わたし達の街には、魔法少女がいる……。
魔法少女トレスマジア、世界征服を目論む悪の組織エノルミータと戦う正義のヒロイン。
常日頃から人々のため、平和のために戦ってくれる変身ヒロイン、誰もがあこがれる夢の存在。
彼女達にほんの少しでもいいから手を伸ばせたら……。
誰もが彼女達のように変身出来たら、そう考えているがそんな時、マスコットが現れて平凡な人生を一変させてくれるようなシチュエーションが……。
「んで魔法少女に変身したってわけね、うん10年くらい聞いてるとパターン化してきて大体分かってるんだよね」
「カットしないでよなぎさ姉ちゃん!!これからが良いところなんですよ!!」
……ここまでの話をしてきたのは、魔法少女チームトレスマジアが好きなごく普通の女の子『柊うてな』
そんな彼女でもちょっと不思議な秘密がある、周りには言えない……というか言う機会は多分訪れない変わったところ、それは自分が問題だらけの7姉妹の六女ということ。
どこかの世界の無職達みたいだとネタにすることもあるが、年齢は結構離れている。
「おや?うてなも帰ってましたか、今から晩ごはんの支度しますね」
「いや……つばめ姉さんは料理しなくていいよ、多分何人か食べてきたと思うし」
「……私一応飲食店やってるのにこの信頼のなさはなんですかね」
一番上のお姉さんは『柊つばめ』、大衆食堂ひいらぎの責任者だとか料理長らしいけど味のセンスが壊滅的というか常人の発想をゆうに超えているのでお客さんが来ることは滅多にない。
昨日も晩御飯として出されたメニューはスパゲッティを冒涜するような何かだった。
「今日はハンバーグにしようと思ってたのに……そうだうてな、かながもう帰ってるはずなので頃合いを見て起こしておいてくださいね」
「また寝てるのかな姉さん……家だとずっとあの調子で心配になってくるよ……」
その次の次女は柊かな、朝から晩までOLとして働いている社畜と呼ばれるものだが働くこと自体が楽しいらしく徹底的に体を追い込むまで働き詰めにして家に帰ったら死んだように眠る生活を繰り返している。
徹底的に追い込んだあとの怠惰が楽しいそうだが見ている方としては死んだように寝るが本当に亡くなってそうで不安で仕方ない。
「そういやトレスマジアだっけ?うてなっちが好きなやつさ、あれめっちゃトレンドに上がってた」
「ああアレ?めっちゃ良かったよなうさぎ、ああいうキラキラしてるやつが追い込まれてる時が意見一致するんだよ、一生ああなってほしい」
「相変わらずどれみは捻くれてんな、あーしにとってはこの新人が見ものだけどさ」
「あっそ、大物はいつでも余裕ぶってて楽でいいよな」
双子の『柊うさぎ』と『柊どれみ』
うさぎはイマドキの金髪黒ギャルでずっとSNSに張り付いて派手なことをしたりブランド品の宣伝をしている大物インフルエンサーというものらしい、家系の中で一番きらびやかな立場なのは間違いなく彼女だ。
対してその妹のどれみはまさに正反対な卑屈、ロックバンドをしているそうたが何かとうさぎと比較される事を嫌がり、過激なパフォーマンスをしたりケンカが絶えず問題ばかり起こしている。
まさにこの家系の光と闇、天と地……2人は仲が良いわけでもないし、なんだかんだいいコンビということもない。
かといって貶し合っているわけでもないなんとも不思議な二人である。
うてなもなんだかんだ2人は悪い人ではないと判断している、どんなにナルシストでも攻撃的でも気遣ってくれる姉であることに変わりはない。
「うてなもさ、魔法少女が大好きなのは分かるけどもう少し脚本を凝らせたら?今時平凡な女の子の元に突然マスコットが現れるなんて王道は手垢つきまくってるんだよ、戦隊みたいに幅を利かせないと!」
「戦隊は結局変身アイテムの出処ぼかしてるだけで曖昧なのは大体同じじゃん!」
「あー!?全然違うし!?シリーズごとに経緯が違うんだよ経緯が!そっちはマスコットが適当に配ってるだけだろうが!!」
「これ以上言ったら戦争だろうがっ……!!」
「はいはい、2人もそれぞれ好きなものがあるのは分かるけど貶しても悲しいだけですよー」
うてなと醜い口論を繰り広げていたのが直近の姉である『柊なぎさ』、彼女は魔法少女ではなく戦隊と呼ばれるカラフルで仮面をつけたヒーローが大好きだった。
