悪の柊七姉妹 〜この中に一人、悪魔がいる!〜   作:黒影時空

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第10話「つばめ、うさぎ、なぎさ」

「なんかイライラが収まらんわ」

 

「……一応聞いておくけど何があったの?」

 

「何があったとかやなくて何もないんや!!なんなんや最近のエノルミータのやる気のなさは!!」

 

 その一方で、エノルミータの行動が最低限となり魔法少女が現れたらすぐ逃げ出してしまう毎日でろくに戦闘という事にもならず不完全燃焼の日々。

 マジアサルファこと薫子の不満は募る一方であり、クシャクシャにした紙くずを握り潰すことしか出来なかった。

 トレスマジアからしてみれば世界に宣戦布告という大胆なことをしておいてその後に何もなしとくれば、こんな状況でも目を離さないわけにはいかない。

 まさか無計画に行動して魔力リソースが尽きたなんて想像だにしないだろう。

 

「……怪しいわね、クロノス・シンジケートの方は?」

 

「柊かなが持っとった例の切符な、どうにか奪い取れんかとも思ったが……はるかが今でも調査しているがアイツ電車を乗り換えるようになって見失うそうや」

 

「乗り換える?急にそんな……魔法少女の正体に気付いたわけでもないし……」

 

 小夜と薫子もこれまで何もしてなかったわけではない、歩きながら向かっている所は大食食堂ひいらぎ。

 これまで見てきた中で柊姉妹は怪しい以上の何者でもない、下手したらエノルミータに次ぐ驚異というか都市伝説のような代物だ。

 

「あれから色々調べたけど……悪魔が住んでる家とか酷い言われようだったわ、ただそういう屋敷に住んでいるだけなのに」

 

「ほんまにそうか?ウチは悪魔というものが案外比喩表現には思えへん……あの家族にはなんかある!となると調べるのは上からや」

 

 柊姉妹のことを知らなくてはならない、こういう時はうてなよりも長女から……引き戸を開くとまるでいつものようにストーカーして双眼鏡を構えるつばめの姿が。

 

「おいあんた、またお縄になるで」

 

「うおっ!?……お、お客さんなんて珍しいですね……それにその格好、うてな達と同じ学校ですか」

 

「ちょっと聞きたいことがあってな」

 

「それは構いませんが一応飲食店です、こっちも商売なので」

 

「おっしゃる通りね……」

 

 つばめに招かれて小夜と薫子はテーブルに座る、うてなからある程度つばめの料理のヤバさはなんとなく聞いていたりするのでメニューを念入りに確認して最低限食べられそうなものをなんとか探す。

 値段を見たら学生には払える値段だったが聞き馴染みの料理でも命取りになりそうだ。

 

「大衆食堂だし……ラーメンかしら、でもなんか見たことない名称してるんだけど」

 

「なんやねんひらめラーメンて、聞いたことないでひらめラーメンとか」

 

「こ……こういう時は店主のお勧め2人前!」

 

「おい小夜!!何を見えてる地雷踏み抜いとんねん!!」

 

「死なば諸共よ薫子……この人に聞きたいことあるならそれくらいは覚悟するべきよ」

 

「ぐっ、はるかいなくて良かった!」

 

 

「私の店のことなんだと思ってるんですか……一応ちゃんとしたお店ですからね?ほら出来ましたよ、柊姉妹七色ラーメンです」

 

「どこがちゃんとした店やボケー!!どこのちゃんとした大衆食堂が店主のオススメでラーメン7杯も出してくるんや!お前の目には見えない客が五人くらいいるんか!!」

 

「ああいえこれ私のお昼ご飯でもありますので」

 

「客に出すものと一緒に並べないでください……」

 

 何はともかく向かい合わせのテーブルで何故か店主と一緒にラーメンを選び、つばめが一人で5人前のラーメンを平らげていく。

 おそるおそる啜ってみると、思ってたより不味くはないがお店で食うほどの味か……?といった印象だった。

 小夜のラーメンは彩りこそ派手だが無味無臭、薫子のラーメンはパンチが効いて咳き込みそうになるほど喉にくるが、なんとか食べられそうだ。

 

「おお二人組とはついてますね、それはうさぎとどれみを意識したラーメンなんですよ」

 

「……妹さん、大事にしてるんですね」

 

「こんな身なりなので昔は恐れられて妹育てはかなに任せっきりでしたからねえ……私なりに愛情表現を模索しているつもりなんですが、まあ貴方達はそのラーメンを選んだのでどれみ達の話をしましょうかね」

 

 今になってこのラーメンが誰の話をするのかという交渉だったことに気付くがこの際情報が得られるならなんでもいいとラーメンを食べ続けてついでにはるかへのチャットを開きいつでも情報を送れるように準備する。

