悪の柊七姉妹 〜この中に一人、悪魔がいる!〜   作:黒影時空

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第14話「ブラックノイズの暴れ者」

 ようやく地下室から出てきたつばめだが、キムチ漬けにされて汚いとうさぎに拒絶されたのでそのまま風呂に入ろうとすると、ちょうどタイミングよくうてなとなぎさが入浴中だったので、普通に割り込んで入浴してくる。

 元々7人入っても問題ないような大きめの浴室ではあるものの、3人は少々手狭い。

 

「あの……つばめ姉ちゃん、入ってきて早々だけど聞いてもいいかな?」

 

「もちろん構いませんよ……どうしましたか? なぎさから相談なんて珍しいですね」

 

「ああ……そのさ、こういうことつばめ姉さんに話せないんだけど……」

 

 なぎさは身体中の隅から隅、頬から肩、背中から臀部に至るまで各地に蜘蛛の巣のように刻み込まれたつばめの傷跡をスポンジで洗う。

 顔つきや妙齢になることへの変化もあってか一見すると人を寄せ付けない異彩な雰囲気を放っているが洗うように肌に触れてみると、暖かくて安心する……まさに長女のような温もりを感じる。

 だが怖いものは怖いので昔はよくこれに泣かされたものだ、そんな柊つばめでも……恋をしたことはあるのだろうか?

 

「姉ちゃんってさ、若い頃はモテた?」

 

「なんですか今は若くなかったりモテててないような言い方をして」

 

「そういうつもりじゃないから、どうなの? うちら姉妹実際どう思われてるかっていうかさ」

 

 存在自体が厄介者として色んな噂も立てられたりする柊姉妹だが、人間である以上いずれは恋愛面で将来を考えなくてはならない。

 長女次女は既にかなり時が経ったが三女四女がハタチになり、次々と男を知ってもおかしくない情緒なのでこういう話もするだろう。

 つばめはなぎさにこんなことを言われても、ちゃんと真面目に答えてくれる。

 

「ふふふ……なぎさも恋とか考えるような年頃になりましたか、ありましたよそれはもう」

 

「えっ本当に言ってる? モテる秘訣とかあるわけ?」

 

「なぎさ姉ちゃんモテたいんですか? 私はその……そうあうのとは縁がないと分かってますので……友達もいないし」

 

「何言ってるんですか、私達の妹なんですからしっかり可愛いですよ、ほらこんなにも髪が綺麗で魅力的で……」

 

「でもかな姉ちゃんは見るからにモテるというか人に好かれるような形してないんだよな、同じ姉妹で顔もほぼ同じなのに」

 

 うてなやなぎさはともかく、かなは自身の魅力となる外見を完全に投げ捨てたかのような振る舞いばかりなのでモテないのはもう確定事項だった。

 髪は一度もセットしない、肌は結構荒れてる、体臭フェチなのもあって服は殆ど洗わず風呂に入ろうともしないのでとてつもない悪臭。

 外に出る時だけなんとか清潔してくれるものの、見えている肌からまるで幽霊のようなくたびれた様子が目に映るので見た目だけなら一番酷いが、まああの人にモテるとかそういう話は野暮だろう。

 

「姉ちゃんの言う通り、うてなは可愛い面構えだから心配することはないんじゃね?」

 

「でも私なんかを好きになれる人とかいるのかな……うさぎ姉さんみたいにおしゃれには詳しくないし」

 

「いいえ、人を見かけだけで判断できるほど人間という生き物は単純ではありません、外見だけではなく内面を見て初めてその人の本質が分かるということですようてな」

 

「へぇ~そういうものなのかねぇ……私はどうもそういうところまで考えるのが苦手なんだよなぁ……」

 

「なぎさは私と同じようにのんきなタイプだからこそ、誰からも選ばれないんでしょう」

 

「えっ、私つばめ姉ちゃんと同類なの?」

 

 うてなはつばめの身体中に付いた傷跡を見て、改めて思ったのだ。

 ──―きっとつばめ姉さんはこれから先ずっと家族以外の幸せを掴もうとはしないのだろう。

 だからせめて自分くらいは姉達を支えてあげないとダメなんだ!

 でもそのためにはもっと……自分にできる事を探さなくては。

 

「あっ……同じ顔といえば、モテる話ならなんでうさぎ姉さんに話さなかったの?」

 

 柊姉妹で一番モテそうなのは誰だ? と聞かれたら真っ先にうさぎが思い浮かびそうなものだ、誰よりも目立ちインフルエンサーとして大々的に活動して、金髪に染めて綺麗な服も着て……堂々と下着見せられるくらいなのが難点だが、男選びなら余裕で出来そうなものだがつばめは押し黙る。

 過去にとあるお客さんには弁解のために説明したものの、アセクシャルというデリケートな要素を妹に伝えることは出来ず黙ったままだった故に。

 身体を洗い終わってさあ出ようというところで浴槽がブクブクと泡立っていき、海坊主というか人魚というか……ざばんという音と共にお湯で長髪が乱れまくって凄い顔になった人物が出てくる……よく見るとそれは田中だ!!

