TS憑依転生オルガマリーの奮闘記   作:手屋んDay

3 / 4
3.時計塔のTSオルガマリー

 時計塔の現代科に在籍してから約2ヶ月が経ったある日、Ⅱ世に客人を呼ぶための応接間に呼び出された。

 

「どうしたのよⅡ世。私が提出をしたレポートに何か問題でもあったかしら?」

 

 直近の話と言えばこれぐらいだろうか?

 どこかにミスがあったのか?

 

「いや、君の提出してくれたレポートに不備はない。『4つのエレメンツを司る精霊が暴走した場合、如何(いか)なる手段を用いて沈静化させるか?』という問い掛けに、五大思想を用いて解決するというのは面白かった」

 

 あれ?意外と好評価。

 よし、続けてアピールしよう。

 

「暴走した精霊を真正面から抑え込もうとすれば、さらに暴れて予測不可能な事態が生まれやすいもの。四大元素のエレメンツは『火、風、水、地』に対して、五大思想は『火、風、水、地、空』。この『空』は空間であり虚空を表す。つまり、アニムスフィアの専売特許だわ」

 

 虚空やら空洞やらちょっっと怪しくて怖いけど、使えるものは使う主義だ。

 そして、そこまで分かればこっちのもの。

 

「エレメンツの『火、風、水、地』を五大思想に照応させつつ、穴となる『空』を用意してあげれば、勝手に精霊の力は虚空に吸い込まれて力を失くなっていく。その儀式に必要な道具を挙げるとすれば短剣ね。まあ、無くてもできるけど効率を考えると短剣が手っ取り早いわ」

 

「ちなみにだが、注意点は?」

 

「精霊は術者が用いた魔術を絶対に見破ってくる。全ての精霊がその術者を集中的に狙ってくるでしょうから、回避と防御魔術で精霊の力が虚空に吸い終わるまで耐え続けなくちゃいけないってところかしら?でも、それもそれなりの実力者なら実現可能だと思うけど?」

 

「…………まあ、そうだな」

 

 あっ、今『自分には無理だな』とか思ったな。

 

「精霊同士で戦わせれば術者の負担は少ないでしょうけど、陰陽五行の場合は五大思想と違って四大元素と噛み合いが悪いから、相克(そうこく)を目的とした魔術は上手く発動はしないでしょうね」

 

「その通りだレディ。フラットの奴からは無理に陰陽五行を取り入れようとして、効果を打ち消し合う相克(そうこく)ではなく、逆にお互いの効果を高め合ってしまう、相生(そうせい)の魔術式を構築する理論のレポートを提出されたよ。勿論、アイツはやり直しだがね」

 

 ええ……逆にどうやって組み込んだんだよ。

 全くの別の魔術理論だぞアレ。

 

「今回のレポートでは教室内で君の解決法が一番スマートだろう。他の者の多くは精霊の力を利用することばかり意識を向けていたからな。そうすれば、エレメントを消費させることは可能だが決定打にはなり得ない。それぞれの精霊は失ったエレメントを求めてその場から立ち去り、神秘の秘匿を無視してそこら中から燃料をかき集める事だろう」

 

 えーと、確か事件簿のドラマCDでグルドア・ダヴェナントの飼ってた電気ウサギが野生化して、電気を貪り食う獣になったんだっけ?

 そうなると、結果的に被害の方が大きくなるってことね。

 

「君の解決法は術者の技量に大きく左右されるが、抜本的な解決策として上出来だ。何よりそれを実現するだけの知識と実力、さらに経験があることを踏まえれば何も言うことはない」

 

「ま、まあ?そう言われて当然よねっ!」

 

 フフフフッ、あのロード・エルメロイⅡ世に褒められるとか偉業なのでは?