ごく僅かながら魔法少女ではなく戦隊を推しにする人物も現れるのだがこうして作風で魔法少女ファンと喧嘩になることも珍しくない。
何せ、魔法少女と違って戦隊は現実に存在しないのだからファンが足りないのも仕方ないことだ。
その為生粋の魔法少女オタクであるうてなとも解釈違いで口喧嘩もしばしばだが、なんだかんだで仲良くやっている、なぎさも本気でキレているわけでもない。
「うてな姉さま、かな姉さまが今日も着替えず眠っちゃったの……」
「はぁ……かな姉さん仕方ないんだから、仕方ないなぎさお姉ちゃんも手伝って」
「まぁ三人がかりでもないとあの人は引っ張れないからな……あの姉ちゃん共は協力してくれるわけないし」
うてなの唯一の妹で末っ子、『柊ほむら』。
これがもう溺愛したいくらいにはよく出来た妹であり問題児だらけの姉共に比べて素直で優しくてとても優秀な子、蝶よ花よと育てられてきたが鼻にかけることもなく姉達全員を慕ってくれる。
以上がうてなの姉妹達だ、こんな彼女達の前では自分なんてとてもぱっとしない六女でしかない。
三人がかりでかなを無理矢理ベッドから引っ張り出してつばめが用意したご飯をなんとか食べたりして……これが柊家の日常、何も変わらない平凡なうてなの一日。
……しかし、なぎさはうてなの話をちゃんと聞いておくべきだった。
食事の時にも話題になるのはやはり魔法少女のこと、身近にいるのも当たり前の世の中でうてなに限らずファンは各地にいるので大体珍しいことがなければ魔法少女の話題をしながらご飯を食べる。
なぎさも別に魔法少女が嫌いというわけでもないので普通に答えるのだが……今回は少し違った。
「そういえばうさぎ姉ちゃん、今日はトレスマジアがトレンドに上がってたって言わなかった?」
「あーしのバズりにはまだ程遠いけど、なんか今日は変わってたな……エノルミータに見たことない奴が出たんだと、変身したし幹部格とか」
「ぶっ!!」
「幹部格?なぎさどういうことか戦隊風に説明しろ」
「私の事便利屋と思ってない?要するに強敵現るだよ、まあ正義は勝つんだからどうせ勝って終わりでしょ?……てか、魔法少女のことなら私よりうてなじゃない?」
「いやだって見ろようてなのやつ、話せる様子か?」
「ぼ……ぼぼぼ……」
話題が出てから急に冷や汗をかいて箸が止まるうてな、いつもだったら誰よりも楽しくトレスマジアの誰がかっこいいとか今日はココが凄いとか熱弁しているのが彼女だがいつになく口数が少ないし目が泳いでいる。
更にはすぐに食べた皿を片付けて一目散に駆け出してしまった。
かなが席に座ってつばめも食事に入る頃にはもう既に姿はない、つばめは両手で皿いっぱいの禍々しい表情の魚の刺身を取ってくる。
かなもダルそうしながらゲテモノじみた魚をフォークで刺して下品に噛み締める、家族の前ならこれくらいの作法でいいということらしい。
「おや?うてなはもう食べてしまったのですか珍しい」
「おおかた姉さんのご飯が食べたくなかったんじゃないですか……?だって今日の晩ご飯ピラニアですよピラニア……こんなもんどこでとってきたんですか、どうせハンバーグ失敗したんでしょう……」
「ピラニア料理って普通に国によってはあるらしいってさ、つば姉撮っていい?ネタにするから」
「え、マジで?……それで1名足りませんけど、また貴方達イジメたわけじゃないでしょうね……ふあぁ……」
「人聞き悪いんだけど姉ちゃん、普段からあたしらがあいつイジメてるみたいに言いやがって」
「どれみ姉さま達のせいではなくて……その、トレスマジアの話をしたら突然焦って……」
ほむらがたどたどしく説明をすると、眠そうにしていたかなが突然目を覚ましたかのように鞄からパソコンを取り出すとキーボードを叩き、柊家全体の隠しカメラにアクセスする。
するとうてなの場所はほぼ物置部屋になっている地下室だった。
「食べてすぐにこんな場所に逃げるとは妙ですね……これは仕事の匂いがしますよぉ!!」
「あの、かな……?お姉ちゃんも知らなかったんですけどいつからウチにカメラなんて仕込んでたんですか?」
「かな姉に隠し事は厳禁か……」
「それであの……うさぎ姉さま、トレスマジアの話って今回は一体?」
「あ、あー……なんと言ったらいいかな、新しい幹部が出たってなぎさっち言ってたじゃん?そいつがトレスマジア三人を圧倒してケツをスパンキングしたみたいやつ」