 

「ギャーッ変態!!」

 

「やかましい!! 空いてる穴がここしかなかったんだ!! 髪がビショビショでよく見えんが柊うてなはいるか!?」

 

 ここにいるのが全員女性で良かった光景だが、つばめは硬直したまま田中の身体を眺め続けて鼻血が漏れている。

 一応田中は服を着ているが風呂から飛び出した為びしょ濡れで服に張り付いている姿だが……それが却ってつばめの情欲を煽る。

 

「田中さんって結構良い体してますよね……」

 

「つばめ姉ちゃん!? もしかしてそっち系なの!?」

 

 改めて体を拭いて洗濯してパジャマを貸してもらった田中。

 信じられんくらい臭うがかなが着ていたものと言われると納得しかないので、改めて清潔にして除菌スプレーまで徹底的に撒いた上で本題に入る。

 一応悪の総帥のはずだが自然体のように柊家に溶け込んでいる、うてなとしてはさっさと帰ってほしいが他の家族は結構溶け込んでいるだけに直球で文句は言えない。

 

「それで……わざわざ風呂場から突撃してきたのはなんなんですか?」

 

「ああ、もしかしてロコムジカさんとやらのことです? ルベルブルーメさんから聞きましたよ」

 

「えっつばめ姉ちゃんいつ会ったの? まあ神出鬼没は今に始まったことじゃないけど」

 

「フフフ……それは姉として秘密ですよ」

 

 つばめは先ほど聞いた柊どれみがたまたまロコムジカに絡んで危うく一触即発の雰囲気だったことを伝える、さらにそこから田中越しに聞いた内容によるとやはりロコムジカは当たり屋のように絡まれて立腹だった様子だ、今回に関しては彼女に非はないので無理もないが……。

 

「めちゃくちゃどれみ姉さんが悪いとしか言えない話で困ってしまった……」

 

「肝心などれみ姉ちゃんどこ行ったよ?」

 

「どれみでしたらストレス溜まってたみたいですし……いつもの場所じゃないですか?」

 

 ここまで来て田中がわざわざうてなのところに来た理由も分かる、今度は柊どれみを調査してこいというわけだ。

 ここのところずっと絡みは身内絡みの仕事ばかりであり、悪の女幹部になったというのにトレスマジアと戦う機会は全然ない。

 魔力が足りないだのなんだので、そもそもまともに戦ってもいないのでエノルミータという組織自体がわりと停滞しているのかもしれない。

 だが実を言えば、どれみの事は結構気になっていた。

 

「でも明日にしてくれませんかもう夜中なんですけど」

 

「なんだったら泊まっていきませんかベッド空いてますよ」

 

「田中さんもしかして姉ちゃんに喰われるんじゃねえのか」

 

 ──ー

 

「はるさめさんどうしとるん?」

 

「二度寝してる……そっちの親戚さんは?」

 

「まあ似たような感じやな……出来ることならずっとそうしてもらいたいが」

 

 同じ頃トレスマジアも調査にあたっていた、意外でも無いがテーマはうてな達と同じく柊どれみ。

 どれみがつばめをしばいた頃からはるかの中で気になっていたことがあったので薫子に頼んで二人きりでブラックノイズの本拠地であるライブハウスへ向かっていく。

 ただし、電車は巣灯裏亞駅の件もあり危険が多いので予算的に痛いがタクシーを経由することになる。

 魔法少女としてそれなりに稼いでいても自由に使えるお金は限られているので今回は確実に有益な情報を掴まなくてはならない。

 

「そんではるか、お前が柊どれみの件で気になったことてのはあいつの必殺技みたいなものか?」

 

「うん……片手がビリビリしてまるで電気のオーラみたいなの出してたけど……なんとなくあれ、比喩表現じゃなくて本当に身体中に電気を作ってたように見えたんだ」

 

「まるでウチらの魔法みたいに人間を超えた力ってわけやな……そんなもん普通使えるか?」

 

 タクシーに乗る事1時間、花菱はるか人生初のライブハウスデビュー。

 規模としては想像以上に広いので、ブラックノイズの名前も間違いなくあるはずだとポスターを見てみると確かにあった。

 前につばめが現在のどれみを「チャラチャラしたロックバンド」と称していたように、どれみのイメージに合ったものになっている。

 それだけに、彼女の素性についてはかなり怪しくなっているが……。

 

