なぎさが暴走して翌日、エノルミータに呼び出されたかと思えばもうすでに正座させられているなぎさ。
連帯責任で一緒に座らされるうてなとかな、こればかりは本当に大問題なので受け入れる。
ロードエノルメに踏みつけられ、見下されながら押し問答が始まった。
「……柊姉妹の中には悪魔がいる、そこはいい……それとは関係なく血の気の多さはなんだ!?」
「それはまあ……のびのびと育ちましたので……」
つばめ、かなの長女世代は妹たちの世話にてんやわんやだったので当然義務教育など受けていない、つばめもかなもろくに学校にも行けない中三女以下をなんとか学校に行かせたものの子は親の背中を見て育つというように本質がこんな風になった……だがかなは反論の余地があった。
「性癖に関してまで我々のせいにされる覚えはありませんがねえ……」
「悪党を殴るとスカッとするぞ!」
「反省の兆しが全く感じられない姉達ですみません……」
柊なぎさは昔から戦隊ヒーローを推して、愛して、真似していた……だから悪を殴ってみたいと昔から夢に思っていた。
だが大きな問題があった、マスクをつけると前が見えなくなる。
小学生の時柊なぎさは正義のヒーロー『ヒイラーマン』であり、見境なく敵味方区別なく傷抜ける問題児だった、当時は新聞に載ったこともある。
「まあとにかく……これで満足しましたかなぎさ」
「まあ、私のために色々やってくれただけに文句は言えないし戦隊ロボっぽいのは出来たから」
「それに関しては本当にこりすちゃんに感謝してよ」
なぎさはこりすにナデナデされながら今回の結果を満足そうに済ませて……ハイ終わりというわけにはいかない。
見境ない暴力のしわ寄せを食らったことになるが、コントロール出来れば有用になると愚かにも考えてしまう。
愚かポイントは悪の総帥である自分なら間違いなく上手く扱えるという謎の自信を持つロードエノルメだ。
「こいつ……戦闘員として使えないか」
「えっまた私の身内をエノルミータに入れるんですか!?」
「なんだったら使えそうなら全員入れるぞ」
なんとロードエノルメはなぎさを唯一のエノルミータ戦闘員としてスカウトすると言い出した、かなとうてなは嫌な予感がしていたしなぎさも凄い嫌そうな顔をする。
無理もない、特撮番組が元のマニアから見た戦闘員なんてあーとかいーとか言いながら適当にわらわら撒いて倒れたりするし予算の都合でそもそも途中から出なくなったりする、存在していることが組織の個性ではあるもののわりといてもいなくてもそんなに変わらないんじゃないかという役割。
気が乗らないところにロードエノルメがなぎさに向けてマスクを投げ渡す、魔法というか明らかに手作りな雑な出来栄えで余計に嫌になってくる。
「なにこれ」
「お前は今日からコレをつけろ」
拒否権は当然ないので嫌々ながらも被ってみるとなんとそのデザインの元になっていたのはヴェナリータの顔面、それがアンバランスになぎさのそこそこガタイがいい体型と合わさるのでそういうタイプのモンスターみたいに見える。
なおマスクは当然視界が殆ど封じられているのでなぎさは再度覚醒、正座してたのを忘れてたかのようにうてなに拳を振り上げる。
しかし飛んできた拳はぷにっとした柔らかい感触のみで終わり、ゆらりと落ちるのみだったが暴れ続けてキリがないのでかながマスクを引っこ抜く。
「私が作ったマスクだ、エノルミータと同じ魔力の物には出力は抑えられるように作ってある」
「かわいくないデザインだなぁ」
「ヴェナリータの顔そのままだぞ?インパクトはある」
「いや、ありますけど……」
つまりロードエノルメはこのマスクでなぎさの顔を隠して戦闘員として運用していくということだ、魔力もあまり消費せず破壊活動を行い使い潰せるコスパもいい都合のいい存在、文句を言える立場でもないので……こうしてエノルミータ唯一の戦闘員として雇われることになった。
「ところでその……私の名前って何?うてながマジアベーゼでかな姉ちゃんがトゥエルブなんでしょ?だったら私にもなんか名前欲しいんだよ、戦闘員とはいえ一人だけなんだよ?」
「ん?そうだな……ヴェナ仮面、あるいはクロネコマスク……」
「総帥にネーミング期待してはいけませんよ……そうですね、アンチマスコットでどうですか?」
マスコットとは人々に幸運をもたらすと考えられている動物や人のキャラクターという意味があるという。