うさぎが見せると確かにそれっぽい写真が各アカウントから投稿されている、自分達のような黒髪で角が生えた……胸はニプレスだけでとんでもなく露出度の高い女幹部が植物で魔法少女を拘束し、その尻を手に持っていた鞭で何度も引っ叩いて楽しんでいる姿。
あまりにも破廉恥な光景にどれみはほむらに目隠ししながらも栄光ある人間の無様な姿にほくそ笑む。
確かにこんなものを見てしまえばうてなも気分は悪くなるかもしれないがそれが理由では無さそうだ。
「あっ、地下室の盗聴出来ますけど聞きますか?」
「……今は聞いておきますがこれ終わったらカメラ取り外しますからね」
盗聴したカメラの先では……想像だにしない光景が広がっていた。
うてなは周りに誰も来ていないことを確認して鍵を閉めたが、ソファの後ろから待ち構えていたかのように黒いウサギのような生物がひょっこりと顔を出している。
「はあ……はあ……まずいどうしよう、がっつり見られていた」
「やあうてな、君の家こんな部屋まであるんだ凄いね」
「他人事みたいに言わないでください〜!!家族にまで知られたら私表を歩けなくなっちゃいます!!」
「その心配はない、変身時には魔法による認識阻害もかけられてるし余程のことがないと君の事はバレたりしないよ」
「……ほ、本当ですよね?お姉さん達に迷惑かけたくないんです……」
「まあそれは結局君次第だよ、今の関係を維持したいなら努力することだねマジアベーゼ、明日また組織に案内するから……例の噂も気になることだしね」
「だから私は世界征服なんてやりたくないって……!!あっいない!」
謎の黒い生き物は言うだけ言うと姿を消して、うてなは物置に置いてある古いソファにぐったりと腰を下ろす。
実は最初に話していたあのシチュエーションは
魔法少女にあこがれていた所にヴェナリータと名乗るあのマスコットが現れて変身することが出来たのは同じ、問題なのは自分が変身してしまったのは悪の女幹部、つまりエノルミータ側に選ばれてしまったということ。
そしてSNSで話題になっているトレスマジアに卑猥に尻をぶっ叩いて楽しんだ末に帰った新幹部マジアベーゼとは間違いなくうてなのこと、ネットゆえに誇張された表現もあるがおおかた間違ってはいない。
……もし自分が魔法少女の敵側になってしまったことが家族に知られてしまったら?問題もあるし喧嘩もする姉達だがそれでも自分をここまで育ててくれた大事な人たちだ、迷惑をかけたくない。
引っ込み思案なので周りの人間に姉達の事は知られていないが、自分は神のいたずらによってある時は問題だらけの柊家の六女、またある時は世界征服を掲げる悪の組織のマジアベーゼとして……家族にも秘密を隠しながら過ごしていくことになる、うてなは覚悟を決めた。
問題はかなが勝手に取り付けた隠しカメラで肝心な姉妹全員にその秘密がバレてしまっているのだが、うてなは全く気付いていない。
まるで何事もなかったかのように歯を磨くためにうてながまた居間を通り過ぎるが何も知らないフリをしながらピラニア料理を食べる、うさぎは余計なことを言いそうな気がしたのでつばめが無理矢理刺身を口に突っ込む。
「……それ何?」
「ピラニアです、お魚なのでちゃんと食べれると思って」
「遠慮しておくかな……疲れちゃったから私寝るね」
「ああはい……皿は私がやっておきますので……」
いつもより早く眠りにつき、かなが残った皿を洗い……ほむらも一旦寝かせて大人達5人が緊急家族会議を開く、まさか自分の妹が魔法少女の敵になっていたなんて予想の斜め上の展開だろうか、しかも自分達に隠し通そうとしているがものの見事に全員にバレている。
いずれほむらにも説明しなくてはいけない時が来るのだろうか、コレを。
「はぁ……まさかよりによってエノルミータとですかぁ、私出勤中にうてな見たら思い出しそう」
「どうする黙っとくか?このバカが勝手にカメラ取り付けたのが原因だし」
「まあうてなも好き好んでやってるわけじゃなさそうだし、今はほっといたら?本格的にまずくなって泣きついてきたらって感じで」
「泣きつくっていつよ?魔法少女とかいうやつがマジの殺し合いしてるやつらをあーしらでなんとかしろと?つば姉ならともかくさ」