 

「あの子達は双子として生まれました……えーと、うてなが生まれてきた時はまだ6歳でしたね、可愛かったなあ……今となってはうさぎは真っ黒に日焼けしたギャルになって、どれみはオラオラ系のロックバンドを始めてるものですからもう……」

 

「その……大丈夫だったんですか?悪評とか……悪魔とかいわれてたんですよね」

 

「それはもう苦労では言い表せないほどですね、なんだかんだ二人を大学まで進学させられたのも奇跡です、そのしわ寄せがかなに寄ってしまったことは悪かったとは思ってますが……」

 

 どれみを意識しただろう濃いめのラーメンを飲みのした薫子、小夜に話を任せて薫子ははるかに有益そうな話を送りながらつばめの様子を伺う。

 傷だらけの身体、こんな街の目立つ位置に建っていながら寂れた大衆食堂、嘘か誠か怪しい経緯。

 そして何より……悪魔という噂。

 

「そもそもアンタら、なんで悪魔なんて言われるようになったんや?」

 

「さあ……?私達の代より前からそう呼ばれてましたし、両親ももういませんからね」

 

「いませんって……わけわからないことばかりだわ、柊さんの姉妹について知りたかったのに」

 

 悪魔という要素がノイズになって欲しい情報が見えてこない、彼女達は怪しいということは伝わってくるのに本質が見えてこない。

 柊七姉妹とは?悪魔とは……?

 知れば知るほどわけがわからない、小夜の頭の中でなぜ?がぐるぐるしているが薫子がざっくりとした質問をして一変する。

 

「てか正直なところ、お前ら七姉妹は血の繋がった家族なんか?」

 

「……え?」

 

「そう見えますかねぇ……一応顔、そっくりなんですけど……特にうてなには」

 

「うちらと同じクラスとして……14くらい、いくつや?」

 

「今年で28になります」

 

「そう、つまり生まれてきた頃ちょうど同じ歳になる……両親おらんとかありえるか?」

 

「まだ妹が一人いるわよ?」

 

「アイツの妹は1個下やそんな変わらへん、というかむしろ疑ってる奴は意外とおるんやないか……七姉妹は実子ではないとか」

 

「うーん……それに関しては心外ですね、全員同じ家族ですよ、みんな仲良しな家族以上の何者でもありません」

 

「そうか、失礼な質問やったな……」

 

「久しぶりのお客さんですからね、大目に見ますよ……うてなの学校の子なら今後とも仲良くしておきたいですし……貴方はうさぎに関して、何か質問はありますか?」

 

「えっ?ああ、三女の人……私は友達がその人と会ったぐらいの知識しかありませんけど……その、本気で気になることがあって、公衆の場でスカートをたくし上げて姉にパンツを見せつけたとか」

 

「えっあっあっそそそそそれはちょっと話題にされたらまずいというか一応世間体は気にしてますしあの子はインフルエンサーなので、ただちょっと姉に対する態度がゆるいといいますか」

 

 露骨に動揺するが無理もない、ただでさえ七姉妹の変態性を周囲に知られたくないのにうさぎがそういうことに一番開放的というか良くない目で見られそうだが長女としてうさぎの名誉を守るために必死に弁解する。

 

「えーと違うんですあの子はそういう危ない子じゃないんです、なんというか空気が読めないというか抜けてるところがあるというか、昔から陽キャバリバリでおおらかというかですね」

 

「落ち着けってなぁ姐さん、小さい頃から育ててきた可愛い妹庇いたい気持ちもわかるけどな?それはライン越えとるんや」

 

「本当にそういう意図はないんですようさぎは!だってその……彼女、アセクシャルですから」

 

「……へ?そうなんですか」

 

「はい……うさぎより下の妹達には内緒ですよ?知ってるのはかなと私だけです」

 

「小夜、アセクシャルってなんや?」

 

「性的趣向が存在しない……というより誰かに性欲というものを向けることはない人の事よ、まさかあれが……」

 

 性欲とはすなわち愛、愛を向けようとしても実際は何も感じられない。

 愛人を作るどころか……実際は実の家族に向けられる感情にも多少のブレが起きる。

 分からないからこそ派手に目立たせて大胆なこともわさとやって注目されて表向きの愛を理解し……本性が出ることもない、存在しない為に大物インフルエンサーになることが出来たのかもしれない。

 

「……おちゃらけてるように見えてあの子もあの子で結構無理をしているんですよ、甘えるような性格でもありませんし……長女として私が妹達を守っていかなくては……」

 

