【未完】個性と念。【引き継いでくれる人募集】   作:確かな勇気

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第十話

六性図が示されたまま、会議室には沈黙が落ちていた。

円環状に配置された六つの分類は、ただの図解ではなく、力を体系化しようとする強い意志そのもののように見える。

 

 

オールマイトは腕を組んだまま、じっと図を見つめている。やがて視線を緑谷に向け、率直に口を開いた。

 

「……正直に言おう。強化系、というのはなんとなく分かる。身体能力を高める類だろう?ヒーローの個性にも近い」

 

「だが、その隣にある“変化系”や“具現化系”は何だい?」

 

「オーラを……変える?形にする?それは、どういう意味なんだ」

 

責める調子ではない。

純粋な疑問だった。

 

緑谷は一瞬だけ緊張したが、すぐに頭を切り替えた。

これは想定していた質問だ。むしろ、来るべき質問だった。

 

「はい。強化系は、文字通りオーラで自分自身や物体を強化します。筋力、耐久力、回復力などに直接作用する系統です」

 

「ヒーローで言えば、身体強化型の個性が近いと思います」

 

オールマイトは頷く。

 

「変化系は、その“オーラそのものの性質”を変えます」

 

「性質……?」

 

「例えば、オーラを電気のように振る舞わせたり、熱や粘性を持たせたりします。形は見えなくても、中身が別物になる、という感じです」

 

オールマイトの眉がわずかに上がった。

 

「なるほど……エネルギーの属性変化、か」

 

根津が小さく手を叩く。

 

「個性で言えば、エネルギー系の擬似再現だね。ただし“体内由来”という点が違う」

 

緑谷は続けた。

 

「放出系は、オーラを体から離しても維持できる系統です。飛ばす、撃つ、広範囲に展開する。距離を取る戦闘に向いています」

 

「操作系は、オーラを使って“対象を制御する”系統です。人、物、あるいは条件付きで現象そのものを操作します」

 

ここでオールマイトが低く唸る。

 

「……それは、危険だな」

 

「はい。だからこそ、制約や条件が重要になります」 

 

緑谷は一度、六性図の中央を指差した。

 

「そして、具現化系です」

 

「これは……オーラに“形と機能を与える”系統です」

 

オールマイトは思わず前に身を乗り出した。

 

「形を……作る?」

 

「はい。武器、道具、構造物。実体を持った“モノ”としてオーラを固定します。ただし、自由に何でも作れるわけではありません」

 

「作る物の構造を理解し、用途を明確にし、強いイメージを持たなければ成立しません」

 

緑谷の言葉に、相澤が小さく頷く。

 

「つまり、知識と認識が力に直結する系統だ」

 

「はい。なので、分析型の人間ほど適性が出やすいと言われています」

 

オールマイトは、少し考え込むように腕を組み直した。

 

「……最後の“特質系”は?」

 

緑谷の表情が引き締まる。

 

「特質系は、他の五系統に当てはまらない、例外です」

 

「時間、空間、概念、条件付け……理屈で説明しきれない現象を起こします」

 

「ただし、再現性が低く、本人ですら完全に理解できない場合が多いです」

 

根津が楽しそうに尻尾を揺らす。

 

「研究者泣かせだね」

 

緑谷は六性図全体を見渡した。

 

 

「成程…だが、ここで一つ確認したい。強化系に分類されたからといって、念を遠くへ飛ばせない、ということではないんだね?」

 

その問いは鋭かった。

系統という言葉が、能力の“制限”として誤解されかねないことを、オールマイトは直感的に察している。

 

緑谷はすぐに首を横に振った。

 

「はい。そこは、よく誤解される部分です」

 

「系統は“できる・できない”の線引きではありません。あくまで“得意・不得意”の傾向です」

 

彼は六性図の中心を指差す。

 

重要なのは、この配置です」

 

「隣り合う系統ほど相性が良く、反対側ほど効率が悪くなります」

 

「つまり、念能力は“万能”ではありません。最初から、得意分野と限界が決まっている力です」

 

「強化系でも、オーラを飛ばすことはできます。放出系の修行をすれば、実際に可能です。ただし、同じ時間と労力をかけた場合、強化系よりも習得率が上になることは絶対にありません。」

相澤が低く呟く。

 

「つまり……才能の方向性か」

 

「はい。念は“一点特化”の力じゃありません」

 

緑谷は一度言葉を区切り、全員を見渡した。

 

「優れた念能力者ほど、全ての系統の基礎修行を積んでいます」

 

「自分の系統を軸にしつつ、隣接系統を伸ばし、遠い系統も最低限使えるようにする。そうしないと、戦闘でも応用でも必ず限界が来ます」

 

オールマイトは感心したように息を吐いた。

 

「……なるほど。万能を否定しつつ、偏りも否定する理論か」

 

 

「それで、その“系統”とやらは、どうやって判別するんだい?」

 

