TS憑依転生オルガマリーの奮闘記 作:手屋んDay
エルメロイ教室に入ってから1年が経った。
流石は時計塔きっての魔術講師と言われるだけのものがあり、Ⅱ世の授業はためになることばかりで関心の日々だ。
俺の天体魔術も幅が広がったりして得してばかりだった。
……まあ、フラットの馬鹿騒ぎで『何やってるのよ!あなた達ッ!?』というフレーズばかり言っていた気がするが、概ね楽しく過ごせていた。
「(……『シャークゴーレム事件』は本気で教室の存続の危機だったけどな)」
フラットがB級サメ映画を観て思い付いたことが始まりだった。
その内容はゴーレムの形をサメに調節し、サメがするコマンドを入力してその通りに動く様子を見て楽しむというもの。
ライネスのトリムマウに色々吹き込んでいるうちに、自分で作りたくなったようだった。
現実のサメだと海水がなくては当然生きられないため、トリムマウのように姿を擬態させる必要がある。
だが、トリムマウはエルメロイ家の魔術礼装のため、生半可な材料では模倣することはできない。
だが、フラット・エスカルドスは天才だった。
トリムマウより安価で創造しやすいゴーレムに目を付け、サメの行動パターンを全て入力。
さらに自由に空中へ浮かばせるシステムを構築し、まるで泳いでいるかのような動きを再現した。
『「音響浮揚」ってあるでしょ?ピラミッドの大きな石を浮かばせるアレ!それを思い出してビビッてきちゃったんだよねっ!魔術で音を出せるようにすればゴーレムなら地面から浮かぶこともできるんじゃないかってさ!』
実際にそれは成功をしサメの姿をしたシャークゴーレムは、地面から少しだけ浮かびながら海の中を泳ぐように滑空していた。
その音響にも拘りを見せ、サメ映画の金字塔にしてお決まりの例のBGMを流し続け、無駄に臨場感を出していたのがフラットらしい。
その様な経緯で生み出されたシャークゴーレムは意外なほどに評価され、その技術は教師陣からも感嘆の声が上がるほどの完成度だったのだが……ここで問題が発生する。
──想像通りに人へ襲い掛かったのだ。
勿論、それを防ぐコマンドをフラットは仕込んでいたのだが、それが様々なアクシデントが発生し破壊。
フラットの『あちゃ~』という軽いリアクションと共に、見事な人喰いサメに進化してしまう。
シャークゴーレムは石の塊。噛み付かれば普通に身体を食い千切られるヤバい存在だった。
もしシャークゴーレムが時計塔を無秩序に暴れ回れば、少なくない被害が生まれていただろうが、偶然にもその場にはエルメロイ教室の面々がいたことにより、事態は収まった───かのように思えた。
「(まさか、そこから巨大化までするとはなぁ……周囲の石を取り込んで身体を大きくしながら暴れ続けようとしたのは流石に肝が冷えた)」
そこに颯爽と……いや、汗だくで息を荒げて駆け付けたⅡ世の手腕によって、シャークゴーレムは終わりを告げたがフラットはアイアンクローの制裁と反省文を書かされていた。
まあ、妥当だな。
そんな大変な問題が度々起きながらも楽しく過ごしていれば、とうとう彼女がやって来たのだった。
「は、初めまして、グレイと申しますっ」
「初めまして、オルガマリー・アニムスフィアよ。アニムスフィア家次期当主にしてエルメロイⅡ世の生徒をしているわ」
【ロード・エルメロイⅡ世の事件簿】に於いて、Ⅱ世のヒロイン兼戦闘員兼お世話係のグレイがエルメロイ教室へとやって来た。
そんな彼女と紅茶を仲良くシバいている理由は単純明快。
「オルガマリーはこんな風に高慢な振る舞いをしているが、身分で相手を見ない公明正大な魔術師とは思えん奴だよ。仲良くしてやってくれ」
「……ねえ、それって侮辱じゃないでしょうね?ライネス」
「まさか、裏をかく事しか能の無い馬鹿より100倍は付き合い易い相手だよ君は。まあ、外道であることを求められる魔術師としては清廉潔白というか、生真面目でズルができないその気質は生きづらそうだとは思うけれどね」
