【未完】個性と念。【引き継いでくれる人募集】   作:確かな勇気

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第四話

修行は、夢の中や精神世界だけで完結するものではなかった。むしろ本番は、そこから目を覚ました後に始まった。朝、布団から起き上がる瞬間。顔を洗うとき。通学路を歩くとき。授業中、黒板を見つめているとき。男は言った――纏(てん)は「構えている時」にできて当たり前で、「何も考えていない時」にできなければ意味がない、と。

 

最初の数日は最悪だった。教室に入った途端、周囲の気配に意識を取られてオーラが散る。ノートを取ろうとして手元に集中すると、今度は足元が疎かになる。友達に声をかけられて驚いた拍子に、胸の奥の感覚がふっと薄くなる。そのたびに、ああ今漏れた、乱れた、と自分でも分かるのが余計につらかった。

 

(難しすぎる……)

 

心の中でそう呟いた瞬間、さらにオーラがざわつく。考えすぎるな、と言われた意味が、遅れて理解できた。念を加えてはいけない段階で、意思を強く向けすぎると、逆にオーラは言うことを聞かなくなる。強く押さえつけるのではなく、包み込むように保つ。その感覚がどうしても掴めない。

 

放課後、公園のベンチに座っていると、男の声が脳裏に響いた。

 

「今の君は、コップに水をなみなみ注いだ状態だ」

 

「少し揺れれば、すぐにこぼれる」

 

「だからまずは水位を下げろ。オーラを増やそうとするな。あるものを保て」

 

緑谷は深く息を吸い、ゆっくりと吐いた。胸の奥の存在感を“強める”のではなく、“広げすぎない”ことを意識する。すると、不思議なことに、さっきまで散っていた感覚が、皮膚のすぐ内側に薄く膜のように留まる瞬間があった。

 

(……これだ)

 

ほんの数秒。それでも確かな手応えだった。嬉しさに意識が跳ねた瞬間、すぐに崩れたが、それでもゼロではない。できた、という事実が残った。

 

その日から、緑谷は生活のすべてを「纏(てん)の訓練」に変えていった。歩くときは、足の裏に意識を置いたままオーラを保つ。階段を上るときは呼吸を乱さない。食事中も、箸を持つ指先に集中しすぎないように注意する。疲れると、オーラはすぐ薄くなる。眠気が強いと、逆にだらけて広がる。体調とオーラが、思っていた以上に直結していることも分かってきた。

 

夜、布団に入ると、男が静かに言った。

 

「いい傾向だ」

 

「纏(てん)は“意識し続ける技術”ではない。“意識が途切れても崩れない状態”を作る技術だ」

 

「君はまだ、意識で支えている段階だが……それでも前進している」

 

緑谷は天井を見つめながら、小さく息を吐いた。

 

「……正直、思ってたよりずっと地味です」

 

すると、男は短く笑った。

 

「当然だ。派手な力ほど、土台は地味になる」

 

「だが覚えておけ。この段階を疎かにした念能力者は、必ずどこかで自滅する」

 

その言葉に、緑谷はごくりと喉を鳴らした。ヒーロー。ヴィラン。力を持つ者たちの姿が脳裏をよぎる。もし自分が、いつか強い力を持ったとして――その時、これを保てるだろうか。

 

(……怖い。でも)

 

胸の奥のオーラは、まだ弱く、不安定だ。それでも以前よりは、確かに“そこにある”。緑谷は目を閉じ、静かに意識を落とした。考えすぎず、押さえつけず、ただ包む。纏(てん)は、少しずつ、確実に彼の日常に溶け込み始めていた。

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