【未完】個性と念。【引き継いでくれる人募集】   作:確かな勇気

13 / 16
第十三話

セメントスの言葉が落ちたあとも、しばらくの間、誰一人として声を出さなかった。

 

「確かに……“ある”」

 

その一言が、会議室の空気を決定的に変えていた。

 

ざわめきが起きないのが、逆に異様だった。

否定も、同意も、まだ誰も口にできない。ただ、全員が同じ感覚を共有してしまったという事実だけが、重く場に残っている。

 

相澤は、その沈黙を切り裂くように口を開いた。

 

「今のが、導入だ」

 

「錯覚でも、個性由来の演出でもない。ここにいる全員が、同じものを感じた」

 

エンデヴァーが、低く唸る。

 

「……だから何だ」

 

「得体の知れない現象を見せられて、はいそうですかと頷けと?」

 

相澤は、感情を乗せずに言った。

 

「だから“全員”を呼んだ」

 

「一人や二人が納得する話じゃないからな」

 

そのとき、机の端に座っていた根津校長が、軽く咳払いをした。

 

「では、ここからは私が引き継ごう」

 

柔らかな口調だが、その場の主導権が完全に移るのが分かる。

 

「皆さん。ここに集まってもらった理由は、ただの新しい力の理論ではありません」

 

「これは――ヒーロー社会の“備え”の話です」

 

校長は、一度視線を巡らせてから続けた。

 

「まず確認しておきたい。今、オールマイトが見せた力は、個性ではない」

 

「そして、この力は、彼一人のものでもない」

 

ホークスが、腕を組み直す。

 

「つまり……再現性がある?」

 

「正確には、“条件を満たせば到達可能”だね」

 

校長は即座に訂正した。

 

「才能、精神性、理解力、訓練……それらが噛み合わなければ辿り着けない。誰でも簡単に使える力ではない」

 

「だが――存在する」

 

エンデヴァーが苛立ちを隠さず言う。

 

「回りくどい説明だ」

 

「結局、それが何なのかを言え」

 

校長は、楽しそうに笑った。

 

「では、証人を呼ぼうか」

 

その言葉と同時に、会議室の扉がノックされる。

 

「どうぞ」

 

扉が開き、一人の少年が姿を現した。

 

緑谷出久だった。

 

場の空気が、微かに揺れる。

 

オールマイトは心配するような目で緑谷を見つめた。

相澤は、予定通りといった表情で顎を引く。

 

「失礼します」

 

緑谷は深く頭を下げ、校長の示した位置へと進む。

 

「彼が、この理論体系の“最初の実践者”だ」

 

校長の紹介に、視線が一斉に集まる。

 

エンデヴァーは、即座に眉をひそめた。

 

「……学生?」

 

「冗談じゃない。そんなものを、未成年が?」

 

緑谷は何も言わない。ただ、視線を落とし、静かに立っている。

 

相澤が補足する。

 

「緑谷は司会でも、説明役でもない」

 

「事実確認と、実体験の証言だけを行う」

 

「話の主導は、校長が行う。」

 

校長は頷き、話を続けた。

 

「この力の名称は“念”」

 

「"念じる"の念だね」

 

「生命エネルギー――正確には“オーラ”を、体系的に扱う技術だ」

 

ざわり、と空気が動く。

 

ミッドナイトが、小さく息を吐いた。

 

「生命エネルギー……随分、原始的ね」

 

「だが、理屈は極めて現代的だよ」

 

校長は続ける。

 

「訓練段階、理論、リスク、制限。その全てが整理されている」

 

「だからこそ、ここまで表に出てこなかった」

 

「個性という、より分かりやすく、再現性の高い力が台頭した結果――淘汰されたとも言える」

 

エンデヴァーが、鼻で笑う。

 

「そんな時代遅れの力に価値はあるのか」

 

その瞬間、緑谷がわずかに顔を上げた。

 

校長が視線を向ける。

 

「緑谷。事実確認を」

 

「はい」

 

声は小さいが、はっきりしていた。

 

「念は、時代遅れではありません」

 

「ただ……効率が悪かっただけです」

 

会議室が静まる。

 

「習得に時間がかかり、適性のある人間が少ない。個性のように“発現すれば即戦力”ではない」

 

「でも、理論としては今でも有効です」

 

エンデヴァーが、睨みつける。

 

「……で?」

 

「それが、何の役に立つ」

 

 

緑谷は、一拍置いて答えた。

 

「念能力は……個性と同じくらい、強力な力です」

 

一瞬、会議室の空気が張りつめる。

 

「どちらかが上、という関係ではありません。念は個性を“置き換える”ものじゃない。共存できます」

 

緑谷は言葉を選びながら、続けた。

 

「個性が“生まれ持った武器”だとしたら、念は“扱い方そのもの”です」

 

「身体の使い方、意識の向け方、エネルギーの流れ――それらを体系的に理解して制御できる」

 

「だから、個性の幅を広げられます」

 

「今まで出来なかった使い方、安定しなかった出力、無駄に消耗していた部分……全部、改善できる可能性がある」

 

視線が、自然とオールマイトに向かう。

 

「そして、それは確実に“今より強くなれる”ということです」

 

断言だった。

 

理屈ではなく、体験に裏打ちされた言葉。

 

会議室の誰もが、その重みを感じ取っていた。

 

エンデヴァーは腕を組んだまま、低く鼻を鳴らした。納得したとは言い難いが、話を打ち切る気もない。その視線が、相澤に向けられる。

 