 小夜は何も言えなくなり、ラーメン代として小銭を2人分取り出してレジの近くに置き店から出ていく……。

 話は聞き出せた、今日はあれだけ聞ければいいし話もわかった。

 悪魔かどうかより、柊姉妹について確信的なことが分かった。

 

「彼女達は……柊さんが大事な姉達、それ以上でもそれ以下でもないわ」

 

「結局結論はそこで終わるしかあらへんか……ちっしゃなあない、次はそのうさぎとかいうやつやな、あの次女は迂闊に近寄れんからな」

 

「いえ、そういうことじゃないの……変なこと言うけどあの姉妹、柊さんの姉や妹である以上の何者でもないのでは……?」

 

「何を言うとんのや……いやそれ、そうなってまうとおかしいけど納得もいくところもあるやないか!?」

 

 小夜と薫子の様子を、うさぎがスマホのカメラ越しに観察しながら眺めてその後ろにはうてなも。

 

「ふーん、つば姉の店に客が来るなんて嵐でも来るかと思ったが来たのは破嵐っぽいわ」

 

「あ、あの……うさぎ姉さん、あれ私のクラスメイトなんだけど」

 

「んなことは知ってるんだよ、問題はなぁ……あーしら柊姉妹の平和を奴らが脅かすんじゃねえかってことだってことだよ」

 

「え!?なんでそんなことに繋がるの!?まさか悪魔がどうとか今更気にするようになって……」

 

(……つば姉もさぁ、盗聴器くらい仕込んでるのはかな姉だけじゃねーっての、てか一番怪しいのアンタなんだってさ)

 

「うてな、今日はひいらぎで飯すっぞ」

 

「え!?やだよわざわざお店でつばめ姉さんの料理食べるなんて!」

 

「そんな酷いこと言わないでくださいよ……せっかくお客さん来てくれたんですから」

 

「ぎゃあああああ!?」

 

 ビルの上でかっこよく眺めていたはずなのにいつの間にか背後に回っていたのだから腰が抜けてうさぎと一緒に落下しそうになるがつぱめに引っ張られてなんとか立て直す、長年過ごしてきた長女とはいえこの突然の割り込みはいつでもビビる、ふだん呑気してるかなですらビビるんだからその下が耐えられるわけがない。

 

「あんたどんな行動力してんのさ……ってかほんとそれやめてくんないビビるから!!」

 

「そうは言われましても、この能力は多くの妹を抱えた長女の義務みたいなところがありますし」

 

「お姉ちゃんって怖い概念だなあ!いずれエノルミータにても」

 

「それよりもです、ちょっと話があるのでひいらぎ連行しますね」

 

「いやー!たーすけてぇ!」

 

 そうやって小夜達は気付かず入れ違いになるようにひいらぎの中へ、2人が食べ終えたラーメンの器を洗いながら新しく高菜明太チャーハンを用意する。

 

「あのさつば姉、高菜と明太合わせるのは牛丼の方だから」

 

「でもどっちも米を使った料理ですよ?」

 

「つばめ姉さんって竜田揚げと唐揚げの近い分からなさそうだなあ」

 

「いやむしろ粉をブレンドして新しい料理作るタイプっしょ」

 

「聞こえてますよー、晩御飯の時覚えといてくださいね」

 

「もしもしどれみ姉さん」

 

「おい何自分だけ先に弁解してんだコラ、あーしが一方的に殴られるだろ」

 

「んで……そんなことはどうでもいいんですよ、さっきのクラスメイトの話なんですが……貴方、道端で堂々とスカーをたくし上げて見せつけてそうですねパンツを」

 

「いや見せたのはかな姉になんだけど」

 

「道端と言ってるでしょ世間体を考えなさい、この世界に私たちしかいないってわけじゃないんですからね」

 

「えっ、本当にそんなことしたの!?」

 

「ちょっとした姉妹同士のスキンシップじゃ〜ん?てか世の中には見せパンってものもあるし」

 

「見せパンってそういうものでしたっけ……とにかく、姉として叱るときは叱りますので」

 

「姉ねぇ……ま、せっかくだから仕事の話すっけどさうてな」

 

「あっ私にふっかけてくるんだ……仕事といっても例の総帥、田中さんが大体やってくれてなぎさ姉ちゃんが殆ど協力してる感じかな、こりすちゃんも最近は姉ちゃんやほむらに懐いてるみたいで良かったけど」

 

「実際どんな作戦なわけ?戦隊利用してどうのこうのするんだっけ、宣伝作戦だからあーしもなんかできないかって声かけられてんだよね」

 

「めちゃくちゃ私の身内利用してくるじゃんあの人……てか実際どんな作戦なの?一応働いてるのは私なのに聞かされていない……」

 

