そして2時間後、ロコムジカがなんかそそくさと去っていった後にライブハウスでライブを済ませる、1回本気で歌ったはずなのに喉の調子は全く問題なさそうに無事に済ませた。
お客の数は基準が分からないので判断は出来ないが自分以外にもお客が居て席がそれなりに埋まっているのでブラックノイズの人気度は結構なものだろう、しかし薫子の中で頭から離れないモヤモヤしたものがあった。
ライブ終わり、どれみはまた公園のベンチで缶コーヒーにグレープの炭酸を両方まとめて一気飲みする。
なんでもコーヒーの苦みに炭酸のはじけるような酸味を混ぜて飲むと結構いけるらしい、三人仲良くベンチに座って缶を飲む。
「よかったぁここにもシナモンキノコティーがあって」
「あたしが言うのもなんだけどそれうまいの???」
「そんなことはええやろ」
薫子はどれみの顔をまじまじと眺め、どれみも互いに見つめ返すような形になっていく、険悪な雰囲気ではないが何か導火線の火が付いてゆっくりと燃えていくような感じの表現がしばらく続いたがどれみは頭を抱えて答える。
「言いたいんだろ……言いたいんだろその目!!散々言われてんだよ!!あたしがロックバンド向いてねえとか!!声がロリすぎるとか!!おねえさんといっしょ始まったかと思ったとか!!あー!!敵敵敵敵敵お前敵!!」
嫉妬から一個下の妹みたいにヒステリックブルーにになるどれみ、そうこの人歌は上手いもののロックバンドとは真逆の方向性に上手いというかロックでやっていける声ではなかったのだ。
ブラックノイズはゴリゴリのヘビメタ風にやっているのだが、ボーカルの声がこんな感じなことにギャップを感じて固定ファンが増えつつあるがこの結果に不満しかない。
「ボーカル以外をやったりはせぇへんのか?」
「今更他のやつにあたしの代わりでボーカルなんか出来るかよ、ずっと寿司握ってた奴が本格中華を作れるか?……後からメンバーを増やせばぜってぇ揉める!」
「ロックバンドじゃないとダメなんですか?」
「ダメ……というか、この方向性伸ばしたらうさぎとおんなじだ……あいつみたいになってみろ、一生あたしは下げられっぱなしなんだよ」
ロックバンドとは柊うさぎという光への脱却の為の存在、双子として生まれた柊うさぎと柊どれみは表裏一体、しかし現在は大物インフルエンサーとなり言われなければ姉妹とも分からないほど容姿を変えて大目立ちするうさぎ……何かをしてみれば一番近い姉として、双子として比較されるに決まっている。
そんな未来を見たくない為に、どれみは真逆の道を歩んだ。
「言いたいんだろ、コンプレックスだけで生きて真剣にバンドしてないあたしは醜いって、実際あたしもエゴサとかアンチ活動はするがあたしへのアンチもそれなりにいる……そういうもんに宙ぶらりんに生意気に生きて、気がつきゃハタチか」
「……そんなこと聞くんか?スタンガンパンチの秘密を調べに来てそれを利用してライブハウスに来ただけの卑怯なウチらに」
「はっ、そういう意味ではアンタらも真剣なファンじゃねえか……なぁ、うてなのこと嫌わないでくれよ」
なぎさとうてな、そしてほむら。
自分の下の妹達はそれぞれ皆好きなもの、好きなことに純粋無垢だ。
あんなに真剣に戦隊を、魔法少女を心から愛して推している姿を見てしまえば、嫉妬の気持ちなんてとても出てこなくなってしまう、身内に甘いのかもしれないが自分やかなみたいになってしまうよりはずっといい。
それに……資金面という大きな壁もある。
「姉貴が汗水流してなんとかあたし達は大学に行けてるがひいらぎはほぼ趣味感覚で収入ゼロ、あのバカはクロノス・シンジケートとやらで金なんか期待できねーしうさぎがいつまでインフルエンサーやれるかも分からん」
姉と妹が均等にいるからというだけでもなく金銭面でも柊家は気になることが多い。
今こうして7人姉妹で生活できているのも奇跡みたいなものだし振り返ってみれば全員結構豪遊している、ロックバンドをするのだって安くない。
……そして大人になったからこそ分かる、どれみ自身も気にしている謎。
「お前ら姉貴の店には行ったか?」
「ごっつう寂れとるよなぁ利益出とるんか?」
「そう、そこなんだよ……まだまだあたし達は大人になったばかりで姉貴やあのバカの背中を追い続けて間もないんだ……そうだ、そんなにあたしらの事が気になるんだったら一緒に調べねえかよぉ……」