 ……いや、普通にできたら褒める人だった。

 フラットとか他のエルメロイ教室の問題児達のせいで、被る面倒事で怒ってるばっかりのイメージだったけど、教員として厳しいだけの人じゃないんだよな。

 先生として本当に理想的なんだよこの人。

 

「なら、兄上はどうしてオルガマリーをここへ呼んだんだ?わざわざ褒めるためにここまで呼び出す必要はないだろう?」

 

 彼の隣に座るライネスが訝しげな瞳をⅡ世に向ける。

 うーん、美人。

 オルガマリーじゃなくて生まれ変わるならライネスに……いや、五十歩百歩だな。

 幼少期から暗殺されかける恐怖の毎日か、カルデアスに叩き込まれて100年間の拷問地獄か……魔術師の子供って幸せになれないんじゃね?

 

「……端的に言おう。この2ヶ月で君の実力と振る舞いを見ていたが、君は実力も血筋も周囲の評価、どれを取って見ても私の教室に居るべきではない生徒だ。最初は名門のご令嬢の道楽か何かだと思っていたが、知識を求めるその姿勢は決して暇潰しやお遊びの類いではない。だからこそ、君の意図が見えない。どうして天体科ではなく私のような三流魔術師が教師を勤める現代科に来たのかね?」

 

 まあ、そりゃあ疑問に思うのも仕方ないか。

 ファンだからだけどそれをオルガマリーが言うことなんてないしなぁ。

 

「天体科も含めてこの教室以外の他の学科の教室だと、教師の助手にされて都合よく利用されるだけ。その利害関係が間違っているとは思わないけど、私は父が天体科の現ロードで小さな頃から天体魔術を教え込まれてきた。今さら、他の魔術師から天体魔術を教わる意味は無いのよ」

 

 ……言いながら思うけど、何でマリスビリーはちゃんと天体魔術を教えてくれるだけじゃなく、すんなり魔術刻印をくれたんだ?

 確か、【ロード・エルメロイⅡ世の事件簿】だと最低レベルじゃなかったっけ?

 てっきり、もっとごねられるか劣化品を与えられるもんだとおもってたけど、その性能は今の時計塔でもトップレベル。

 あの馬鹿げた成長率を見せるエルメロイ教室の面々と比べても、見劣りしないどころか並ぶ者が限られるくらいだ。

 

 ……もしかしたら、FGO時空のオルガマリーの一歩手前くらいはあるんじゃないか?

 もし完全に魔術刻印が譲渡されれば、全く同じだけの実力が身に付いてもおかしくないと思うほどだ。

 

「知ってることしか教えてこないだけじゃなく、助手として使いっぱしりになるつもりはないわ」

 

「おいおい、貴族社会で生きるためには繋がりは無視できるものじゃないぞ?まだ10にも満たない子供とはいえ、その辺りの事も親から教えられてるだろう?」

 

 ライネスが組んだ腕に肘を付き、頬に手を当てた体勢で呆れたような声音で肩を竦める。

 うーん、絵になるなぁ。

 

「そんなものロードの娘なんだから、そう言った社交場になれば向こうからやって来るわよ。必要なのは魔術師としての純粋な実力。次期ロードとして周りを黙らせられる魔術師になることが私に求められることでしょ?なら、私が手を伸ばすべきは今までの私にはなかった視点からの構想よ」

 

「ふむ、その相手が兄上ということか」

 

「同じ様な視点しか持たない天体科の連中と一緒に居たって進歩はないわ──あなたのような特殊な視点と考えを持つ魔術師から魔術の教えを授かることこそ、私のこれからの栄達に繋がると考えているわ……答えはこれでいいかしら?」

 

 俺の言葉を聞き終えると、Ⅱ世は疲れたように溜め息を吐いた。

 

「私は君が思っているほどの魔術師ではない……実際に私の階位は第4階位の祭位(フェス)なのだからな。現時点で君と同じ階位でしかないような凡才の魔術師に、君のような麒麟児を導けるとは思えないが……」

 

「そんな肩書きしか見ない馬鹿だと思われてるなら、そっちの方が不愉快よ。あなたには人を導く才があって人には見えない物が見えているわ。それはこの半年間の授業でよく分かった。これからは下手な謙遜は止めなさい?自分の外聞を貶めるとそれに引き摺られて本質まで澱んでいくわよ?」

 

