【未完】個性と念。【引き継いでくれる人募集】 作:確かな勇気
男は緑谷の胸元を指先で軽く示した。
「まず、改めて説明する」
「それは“オーラ”だ。生きている人間なら誰の中にもある、生命そのもののエネルギーだ」
「だが、大半の人間はそれを感じ取れないし、ましてや扱えもしない」
男は一歩近づき、緑谷の視線を真正面から受け止めた。
「そのオーラを扱う技術の概念のことを"念"と言い、それを操る事を念能力と言う」
「念とは技術であり、意思だ。オーラを“操るために加えるもの”だ」
「オーラだけでは力にならない。」
「オーラに念を加え、制御し、形にした時――初めて“念能力”になる」
緑谷は無意識に拳を握りしめた。確かにある。胸の奥、腹の底、全身に薄く満ちている感覚。それは熱というより、存在感に近い。
「そして重要なのはここからだ」
男は視線を鋭くする。
「本来なら、まずオーラの存在を自覚するところから始める。そこに至るまで何年もかかる者もいる」
一拍置き、静かに続けた。
「だが、君はもう自覚できている。無意識だが、自分の中にオーラが“ある”と理解している」
「それだけで、入口の前には立っている」
緑谷は思わず喉を鳴らした。
「……じゃあ、念は……?」
男は首を横に振る。
「まだだ」
「今は“加える”必要はない。むしろ余計な意思は邪魔になる」
「まずやるのは、オーラを安定させることだ」
男は構えのような姿勢を取る。
「纏(てん)」
「オーラを体の表面に留め、均一に保つ技術だ」
「攻撃でも防御でもない。念能力の前提条件、土台だ」
「オーラが荒れていれば、念を加えた瞬間に暴走する。体力がなければ、維持すらできない」
淡々と、しかし容赦なく言葉を重ねる。
「だから君は、まず身体を鍛える。走る、跳ぶ、支える、呼吸を整える」
「そのすべてと同時に、オーラを漏らさず、乱さず、包み込む」
「念能力者は頭で戦う前に、身体で耐えられなければならない」
修行は苛烈だった。走り込み、基礎的な筋力トレーニング、体術の初歩。そのすべての最中で、男は同じことを要求した。自分の体の内側に満ちるオーラを感じ、外に漏らさず、呼吸とともに全身へ巡らせること。少しでも意識が散ると、オーラはざわつき、薄く広がってしまう。
「今、オーラが乱れた」
「呼吸が浅い」
「恐怖で意識が外に逃げている」
指摘は正確で、逃げ場がなかった。緑谷は何度も膝に手をつき、肩で息をした。それでも、不思議と心は折れなかった。自分の中に“確かにあるもの”を、初めて真正面から扱っている感覚があったからだ。
「覚えておけ」
男は最後にそう告げた。
「オーラは誰にでもある。だが、念を加え、制御し、力にできる者は限られている」
「君は、ようやくそのスタートラインに立っただけだ」
緑谷は震える足で立ち上がり、小さく、しかしはっきりと頷いた。
「……はい」
胸の奥にあるオーラは、まだ不安定だ。それでも、先ほどよりも確かに“まとまって”いる気がした。念能力への道は、まだ遥か先だが、今はそれで十分だった。