【未完】個性と念。【引き継いでくれる人募集】 作:確かな勇気
オールマイトは、腕を組んだまま顎をわずかに上げ、緑谷を真正面から見据えた。いつもの彼とは違う、探るような視線だった。
「一つ聞かせてくれ、少年」
低く、しかし場を切り裂くような声。
「君は……他の念能力者に出会ったことはあるのか?」
「敵でも、味方でもいい。実際に“使い手”を見たことがあるのか」
緑谷は一瞬だけ言葉を探すように視線を落とし、すぐに首を横に振った。
「……直接、会ったことはありません」
緑谷は続けた。
「でも、師匠……僕が精神世界で出会った念の達人から、過去にどんな使い手がいたのか、話を聞いたことはあります」
会議室の空気が、自然と引き締まる。
“過去の使い手”。
それは、今この場にいない誰かの話でありながら、確かに現実に存在した力の証明だった。
「もちろん、純粋に力を増幅させるタイプもいたそうです」
「身体能力を極端に高める者。攻撃力や防御力を突き詰めた者。分かりやすい強さですね」
ここまでは、理解できる。
ヒーロー達の表情にも、まだ戸惑いは少ない。
だが、緑谷はそこで一度、言葉を切った。
「……ただ」
「念能力は、それだけじゃありません」
視線が上がり、会議室全体を見渡す。
「言葉で説明するのは、正直……難しいです」
「能力の方向性が、本当に多岐に渡るので」
ミッドナイトが、冗談めかした口調で言う。
「多岐、ってどのくらい?」
緑谷は一拍置き、慎重に言葉を選んだ。
「……位置情報を把握する能力」
「特定の条件を満たした時だけ発動する能力」
「触れたものにだけ影響を及ぼす能力」
「相手の行動を制限する能力」
一つ一つは短い説明だったが、積み重なるにつれて、聞く側の表情が変わっていく。
「……それって」
プレゼント・マイクが思わず口を挟む。
「個性とほとんど変わらねぇじゃねぇか?」
「似ています」
緑谷は否定しなかった。
「でも、決定的に違う点があります」
少しだけ、声が低くなる。
「念能力は……念能力じゃないと、基本的に“知覚”できません」
その瞬間、会議室の空気が凍りついた。
「見えない。感じられない。気づけない」
「念を知らない相手にとって、念能力は“存在しないのと同じ”なんです」
オールマイトの目が、鋭く細められる。
「……つまり」
緑谷は、静かに頷いた。
「言葉を選ばずに言えば」
「念能力は、暗殺に向いています」
誰かが、息を呑む音がした。
「気配を消し」
「能力の発動自体を悟らせず」
「個性反応もなく」
「結果だけが残る」
緑谷の声は淡々としていたが、その内容はあまりにも重い。
「だからこそ……学ぶ必要があります」
「使うため、じゃありません」
「“気づくため”です」
沈黙が落ちた。
驚愕。
困惑。
そして、はっきりとした危機感。
セメントスは無意識に拳を握り、エッジショットは影のように目を伏せ、ミルコは歯を食いしばって舌打ちした。
「……なるほどな」
エンデヴァーが、低く笑う。
「表に出てこなかったわけだ」
「こんな力、目立つ前に消されるか、裏に潜るか……どっちかだ」
相澤が静かに口を開いた。
「だからこそ、ここに集めた」
「知らないままじゃ、対処も警戒もできない」
オールマイトは、緑谷を見つめながら、深く息を吐いた。
「緑谷少年…君は、とんでもない話を持ち込んできたな」
その声音には、叱責でも称賛でもない、純粋な重さがあった。
緑谷は、わずかに背筋を伸ばす。
「……はい」
「でも、もう動き始めています」
「僕たちが知ろうとしなくても、使う側は現れる」
「だったら――」
言葉は、自然と結ばれる。
「先に知っていた方が、いいと思ったんです」
会議室に、再び静寂が訪れる。
だがそれは、先ほどまでの“理解を拒む沈黙”ではなかった。
これは、覚悟を測る沈黙だった。