【未完】個性と念。【引き継いでくれる人募集】   作:確かな勇気

2 / 16
感想頂けるととても嬉しいです


第二話

夜はとっくに更けているというのに、緑谷出久は布団の中で目を閉じたまま、なかなか眠れずにいた。胸の奥がざわついている。痛みがあるわけでも、息が苦しいわけでもない。ただ、体の内側を何かが流れているような、説明のつかない違和感がずっと居座っていた。

 

「……まただ」

 

小さく呟いて、布団を握る。この感覚は最近になって頻繁に起きるようになった。病院では異常なしと言われ、母にも成長期だからだと笑って流された。それでも、目を閉じると余計にはっきりする。心臓の少し下、胸の奥からじんわりと広がる何か。気のせいで済ませるには、あまりにも生々しかった。

 

(無個性、なのに……)

 

その言葉が、反射的に浮かぶ。幼い頃から何度も突きつけられてきた現実。ヒーローに憧れ、ノートに分析を書き溜め、必死に知識を積み上げても、個性がなければスタートラインにすら立てない。そう分かっているはずなのに、胸の奥の違和感だけが、それを否定するようにざわついていた。

 

(僕なんかが、ヒーローになれるわけないのに……)

 

そう思おうとした瞬間、ふっと身体が軽くなった。次の瞬間、視界が暗転する。怖さはない。ただ、輪郭の曖昧な闇の中に立っているという奇妙な感覚だけが確かにあった。

 

「……なに、ここ……」

 

声がやけに響く。夢だと片づけるには、感覚が鮮明すぎた。そう思った瞬間、不意に背後から声がした。

 

「――驚くのも無理はないな」

 

「っ!?」

 

反射的に振り向く。そこには、一人の男が立っていた。年齢も素性も分からない。ただ、ヒーローでもヴィランでもないのに、圧倒的な存在感だけが肌を刺す。視線を向けられただけで、胸の奥まで見透かされているような気がして、思わず息を詰めた。

 

「だ、誰……ですか……?」

 

声が震える。逃げたいのに足が動かない。男は静かに言った。

 

「安心しろ。ここはお前の精神の内側だ。私は害をなす存在ではない」

 

精神の内側。その言葉の意味が理解できず、緑谷は混乱したまま問い返す。

 

「……夢、ですよね?」

 

「夢に近いが、夢ではない」

 

男の視線は揺るがなかった。

 

「お前は気づき始めている。自分の中にある力に」

 

「……力?」

 

思わず聞き返していた。

 

「そ、そんなの……僕、無個性です」

 

何度も自分に言い聞かせてきた言葉。胸がきゅっと締め付けられる。だが男は否定しなかった。

 

「確かに、お前に個性はない。だが、それとこれは別だ」

 

「お前の中には、オーラがある」

 

「……オーラ?」

 

聞き慣れない言葉だった。男は淡々と続ける。

 

「オーラは誰の中にもある。だが、自覚し、増幅し、制御できる者は少ない」

 

緑谷は胸に手を当てた。最近感じていた違和感が、一本の線で繋がる。

 

「あの……胸の奥が変で……」

 

「それがオーラだ」

 

はっきり言われ、息を呑む。

 

「……僕にも、使えるんですか?」

 

期待してしまうのが怖かった。それでも、聞かずにはいられなかった。

 

「使える。ただし誤解するな。オーラは才能だけでどうにかなる力じゃない。知識と鍛錬がすべてだ」

 

努力。その言葉に、胸の奥が微かに熱を帯びる。

 

「……それでも」

 

緑谷は俯きながら言った。

 

「それでも、僕なんかが……ヒーローになれるなんて、思えません」

 

言葉にした瞬間、胸の奥が痛んだ。男はしばらく黙り込み、やがて静かに口を開く。

 

「だからこそ、お前を選んだ」

 

「私はこの世界に直接干渉できない。だが近い未来、念を悪用しようとする巨悪が動き出す」

 

緑谷の心臓が跳ねる。

 

「私は実体を持たない存在だ。干渉できるのは、一人の精神世界が限界。その一人が、お前だ」

 

「……どうして、僕なんですか」

 

男の視線は、どこまでも真っ直ぐだった。

 

「力に溺れない。考えることをやめない。怖がりながらも前に進もうとする。それが、お前だ」

 

その言葉を聞いた瞬間、緑谷の脳裏に一人の背中が浮かんだ。いや、一人ではない。テレビの向こうで笑うあの人、街を駆け抜ける無数のプロヒーロー達。思考が一気に弾ける。

 

「っ、そうだ!オールマイト!オールマイトやプロヒーロー達に頼めばいいじゃないですか!」

 

声が裏返る。

 

縋るような声に、男は即座に首を横に振った。

 

「安心しろ。何も、お前一人にすべてを託すつもりはない」

 

その言葉に、緑谷はわずかに顔を上げる。

 

「私は“一人にしか”念を教えられない。それが私の限界だ。だが、お前が念を修め、諌めた時――お前自身が師範代となり、この世に念能力を広めろ」

 

「……え?」

 

思考が追いつかない。男は淡々と、だが揺るぎなく言葉を重ねる。

 

「私はお前を選んだ理由は、一人の念能力者を生み出すためだけではない。優秀な“指導者”として動いてほしいからだ」

 

緑谷の心臓が大きく跳ねた。

 

「ぼ、僕が……教える側……?」

 

「そうだ。念は力だが、同時に思想だ。間違った者に渡れば、世界を壊す。だから私は“正しく伝えられる者”を必要としている」

 

男の視線は鋭いが、どこか静かな期待が宿っていた。

「強いだけの人間では駄目だ。自分より弱い者の恐怖を理解し、失敗を咎めず、成長を信じられる者でなければならない」

 

緑谷は息を詰めた。頭の中に、幼い頃から書き溜めてきたノートが浮かぶ。ヒーローの技、戦い方、失敗例。誰かの強さを分析し、理解しようとしてきた時間。

 

「無個性だからこそ、お前は“力を持つ側の論理”に染まっていない。だから邪念に引きずられにくい。念にとって、それは致命的なほど重要な資質だ」

 

「……でも、僕は怖いです」

 

正直な言葉が零れた。

 

「力を持ったら、間違えるかもしれない。誰かを傷つけるかもしれない」

 

男はその言葉を否定しなかった。

 

「だからこそ、お前だ」

 

低く、確かな声。

 

「怖がれる者は、考える。考える者は、立ち止まれる。立ち止まれる者は、暴走しない」

 

そして、静かに告げる。

 

「力に溺れない。考えることをやめない。怖がりながらも前に進もうとする。それが、お前だ」

 

緑谷の胸の奥で、何かがほどけた。期待でも、使命感でもない。逃げ続けてきた自分を、それでも肯定された感覚だった。

 

「……僕に、そんな役目が務まるかは分かりません」

 

震える声で、それでも前を見て言う。

 

「でも……もし、誰かが間違った使い方をするくらいなら。僕が、考えて、悩んで、伝える側になれるなら……」

 

拳を握る。

 

「教えてください」

 

小さく、しかしはっきりと。

 

「僕は……それでも、ヒーローになりたい」

 

男は一瞬だけ目を細め、そして確かに笑った。

 

「ならば始めよう。これは才能の物語ではない。選択と継承の物語だ」

 

その言葉と同時に、世界が静かに脈打ち始めた。緑谷の知らない“力”が、確かに自分の内側にあると、初めて実感した瞬間だった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。