とりあえず一旦黙っておこうという流れはそのままにつばめの判断を聞くことにする、つばめは部屋に掲げていた掛け軸を開く、『他人に迷惑をかける前に家族にかけろ』……つばめしか言ってないが一応柊家の家訓だ。
「これは我々家族の危機でもあります……奴は言ってました、あの噂について気になると」
「噂?噂ってあんなもんただの都市伝説みたいなもんだろ、あたしは気にしてないぞ」
――柊家に生まれてきた女は、何かしら狂っている。
自分達7人の姉妹は世間一般的には狂人扱いされており、その中でも時折……世界に多大な影響を与える『悪魔』のような女がいるとか。
もちろんうてなを含めて全員本気で信じていない。
だがあの生物は悪魔の噂のためにうてなに近づいて悪の道を歩ませたことになる。
「……この中に1人悪魔がいる、本当にいたとしてあいつはその為にうてなの思いを弄んだ、それが許せませんねえ」
「魔法少女がいて悪魔がいないってのも変な話だしな」
「戦隊はいないんだよ!?」
「あーはいはい黙ってろ、あーもうよりによってなんでうてななんだよ……」
うてなは自分の生活を守るために、姉達はうてなの純情を守るために1つになりそれぞれ秘密を抱えながら生きていく。
これは魔法少女と悪の組織の世界平和をかけた戦いであると同時に家族の毎日の平穏を守る激闘が始まる物語である。
各々が明日どんな風に家族と向き合うか考えて夜中々寝付けなかった頃……。
ヴェナリータは夜中にこっそり民家に侵入して手紙を残し、煙のように去っていくのを繰り返していく。
着々と準備を進めてるかのように……。
その次の日。
「行ってきます!!」
今日も登校日、中学と高校は同じなのでなぎさうてなほむらの下の妹達は一斉に準備して家を出る、しかし今日は珍しく二人揃ってうてなと同じ道を歩く。
よくよく考えれば一個下の13歳のほむらは学校が同じなのでともかく高校生のなぎさはついてくる必要がない気がする。
「なぎさ姉ちゃんなんでついてくるの!?」
「いいじゃない姉を除け者にしないで!」
「なぎさっちの言う通りっしょ、お姉ちゃんと仲良くしようなー」
「いやあたしらついてくる必要あったか?……つーか大学こっちじゃねえぞバカうさぎ」
「なんか増えたし!?」
「あっ皆揃ってるところにちょうどいいところに!!姉さんがこんな時間だと言うのに爆睡しているので暇な人はひいらぎまで運んでくれませんかねぇ!!私も仕事あるんですよ!!」
「なんで会いたくない時に揃いも揃って私と一緒に歩こうとするのかな!?私あまり変な噂とか立てられなくないの!!」
「姉様達皆一緒です!」
どういうわけか一斉に姉達が同じルートを通って通学通勤しようとしてくる、このタイミングなのでうてなにはいい迷惑だがほむらは喜んでいるだけに強く言えない。
願わくばこのまま誰とも会わずに学校近くまで行きたい……と思いたいがそうもいかないようだ。
「あっおはようほむらちゃん!」
「あっ花菱さんですー!!」
「ぎぇっ!?」
ほむらを見つけて手を降ってくるクラスメイトらしき者を見て全てが終わったような悲鳴を上げるうてな。
もう既に姉を隠すことは不可能になったが、こんな調子で二重生活なんて出来るのだろうか?
ちなみにもう前提情報なのでネタバレしておくが、このピンク髪のほむらに呼ばれた花菱という少女。
彼女が昨日うてなことマジアベーゼにめちゃくちゃ尻を叩かれたので今でも少し痛いトレスマジアの正体の一人である。
もちろんこれに気付くことはない、姉妹がうてなの正体に気付けたのだってインチキみたいな方法である。
普通はバレないのだ、同業者以外には……。
「……ヴェナリータ、あれがお前の見せたかったものか?」
「そうだよ、わざわざエノルミータ全員にボクが招待状を配って……キミをわざわざ呼び出したくらいの逸材だよ」
「随分と自信があるようだな、悪魔とやらはそんなに世界征服の鍵となるか?」
「あるいはその逆、ボクらのコントロールを超えて破滅を導く可能性もあるがそれはそれで興味深いところがあるじゃないか、そいつを手懐けることに関しては期待しているんだよ?ロードエノルメ」
空から柊姉妹達を見上げるのはヴェナリータとエノルミータの総帥。
ここまで既に大きく外れつつある運命の鍵を握るのは、彼女かもしれない。
あるいは……それでもなお『悪魔』は止められないのか、それも含めてこの物語は幕を開ける。