ストーム1、絶望まみれのリョナエ◯ゲの世界で全力の抵抗を試みる模様 作:糸をなんとかしろ!
今回の作戦においてプロフェッサーは小教会に残留。……というのも彼当人はそもそも戦闘員では無い。
先の大戦において人数合わせで戦闘に参加した事はあったがここでプロフェッサーに死なれてストーム1が生き残った場合頭脳を失って詰みだ。
生憎ストーム1は脳筋だ。極力彼には安楽椅子探偵でいてもらいたかった。
そのためストーム1とシスターことラビアン。たった二人での突入となる。
この短い旅路において二人とも交わす言葉も少なく、ざり、ざり、ぐち、ぐちゃ、ざり、と土と泥を踏む音だけが耳朶を打つ。
あれ以降、まともに言葉を交わしていない。
概ねこの協力体制にしたってプロフェッサーによるものだ。ストーム1は一切介入しちゃいない。
だからひどく気まずかった。
本来この手の作戦においてあらかじめ擦り合わせとかコミュニケーションは取るべきなのだろうが生憎ストーム1は己が口が上手い人種ではないと言う自覚があった。
「先日は……すまなかった」
だからせめて言える事があるとすれば無駄な混乱をさせた事と無駄な恐怖を与えた事を謝るくらいだ。……などと気を利かせたつもりだったストーム1に対して、一体何の話だとラビアンは目をぱちくりとさせる。
「何の事です?」
「肩掴んで捲し立てた事だ」
本当に忘れていたらしい。ちょっと考え込むように宙を見上げてからあぁ、と口を開いた。
「お気になさらず。誰でもあのような場所にいれば気が動転するのも仕方のない事です」
とは言うが少し何かが引っ掛かっているようで、喉の奥に魚の小骨が引っ掛かっているのかいないのかよくわからない時のような顔をしているラビアンでストーム1はすっきりしなかった。
どこで引っかかっている?
ああ──何もかもにか。
「一体、あの時あなたは何を見たんです?」
この事についてはプロフェッサーもストーム1もこれまで話す事はなかった。
ラビアンからすればストーム1とプロフェッサーがゾンビの残骸の周りで佇んでいたようにしか見えなかったのだろう。そして突然大丈夫かと迫った訳だ。客観的に見れば
──おかしいと思えるなら俺はまだ大丈夫だ。
正気の確認をしながらストーム1は端的に言葉を紡ぐ。
「……死体があった。君に似た死体だ。でも、いつの間にか消えていた」
「…………」
これ以上訊かないでくれ。
これ以上は知らないでくれ。
脳裏にこびりついた凄惨な死体を思い出しながらストーム1は心の底で懇願する。その願いが通じたのか、それとも
「こちらストーム1、死人の森に到着した」
幸い人工衛星を介さない無線通信なら出来た。
無線機は無事に稼働している。とはいえ、バッテリーが切れれば使い物にならなくなる。
最新鋭の長時間稼働出来るバッテリーとはいえ、電源も代替のバッテリーもない今あまり時間はかけられない。
《この森には前回と同じようにゾンビが湧いてくるだろう。だがスレイドの敵ではない。……『沼』には気をつけろ》
「突入する」
森の中に入れば再びじっとりとした空気、そして仄かな屍臭がまとわりつく。
空気を焼き切るように白く照らすスレイドのサーチライトの灯りを隣のラビアンがまじまじと見ていた。
「それにしても不思議な光ですね……火が要らないなんて」
「こいつもいつまで使えるか分からん」
本来ストーム1の戦闘服にも識別の為発光する機能や、通常を上回る速度で走ることの出来る機能がある。
だが生憎こちらも封印中だ。
「魔法、でも無いようですし」
この世界においてシスターという存在は魔法を使う事ができるのだという。
だから魔物に対抗出来るのだという。事実上この世界におけるシスターの元締めたる教会はEDFと言っても過言ではないだろう*1。
スレイドでぶち抜けたのはその過剰過ぎる威力のせいなのだろうというのはプロフェッサーの談だ。
「偉い人の作ったスゴイパワーだ」
「……なんだか雑にはぐらかされたような気もしますが」
いつどこでも忘れないものだ。エジソンは偉いのだ。常識なのだ。
そもそもそんな常識なぞ前提として無いラビアンは不満げだ。なお、ストーム1は電気についての説明は出来ない。出来るのはガ◯ダムの話だけである。
はたまた腐ったチーズのような臭いが鼻を突き刺した。
──この臭いは
この不快感、記憶に新しい。臭いの方向は人の出入りが長年無かったのだろう左右の茂みからだった。
呻き声と共に茂みから這い出るように現れる数体の屍人にストーム1は迷いなく銃口を向けた。初手で頭をぶち抜けばターゲットを取れなくなる。だから──
──一撃で仕留める。
スレイドの銃身から伸びるレーザーサイトがゾンビの頭に合わさろうとしたその時だった。ラビアンの細い腕がストーム1を遮った。
「おい?」
「ここは任せてください」
「……ん?」
ラビアンは素手だ。
魔法を使うとは言うが一体何をするつもりなんだ。ストーム1はスレイドを構えたまま彼女の動きを見守る。
先程ゾンビに殺されていた彼女だ。最悪の場合に備えていつでもゾンビの頭をぶち抜けるようにサイトはブレさせない。
彼女の目が慈愛に満ちた修道女から戦士の目へと変わる。次に何かを念じると虚空から金色に光る剣を引き出した。