「……ご忠告感謝しよう、レディ。ちなみにだが、マリスビリー氏は何も言ってこないのかね?」

 

「ええ、お父様は私のすることにいちいち何か言ってくることなんて無いわ。だから、他学部のロードと敵対するなんてことはないから安心して頂戴」

 

「……そうか。はあ……」

 

 ……何だその『また厄介な問題児がやって来た』とでも言いたげな顔は。

 噂に聞く、Ⅱ世信者であるヴェルナーやローランドほどじゃないし、フラットみたいな問題児じゃ俺はないのにこの扱いは遺憾だ。

 

 ただⅡ世の言うことは絶対に聞くし、Ⅱ世の敵が現れればその魔術師を殺しに行くだけなのに……。

 

「やれやれ……言い負かされてしまったな兄上。これでロードの娘という特大の地雷を抱え込まなくてはならなくなってしまった訳だ。精々、天体科の教師と生徒達に睨まれてくれ」

 

「コイツ、他人事だと思いやがって……!」

 

 おっ、ウェイバー君要素がでてきたなっ!

 実はロード・エルメロイⅡ世は演じてるんだっけ?

 中身はあんまり変わってないとか。

 

 

「──さて、今度は私からだオルガマリー・アニムスフィア。少し話をしようか」

 

 

 Ⅱ世の横に座るライネスが小悪魔な笑みを浮かべてくる。

 可愛いなコイツ。

 

「あなたから……となると、やっぱりロード関連のことかしら?」

 

「ああ、次期ロードの人間としてお互いに交遊関係はあった方が何かと得だからな」

 

「そうね。私も近い内にあなたと話せたらと思っていたわ。これからよろしくするわ。利用価値がある内はね」

 

「フフフッ、こちらこそだ」

 

 そんな貴族同士の会話をする。

 外面を大事にして弱みを見せない、これができなければ貴族の娘なんてできる筈もないのだ……そんな(すべ)を別に知りたくなかったのが本音だけど。

 

「はあ……友達になりたいと素直に言えんのか、お前達は」

 

 何か小声でⅡ世が言っているけど聞こえない。

 聞こえないことにしておく。

 

 ……つーか、外と隔絶された雪山で育てられたせいで、同じ貴族の令嬢と交遊関係を構築するやり方なんて知らねーよッ!

 『お馬鹿なマリー、しゃんとしなさい!』とか言う暇あるなら、その辺りの処世術を教えんかいッ!

 そんなだから、クビ(物理)にされるんだぞ!

 

 

 

【☀️☿♀️♁♂️♃♄♅♆♇】

 

 

 

「あれがアニムスフィア家の麒麟児、オルガマリー・アニムスフィアか」

 

 扉を閉めて教室へ戻っていった、この時計塔で今最も注目されている若い新星を思い浮かべながら口にする。

 

「(高圧的な言動だが高慢でもなければ差別主義者でもない、あれは貴族としての在り方を貫いているだけだな。自分が未だに未熟者だという自覚があり向上心が高く、周りの意見に振り回されないが自分の意見が絶対であるという自惚れもない……家格も含めて絵に描いたような金の卵じゃないか)」

 

 才能も実力も、その気になれば社交性もあるにも拘わらず、敢えてエルメロイ教室にやって来るなど異端そのもの。

 取り扱いはこの上なく難しい。

 

「さて、兄上。とんでもない奴に目を付けられたな?」

 

「はあ……全くだ」

 

 ソファに背中を預けて萎びれている義理の兄を見ながらほくそ笑む。

 

「天体科で学んでも充分階位の第二階である、色位(プランド)まで届くだろう逸材だ。それを横取りしたかのようなこの状況は天体科の奴らは面白くないだろう。今までエルメロイ教室が存続できた要因の一つは、他の教室では見向きもされなかった生徒だからだった面が大きい。私から言わせれば未だにエルメロイ教室が存続していることが不思議でならないくらいだ」

 

 エルメロイ教室の不文律である、【教室に所属している者以外がⅡ世を殺そうとした場合、そいつはエルメロイ教室の生徒たち全員の敵である】という暗黙の了解(兄上は知らない)によって、OBであるローランド・ベルジンスキーを筆頭に敵対者を屠っているようだが、流石に本格的に動き出した時計塔に存在している一大組織の刺客を抹殺できる訳ではない。