「……で?」

 

短い一言だったが、含意は明確だった。

“力の説明は分かった。だが、それだけでここまでの顔ぶれを集めた理由にはならない”――そう言いたげだった。

 

「話の核心はそこだろう」

 

「なぜ今なんだ。なぜ俺たちなんだ。続きを話せ」

 

会議室の視線が、自然と相澤に集まる。司会席に座ったまま、相澤は一度だけ目を伏せ、ゆっくりと息を吐いた。ここから先は、軽い話では済まない。だからこそ、言葉を選ぶ必要があった。

 

「……順番に話す」

 

「まず、“なぜ今なのか”だ」

 

相澤は顔を上げ、集まったヒーロー一人ひとりを見渡す。

 

「結論から言う。近い未来、ヴィラン側が念能力を使い始める可能性が高い」

 

ざわり、と空気が揺れた。

 

「根拠は?」

 

エッジショットが静かに問い返す。

 

「ある」

 

相澤の声は淡々としていた。

 

「俺は数週間前、ヴィランと交戦した。その場で、俺の個性が“完全には”効かなかった」

 

一瞬、会議室が静まり返る。

 

「異形型じゃない。身体能力強化系でもない。それなのに、視認して発動しても、力が残った」

 

「……そんな馬鹿な」

 

ミルコが歯を見せて笑うが、その目は笑っていなかった。

 

「イレイザーの個性が効かない? それ、前例あったか?」

 

「ない」

 

即答だった。

 

「だから異常だ」

 

相澤は続ける。

 

「その力の感触が、緑谷が見せたものと“同質”だった」

 

ここで初めて、全員の視線が緑谷に集まる。証人席に座る少年は、逃げずに頷いた。

 

「オーラです」

 

静かな声だった。

 

「個性とは別のエネルギーです。相澤先生が消したのは“個性”だけで、オーラは消えていなかった」

 

その説明に、エンデヴァーが眉をひそめる。

 

「つまり……」

 

「そうだ」

 

相澤が言葉を継いだ。

 

「個性消去が効かない戦力が、既に敵側に存在している可能性がある」

 

それは、ヒーロー社会の前提を揺るがす事実だった。

 

「……巨悪、か」

 

オールマイトが低く呟く。その声音には、誰よりも重い過去が滲んでいた。

 

相澤は一瞬だけオールマイトを見る。

 

「断定はしない。だが、“その気配”はある」

 

「念能力は、偶然広まるような力じゃない。前提知識、修行、自己管理……どれもが必要だ」

 

「それを越えて使える者が、裏で育っているとしたら?」

 

問いかけに、答えは返らない。だが、誰も否定しなかった。

 

「次に、“なぜ緑谷が使えるのか”」

 

ここで相澤は、緑谷に視線を戻す。

 

「これは既に本人から説明を受けているが、再確認する」

 

「緑谷は、念能力を“独学で発見した”わけじゃない」

 

緑谷は小さく息を吸い、頷いた。

 

「はい」

 

「僕は……精神世界で、念能力の達人と出会いました」

 

一瞬、空気が固まる。

 

だが相澤は止めなかった。

 

「その存在は、緑谷一人の精神世界にしか現れない。再現性はない。検証も不可能だ」

 

「だが」

 

声が、少しだけ低くなる。

 

「結果は、ここにある」

 

オールマイトのオーラ。

セメントスが触れて感じた“個性とは別の圧”。

緑谷が示した四大行。

 

「現象は実在している」

 

「そして、最後の問いだ」

 

相澤は背もたれに深く寄りかかり、静かに言った。

 

「なぜ、俺たちが念能力を学ばなければならないのか」

 

会議室が、完全に静まる。

 

「理由は二つある」

 

「一つ。知らなければ、対処できないからだ」

 

「個性で殴り合う前提の戦闘理論は、念能力者には通用しない。知らなければ、不意を突かれて終わる」

 

「もう一つ」

 

一拍置く。

 

「知っている者が、悪意を持った時に止められるのは、“同じ言語を知る者”だけだからだ」

 

エンデヴァーが、低く笑った。

 

「つまり……」

 

「敵が新しい武器を持つ前に、こちらも理解しろ、って話か」

 

「武器じゃない」

 

相澤は即座に否定する。

 

「“体系”だ」

 

「力そのものじゃない。扱い方、考え方、制限の仕組み……それを理解していないと、確実に置いていかれる」

 

会議室の空気が、じわじわと変わっていく。

疑念が、危機感へ。

興味が、責任へ。

 

緑谷は、その空気を感じ取りながら、黙って座っていた。彼は司会でも、決定権者でもない。ただの証人だ。だが、全ての視線の中心にいることだけは、否定できなかった。

 

「だから俺たちは、今ここにいる」

 

相澤は最後にそう締めくくる。

 

「これは選択の話じゃない」

 

「準備の話だ」

 

言葉が落ちた瞬間、誰かが反論するより早く、エンデヴァーが口を開いた。

 

「……フン、念能力と言ったか…使いこなしてやるぞ。完璧にな」

 

その目には、先ほどまでの苛立ちとは違う光が宿っていた。

恐れと、闘争心と、そしてほんの僅かな期待。

 

ヒーロー社会は、まだこの時点では知らない。

この会議が、“次の時代の基礎”になることを。

 

物語は、いよいよ“対策”という現実の段階へ踏み込もうとしていた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。