諸君、私は人間が大好きだ   作:如月SQ

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ちょっと予約投稿ミスりましたが投稿しなおしました。


第七話

「フリーレン、ミアが『ロザミア』という大魔族なのはわかったけど……何か情報はあるかい?」

 

「殆ど知られてない。大魔族の魔法はある程度知れ渡るものだけど、ロザミアの魔法は聞いた事がない。そもそも大魔族の中でもかなり目立たない名前なんだよ。魔族同士の争いで死んだとも言われてたくらい」

 

 担がれているフリーレンは魔法で明かりを灯しながら、背後を警戒していた。

 遠くで時折不自然に木の影が蠢く事から、シュヴァルはしっかり此方を捕捉し追いかけているようだった。

 

「俺が聞いた話では悪食の名に恥じず、なんでも食っていたらしい。特に人が好物で、人を飼っている……なんて噂もあった」

 

 アイゼンの言葉に、ヒンメルは思わず顔をしかめた。

 

「……それは……」

 

 それが事実だとすれば、あの使用人達が()()なのだろう。

 ヒンメルにとってその現実は有り得てはいけないものだった。

 

「だがまずは、あの影の魔族だ。もうすぐ日が暮れそうだけど……フリーレン、いけそうかい?」

 

「……いけると思う。まだ若い個体だ。慢心も透けて見える。影の魔法は脅威だけど、多分どうにか出来る」

 

「心強いな」

 

 笑みを浮かべたヒンメルが足を止めた。

 それに応じるようにアイゼンも移動をやめ、ハイターをその場に下ろした。

 

「ここで、迎えうつ。ミアが合流してくる前に、仕留めるぞ」

 

「ああ」

 

「ええ」

 

「うん」

 

 ヒンメルとアイゼンは得物を構え、一歩前に。

 ハイターとフリーレンは一歩後ろに。

 簡単な陣形を組んで、蠢きながら迫ってくる影に向かい合った。

 

 蠢く影の中、浮かび上がったシュヴァルの顔が、ヒンメル達を見つけてその顔を歪めた。

 

「良い度胸だ……この『潜行のシュヴァル』と闇夜でやりあおうとはな!」

 

 瞬間、どぷん、という音とともにその姿が影の中に消える。

 そして、影が夥しい数の槍となり、ヒンメル達のほうへと放たれるのだった。

 

 視界を覆い尽くす程の規模の攻撃に、流石のヒンメルとアイゼンも冷や汗を浮かべた。

 

「……潜行、か……文字通りって訳ね。フリーレン、どうにかなる?」

 

 改めて問い掛けられた言葉に、フリーレンは目を細めて答えた。

 

「……もうちょっと、時間が欲しいかも」

 

 本人の姿が見えず、数えるのも嫌になるほどの飽和攻撃……対処を誤ればあっという間に穴だらけになるだろう状況で、楽観的な意見は口に出来なかった。

 けれど、対処出来ないとは思わなかった。

 

「オーケイ。任せて。いけそうなら僕達だけでカタをつける。所詮これは前哨戦だ……さっさと終わらせよう」

 

「ヒンメル、自身の影に注意しておけ。こういう魔族は必ず不意をついてくる」

 

「ああ。来るぞ!」

 

 殺到する無数の影の槍へと、ヒンメルとアイゼンは刃を振るった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 戦いは膠着していた。

 シュヴァルの放つ影の槍はヒンメルとアイゼンに打ち砕かれ、アイゼンに当たっても刺さる事すらない。

 ならばとフリーレンやハイターを狙おうと、それは必ず叩き落とされていた。

 

 一方で合間をぬってフリーレンが雷や炎を放つも、影に潜ったままの本体に当たる事はなく、何処にいるかも把握出来ない。

 互いに有効打のない状況だと思えた。

 

 しかし、フリーレンは既に少しずつ、シュヴァルの魔法を解き明かしていた。

 何よりももう、単調な力押しでしかないシュヴァルの攻勢を、ヒンメル達は既に慣れ始めていた。

 フリーレンのいう若い、という言葉が理解出来る。

 この魔族はきっと、戦いをあまりこなしていない……その魔法の強力さと比例せず、実力自体は大したことがないと言えた。

 

