【未完】個性と念。【引き継いでくれる人募集】   作:確かな勇気

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間違えてました申し訳ないです


第十二話

最初に動いたのは、オールマイトだった。椅子から立ち上がることはせず、しかし背筋を正し、真正面から緑谷を見据える。

 

「……体系、か」

 

「君はそれを、ヒーローの力として扱うつもりなんだね?」

 

「はい」

 

即答だった。

 

「でも“武器”としてではありません。“基礎理論”としてです」

 

オールマイトは一瞬、目を閉じる。かつて自分が象徴として背負ってきたもの――力を持つ者が、どう振る舞うべきかという問い。その答えが、別の形で突きつけられているように感じていた。

 

 

「……念は、隠しても広がります」

 

「理屈の力だからです。誰かが“発見”すれば、別の誰かが必ず“再発見”する」

 

「だったら、最初から“安全な地図”を用意した方がいい」

 

相澤が低く唸る。

 

「理屈としては分かる。だが現実は理屈通りに動かない」

 

「制約と誓約。あれは特に危険だ。自傷や自己洗脳に近い使い方をする奴が必ず出る」

 

「はい」

 

そこも、否定しなかった。

 

「だからこそ、“誰が教えるか”が重要なんです」

 

緑谷は視線を上げ、会議室をゆっくりと見渡す。警察、教師、ヒーロー、そして象徴。

 

「念は、才能よりも理解力と自己管理能力が問われる力です」

 

「向いていない人に無理に教えるべきじゃない。制御できない段階で発に踏み込ませるべきでもない」

 

「……個性教育と、似ているようで違うな」

 

根津が興味深そうに言う。

 

「個性は“抑える”教育が中心だが、これは“組み立てる”教育だ」

 

「ええ。四大行を身につける段階では、まだ危険性は低い。でも系統を理解し、制約を知り、発を設計し始めた瞬間から……これはもう、専門分野になります」

 

塚内が静かに口を開いた。

 

「つまり、一般ヒーロー全員に一斉導入、という話ではない」

 

「はい」

 

「まずは、対応できる人間を育てる必要があります」

 

その言葉に、相澤が小さく息を吐いた。

 

「……教師向け、ってことか」

 

緑谷は一瞬だけ驚いたように目を見開き、すぐに頷く。

 

「はい。まずは教える側です」

 

「現場のヒーローが知らないまま対峙するのは危険ですが、全員が深く扱う必要はない。少なくとも、念能力者と遭遇した時に“何が起きているか分かる”程度には」

 

オールマイトが腕を組み、低く言った。

 

「では、雄英が最初の実験場になる」

 

「……その言い方は、あまり好きじゃありませんが」

 

緑谷は苦笑する。

 

「でも、結果的にはそうなると思います」

 

根津は満足そうに耳をぴくりと動かした。

 

「いいねえ。未知の理論体系、段階的導入、厳格な管理。実に教育機関向きだ」

 

「ただし」

 

相澤が続ける。

 

「前提条件がある」

 

会議室の空気が、わずかに引き締まった。

 

「緑谷。お前自身が、どこまで行くつもりなのかを明確にしろ」

 

「教えるだけの人間か。それとも――実例として、先に進む人間か」

 

その問いは、厳しかった。だが避けては通れない。

 

緑谷は、胸の奥で静かに息を整える。精神世界で、達人が腕を組んで見ている気配がした。

 

――“選べ。だが、逃げるな”

 

「……僕は」

 

一拍置いて、答える。

 

「両方です」

 

「発に踏み込みます。実例になります」

 

「でも、それは“最前線に立つ”という意味じゃありません」

 

視線が、まっすぐに相澤を捉える。

 

「失敗も、危険も、回り道も含めて、全部記録して、共有する」

 

「念能力を、神秘のままにしない」

 

その瞬間、オールマイトが小さく笑った。

 

「なるほど……君らしい答えだ」

 

「誰かの背中になるんじゃない。道そのものになる、か」

 

「……重いな」

 

相澤はそう言いながらも、どこか納得したようだった。

 

根津が、机を軽く叩く。

 

「では、方針は決まったね」

 

「第一段階。念の存在と基礎理論を、限定的に共有」

 

「第二段階。四大行の安全な訓練法を確立」

 

「第三段階。系統理解と、水見式の標準化」

 

「そして最後に――発と制約を、管理下で研究する」

 

誰も反対しなかった。

 

それは、全員が理解していたからだ。

この瞬間、ヒーロー社会は新しい分岐点に立ったのだと。

 

オールマイトが、緑谷に向かって言う。

 

「緑谷少年」

 

「君は今日、ヒーロー社会に“もう一つの言語”を持ち込んだ」

 

「それが希望になるか、混乱になるかは――これからの我々次第だ」

 

緑谷は、深く頭を下げた。

 

「お願いします」

 

「僕一人では、絶対に扱いきれません」

 

その言葉に、相澤が立ち上がる。

 

「だったら、教師の仕事だ」

 

「面倒な理論でも、危険な力でも、管理して、形にする」

 

「……やれやれ、本当に厄介な一年になりそうだ」

 

だが、その口調には、わずかな覚悟が滲んでいた。

 

物語は、さらに深く、静かに動き始める。

“念”はもう、秘密ではない。

しかしまだ――誰のものでもなかった。

 

会議室に集められた顔ぶれを見渡し、最初に浮かんだのは、誰もが抱いた同じ疑問だった。

 

――このメンバーは、なんだ?

