【未完】個性と念。【引き継いでくれる人募集】   作:確かな勇気

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第九話

「……何か、ありましたか」

 

達人は短く息を吐いた。

 

「もうのんびりしていられなくなった」

 

「少し早いが、お前に“次の段階”を伝える」

 

その言葉に、緑谷の背筋が自然と伸びる。纏、絶、練。基礎と呼ばれる修行は積んできたが、それが“どこへ向かう力なのか”は、まだ曖昧なままだった。

 

「念は、ただオーラを出せればいい力じゃない」

 

達人が指先を動かすと、何もなかった空間に、淡く光る円が浮かび上がる。円は六つに分割され、中心から放射状に線が伸びていた。

 

その瞬間、緑谷は思わず息を呑んだ。

 

「……六つ?」

 

「これは……分類、ですか?」

 

視線が図から離れない。頭の中で、勝手に歯車が回り始める。力を系統立てて整理する図。中心からの距離。隣り合う配置。意味のない配置には見えなかった。

 

「念の系統だ」

 

「強化、変化、放出、操作、具現化、特質」

 

達人が一つひとつ説明するたびに、緑谷の脳内では過去の体験が次々と引き出されていく。

 

――練をするとき、身体強化よりも“形を保つ感覚”の方が掴みやすかった。

――オーラを広げるより、輪郭を意識した方が安定した。

――他人のオーラを整える時も、「流れ」より「構造」を見ていた。

 

(……待って、これって)

 

「隣り合う系統ほど相性が良い」

 

「反対側は、致命的に効率が悪い」

 

その説明を聞いた瞬間、緑谷の目が見開かれる。

 

「じゃあ……今まで上手くいかなかったやり方って……」

 

「努力不足じゃ、なかった……?」

 

呟きに近い声だった。達人は否定も肯定もせず、ただ続ける。

 

「これは才能の話じゃない」

 

「適性の話だ」

 

緑谷は図を睨みつけるように見つめながら、必死に考えていた。もしこの図が本当なら、念は“何でもできる力”ではない。最初から、進む道がある程度決まっている力だ。

 

(ヒーローの個性分析と、似てる……!)

 

個性にも向き不向きがある。万能に見える能力でも、実際には得意分野が存在する。念も同じ構造なのだとしたら――この図は、戦闘理論そのものだ。

 

「……どうやって」

 

「自分がどの系統か、分かるんですか」

 

達人は頷き、手を振った。すると、コップが現れ、中には澄んだ水。さらに、水面に小さな葉が一枚浮かんだ。

 

「水見式というものだ」

 

「オーラを流し込み、起きる変化を見る」

 

緑谷はごくりと唾を飲み、コップの前に膝をつく。両手を縁に添え、呼吸を整える。練で高めたオーラを、今度は慎重に、静かに流し込む。

 

(強くしすぎるな……観察だ……)

 

次の瞬間、水面に浮かんでいた葉が、ゆっくりと沈み始めた。

 

「……なんだ?」

 

「何か出てきた?不純物…としか言いようのないものが……」

 

声が震える。頭が一気にフル回転を始める。 どちらにせよ、現象は明確だった。

 

「具現化系だ」

 

達人は即答した。

 

「未熟だが、これはもう確定だ」

 

「え……」

 

緑谷は言葉を失った。具現化――“形を与える”。頭の中で、その言葉が何度も反芻される。

 

(だから……オーラの輪郭が……)

 

(だから……流れを“直す”感覚が……)

 

今までの違和感が、一つの線で繋がっていく。偶然じゃない。全部、ここに集約されていた。

 

「……すごい……」

 

思わず漏れた本音だった。

 

「念って……こんなに、理屈の力なんですね……」

 

達人は静かに頷く。

 

「だから危険なんだ」

 

「だから、巨悪はこれを使う」

 

達人は六性図を再び示す。

 

「これは戦うためだけの知識じゃない」

 

「他人に説明し、理解させるための地図だ」

 

緑谷の脳裏に、昼間の光景が浮かぶ。塚内の鋭い視線。プロヒーローの沈黙。彼らにこの話を伝える未来が、現実味を帯びて迫ってくる。

 

「後日、この話は警察とヒーローに伝える」

 

「その時、お前は“使える側”では足りない」

 

「“理解させる側”に立て」

 

緑谷は深く息を吸い、ゆっくりと頷いた。不安はある。だがそれ以上に、分析すべき材料が揃ってしまった高揚感が、胸の奥で静かに燃えていた。

 

物語は、確実に次の段階へ進み始めていた。

 

警察施設の一室。無機質な会議室に、三人だけが向かい合って座っていた。塚内は手元の資料を伏せ、相澤は椅子に深く腰掛けたまま、じっと緑谷を見ている。昨日までとは違い、今日は「事情聴取」ではなく、「説明を受ける場」だという空気が、はっきりと共有されていた。

 

緑谷は一度だけ喉を鳴らし、背筋を正す。昨夜、精神世界で念の達人と何度も言葉をすり合わせた。何を話し、どこまで見せるか。順番を間違えれば、すべてが疑念に変わる。

 

 

 

「念には、基礎となる“行”があります」

 