「むむむっ」
うーん、これは否定できない。
魔術師としては致命的なまでに気質が合ってないからなオルガマリー。
倫理観が壊れた奴が大成できる世界で、人の心とか常識とか邪魔でしかないし。
「あのフラットからエルメロイ教室の委員長なんて言葉を、最年少の身で付けられた君が、進んで外道な行為をするとは少なくとも私には思えない」
……まあ、そりゃあしないよな。
マリスビリーの外道行為にドン引きしながらも、その被害者であるデザイナーベビーのマシュに殺されるって思いながら、結局は隔離も監禁もせずに野放しにしてたんだから。
権力を持っていてなお自分を殺す動機がある奴と、同じ空間に居ることなんて普通はできはしない。
そのせいでヒステリックさが加速したみたいだし、自分にとって不都合なことを相手の立場や状況を鑑みて、受け止めてしまうのは魔術師らしくはないだろう。
「兄上は今は亡き先代エルメロイ当主、ケイネス・アーチボルトにタイプが似ていると言っていたな。スパルタだが一度見込みがあると思った相手には世話を焼くタイプだと。フラットのような問題児達が起こす騒動に何度も介入する姿を見れば、その責任感の強さは明白だがな」
「第2階定の『
「それは勿論。でなければとっくに君との縁は切れているだろうさ。先代エルメロイは魔術師でありながら、明確な不正行為を決して許しはしない人でね。魔術師として成果を挙げるならば外道な道こそが近道ではあるが、ズルばかり覚えていては地力は付かないままということなのかもしれないな」
外道行為はあくまでも手段の一つでしかなく、最も求められることは個々人の研鑽。
そして協力者となる人物や組織との、円滑なコミュニケーションこそが肝要ってことだ。
そう考えると、やっぱりエルメロイ教室こそ最適だな。
「(優秀な教師に損得だけじゃない繋がりのある級友。こんな理想的な環境無くないか?なんか落ちぶれても助けてくれそうだし)」
オルガマリーの肉体のせいか、どこに落とし穴があるのか分からない不安に常に襲われている。
まあ、もう大丈夫だとは思うけど。
でも、気を抜いていたら無限地獄に叩き込まれました、なんて余りにも怖すぎる想定だろう。
「(エルメロイ教室は三流の魔術師に師事することで、飛躍的にその能力を伸ばした勢力。そんな教室に居て貴族主義派閥の選民思想なんて抱けるままの筈がないんだよなー)」
貴族主義派閥の主張は、『優れた血統の者に任せるべき』というもので、選民思想が蔓延った空間だ。
誰が好き好んでそんな場所に居たいんだ。
正直、天体科なんて近寄りたくもない。
絶対に面倒だぞアイツら。
「(エルメロイ教室の貴族主義派閥の筆頭が今のところはライネスだけど、お兄様に脳をこんがりと焼かれてるからな)」
元々、そう言うタイプには見えないが決め手はⅡ世だろうな。
幼女の頃から焼き続けていたんだ、そうもなる。
「フラットさん……フラット・エスカルドスさんですね。師匠からお話を聞いています。ええっと……すごく個性的な人だと」
……絶対にボロクソに言われたなこりゃ。
まあ、そう言われるだけのことをしてるし当然だけど。
「まあ、これから仲良くしてくれると嬉しいわ。よろしくね」
──ここから先は、大したことはない。
アーネスト・ファーゴ氏の事件でグレイが亡霊となったアーネストを倒したことから始まり、『魔眼蒐集列車 Grace note』、『case.双貌塔イゼルマ』、『case.冠位会議』などを経て【ロード・エルメロイⅡ世の事件簿】は無事に幕を降ろした。
「(まあ、不思議に思うことも何度かあったけどさ)」
ロード連中だけではなく、『
あの2人が俺を見て、どっちも同類を見付けたかのような目を向けてきた理由は気になる。
何だ。何で良く分からんシンパシー感じてんだよ。
怖いよ、アンタら姉妹。
……ちなみに、トリシャは魔眼蒐集列車では置いていった。
死ぬことが分かりきってるのに連れていくとかあり得ないよね?