 

雄英高校の会議室。その中央に設けられた長机を囲むように、教師陣とプロヒーローが席についている。

 

相澤消太は、すでに席についていた。

手元の資料には目を落とさず、集まった面々の様子だけを静かに観察している。

 

ミッドナイトが、隣のプレゼント・マイクに小声で囁いた。

 

「ねえ……この顔ぶれ、ちょっと異常じゃない?」

 

「だよな。職員会議ってレベルじゃねえ。下手したら記者会見モンだぜ」

 

一方、プロヒーロー側も同じ空気を感じ取っていた。

 

ホークスが椅子にもたれ、軽い調子で言う。

 

「雄英から“ぜひ来てほしい”って言われたら、断れないじゃないですか。でもこのメンバー……正直、何が始まるのか見当つかないですね」

 

エッジショットは短く答える。

 

「緊急性が高いのは確かだろう」

 

エンデヴァーは腕を組み、苛立ちを隠そうともしない。

 

「……で?」

 

「いつまで待たせるつもりだ」

 

その声を受けて、相澤が立ち上がった。

 

「悪い。まず俺から話す」

 

ざわめきが、自然と収まる。

 

「今日ここに集まってもらったのは、雄英としても、ヒーロー社会としても“無視できない案件”だからだ」

 

「ただし――」

 

相澤は、意図的に一拍置く。

 

「現時点では、全てを話さない。」

 

エンデヴァーが眉をひそめる。

 

「……舐めているのか?」

 

「違う」

 

相澤は、即答だった。

 

「順番の問題だ」

 

「まず、“見てもらうもの”がある」

 

相澤は、後方に視線を送る。

 

「オールマイトさん」

 

その名が出た瞬間、会議室の空気が変わる。

 

オールマイトは、ゆっくりと立ち上がった。

 

「皆さん」

 

その声は静かだが、不思議と場を制する力があった。

 

相澤が補足する。

 

「これから見せるのは、オールマイトの個性とは無関係だ」

 

「全員、そこは勘違いするな」

 

ホークスが目を細める。

 

「個性じゃない?じゃあ……なんだ?」

 

オールマイトは首を横に振る。

 

「私自身も、最近になって“理解した”力だ」

 

「そしてこれは、私だけのものではない」

 

エンデヴァーが鼻で笑う。

 

「精神論か?」

 

「雰囲気で誤魔化すのは、ここまでにしろ」

 

相澤が、視線だけで制す。

 

「エンデヴァーさん。黙って見ててくれ」

 

「納得できなきゃ、後でいくらでも突っ込め」

 

オールマイトは、深く息を吸った。

 

次の瞬間。

 

会議室の空気が、変わった。

 

視覚的な変化はない。だが、確かに“圧”がある。

肌に触れる何か。音のない重さ。

 

「……あ?」

 

プレゼント・マイクが、無意識に声を落とす。

 

「今の……なんだ?」

 

ミッドナイトが息を呑む。

 

「空気が……濃くなった?」

 

ベストジーニストは、冷静に分析する。

 

「感覚器官が刺激されている。だが、五感のどれとも違う……」

 

ホークスは目を細めた。

 

「なるほど。見えないけど、“ある”」

 

相澤は、その反応を確認し、静かに言う。

 

「錯覚じゃない」

 

「今感じているのは、オールマイトが意図的に放出しているものだ」

 

エンデヴァーは腕を組んだまま、動かない。

 

「……くだらん」

 

「証拠にならん」

 

そのとき、椅子が引かれる音がした。

 

セメントスが、静かに立ち上がる。

 

「相澤先生」

 

「一つ、提案があります」

 

相澤は頷いた。

 

「言ってみろ」

 

セメントスは、いつもの落ち着いた調子で続ける。

 

「私は、理論を重んじます」

 

「同時に、現象を否定する前に検証する立場でもある」

 

彼は、オールマイトをまっすぐ見た。

 

「……触れても?」

 

オールマイトは、頷いた。

 

「構わない」

 

会議室の視線が、一斉に集まる。

 

セメントスは、一歩前に出て、ゆっくりと手を伸ばした。

 

その指先が――“それ”に触れた瞬間。

 

「……これは」

 

言葉を探すように、彼は息を吐いた。

 

「確かに……“ある”」

 

会議室が、完全に静まり返る。

 

相澤は、その沈黙を見逃さなかった。

 

「……ここからが、本題だ」

 

そう告げたところで――

物語は、次の段階へ進む。

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