異世界の辺境でサキュバスにTS転生した。歪んだ愛を向けてくる姉から貞操と尊厳を守るには、魔王となって世界を統べるしかない。   作:パッタリ

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88話 高度な自治の約束と魔界統一

 土煙が晴れ、先代魔王ルカの敗北宣言が草原に響き渡った直後。

 決闘の立会人として離れた場所で待機していた観客たちの中から、数人の魔族が足早にこちらへと近づいてきた。

 大陸北部の旧魔王軍の上層部であり、ルカの真の正体を知るごく少数の側近たちだ。

 

 「……ルカ様。負けて、しまわれましたな」

 

 先陣を切って歩み出た壮年の魔族が、地面に座り込む金髪の少女を見下ろして、無念そうに首を振った。

 

 「ふん……時間を置いて、完全に力を取り戻していればまだ違っていたんだがな。今さら負け惜しみを言ったところで、か」

 

 ルカは土に汚れた服を払いながら立ち上がり、自嘲気味に鼻を鳴らした。

 旧魔王軍の上層部の男は、小さくため息をついたあと、今度は俺の方へと向き直った。

 

 「最後の部分は見えませんでしたが、それまでは見事な戦いでした、魔王ミア殿。我が軍の……いや、ルカ様を打ち破ったその力、確かに見届けました。我々も、魔王ミア殿に従いましょう」

 

 男は恭しく頭を下げたが、すぐに顔を上げ、抜け目ない交渉者の目になった。

 

 「ですが、従うのはいいとしても……ある程度の自治は残していただきたいものです」

 「なら、大陸東部の竜族と同じくらいでいい。事実上の独立国って感じで」

 

 俺があっさりと答えると、男は「ほう?」と驚いたように眉をひそめた。

 

 「それはまた大胆な。……形式上の主従関係だけで軍の解体を行わなければ、後々、我々が反乱を起こす可能性についての心配はないと?」

 

 どこか試すような問いかけ。だが、俺には絶対の自信と保険があった。

 

 「ないね。だって、うちには……お姉さんがいるからさ」

 

 俺はそう言うと、少し離れた場所に立っているイリスの方を見た。

 今は目深にフードを被り、外套で軽い変装をしているが……旧魔王軍の幹部クラスで、しかもルカの側近ともなれば、その立ち姿と魔力の気配だけで、中身が誰なのか一瞬で察しがつく。

 

 「……っ!」

 

 旧魔王軍の者たちは、お姉さんの姿を認めた瞬間、ビクッと肩を震わせて青ざめた。

 

 「……なるほど。そういうことでしたか」

 

 男は冷や汗を拭い、心底納得したように深く頷いた。

 

 「ふむ。あのお方が裏で目を光らせているというなら……反乱の芽など、育つ前に潰されてしまうでしょうな。いやはや、恐ろしいことです」

 

 かつて先代魔王が魔界を統一する過程において、旧魔王軍を裏から支え、完璧な盤面を構築していた副魔王イリスの恐ろしさは、古参の幹部たちの骨の髄まで染み込んでいる。

 お姉さんの存在そのものが、最強の抑止力となっていた。

 

 「それと……」

 

 俺は隣に立つルカを指差した。

 

 「ルカには、人質としてこっちに来てもらう」

 「は? なんだ? 私を城に軟禁して、慰み者にでもするつもりか? それとも、勝者の特権として手篭めにでもしたいのか?」

 

 ルカが警戒心を露わにすると、俺はもじもじと頬を掻き、少し恥ずかしげに視線を逸らした。

 

 「い、いや……そうじゃなくて。ルカとくっついたり仲良くしてると……お姉さんが、すっごく嫉妬してくれるみたいだから……」

 

 ルカはぽかんと口を開けた。

 そして、その意味を理解した瞬間、これまでの魔王人生で、おそらくは一番の盛大なため息を吐き出した。

 

 「はぁぁぁ……何が悲しくて、貴様らの個人的な性癖に付き合わねばならんのだ……。頭が痛くなってきた」

 

 先代魔王だった少女はこめかみを強く揉みほぐしている。

 

 「それにさ」

 

 俺は声を潜め、真面目なトーンで付け加えた。

 

 「さすがに、今の状況で先代魔王だったっていう正体を明かすことはできないでしょ? 勝って北部に君臨するならまだしも……俺に負けたこの状況じゃ、他の連中が黙ってない」

 

 ルカの正体を知っているのは、今日ここに観客として訪れたごく一部の幹部のみ。

 先ほどのような淫らで情けない負け方は、お姉さん以外に知る者はいない。土のドームで隠したからだ。

 しかし、快楽によって負けたという事実が周囲へ漏れれば、ルカの求心力は地に堕ちる。

 

