―〘緊急だ、今すぐ帰って来い。〙―
中央大陸、旧幹線道路。そこを走る1台のバイクへ、通信が入った。ライダーは思わず路肩に愛車を止める。
「…今日は依頼はナシのはずだろう?」
〘そのつもりだったが、仕方ない〙
「断らないのかい?今日は休暇の―」
〘シュナイダーからだ〙
食い気味なその一言で、反論の余地は無くなる。
[シュナイダー]、ルビコン進駐を行っている星外企業のひとつ、アーキバスグループ傘下の会社であり、彼の所属する組織がある会社の名前である。
シュナイダー独立特殊遊撃群、[フォーゲル]を構成する構成員、それが彼、識別名〔カノープス〕だ。
「…分かったよ」
そう言って通信を切り、再び走り出した愛車を脇道へと促す。250cc2気筒2ストロークエンジンが、カフェレーサースタイルの軽量ボディの中で唸りを上げ、車体が軽快に加速する。
が、彼の心境は加速ほどの軽快さは無かった。
せっかくの休暇の予定が無駄になったからだ。心の中で舌打ちをして、格納庫のあるベリウス東部、グリッド095へと向かった。
格納庫には先程の通信相手、〔リマー〕の姿があった
「遅いぞ。緊急と言っただろ」
「これでも急いだんだよ」
「…それで、依頼の内容って?」
「これだ」
液晶の付いたテーブルから、映画でよく見るような立体映像が浮かびあがった。
「…ただの洞窟にしか見えないけど?」
「あぁ、ただの洞窟だ。戦術核の保管庫だってこと意外はな」
「戦術核?」
カノープスは目を丸くした。当たり前だ。衛星砲が実用化されてから、汚染の後遺症がある戦術核は廃れていった。最早、戦術核を知らない人間もいるくらいだ。そんな物が、このルビコン3で生き残っていたと言うのだ。
「いったい何処の誰がそんなのを…」
「それを今から調べに行くんだ」
「それがシュナイダーの依頼?」
「偵察の結果によっては、その後1、2本ぶん盗ってから残りを処理するまでが依頼だな」
「1、2本…?シュナイダーは何する気なんだい?」
「……核…欲しくない…?」
「…君の独断ってこと?」
「…そうだな」
「全処理決定だね」
「」
崩れるリマーを尻目に、カノープスは出撃準備を始めた。
[フォーゲル]は、要するに私兵組織だ。構成員達は、普段独立傭兵として活動しているが、シュナイダーからの要請があった場合に集まる事になっている。偵察活動時は、情報を持ち帰る確率を高めるため、リマーとカノープスの二人で行動する。
いつの間にか準備していたらしいリマーは、既に自らのACと共に輸送機に乗り込み始めている。カノープスも愛機と共に輸送機へと乗り込み、作戦地点へと移動する。
「ここが例の…?」
「…普通の洞窟…だな」
「MTが待ち構えてる意外は、ね」
「あいつらアホか?ここに何かあるって言ってるようなもんじゃねぇか」
「とりあえず、中に入んなきゃ始まらんね。」
カノープスの機体―〔ヴェルミヨン〕は、静かにMTの背後に降り、両手のショットガンを背中に突きつけ、トリガーを引いた。
BAWS社製MTは膝から崩れ落ち、沈黙する。
「じゃ、いこうか」
「OK」
核を見つけるのは簡単だった。洞窟の構造は1本道だったし、道中ご丁寧に無人ドローンによる自動迎撃があったからだ。
「核の数は…14本…よくこんなに生き残ってたね」
「1本くらいもらっても…」
「駄目です」
これ以上の収穫は無いと判断し帰ろうとした時、
〔ヴェルミヨン〕のセンサーが不自然な奥行きを捉えた。
リマーの〔アズール〕も同様のようだ。二人は顔を見合わせ、ハッキングを試みた。
「ビンゴだな、扉がある」
「開けれそう?」
「もう開くぞ」
その言葉通り、扉は開いた。そこに核は無かった。
しかし、誰が核を運用しようとしたかは分かった。