 だからこそ、必ず仕留める、そう覚悟したヒンメルがアイゼンへと目配せした。

 

「――――」

 

 二人だけに聞こえるように呟かれた言葉に、アイゼンは小さく頷いた。

 

「防戦一方か? やはり人類も大したことはないな!」

 

 そして、何も気付かない愚者が一人。

 

「ぐっ」

 

 影の槍を受け止めたアイゼンが、苦悶の声を漏らして体勢を崩した。

 好機と、そう感じたのだろう、アイゼンの背後の影が盛り上がった。

 

 その瞬間、全員の意識はその影に向かった。

 フリーレンは明かりを強く灯し、ハイターはアイゼンを間に挟みながら身構え、ヒンメルは不測の事態に備え、アイゼンは即座に得物を振れるように身構えた。

 

「もらっ――」

 

 そして、まんまとアイゼンの背後の影から現れた魔族へと、振り返って刃を振るった。

 確実に仕留めた、アイゼンはそう感じた。

 振るった斧は吸い込まれるようにシュヴァルの肩に叩き込まれようとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 筈だった。

 

「『止まれ』」

 

 その声が響いた瞬間、アイゼンの動きが止まる。

 シュヴァルの肩に斧が当たる寸前で、止められるようなスピードでもないにも拘わらず。

 

「っ……! アイゼン!? ハイター!」

 

 しかもアイゼンだけではない。

 身構えていたハイターも真剣な眼差しのままその動きを止めてしまった。

 そして、二人ともがそのまままったく動かない。

 返事もなく、僅かな身動ぎや瞬きすらしない。

 まるで、時が止まってしまったかのように。

 

 それに驚愕しているうちに、シュヴァルの姿は既にそこから消えていて……気付けば離れた場所に出現していた。

 隣には、先程響いた声の主、燃えるような赤い髪の魔族が佇んでいた。

 

「先程の借りは返したぞシュヴァル」

 

「ちっ……ぬけぬけと」

 

 そこには、いつの間にかミアがいた。

 指で四角を作り、アイゼン達のほうを覗き込むように見ていた。

 ミアがアイゼン達に何かしたのは、明白だった。

 

「フリーレン、どう見る」

 

「……拘束魔法に近いけど、明らかに違う。多分……」

 

「ああ、これが私の魔法だ。『対象の時を止める魔法』」

 

 警戒し、考察する二人に対して、ミアは呆気なく正体を明かした。

 ぎょっと目を見開くシュヴァルはミアを見るが、その顔は平然としたものだった。

 

「対象は時が止まる。それ以上けっして変化する事はない。ただ止まっている間に受けた干渉も全て弾くから、二人は私が解除するまで害される事はないぞ。安心して戦うと良い」

 

 裏を返せば、ミアが解除するまで、二人は動き出す事はないという事でもあった。

 影を操る魔法以上に滅茶苦茶な魔法に、ヒンメルとフリーレンの顔が思わず歪む。

 相手の戦力は増え、此方の戦力は半減……加えてとんでもない魔法を使う事実。

 日は暮れて、否応なしに明かりとなる魔法を使わざるをえない中、同数での戦い。

 逃走の二文字がフリーレンの頭に浮かぶ中、ヒンメルの意思は曲がらなかった。

 

「フリーレン、諦めるな。行くぞ」

 

 ヒンメルの声は自信に満ち溢れたものだった。

 状況は悪い、それでも僕達なら勝てると、根拠のない自信を振りかざして剣を構える。

 

「……わかった」

 

 それに呼応するようにフリーレンは頷き、杖を構えた。

 幸いにも、影のほうの対処法は思い付いた。

 ならば、ヒンメルにミアを押さえて貰っているうちに片付ければ、打開のチャンスはある。

 

「あっちをお願い」

 

「わかった」

 

 言葉少なに言葉を交わし、二人は改めて二人の魔族に向き合った。

 自然体で佇むミアと、僅かにひきつった表情を浮かべたシュヴァル。

 ヒンメルとフリーレンは、改めて得物を握る手に力を込めた。

 

「これで二対二だな。それでは、始めようか」

 

 ミアが宣言した瞬間、ヒンメルは地面を蹴り、シュヴァルは影に潜り、フリーレンは魔法を行使した。

 

「人類と魔族の、生存競争を」

 

ガキィイイイイイン!

