【未完】個性と念。【引き継いでくれる人募集】 作:確かな勇気
壊滅したヴィラン組織のアジトには、まだ微かに血と火薬の匂いが残っていた。
天井の照明は半分が砕け、明滅する光が床に奇妙な影を落としている。
その中心で、一人の男が笑っていた。
「はは……はははは……」
低く、抑えきれない笑いだった。
床に転がる男の頭に手を添えながら、オール・フォー・ワンは肩を震わせている。
理性が壊れたわけではない。むしろ逆だ。
理解が、発見が、知性を強烈に刺激している。
(そうか……そういうことか……!)
彼の個性が、容赦なく男の脳内を暴き立てる。
記憶、経験、感覚、失敗、恐怖――すべてが濁流のように流れ込んでくる。
そこで彼は、“それ”を見た。
見えない何かを身体に纏わせ、空間を歪ませる挙動。
個性特有の反動も制限もない。
生得的でもない。だが、確実に力だ。
(個性じゃない……!)
この確信が、胸の奥で爆ぜた。
「……っ、ははっ……!」
思わず、声が漏れる。
呼吸法。
集中。
身体の内側に流れる“何か”を感じ取り、それを増幅し、制御する技術。
(念……?)
断片的な単語が繋がり、形を成していく。
系統、水見式、制約と誓約。
力を高めるために、自らを縛るという狂気じみた思想。
「……素晴らしい……」
思わず、男は呟いた。
(こんなにも……論理的で、残酷で、美しい力が……)
だが、すぐに違和感が顔を出す。
(……いや、待て)
知識はある。
技法もある。
しかし、どれもが“途中”で止まっている。
(完成していない……?)
オール・フォー・ワンの思考は、すぐに答えへ辿り着く。
個性の出現。
生まれながらに力を持つ人類。
修行や理解を必要としない、即効性のある能力。
(……なるほど)
彼は、愉快そうに唇を歪めた。
(‥淘汰されたか)
(ましてや、個性という“完成品”がある世界では)
念は死んだのではない。
ただ、選ばれなかっただけだ。
(だが……だからこそ、だ)
個性は奪える。
組み合わせられる。
量産できる。
だが、この力は違う。
知識がなければ弱く、
理解すれば、底が見えない。
「こんな……こんな玩具が……まだ眠っていたとは……!」
興奮が、背骨を駆け上がる。
知的好奇心が、完全に火を噴いた。
(世界はまだ私に隠し事をしていたらしい)
オール・フォー・ワンは、男から手を離した。
床に転がるその身体は、すでに用済みだ。
「いいだろう」
「世界が知らないなら――」
「私が最初に、使いこなしてやる」
「早速ドクターに連絡しなければ…忙しくなるな…」
その瞳は、子供のように輝いていた。