トリシャが居なくても大丈夫な様に、速攻で捕らえてやったけど。
カラボー神父のあれやこれやを何かする前にバラしてやれば、呆気に取られた顔してましたわ。
うん?捕まえられたのかだって?普通に逃げられましたけど?何か?
英霊とDr.ハートレスの心臓のアレはチートですわ。
まあ、死にかけてるらしいけど。
「地球を投影して龍脈に違和感が逢ったから、魔眼持ちのトリシャを置いて魔眼蒐集列車に乗ったのだと言って、Ⅱ世に信じて貰えたのは助かったわね。魔眼蒐集列車に乗る前に
普段から龍脈なんかを把握するために~とかなんとか言って、Ⅱ世の前でも投影してて良かった。
あの演技がなければ信じて貰えなかったかもしれない。
「それでも僅かに疑念を持たれたのは怖かったけどね。まあ、明確にハートレスとは敵対したから勘違いが流れて助かったわ。それにしても彼には感謝しないとね」
ぶっちゃけると『魔眼蒐集列車』編で役割がある、主人公のⅡ世とヒロインのグレイに、エルメロイ教室のルヴィア、フラット、スヴィン、カウレス。
そして裏で動いてくれるライネスと獅子劫以外なら誰でも良かった。
そのため、取り敢えずキリシュタリア・ヴォーダイムに声を掛けて一緒に行って貰ったのだ。
「Dr.ハートレスとフェイカーとの戦いに巻き込んじゃったけど、
FGOで惑星轟とかやってたし、いざと言うときは一緒に隕石を落とせば、アインナッシュの森ぐらいなら消し飛ばせると考えたのだ。
彼の師匠がマリスビリーのため私の弟弟子であり、勢いで『魔眼蒐集列車に行くから姉弟子である私に付いてきなさい!』と言ったら本当に付いてきた。
「教室は違ってもネームドキャラと、顔馴染みになっといて良かったわね。何を考えて行動してるのか知ってるネームドキャラは安心感が違うもの」
他の面子は縁を結ぶのに苦心したけどな。
ペペ様とはなんかⅡ世の知り合いとして出会えて良かった。
時計塔には居ないよなそりゃ。
ちなみに、ベリルは人格がアレだから認識して欲しくないからノータッチ。
芥は見付けられなかった。
見付けてもブチキレながら爆発しそうだからいいけど。
そう言えば、デイビットがなんか言ってたな。
「『俺と同類のようなものか』だっけ……?まあ、『俺』はオルガマリーからすれば『外』から身体の中へ入り込んだ異物だから間違ってないけど……それを見ただけで察するとか化け物かよ」
それから、デイビットには必要最低限だけ近付くようにしてる。
良い奴ではあるけど何が理由で拳銃を撃たれるか分からん。
アイツ、怖い。
「まあ、これで【ロード・エルメロイⅡ世の事件簿】も完璧に終わったし、肩の力を抜けるわね」
そんなこんなで、騒がしくものんびりと5年間を過ごしていると突然デイビットから連絡が来た。
何でもエルメロイ教室に在籍していた者でないと、解決できない問題が発生したらしい。
『あのデイビットがわざわざ俺に……?』と思いながらも、散々人に頼ってここまで生きてきたため、今回ぐらいはと思い荷造りをして出国をした。
「久し振りに皆と会えるわね」
──そうして、俺は深く考えもせずにアメリカに向かった。