しかし可愛らしい外見だけで破壊という不幸を見境なく巻き散らかすそれはマスコットという概念に反対的なもの……『アンチマスコット』の誕生である。
……そして、その日の晩御飯の食卓は『アンチマスコット』の話題で持ちきりだった。
「うっわ、クロネコマスクとかないわどっかの宅配便かよ!かな姉が言ってくれてよかったじゃん」
「ホントだよ……まあ、悪の組織に入ったことは今でも文句大ありなんだけど」
「その悪の組織に戦隊をゴネたのは……どこの誰でしたか?」
「それは悪かったってば!もうワガママ言わないから……ねっ?」
この中に一人悪魔がいるかはともかく、この姉妹の中に既に3人もエノルミータの構成員がいる。
我関せずみたいにしてる三女も幹部や田中としょっちゅう絡んでいるのでそれは変な奴らと思われてもおかしくない。
ただし今回の食卓、つばめとどれみの姿がない。
なので今日の晩御飯はうさぎが作っている、色合いはつばめ以上にエグいが味はまだまだマシ。
そこにもう既に食べ終わったほむらが出てくる。
「姉さんを見てませんか?」
「つばめ姉さん……ずっとどれみ姉さんにお説教だよ」
「お説教?なぜですか?」
「話せば長くなりますが……うてな、説明して」
「ええ私ですか?いいかいほむら、つばめ姉さんはね……話せば長くなるんだけどね」
じっくりとうてなは回想シーンへと入っていく、柊姉妹ともなれば妄想だけでリアリティのある幻覚を作り出せるものと思ってほしい、オタクなら大体コレできるから。
ーーーー
ほむら、つばめ姉さんはね――昨日、花菱はるさめさんの家に完全に上がり込んで、夜中まで呑みまくってたみたいなんだ
もう月が綺麗すぎるくらいの深夜。花菱家のベランダは、まさに地獄絵図だったそうですよ、30超えたいい大人が。
テーブルに仰向けで寝転がり、足を宙にぶらんぶらんさせながら泥酔してるはるさめさん。顔は真っ赤で、目は完全に虚ろ。
そしてその横では――柊つばめが、物干し竿にヘビみたいにぐるぐる巻きつきながら、ヨガの達人が「もう無理だ……」って諦めそうな超人的な体勢で酒瓶を傾けてたとか。
花菱はるかは完全にパニック。
「ど、どうしよう……はるさめさん完全に壊れてるし、つばめさんに至ってはもう人間じゃなくて新しい生物になってる……柊家の電話番号も知らないし……というかこういう時誰に助けてもらえば……うてなちゃんの他のお姉さん?それとも小夜ちゃん?」
と、そこへ。
ピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポン!!!
インターホンが嵐のように鳴り響く。
はるかちゃんが恐る恐るドアを開けると、そこに立っていたのは――鬼の形相の柊どれみ。
「お前アレだよな!!昨日もうさぎと店で呑み散らかしてたろ!!挙句に人の家でよくもまあこんな醜態晒してくれたなこのクソ長女がぁぁぁ!!!」
どれみはもう完全にキレてる。肩で息しながら、つばちばちと火花を散らしてる。
物干し竿に絡みついたままのつばめが、ぐにゃぐにゃしながら弱々しく手を伸ばす。
「う……うぐぉ……どれみ、ちょっと下ろしてくれませんか……」
その瞬間、どれみの目がさらに据わる。
「その前にお前の脳天に一発ぶち込んでからだ……神経ぶっ飛び、腰が砕け、ついでに失禁する準備は出来たかぁぁぁ!!」
伝家の宝刀――必殺・スタンガンパンチ、充電開始。
だが、つばめは酔ってるようで酔ってない。
(ふふ……ふふふふ……やはり貴様は私のことを完全に甘く見ているな、どれみ……!何度そのスタンガンパンチを見てきたと思っているんだ……ちょっと首を傾ければ――花菱はるさめの顎に、完・全・に・当・たる!!)
つばめは、はるさめを「持ってる側」かどうか確かめるために、わざとここまで泥酔し、わざとこの家に上がり込み、わざとこんな状況を作り出したのだ。
これで全てが分かる。
はるさめが本当に「持ってる」なら、どれみの拳は絶対に――
「死ねよやぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
――新奥義・電気うなぎ・地獄縛り!!!一捻りで調子乗ったうさぎも降伏したオランウータンのように大人しくなると言われています。
ばちばちばちばちばちばちばち!!!