「まあ大方、あーしの宣伝パワーでトレスマジアを酷評しようって魂胆だろうけどさぁ炎上芸人じゃないんだよな、こっちにもスポンサーだっているんだし姉妹の生活維持してるのあーしの稼ぎだっての」

 

「……実際のところ収入源がインフルエンサーってマジでヤバいですねうちの家系」

 

「私含めてめっちゃ贅沢してた気がするんだけどまさか殆どうさぎ姉さんとかな姉さんが……?」

 

「だってさあ、あーしら育ててくれたおかげだし悪く言うつもりないけど……学校全然行ってなかったでしょ?そんななかであーしら双子を大学入れてさ、うてな達までちゃんと進学させてくれたんだからすげー立派じゃん」

 

「かながちゃんとした会社に入れて良かったですねえほんと!!」

 

「悪の組織ってちゃんとした会社かー?ハハハ、クロノス・シンジケートって給料どのくらいなんだって感じ!」

 

 だんだん姉妹の会話はエスカレートしていき、真っ昼間だというのにつばめは瓶ビールを取り出してジョッキまで出すがうてなは止めに入る。

 

「いやいやいや営業中じゃないの!?」

 

「どうせ貴方達が帰ったら観察する以外やることないからいいじゃないですかぁ」

 

「そんなんだからお客さん来ないんじゃないの!?」

 

「まあたまにはいいっしょいいっしょ!!あーしも呑める年だからさあやってみたい!」

 

「かなはなかなか呑みたがりませんからねえやっちゃいましょう!」

 

「ああもう注いじゃって……わたし帰るから!自分たちでなんとかして!」

 

 こういう時に薄情になるのが妹という物だ、こんな時間からビールで飲み明かす二人をほっといて店を出ると、トレスマジアが戦っている事がニュースで分かったのですぐに生で観に行こうとするが、私服姿の田中とキウィが掴みかかる。

 

「あっえーとここでは田中さんでいいんですね」

 

「この際呼び名は好きにしろ、それよりお前の三女はどうした?」

 

「ああそういえば宣伝がどうとか聞いたような……こんな時間だというのにつばめ姉さんと飲み明かしてますよ」

 

「なんてやつらだ……酒は強いほうか?」

 

「うさぎ姉さんは知りませんが結構弱いのでつばめ姉さんは泥酔して寝るかと……本当もう、お客さん呼ぶ気あるのかな……」

 

「こうして見るとお前も苦労しているのか……まあ使えないなら期待はしない、柊なぎさと話をつけたぞ」

 

 田中(ロードエノルメ)が語る作戦はこうだ、ネロアリスが玩具を操り作り出した『魔力戦隊サンマジカル』がトレスマジアよりも目立ち活躍する、その為には囮となる悪者が必要となるがそれをマジアベーゼの魔物使役の魔法で解決する、つまりはわざとサンマジカルより弱い悪者というか怪人を用意しろということらしい。

 

「それで私に変身しろってことですね……はぁやる気でない」

 

「乗り気じゃないのがいいんだ、前にも言ったがエノルミータの魔力は精神力に左右される……そうやって腑抜けていれば大した怪人も生まれないだろう」

 

「そりゃそうですけど……はあ、トランスマジア」

 

 今までで一番やる気のない変身ボイスでマジアベーゼとなり、適当にその辺のテントウムシを叩いて怪人を作り差し向けたあと、面倒なので帰ろうとしたが田中は止めてくれない。

 

「なんですか私トレスマジアのところ行きたいんですけど」

 

「柊なぎさについて話があるんだが」

 

「私は姉達のストッパーじゃないんですけど……なぎさ姉ちゃんがまたワガママ言ったんですか?戦隊ロボ以外に」

 

「いやそれはいいとして中々興味深い話をしていてな……」

 

「えっまさか回想入る流れですか!?やめてくださいこれ以上私の脳に余計な情報を」

 

 マジアベーゼの想いも虚しく田中は強制的に魔法で回想シーンを直接脳に叩き込んでくる、魔法って便利。

 それはナハトベースになぎさを案内して総帥室でチェス盤のようにサンマジカル作戦の会議をしていた時のこと。

 

「いいの?一応私って一般人だけどこんないかにも悪の組織なところに連れてって」

 

「ヴェナリータが目をつけている柊姉妹……お前も特別だ、作戦に利用も出来るしパンタノペスカとの縁もある」

 

「なるほど、おおかた好き放題させてくれる代わりにパンタノペスカさんの情報を教えろ的な感じ?」

 

「まさか貴様、呑気な気持ちで我々と手を組んだわけでもあるまい?」

 

「うてなが世話になってる組織だもん、もちろん能天気に行くわけない……あの子、意外と流されないタイプだよ?」

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