オールマイトは腕を組み、興味を隠そうともせずに問いかけた。

 

「君はもう、自分がどの系統なのか分かっているのか?」

 

会議室に集まった視線が、再び緑谷に集中する。理論としての系統や六性図は理解できた。しかし、それが実際にどう判別されるのか、そして目の前の少年がどこに属しているのか――そこはまだ、誰の目にも見えていなかった。

 

緑谷は一度小さく息を整えてから答えた。

 

「はい。判別方法はあります」

 

「水見式と呼ばれる、最も基本的な方法です」

 

オールマイトが確認する。

 

「……ここでできるのか?」

 

「できます。簡単な道具さえあれば」

 

緑谷はそう言って、机の上に置かれていた空のコップを指差した。塚内がすぐに察して立ち上がり、近くの給水ポットから水を注ぐ。緑谷はさらに周囲を見回し、観葉植物の葉を一枚だけ選んで、断りを入れてから水面にそっと浮かべた。

 

透明な水の中に、軽く浮かぶ小さな葉。

拍子抜けするほど簡素な準備に、逆に緊張が走る。

 

「この水に、オーラを流し込みます」

 

オールマイトが前のめりになる。

 

「それだけで?」

 

「はい。起きた変化を見るだけです」

 

緑谷は立ち上がり、コップの前に静かに立った。背筋を伸ばし、呼吸を整える。纏でオーラを安定させ、そこから練へと移行するにつれ、室内の空気がわずかに張りつめていく。

 

塚内は、説明しがたい圧迫感を覚えた。

相澤もまた、視覚ではなく“感覚”で、確かに何かが高まっていくのを捉えていた。

 

緑谷は両手をコップの縁に添え、意識を一点に集中させる。

 

 

次の瞬間、水の中からほんの小さな不純物としか言いようがないものが浮かんできた。

 

「……!」

 

誰かが思わず息を呑む。

 

オールマイトの目が大きく見開かれた。

 

「そんな……注いだ所はしっかり確認したはずだが…」

 

緑谷は手を離し、練を解いた。すると不純物は立ち所に消え、初めから何もなかったかのように綺麗な水になった。

 

「これが、水見式の結果です」

 

「水に不純物が現れるのは具現化系の反応です」

 

そう言って、緑谷はコップから視線を上げた。

 

「なので……僕の系統は、具現化系です」

 

簡潔な言葉だったが、その一言が、会議室の空気を大きく変えた。

 

「成程…今のを見せられたら、信じるしかないね」

 

「そして、念能力を語る上で、もう一つ欠かせない要素があります」

 

一瞬、表情が引き締まる。

 

「それが、“制約と誓約”です」

 

その言葉に、会議室の空気がわずかに張り詰めた。

 

「制約……?」

 

塚内が問い返す。

 

「はい。自分自身に課すルールです」

 

「念能力は、オーラの量や技術だけで強くなるわけではありません。むしろ、どう縛るかで跳ね上がります」

 

緑谷は静かに説明を続ける。

 

「例えば、“この能力は右手でしか使えない”“特定の条件を満たさないと発動しない”“失敗したら二度と使えなくなる”」

 

「そういった制限を自分で受け入れることで、能力の威力や精度が飛躍的に上昇します」

 

オールマイトの眉がわずかに寄る。

 

「……危険じゃないか?」

 

「はい。非常に」

 

緑谷は正直に頷いた。

 

「制約は、破れば致命的な反動を受けます。誓約が重いほど、リスクも大きい」

 

「だから、軽い気持ちで使うものではありません」

 

相澤が腕を組み直す。

 

「だが、裏を返せば……」

 

「はい。覚悟さえあれば、個人が常識外の力を持てる」

 

その言葉に、誰もすぐには返事をしなかった。

ヒーロー社会において、“覚悟”という言葉がどれほど重いか、全員が理解している。

 

緑谷は少し間を置いてから、補足する。

 

「制約と誓約は、発――個別能力を作る段階で特に重要になります」

 

「ただ、基礎修行の段階では、無闇に意識しすぎるべきではありません」

 

「系統も同じです。本来は、纏・練・絶を安定させた後に、少しずつ理解するものです」

 

オールマイトが頷く。

 

「だが今回は……例外、というわけだね」

 

「はい」

 

緑谷は視線を落とし、すぐに上げた。

 

「隠せば、不信を招きます」

 

「だから、今ここで全体像だけは共有しておく必要がありました」

 

根津が穏やかに微笑む。

 

「つまり、今は“地図を見せただけ”だ」

 

「実際にどの道を歩くかは、まだ先の話」

 

その言葉に、場の空気がわずかに和らいだ。

 

緑谷は最後に、改めて六性図を見つめる。

 

「念は、誰か一人が独占する力ではありません」

 

「理解し、制御し、責任を持って使うための“体系”です」

 

その言葉は、説明であると同時に、宣言でもあった。

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