緑谷はそう切り出した。

 

「四つあって、“四大行”と呼ばれています」

 

塚内が即座に反応する。

 

「基礎動作、という理解でいいのかな」

 

「はい」

 

「個性で言うなら、応用以前の“扱い方”です」

 

相澤の視線が鋭くなる。

 

 

「纏、練、絶、発と呼ばれます。」

 

「このうち、“発”だけはまだ実際には使えません」

 

「なので、今日は残りの三つを実際にお見せします」

 

そう言って、緑谷は椅子から立ち上がった。室内が静まり返る。ヒーローと刑事の視線が、一点に集中した。

 

「まず、“纏(てん)”です」

 

「これは、自分のオーラを身体の表面に均一に留める技術です」

 

「防御と安定が主な目的で、念の基本中の基本です」

 

緑谷は目を閉じ、呼吸を整える。数秒後、空気が変わった。目に見える変化はない。それでも、相澤ははっきりと感じ取った。昨日と同じ、だがより洗練された“違和感”。

 

相澤の内心で、警鐘が鳴る。

 

(……いる)

 

(確実に、何かが“まとわりついている”)

 

緑谷は静かに目を開けた。

 

「これが、纏です」

 

塚内が思わず呟く。

 

「……今、室温が変わったような気がしたが」

 

「実際には変わっていません」

 

「感覚の問題です」

 

緑谷は一拍置いて続けた。

 

「次が、“練(れん)”です」

 

「オーラの量そのものを高め、強度を引き上げる行です」

 

「危険も大きいので、本来は纏が安定してから行います」

 

再び呼吸が変わる。今度は、はっきりとした圧だった。空気が重くなる。相澤は反射的に背筋を伸ばす。敵意はない。だが、“力がそこにある”という事実だけで、警戒本能が刺激される。

 

塚内は無意識に、机の縁に指をかけていた。

 

「……これは」

 

「昨日より、明らかに違うな」

 

緑谷は歯を食いしばりながら、数秒で練を解いた。

 

「長時間は無理です」

 

「でも、これが“高める”という状態です」

 

一瞬の静寂のあと、緑谷は深く息を吐いた。

 

「最後が、“絶(ぜつ)”です」

 

「これは、オーラの流れを完全に断ち、存在感を消す行です」

 

「隠密や回復に使われますが、無防備にもなります」

 

その言葉の直後だった。相澤の感覚から、緑谷の“気配”が消えた。視界にはいる。音もする。だが、そこに“いるはずのもの”が抜け落ちたような感覚。

 

相澤の瞳が、わずかに見開かれる。

 

(……あの時と同じだ)

 

(ヴィランと対峙した時の……“空白”)

 

 

緑谷はすぐに絶を解いた。

 

「これが、四大行のうちの三つです」

 

「最後の“発”は、これらを組み合わせた“個人固有の技”です」

 

「僕は、まだそこまで到達していません」

 

塚内は、しばらく沈黙してから口を開いた。

 

「……つまり」

 

「今見せてもらったのは、“力の入口”に過ぎない」

 

「はい」

 

緑谷ははっきりと答えた。

 

「ここから先で、ようやく“どういう方向の力なのか”が関わってきます」

 

そう言って、紙とペンを取り出す。円を描き、六つに分ける。

 

「ここで、ようやく“系統”の話になります」

 

相澤が図を見つめる。

 

「……分類図、か」

 

「はい。念は、この六つの系統に分かれます」

 

緑谷は指でなぞる。

 

「強化系、変化系、放出系、操作系、具現化系、特質系」

 

「言葉通りの意味です。強化系はオーラを強化するのに長けていて、放出系はオーラを切り離し、飛ばすのに長けています」

 

「ただ、特質系だけは例外で、個人の資質に大きく影響されるようです。」

 

「隣り合う系統は相性が良く、離れるほど効率が落ちる」

 

「これは才能や努力の差ではなく、構造の問題です」

 

塚内が、静かに息を吐いた。

 

 

「個性とは別枠で、理屈が通っている」

 

「はい」

 

「そして、自分の系統を調べる方法が、“水見式”です」

 

緑谷は、水見式のやり方と系統ごとの変化の違い説明をし、自分が行った結果――コップに不純物が現れたことを伝えた。

 

「僕は、具現化系でした」

 

相澤は、今度はすぐに言葉を挟まなかった。ただ腕を組み、視線を落とす。

 

「……理解した」

 

「少なくとも、“正体不明の力”じゃない」

 

「体系だった技術だ」

 

塚内も頷く。

 

「共有すべきだな」

 

「警察とヒーロー、どちらの領分でもある」

 

緑谷は胸の奥で、静かに安堵した。ここまで話して、否定されなかった。それだけで、十分だった。

 

「……後日」

 

「この話は、関係者に段階的に伝えます」

 

「その時、君は説明役だ」

 

塚内の言葉に、緑谷は背筋を伸ばす。

 

「はい」

 

頭の中で、達人の声が重なる。

 

――もう、使うだけでは足りない。

 

――理解させろ。

 

物語は、静かに、しかし確実に

“個人の力”から“共有される力”へと移行し始めていた。




どうしても念能力の説明が必要だから大変だね
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