 要するに、余りにもその影響が少ないのだ。

 それこそ、気持ちが悪いほどに。

 

「…………実は、それにも理由がある。聞いた今でも信じられないのだが……」

 

 兄上は眉間に皺を寄せて不機嫌そうな……いや、悩ましそうな顔をする。

 何か知っているのだろうが言葉にするだけでもこの反応だ。

 面白くなってしまうのは人情だろう。

 ──だが、兄上から出てきたその言葉はさしもの私でも驚愕するしかなかった。

 

 

 

「……どうやら天体科のロードである、彼女の父親のマリスビリー氏が、『オルガマリーの行動を大目に見てくれ』と言っているらしい。それこそ、そのためにあの雪山に籠っていることで有名なあのマリスビリー氏が、直々に出向いて関係各所に頼みに行っているようだ」

 

「………………は?」

 

 

 

 思わず呆然とする。

 知識としてアニムスフィア家は山の上で、孤高の立ち位置を今まで貫いてきた。

 それにも拘わらず、お転婆お嬢様の我が儘を優先してその在り方を変えるなんて普通ではない。

 

「魔術師にとって子供は自らの道具だ。その子供の言葉に振り回されるなんてことはあってはならない。それが分かぬロードじゃない。……彼女には何かある。アニムスフィア家当主として君臨するロードがそこまでする何かがな」

 

 (まさ)しく、他の家に借りを作る真似をするだけの何かがオルガマリーにあり、その手間暇をするだけの見返りが必ずある。

 だからこそ、本人に直接問い質そうとしたが見事な空振り。

 ──つまり、一方的に目を掛けられていて本人はその事に気付いてもいないと見ていい。

 

「彼女に自覚はなくてもフラットと同等の問題児だ」

 

 疲れた声でそう言い切る兄上に哀愁が漂うが、それだけが本音でないことはもう知っている。

 

「それなのに、追い出さないんだな?」

 

 兄上は葉巻を取り出すと火を付ける。

 

「……彼女の行動は先を見据えてのものであり、魔術師としての使命を全うすることに注力している。あの歳から自らの生き方を定めつつ柔軟に取り入れる姿勢は素晴らしいの一言だ。エルメロイ教室は私だけじゃなく様々な個性的な者達が集まる場所だ。彼女の求める新しい見識が多く見付けられる場所であることも間違いない」

 

 葉巻に火を付けて一服し口から煙りを吐き出した。

 その紫煙を目で追いながら、まるで回帰するかのように懐かしむ目をする。

 

 

「──私がエルメロイ教室を存続させたのは、この教室で学びたいと言う生徒の機会を奪わないためだ。それを立場や(しがらみ)を優先して僕が奪うなどあってはならない」

 

 

 その言葉を聞き、呆れに似た……明確に別の感情が湧き上がるが、顔を作り親愛なる兄上を見やる。

 

「(変わらず、今も尚追い続けている……全く、ヘッポコ魔術師の癖にこういう時だけ男の顔をするのだから、困った男だよ兄上は)」

 

 困難や逆境であっても止まることなく突き進む。

 それがロード・エルメロイⅡ世の……いや、ウェイバー・ベルベットの生き方だ。

 ただの凡人止まりでは許されないし、決して自分を許しはしない。

 ウェイバー・ベルベットは自身を認めてくれた王の最高の臣下となるべく、己を生涯の全てを使い自らを只管(ひたすら)に磨き続ける。

 

 

 ()の王の名に懸けて。

 

 




※ちなみに、肩書きを貶めることで発動する魔術として呪詛があり、これはFGO内で言われています。
 そして、フラットがⅡ世に対してよく言う、『グレートビックベン☆ロンドンスター』や『絶対領域マジシャン先生』、『プロフェッサー・カリスマ』などの異名も、貶めるのではなく逆に誇張させて持ち上げるタイプの呪詛なんだとか。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。