「どれみのライブはあと2時間後やな、それまでは適当に時間を潰すで」

 

「ここまでの道のりも遠かったのにまだかかるの!?」

 

「仕方ないやろ、ライブハウスに突入するんやから……ってあれは!」

 

 薫子が指差した先にいたのは、他でもない柊どれみ本人。

 普段の特徴的なメイクではなくサングラスに帽子で変装はしているものの、間違いない。

 ブラックノイズというか、どれみに限ればライブハウスを住処にしているわけではないので当たり前だが。

 そんな彼女が向かっている先には、小さな公園があった。

 

「おっと……おっと!? まさかやけど! 柊どれみにはもう付き合ってる奴がいて、その相手と会うためとかいうやつか!?」

 

「いやさすがに違うんじゃ……」

 

「そう言って、いざ蓋を開けてみると実は交際相手がいましたパターンやって……あ! おい!」

 

 公園に入ったどれみを目撃した薫子は思わず飛び出したので、はるかは慌てて追いかけようとするがそこで気づいた。

 どれみの顔が超絶不機嫌で通りかかった奴に通り魔のようにスタンガンパンチが奇麗に顎にクリーンヒットする姿がちょうど薫子の目の前で……。

 

「ド直球にやりおったなお前!?」

 

「は!? ちげえよこれはこのアマが見下した目をしてきたから……」

 

 ────

 

「あーびっくりした……なんだお前かよ」

 

「びっくりしたはこっちの台詞や、何を堂々と暴力行為に手を出しとんねん」

 

 どれみは直ぐ側にいたのがはるかであることに安心して普通に缶コーヒーを飲んでいた、必殺技みたいなものを出したというのに騒ぎにならない辺り本当にブラックノイズの暴力沙汰は日常茶飯事らしい。

 これがついこの間自分の姉に報復のように大技を放ったような奴だ、これが悪魔じゃないなら誰でも該当しそうだ。

 あんなことをしておいて随分と呑気に過ごしているあたり、性根はだいぶ歪んでそうだが……。

 

「……それにしてもどうやってここに? まさかブラックノイズのライブ見に来たわけか?」

 

「えーと……一応ここまで来たのでそれもありますけど、どれみさんのことで気になることがあって……」

 

「まあ単刀直入に言えばアレや、例の必殺技の原理について」

 

「……スタンガンパンチのことかよ、まあここ最近大胆に使いすぎたし無理もないか」

 

 正直に話してみるとどれみはあっさりと種を明かしてくれた。

 スタンガンパンチは魔法ではない……が、実は長女の柊つばめに教えてもらったものだというが、教えてもらったのはどれみが10歳の頃でしばらく使っていない、つまり10年ぶりにガンガン使っていたことになるらしい。

 急に使うようになったのは、とある一件で一度ぶちかましてから色々めんどうな事が起こりすぎて使いたくなるようなシチュエーションが多いという。

 つまり花菱家で見せた電気うなぎ・地獄縛りは完全オリジナル技である。

 

「答えになってないか……あんまうてなには言うなよ、あいつこういうの好きそうだから言わないようにしてたんだがな……」

 

「もしかして魔法少女と関係が?」

 

「あたしがそうだったってわけじゃない、魔法というのもちょっと違うような……いや、あってはいるんだよな」

 

 つばめ曰くこの力を例えるなら、今のトレスマジアやエノルミータのような現代人が使う魔法をスマートフォンとするならどれみのスタンガンパンチはダイヤル式電話機とかインスタントカメラみたいなものらしい。

 又聞きになるので真意は不明だが、つまりはかつて……表現するなら呪術や憑霊術など、様々な名称で異なる力とされていたものが平成辺りで統合されて技術を統一し、現代で言うところの『魔法』という分類に落ち着いたという、なお魔法自体も昔から存在しており世界最古の魔法少女は邪馬台国の卑弥呼だったとつばめから聞いているがうてな以外は本気にしていない。

 案外、悪魔がどうとかはこういったところが由来なのかもしれないが結局真実は分からないままだ。

 

「じゃあスタンガンパンチはどれに当てはまるんや?」

 

「姉貴が知らんことはあたしも知らんが、まあ昔はそういうのいっぱいあったんだな〜ぐらいでいいんじゃないのか、なんだかんだ使い慣れたし危ないもんでもないだろって感じ」

 

 魔法の起源にあたる存在にははるかも驚くが、この事が事実なら案外大昔からこういう確執はあったのだろう。

 今回のこともまたグループチャットで小夜にも伝えられる。

 