 

ドドドドドドドドド!

 

 ヒンメルの振るう剣と、ミアの手刀が火花を散らし、無数の影の槍を、フリーレンの無数の魔法が打ち落とした。

 自分の振るう剣と競り合う素手という光景に目を丸くし、冷や汗を流しながらも無理矢理に笑みを作った。

 

「どんなカラクリかな……!」

 

「なあに、私の魔法のちょっとした応用だ。止めた時を纏っているだけ……止まった時は不可侵。刃を受け止める程度なんて事はない。……ああ、全身を覆うなんて事をすればあっという間に魔力が尽きるからしていないよ。安心すると良い。君の刃と触れる部分だけに纏っているんだ」

 

 ヒンメルはその言葉に明らかに顔を歪めた。

 ミアに攻撃を通す、その難しさに気付いたからだ。

 

「……丁寧な説明痛み入るよ。つまり、ミアが認識した攻撃はまともに通らないって事か」

 

「そうなるな」

 

 何度か切り結ぶも、刃に直接触れている筈のミアの手は傷どころか汚れすらつかない。

 体はブレず、ヒンメルの動きにしっかりと対応しついてくるその体さばきは、明らかに戦える者の動きだった。

 

「重心移動が上手いとは感じていたけど、マナーの一環だと思っていたよ。こんなにちゃんと戦えるとはね」

 

「ふふ、戦えないと言った記憶はないな」

 

「まったく、それなら道中、遠慮なく戦わせれば良かったな!」

 

 言葉を交わしながら、二人は幾度も切り結ぶ。

 その度に素手とは思えない金属音を響かせ、ヒンメルの剣が火花を散らす。

 結ばれていないミアの燃えるような赤い髪が踊り、血塗れの角が黒く光った。

 幾度目かの衝突か、ヒンメルが僅かに押され後退る。

 そこをついて力強く振り下ろされた手刀を、ヒンメルは剣を横にし左手を剣の腹に添えて、どうにか受け止めていた。

 

ギィインッ!

 

「っ……! なんっで……人を食らうんだ……!」

 

 顔を苦々しく歪めながら、ヒンメルは絞り出すように問い掛ける。

 

「魔族は人を食べるけど、食べなくても生きていける筈だ……! あんなに人を雇って……彼らもみんな食うつもりだったのか!? 君なら、人を食わない生き方だって出来ただろう……! なのに、なんで……! 人が好きだって言ったのは、嘘だったのか!?」

 

 それに対してのミアの反応は、粛々としたものだった。

 手刀を押し込みながら、顔色を変えず、言葉を返す。

 

「君は、牛や豚を食べる事に疑問を持った事はあるのか? 鳥は? 魚は? ないだろう? ……私にとって、人間は肉の分類の一つでしかない。だからこそ、私はいつでも声を大にして言える」

 

 ヒンメルの瞳を覗き込みながら、ミアはペロリと唇を舐めた。

 

「私は、人間が大好きだ、とね」

 

「っ……! あぁあっ!」

 

キィンッ!

 

 歯を食い縛ったヒンメルは、渾身の力を込めてミアを大きく弾き飛ばした。

 

「っと……」

 

 ミアに手傷を負わせる事は出来なかったが、その体勢は明らかに崩れていた。

 そこを見逃すヒンメルではない、即座に地面を蹴り、未だ不安定な姿勢のミアへと、刃を突きだした。

 急所、胸へと最短で向かう刃。

 ここで仕留めるという、強い思いの籠った一突きだった。

 

 しかし。

 

「おっと、甘いな」

 

 寸前で身を反らしたミアに、その渾身の一撃はかわされてしまう。

 それどころか、手を伸ばしたミアはヒンメルの襟と手を掴んでいた。

 苦悶の表情を浮かべるヒンメルがそれを外そうとするより早く、その体は既に宙に浮かんでいた。

 

「そんなザマで本当に魔王を倒せるというのか? ええ? 勇者、ヒンメル!」

 

ブンッ!