「ベイラム…」
ベイラムのエンブレムが描かれた壁が、其処にはあった。
カノープスが呟き、辺りを見回す。そこにはかなり広い空間が広がっていて、今まで自分達がいたのは本道では無かった事が分かる。
「確かにこの辺には元ベイラム基地があったが…数カ月前にアーキバスが侵攻し、陥落した。」
「でもその残党はここで核を隠し持ってたみたいだね。」
「残党?ここには誰も―」
そこまで言って、リマーは気付いた。カノープスの目線の先にはベイラム製のACが2機、こちらを見ていた。
1機は二脚、もう1機は四脚のペアである。
気付いた瞬間、四脚機の左肩から砲弾が飛んで来る。
しかし、〔ヴェルミヨン〕も〔アズール〕も軽量級逆関節の機体であり、近接戦用の〔ヴェルミヨン〕は勿論、異端の重武装機の〔アズール〕だって並以上の機動性を魅せる。
2人の練度も伊達じゃ無い。
弾速の遅い砲弾を避けるなど、朝飯前も良いとこだ。
ターンは此方に回ってきた。
〔ヴェルミヨン〕はABを使い、二脚機へと突撃する。
右手のショットガンで相手を動かし、回避後を左のショットガンで拾った。ショットガンをもろに受けた機体がバランスを崩し、よろめく。その隙に懐に入りこみ、左手をレーザーダガーに持ち替え、一閃。
だが、敵機もただでは終わらない。レーザーの刃が到達する前に後方へとQBを使って飛び退った。
「流石に読まれてたね…」
再び相手にターンが回った。相手は両肩の4連装ミサイルを一斉に放ち、牽制する。
〔ヴェルミヨン〕は後退し右肩の実弾オービットを連射させながらミサイルを引きつけ、逆方向にQBを吹かすことで回避する。
着地と同タイミングで前方へ突撃する様にQBを使って懐へ入り込み、ショットガンのトリガーを同時に引く。斉射されたショットガンの圧倒的な衝撃力により、敵機はACSの負荷限界を向かえ、機体が硬直。大き過ぎる隙を晒した機体はそのままダガーの三連撃を受けて刻まれ、後ろに倒れた後、爆散した。
タイマンを制したカノープスは一息つき、リマーの方へ顔を向けた。
彼は爆炎の中に居た。
どうやらグレネードを避け損なったらしい。
(クソッ、2連戦か…)
即座に機体をそちらに向け、襲いかかった。
しかし、その見た目と重量からは想像つかないほど敵機は俊敏に動き、機体を下がらせた。
当たり前だ。敵機は四脚の特徴、ホバリング機能を活かした戦闘を展開している。幾ら重量級脚部とはいえ、四脚は四脚。その速さは他の重量級脚部とは比べ物にならない機動性だ。
だが、それも同重量型と比べればの話。軽量逆関節脚部の敵では無い。
QB2回で完全に背後を取り、背中を蹴りつける。圧倒的な瞬発力を生み出す逆関節の脚力を活かした蹴り。敵機は前方向に飛ばされる。相手はこれを逆手に取って距離を取りたい…所だが、それは出来ない。
広いとは言え所詮は洞窟、そう安々と距離を取れる様なスペースは無いからだ。
つまり、〔ヴェルミヨン〕のアセンブルが最も輝くシチュエーションという訳である。
ショットガンと蹴りを交えて攻め立て続ける〔ヴェルミヨン〕の猛攻に、四脚機のパイロットは疲弊し、カノープスにつけ入る隙を与えた。瞬時に持ち替えたレーザーダガーがコクピットを直撃し、敵機を物言わぬ鉄塊へと変化させる。
連戦を制し、一息ついたカノープスは原型が残る〔アズール〕に通信を試みる。
「生きてる?リマー」
帰って来たのはノイズのみ。生体反応もない。
「…原型が残ったのは機体だけだったかな」
ぐにゃりと凹まされたコクピットを見、これから彼の分増えるであろう仕事にため息を吐いた。
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