「ぐえええええええええええええええええええ!!!」
つばめ、瞬殺。
竿からずるずると引きずりおろされてぴくぴく痙攣しながら泡を吹いて気絶、なんなら本当にシッコ漏れたのだ。
必殺技は勝手だが人んちでやることじゃないだろと言いたくなるかもしれないがはるにはそれを言う勇気はなかった。
どれみはため息をつき、つばめの襟首を掴んで引きずり始める。
「そういえばお前も妹いるんだったな……妹に尻拭いさせるようなおばさんにはなるなよ……?」
はるかはもう青い顔でこくこく頷く、スタンガンパンチが使える妹は中々レアとはいえ反面教師という物を心で理解した。
「あっ……はい……」
どれみが去った後、はるかちゃんはテーブルに引っかかってるはるさめを軽く押すと、ぽとりと綺麗に落ちて、はるさめがむくりと起き上がる。
「……あれ?つばめさん帰ったの?まあずっと警戒みたいなのしてたし……まあ、『持ってる側』なことは私も分かってたけどさ」
はるかは苦笑いしながらはるさめを見上げるとこれまでの泥酔が嘘のように完全に素面だった。
(回想終わり)
うてなが話を締めくくる。
「……それで、夜が明けてもまた日が沈んでも、つばめ姉さんは手の届かないところに」
かな姉ちゃんが、ため息まじりに呟く。
「死んだように言わないでくださいかな姉さん。つばめ姉さん一応生きてます。地下室で凄いことになってるけど……縛られて吊られてるらしいよ。どれみ姉さん当然だけどめちゃくちゃ怒ってて」
「ああそうでしたか……でもどれみ姉様、そろそろご飯食べて欲しくて」
「じゃ、地下室は私が様子見てくるからかな姉さんは録画しといて」
「どんだけ長い間地下に入るつもりですか……ダンジョンじゃあるまいし……」
とは言いつつも晩御飯のうさぎ特製のシチューを持ちながらゆっくりと地下に降りる、両手が塞がってるのでうさぎが懐中電灯をつけて古臭い木が軋む音と共に降りていくと……何やらシルエットの時点で嫌な予感しかしないがようやくどれみらしきものが見えてきた。
「おーいどれみさっさと飯食……ウォ臭っそぇ!!!」
「うわっ懐中電灯落とさないで……いや本当に何してるの!?」
地下で行われていたのは、樽のような透明な物に押し込まれたつばめとそれを杵でグイグイ叩いて押し込むどれみの光景。
しかもつばめの中には辛子や白菜、大根や香味料などが次々と押し込まれている。
「……えーと一応聞いておくけど、どれみ姉さん何してるの?」
「見て分かるだろキムチ漬けてんだよ、大衆食堂つっても殆どラーメン屋みたいなもんだし必要かと思って」
「……そこにつばめ姉さんを入れる理由は?」
「なんかそこにあったし、ずっと店でボケーッとしてるよりは役立てたほうがいいだろ」
そんなこともありいない間に無理矢理キムチを作らされていたというか、つばめはキムチの材料にされてしまっていた。
正直長女の色んなものが染み付いたキムチなんて店に出してしまったら本格的にきさらぎがお巡りさんで繁盛しそうな勢いだが、黙っていればバレないのだろうか。
うてなはとりあえず、ほむらが心配しているから早く上がってこいとだけ伝えるとどれみはめんどくさそうに上に上がっていった、キムチ漬けの長女は無視したまま……。
そしてそのままルベルブルーメと目が合う、実は彼女はあのあとも地下から監視してきたが、壺越しに目が覗くのでそりゃルベルブルーメも腰を抜かす。
そして、つばめはそのままルベルブルーメと会話を続ける。
「また来たんですか、大変そうですね」
「んなっ、なっ、お前……知ってたのか!?」
「少し後からですけどね、心配しなくても妹たちにはバラしませんがちょっと手伝ってくれません?」
つばめはルベルブルーメに手伝ってもらいなんとかキムチ瓶から脱出して、奥にあったワインで体を洗いながら地下室を塞ぎルベルブルーメと話をする。
「そんなに気になりますかねぇ我が家が……これでも結構快適に過ごしているのですよ?」
「快適になぁ……アタシから言わせてみれば胡散臭い奴らにしか見えないが」
つばめが出してくるコーヒーには決して口をつけない、毒だとかそういう次元じゃないものを盛ってきてもおかしくないし、目の前にいるのが人間ではなく化け物のようにも感じられる……何せ流れを柊姉妹に完全に乗っ取られている。