黄金色の光を仄かに発しながらその刃を横一文字に閃かせる。
一閃。この一振りはゾンビを紙切れのように一撃で両断した。そこから後は流れだ。
ゾンビの振るう腐った腕を剣で受け止め、返す刀で一閃、一閃、一閃、一閃。
瞬きした時にはラビアンの足元には死屍累々。立っている者はラビアンとストーム1だけだった。なるほど、彼女も
「ふう」
役目を終えたラビアンの剣が霞となって消える。ちょっとしたスタイリッシュアクションめいた動きだった事にストーム1も言葉を失っていた。
先日ゾンビの餌食にされた彼女は一体どこへやら。あれは他人の空似だったのか。
ゾンビの死体もそのまま黒い瘴気となって塵へと還る。シスターの名は伊達ではなかった。ストーム1より小柄なはずのラビアンの背中が心なしか大きく見えた。
「──お怪我はありませんか?」
「あ、あぁ」
が、振り向いた時には瞬時に見せたその戦士の顔は消えていた。
「よかった」
今思えばきっと、子供の頃に見たのが最後だろう。そんな優しい微笑みかけだった。
それまでずっと構えっぱなしだったスレイドに気付きストーム1は慌ててそれを下ろした。今まで疑問だったのだ。彼女が単身で派遣されていると言う状況に。
あの頭の硬い*2EDFの上層部でもこのような大きめの状況なら兵士を何の準備もなしに単身で寄越すような馬鹿な真似はすまい。多分、おそらく、きっと。
彼女の場合必要無かったのだ。たった一人で戦えると判断したのだ。
「魔力の籠った一撃ならばこうして魔物を浄化、消滅させる事が出来ます」
明らかにストーム1とプロフェッサーがラビアンの能力を疑っていた事に気付いていたような素ぶりにストーム1は小声で「すんませんした」と謝る。ラビアンの対魔物に特化した魔力、スレイドの過剰過ぎる火力ならばこの戦場、生き残る事ができる未来が見える。
その後道中ゾンビが現れたものの、スレイドでヘッドショットぶち込み、撃ち漏らしをラビアンが処理するという流れが示し合わせる事もなく成立していた。
前衛にラビアン、後衛にストーム1の図式が出来上がっている。ゾンビ程度問題にもならなかった。
「こちらストーム1。例の沼まで到着した」
《そうか。ここが地図にあった沼か》
ゾンビの群れから直進十数分。泥特有の臭いがキツくなり地面のぬかるみが酷くなり始めた所で、眼前には墨汁をぶちまけたような黒い泥貯まりが果てしなく広がっていた。試しにちょっと大きめの石を投げてみると、ぼちゅん、と音を立てたのを最後にそのまま音もなく沈みその姿を消した。
「……迂回は?」
《ほぼ不可能だ、迂回しようなら酷い遠回りになる。ここは本来川だったらしい。ラビアンの話によればそれがどう言うわけか沼に変質したらしい》
「どう言うわけだ。水質汚染にも限度があるだろ限度が。ドロッドロじゃねえか」
一体何をぶちまけたらこんなドロドロの底なし沼(推定)になるんだと、ストーム1は顔を思いっきり引き攣らせる。
この手の沼にハマった場合下手に対抗すると余計に沈む。沈む前に迂回するか抜け切るか、最悪装備を捨てて寝転がる事で圧力を分散させるかのどちらかだ。
「さて」
スレイドのサーチライトで前方の沼を見渡すと、ゾンビが蠢いていた。
なんでこいつは沈まないんだ。もしかして──
「ゾンビは普通に沼ん中練り歩いてる。意外と浅いんじゃないか?」
《希望的観測はやめておいた方がいい。ゾンビはただの人間と比較すれば軽いのだろう。だがまずいな……沼に足を取られている間にゾンビに囚われれば》
「だったら──やられる前に狙撃してやればいい」
ガチャリ、とスライドの銃口を少し離れた沼で半身浴しているゾンビに向けてそのまま発砲した。
ヘッドショット、一撃必殺だ。頭が吹っ飛んだゾンビは所在なく手を泳がせていた。その手もついでに吹っ飛ばしておく。
「次」
頭にこびりついた惨状がストーム1を冷徹にしていく。
ゾンビたちに攻撃の手段を奪い切ってからスレイドを下ろした。
「あの距離でああも正確に……!」
ストーム1の狙撃を目の当たりにしていたラビアンはやや引き気味に声を上げる。
概ねスレイドの出来が良いのだ。だからライサンダーほどでないにせよ狙撃ができる。精度Sを侮るなよと言わんばかりにちゃんと狙った方向に飛んでいくように出来ている。プロフェッサーの最高傑作は伊達ではない。
「魔物がいなくなりましたね。魔法も無いのにここまでの力を持つなんて」
「こちらから言わせたら無から剣呼び出して魔法使うわゾンビを紙切れのように叩き斬れる奴の方が大概へ……いやなんでもない」
余計な事は言うな、と心の中のプロフェッサーが咎める。
そうだ、お口ミッフィーだ。感嘆するラビアンを他所にストーム1は構えていたスレイドを肩に担いで沼へと足を踏み入れた。
「よし、行こう」
「はい!」
ずぶり、と脚が徐々に沈み込んでいく。
遅効性の毒のようにストーム1とラビアンの体を喰らおうとしている。さっさと抜けよう。足早に進むストーム1の後ろにラビアンがついてくる。ゾンビは粗方片付けた。阻むものなど何も──
「あっ──」
無いはずだった。
背後のラビアンの短い悲鳴にも似た声にストーム1は咄嗟に振り向いた。
次回 這い寄るもの