど。……空を飛ぶ竜を魔法で確実に撃ち落とすとなると、一撃を強くしないとダメで、大量の魔力がいるからね。これを通して魔法を撃てば、火力が跳ね上がるってわけ」

 

 なるほど、理にかなっている。

 魔力の増幅ということは、回復魔法を使う場合でも役に立つだろう。

 

 「とはいえ、これだけしかないけれども」

 

 ティエラは大きな宝石の塊をポンポンと叩いた。

 

 「竜族との戦いが終わったあとは、ただの宝石として細かく砕く予定。ミアちゃんの国への、資金援助の一環としてね」

 

 俺はなんともいえない表情を浮かべた。

 一つしかなく、それすらも竜族との戦いが終われば破壊される。

 明らかな意図を感じた。

 

 「……それは、錬金術で作った強力な増幅装置を、俺の国、というよりも魔界に残し続けたくないという意味でもあるのか?」

 

 この指摘に、ティエラは「ご名答」と言いながらウインクした。

 

 「あくまでも私は、別の大陸の人間だからね。魔族の戦力を不必要に高めるような真似はしない。そういう義務があるのよ」

 

 きっちりと線を引くところは引く。さすがはかつての英雄だ。

 だが、ティエラはそこで悪戯っぽく口角を上げた。

 

 「まあ、どうしてもこの増幅装置をそのままの形で残したいっていうなら……ミアちゃんが、私と一緒のベッドで、媚びに媚びて可愛くお願いしてくれたら、考え直しちゃうけどなー?」

 

 冗談めかした誘惑。

 

 (……乗るべきか?)

 

 俺は少し悩んだ。この兵器がそのまま残れば、竜族以外の勢力に対する強力な抑止力になる。それに、少し媚びを売るくらいで国益になるなら、魔王として安いものだ。

 俺は意を決し、ティエラの方へと擦り寄り、彼女の腕にぎゅっと抱きついた。

 

 「……ティエラお姉ちゃん。ねえ、これ砕かないでよ。考え直してくれない……?」

 

 上目遣いで、できる限り甘く、蕩けるような声音を作り出す。さらにダメ押しとして、俺のサキュバスの尻尾を、ティエラの腕にすりすりと巻きつかせてみせた。

 ベッドではさすがに無理だが、これならどうだ?

 

 「あー……」

 

 ティエラは俺の媚び媚びな様子を見るなり、頬を引きつらせて一歩後ずさった。

 

 「あーあ。ミアちゃん……一番やっちゃいけない外れの選択肢を選んじゃったねー」

 「えっ?」

 「じゃあね! この増幅装置は秘密裏に陸地まで運んで、ルーサーのところで待ってるから。健闘を祈るわ!」

 

 ティエラは引きつった笑顔でバサバサと手を振った。

 その直後、俺の体は背後から凄まじい力で引き剥がされた。

 首筋にぞくりと這い上がる、絶対零度の気配。

 

 「……帰るわよ、ミア」

 

 地獄の底から響くようなお姉さんの声が耳元をかすめた瞬間、再び転移魔法が発動し、俺の視界は真っ暗になった。

 

  ◇◇◇

 

 「うぐっ……!」

 

 転移先は、荒野のど真ん中に建つ、お姉さんの屋敷だった。

 俺はベッドに乱暴に押し倒され、そのあとお姉さんの全身が俺の上にのしかかってきた。

 

 「お、お姉さん……っ、ちょっと、待って……」

 

 胸が、お腹が、太ももが。圧倒的な柔らかさと質量で完全に圧迫され、身動き一つとれない。両手は頭上でガッチリと恋人繋ぎで固定されている。

 そして、お姉さんのサキュバスの尻尾だけが、ペシペシ、ペシペシと、俺の頬を抗議するように軽く叩き続けている。

 

 「……ミア? 私、すごく傷ついちゃった」

 

 お姉さんの声は、怒っているというより、底知れぬ暗い情念に濡れていた。

 暗闇の中で光る瞳が、俺を射抜く。

 

 「どうして、あんなことをしたの? 私の前で、抱きつくのはまだいいわ……でもね、お姉ちゃんとか言ったりするのはダメ」

 「い、いや、あれは交渉のテクニックというか、その……」

 「ダメよ。友人でも、ダメなものはダメ」

 

 言い訳は許されなかった。

 

 「んっ……!?」

 

 お姉さんの唇が、俺の唇を強引に塞いだ。

 ただのキスではない。重く、息もつけないほどの蹂躙。

 

 「んふ……やめ……っ、ぁ……!」

 

 無理矢理こじ開けられる顎。侵入してきたお姉さんの長い舌が、俺の喉の奥深くまで舐め回し、上顎をなぞり、舌の裏側を執拗に攻め立てる。

 

 「んぐっ、ぁ……ひぃっ、んんん……!」

 

 ただの粘膜であるはずの口内が、お姉さんの魔力を帯びた舌の動きによって、異常なほどの快楽を感じる器官へと強制的に開発されていく。

 唾液が混ざり合い、頭の芯が白くスパークする。

 思い浮かぶのは、開発されたせいで日常生活が送れなくなるという可能性。

 

 (あ、あぁ……違うやり方に、しておけば……っ)

 

 恐ろしいまでの愛の重さに押し潰され、呼吸すら奪われた俺は、もはや何も考えられないまま意識を手放すしかなかった。

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