 

「う、おおおおお!!?」

 

 そしてそのまま背負われるように放り投げられたヒンメルは、宙を飛んだ。

 不運にも、フリーレンとシュヴァルが戦闘をしている辺りへと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方で、フリーレンはシュヴァルに押されていた。

 いや、厳密には押されているように見せ掛けていた。

 先程と同じだ、大きく踏み込ませて、そこを仕留める為の罠だ。

 影に潜み続ける卑怯な魔族だが、アイゼンの隙を見て出てきたように、トドメは自分がと考えているのだろう。

 若く、自惚れている魔族にありがちだ。

 

 それでもつい先程の事がある、油断するまで『本当に苦戦』する必要までフリーレンは考えていたが……。

 

「どうした、防戦一方じゃないか!」

 

(やっぱり若い……もう油断してる)

 

 その声色は既に慢心に染まっていて、先程の事は忘却の彼方。

 さっき追い詰められたのは数のせいだとでも思っているのだろう。

 自分の力に自信を持ち、目の前の相手しか見ない、魔族としては珍しくないクソみたいな慢心と油断だ。

 

 ならばフリーレンとしてはいつもと同じ、油断させ、罠に嵌める。

 つまり、先程のアイゼンと同じように誘い込むだけ。

 さっさと仕留めて、ヒンメルの援護に向かおう。

 そう決めて、フリーレンはわざと影の槍を反らす力加減を弱めた。

 

ドスッ!

 

 狙いどおりその槍はフリーレンの足のすぐ近くの地面を貫き、それに驚いた風を装って体勢を崩した。

 

 瞬間、案の定フリーレンの背後の影が盛り上がった。

 フリーレンは杖を構えて、即座にうてるように身構え……。

 

バッ!

 

ゴォッ!

 

 フリーレンの背後の影から飛び出した()()()()がフリーレンの放った炎にのまれた。

 

「バカめ! 同じ手が通用するか!」

 

 そして、代わりのようにフリーレンの目の前には影の槍を振りかぶったシュヴァルが、躍り出ていた。

 意気揚々と、シュヴァルは槍を突き出そうとして……。

 

「そうだね、お前はバカだけど、そのくらいの頭はあったみたいだ」

 

 それより先に自身の鼻先に、既に杖が突き付けられていた。

 思わず動きを止めるシュヴァルを、フリーレンの冷静な眼光が貫いた。

 

「は……待っ」

 

「じゃあね」

 

 フリーレンの杖から雷が迸る、それと同時だった。

 

ドンッ!

 

「おおおお!? ぐっ!」

 

「うわっ!? ヒ、ヒンメル!?」

 

「ぐあああっ!」

 

 フリーレンに飛んできたヒンメルが衝突し、杖が僅かに逸れてしまった。

 放たれた雷はシュヴァルの片腕を奪ったが、致命傷には程遠かった。

 ヒンメルの体重を支えきれる訳もなく、二人はもつれ込み倒れてしまった。

 

「ご、ごめんフリーレン!」

 

「くっ、しまった……!」

 

 苦悶の声を漏らし顔を歪めるシュヴァルだったが、目の前の好機を逃す程愚かではなかった。

 

「ひ、はははっ! やはりバカはお前のほうだったみたいだな! 食らえ!『影を操る魔法(バルシルド)』!」

 

 折り重なり倒れこむ二人に対して、四方八方から影の槍が襲いかかる。

 本人も槍を構えて突撃してくる、おまけつきで。

 慌てて対応しようとするが、体勢は崩れたまま、もみくちゃのままで、とてもではないが手が足りず対処出来ない。

 ヒンメルの剣も、フリーレンの魔法も、影の槍の飽和攻撃に間に合わない。

 

「くっ……そっ……!」

 

 ヒンメルは咄嗟にフリーレンを腕の中に抱えた。

 せめて一人でも、フリーレンだけでも助かるように……と。

 

 フリーレンは急所へ当たりそうな槍だけでもと最後まで足掻いたが、残念ながら魔法の発動よりも槍の到達のほうが早かった。

 ヒンメルめ、と内心で愚痴るも最早どうにもならない。

 半ば諦めながら衝撃と痛みを覚悟して、身を出来るだけ小さくして目を瞑る。

 

 その寸前、視界が黒く染まる前。

 燃えるような赤が、視界に飛び込んで来たような気がした。

 

 

 

 

ドシュウッ!

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