「ところでそんなところで休んどってええんか?」

 

「ああどうせライブまでヒマだし、こういう時は一人になった方が気が楽になるんだよ」

 

 どれみがのんびりした気持ちでベンチでくつろいで、このままライブ開始までゆっくりしていよう……姉妹の中では特別害もない、柄が悪いように見えるが四女ともなると姉と妹均等に挟まれるのでしっかりしなくてはという使命感が出来るのか? しばらく話をしていたが、足がぴったり張り付いたかのように動かなくなった。

 

「あっやっべ足の筋肉が麻痺硬直したかもしれん、スタンガンパンチ撃つとたまに神経イカれるんだよな」

 

「いや……これそんなんやない、ウチらの足も動かなくなった!」

 

「えっなにこれ!? なんであたし達まで動けなくなったの!?」

 

「あんた達はオーディエンスとして必要なのよ、ヒットナンバーは応援役が必要だからね」

 

 薫子やはるかを始めとして、公園でゆっくりしていた人達がいっきに金縛りのように足が動かなくなる。

 こんな時原因はいつだって……エノルミータ、そしてエノルミータといえばちょうどどれみと因縁のあるこの女。

 エノルミータ宣伝隊長及び悪のアイドル、ロコムジカだ。

 

「改めて……あんた、昨日誰に喧嘩売ったのか分かってる? ロコとしては一方的に文句言われてムカついていたわけなんだけど」

 

「え? あ……ああー、あのバカ姉貴しばいてた時になんかこんなやつ見たような……見たような」

 

 どれみもストレスが溜まってた割にはロコムジカにガン飛ばしてた時の記憶はしっかり残っていただけに改めてめんどくせえことをしてしまった……という顔で冷静にロコムジカを眺めて……

 

 

「いやなんだそのバカみてぇな格好!?」

 

 一気に吸った息を吐き出したようなとんでもない出力のツッコミが飛んできた。

 ロコムジカの変身した姿というのは、水兵系のセーラーみたいな見た目をしているものの胸部だけビキニみたいに露出しているという……まあ、その、バカみたいな発想とツッコまれるのも無理もないが、お前の下の妹二人も大概バカみたいな格好であるだけにロコムジカはキレそうだが。

 

「確かに言われてみるとエノルミータバカみたいな格好しとるよなぁ……妖怪ケツ出し軍人にほぼ露出狂コウモリ女もおるし」

 

「マジかよエノルミータって変態の巣窟なのか……」

 

 その変態の巣窟にお前の身内半分くらいが所属してるんやぞ、ロコムジカはそう言いたかったが格好に関してはわりと文句言える気はしないので黙るしかなかったが、彼女はアイドルとしてどれみの鼻をへし折りに来たのだ。

 

「んで要件は?」

 

「もちろん……あの時舐められた分をヒットナンバーで返すためよ!」

 

 ロコムジカが構えを取るとどこからともなく音楽が流れ始める、すぐ近くにラジカセもなくCDらしきものもないのに曲が脳裏に焼き付けられる、魔法は便利なものだと足は動かないまま空気椅子する余裕を見せつける。

 どうせライブハウス本番まで暇なのだから聴くだけ聴いてやって、解放されたらスタンガンパンチで顎にキメればいい話だ。

 ロコムジカは自慢だという自曲のをキメることになるのだが……歌唱シーンは色々な都合とか問題があるので彼女には悪いが全カット。

 しかし、同じく聴くだけ聴いてやろうという姿勢だった薫子もはるかも硬直してしまう。

 

 そう、このロコムジカという人物後に同僚にもストレートに言われることになるのだが……表現を借りるなら絶妙にイジりにくいレベルで歌が下手……!

 聴いていた相手は一応ライブをさせてもらえるくらいの経験者、鼻で笑うことはないが強い嫉妬を原動力としているどれみとしては逆にクールダウンしてしまう。

 エノルミータってこんなやつばっかなのだろうか?

 

(そりゃうてなでもやっていけるわな……)

 

「何よその顔! ロコは歌ったんだからそっちも何かしなさいよ!!」

 

「つってもあたしはギターないからな……そりゃボーカル担当はしているけど」

 

「カラオケ感覚でええんやないかあのレベルなら」

 

「それもそうか」

 

 だが世の中にはこんな言葉がある、争いは同じレベルでしか発生しない。

 歌おうにも曲がないので同じ曲を貸してもらい同じ音楽で勝負することになるのだが……同じくカットしたものの表現だけ表すと、どれみの歌声はとんでもなく高かった。

 

(歌声高けぇー!! え!? 顔的にわざとやってるわけちゃうよな……あの声でロックバンド!?)

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