「マジアベーゼ、トゥエルブ、そしてアンチマスコット……お前の妹は形を変え、名前を変えてどんどんエノルミータの中に入っていく、かと思えばお前らの態度は一生外堀を深めない内輪ネタのままだ」
「いいんじゃないです?変な環境でうてなが苦しむよりかは、そもそも元をたどれば無理矢理雇われたわけですし、かなもなぎさも雇ったのは貴方の上司です」
「そりゃそうだが、時にソノ無法さによって迷惑をかけることも承知してるんだろうな?」
「……何かトラブルがあったんですね?」
こういう時の察しの良さは長女としての野生の勘、トラブルの話になるとシワを寄せたので組織全体ではなく個人的な問題も掛かっているようだ。
どうせ地下にいたままで降りてくることもない、うてなにさりげなく話せばいいと高を括っている。
一体何があったのか、つばめが聞いたところによると『ロコムジカ』という人物についてだった。
うてなはこの人の事を全く話してないのでキウィやこりす等と違ってまだ接点は無いのだろう。
だが、ロコムジカと姉妹の間で何か揉め事があったらしい。
「ブラックノイズっていうアマチュアバンドを知ってるはずだ」
「おや、さっき私を色々やってた子……どれみが所属するバンドですね」
ブラックノイズ、特別人気があるわけでもないし素性が荒いものが多くどれみも例外ではない。
ブラックノイズが由来の暴力沙汰も多くそのたびに怪我だらけになって帰ってくるのも見慣れた光景だが、遂に行くところまで行って悪の組織に喧嘩を売ってしまったらしい。
「まあそういうのはうてなやかなの仕事なのでそれっぽいことは報告しておきますね」
「元凶の四女には何もないのかよ」
「どれみに直接どうこうしたところで無駄ですよ」
柊どれみの原動力は強く根深い『嫉妬』である、柊姉妹という特殊な環境の中で生まれたそれはどれみが自分の居場所を求めていた証拠のようなもの。
自分に価値を求めなければどれみは生きていけない、それは柊姉妹の中ではどれみしか持っていないものなので当然といえば当然なのだがそれは嫉妬を抱いた相手にとっては何も嬉しくはない。
ルベルブルーメはそれを聞きながらキムチ漬けになりかけたつばめに改めて当時のこと説明をした。
まず前提として、ロコムジカは悪の組織の宣伝幹部でありアマチュアアイドルらしい。
その2つを両立できるかどうかはともかく、ロコムジカはその為に定期的にゲリラライブを行なっていたようだが、そこにたまたまライブ終わりのブラックノイズが通りかかったことがトラブルのきっかけとなる。
ブラックノイズに属しているどれみも、ライブ終わりにはギターを持ってぶらぶらしていることが多い。
その様子をロコムジカが偶然目に留め、音楽家としての好奇心から、ブラックノイズの曲に興味を示したのだ。
『あれ、そのギターいい音するじゃない! あなた、音楽やってるの? どんな曲弾いてるの?』
陽気かつ無邪気なその声色は、純粋な好意から来ていたのかもしれない。
けれども――どれみの機嫌は、そこで完全に沸点を超えていたのが運の尽き。
『……は?』
低い唸り声のような返答に、ロコムジカは一瞬キョトンとした表情を浮かべた。
どれみはギターのネックを握りしめ、額に青筋を浮かべて睨みつける。
『おいアンタ……今、何言った?』
『え、えと……曲、聞かせてくれない? あなたが好きそうな曲を、ロコが──』
『ふざけんなよ……あたしの音楽を“試聴”する気か? 調子に乗るのも大概にしろ……!汚え格好の舐めたキラキラ野郎が!!』
ロコムジカの無邪気な提案は、どれみのプライドを容赦なく傷つけた、甘い表象で魅了するつもりのその顔つきはどれみからしたら『見下された』と強くネガティブに認識してしまったのだ。
今にでも電撃を片手に放ってスタンガンパンチを叩き込みそうな勢い……の際に電話が鳴って応じたあと、舌打ちしてロコムジカのところから去ったという。
ここで何が起きたのかと言うと、酔い潰れて花菱家でつばめが飲み明かしているとうさぎから電話が入りブチギレ状態で迎えに行ったという答え合わせだ。
「つまり私のおかげで貴方のお友達は助かったことになりますね」
「あんま褒められた状況じゃなかっただろ、そこに漬けられている時点で……だが、あいつに何か返しえやらないと気がすまない、こっちは一方的にケンカをふっかけられて……舐められたままただで済ませるわけにいかないだろ?」
「それもまあ……そうですね」