 「……ちっ、言うようになったな。小娘が」

 

 ルカは忌々しげに舌打ちをした。

 だが、俺の指摘が的を射ている以上、断る選択肢はない。

 渋々といった様子で、俺たちについてくることを受け入れた。

 

  ◇◇◇

 

 その後。

 俺たちはオロネスの館へと帰還し、身内だけのささやかなお祝いを開いていた。

 豪華な食事が並ぶ中、カーミラが広げた大陸の地図を指し示した。

 

 「……さて。東部と北部が事実上の傘下に入ったことで、残るは大陸西部にある、西方諸国連盟だけです。どうしますか、ミア様?」

 「どうするって……まあ、適当に交渉して、配下になってもらってそれで終わりでいいよ」

 

 俺がワイングラス(中身はぶどうジュース)を傾けながら答えると、カーミラは「まあ、そうなりますか」と苦笑した。

 

 「大陸全土をミア様が支配している形になるとはいえ、東部の竜族も、北部の旧魔王軍も、事実上の独立国のように自由に動けるわけですが。……本当に、この緩やかな統治でよろしいのですか?」

 「そこはもう、お姉さんの暗躍に期待してる」

 

 俺はそう言って、自分の背後に寄りかかった。

 

 「んふふ♡」

 

 俺の背中には、俺を後ろからすっぽりと包み込み、自分の膝の上に乗せて抱きしめているお姉さんがいた。

 お姉さんは、俺の銀髪を優しく梳きながら、穏やかで、しかし底知れぬ凄みを秘めた微笑みを浮かべた。

 

 「大事な大事な魔王様の信頼に応えないとね。……表向きの平穏はミアが保てばいいわ。裏でこそこそと反乱を企てるようなおバカさんがいれば、私が綺麗にお掃除してあげるから」

 

 その言葉に、部屋の隅でワインを飲んでいたルカが「……相変わらず、反吐が出るほど優秀な裏方だ」と顔をしかめていた。

 

  ◇◇◇

 

 それから数日後。

 驚くほどあっさりと、大陸西部の西方諸国連盟から使者がやって来て、魔王ミアたる俺への従属を伝えに来た。

 東の竜族と、北の旧魔王軍が下ったという情報が西に伝わった時点で、彼らの選択肢は降伏一択しかなかったのだ。

 使者は開口一番に、西部の自治権についての交渉を切り出してきた。

 

 「……もとより、我々は商売と自治さえ守られれば、誰が王でも構いません。自治権はどの程度お認めいただけるのでしょうか?」

 「東部や北部と同等の高度な自治を約束する。事実上の独立国として動いていい」

 

 俺が即答すると、使者はホッと胸を撫で下ろし、すぐさま税率や、戦時に提供する兵の量についての具体的な話し合いへと移っていった。

 カーミラが水を得た魚のように書類を広げ、細かい交渉を詰めていく。

 その様子を玉座から眺めながら、俺は心の中でそっと呟いた。

 

 (……これで、本当に。魔界すべてを支配する魔王になったんだな)

 

 だいぶゆるゆるの、連邦制のような形だ。

 ルカがかつてやったように、絶対的な恐怖と力ですべてをねじ伏せ、完全に統治するのは、今の俺には無理だし、何より時間も国力も足りない。

 手っ取り早く統一して戦争を終わらせるための、妥協の産物という見方もできる。

 でも、それでいい。

 血が流れず、誰もが自分の生活を営める。これからは、各地の発展と、美味しいご飯と、平和な日々が続いていくだけだ。

 本当に、よかった。

 

 「──ミア?」

 

 ふと、耳元でねっとりとした、鼓膜を直接溶かすような甘い声が響いた。

 俺の首筋に、お姉さんの柔らかな唇が這う。

 

 「魔界の統一、おめでとう。……今夜は、ミアが朝まで起き上がれなくなるくらい、たぁーっぷりとお祝いをしてあげないとね♡」

 「っ……!」

 

 平和な日々が続く。

 それはそれとして、俺のプライベートは今後も永遠に、お姉さんからの過激で淫靡すぎる愛の蹂躙に晒され続けるのだ。

 今夜のお祝いという名のご褒美を想像しただけで、俺の下腹部の奥が熱く疼き始めた。

 

 (……まあ、悪くないか)

 

 俺は、すっかりサキュバスとして開発され尽くした己の体に諦めと歓喜を抱きながら、お姉さんの腕の中に深く沈み込んでいくのだった。

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