――
「……柊家、謎の収入源について」
一方、はるか達と別行動を取りながらもグループチャットで活動していた小夜。
魔法という概念が想像していたものとは大きく異なることに衝撃を受けながらもその起源となる存在をたどっていけばより大きな力を得られるのでは?と独自に山奥まで向かっていた。
実のところ魔法が元々は別々だったことに関しては納得していた、元々過去の世代に陰陽師などはいたしポピュラーな形で生まれ変わるという手法は現代でもよくある、ただしヴァーツ……魔法少女チームとしてのマスコットのような相棒も知らなかった事実なのでそれを知るつばめへの不信感は募る一方だ。
「それで……今はどこに向かってるんですか?」
「ネットでパワースポットを見つけたの、ご利益はありそうだし……さっき言ってた魔法達の起源の情報も掴めそうじゃない?」
そうして辿り着いた先は山奥にある美しい滝壺、一切人の手が加えられていない神秘性を感じさせる大自然が広がっている。
どうしてそんな場所を探して行こうとするのかは知らないが小夜にとってはこれほどまでに魅力的で探求したくなるものは無い、はるか達から逃げてばかりじゃ何も掴めないのは知っているのでたまにはこういうことをするのはいいと思う。
はるか達からは色々怒られそうだが、今連絡したらきっと更に怒られるので少し電波の届かないところに行くのも大切だ。
「それで、ここからどうするのですか?」
「それは……そうね、あまり罰当たりな事をするわけにもいかないし……」
小夜はパワースポットがどのような場所なのかはあまり詳しく知らないが、テレビ番組でやっているのを見る限り大体水と関わっている。
水を浴びる、飲む、触れ合う……とにかく水が関係しているならきっと魔法にも繋がりやすいはず……というわけで水着を用意して入ろうと決心。
トレスマジアの魔法少女のコスチューム、それを何故か魔法少女らしく魔法を使わずに自力で水着に変えてしまう小夜、その姿は明らかに水着ではない。
「……慣れないことにあまり使うものじゃないわね」
「そうですかね?私は結構似合ってると思いますよそれ……ただし肩の露出がちょっと多いような?」
「肩ぐらいだったら出すことも普通に……って!?」
後ろから会話が続いたのでびっくりすると、いつになく着込んで籠まで背負っている柊つばめの姿があった。
相変わらず神出鬼没でどこにでも現れる人だが、まさか柊家と関係ない場所でも遭遇するとは思わなかったので今まで以上に驚く。
「な……何故ここに?」
「ああ、この辺りで良い感じの山菜が採れるのでたま〜につまんでるんですよ、晩御飯で使ったり……貴方こそこんな人が立ち入らないところで何を?」
「……ちょっとパワースポット巡りの為に」
「ああー、私も昔はそういうところに行ったりしましたねぇ……昔は神様にでも頼りたい気持ちだったので……」
手当たり次第草を掴んで籠に詰め込んでいるつばめ、山菜摘みらしいが小夜は野草に詳しくないとはいえなんか適当に雑草までちぎって入れているようにしか見えない、本当に家であれ出して姉妹で食べるのだろうか?
だが……
「収入源問題……意外とあっさり解決しそうね」
「え?」
小夜はつばめに……先ほどグループチャットで情報を得たことだけは隠して、どれみ本人から自分たちがどうやって育てられてきたのか、当時幼かった自分達の頃の収入源はなんだったのか気にしているということをつばめに話した。
もう何度この話題を出したか分からないが、うさぎどれみの双子が幼い時つばめもまだ大人にもなってない時期だ、とても生活していけるようには思えないのは身内から見てもそうだという。
「どれみも自立する年頃ですからね……疑問に思いますか、うてなから同じことは聞きましたか?」
「いえ……今の生活に適合しているように見えます」
「そうですか、安定しているということなので私としては安心ですね……でも確かに、昔は苦労しましたねえ……たとえばそう、10年前とか」
つばめは切株に座り、写真を取り出して大昔の思い出を語り始めた――
滝の水音が背後で響き続ける中、つばめは古びた財布から一枚の写真をそっと取り出した。
折り目が深く入ったその写真には10年前の柊家の居間が写っている。
まだ幼稚園児だったうてなが、どれみの膝の上で泣きじゃくり、うさぎがそれを呆れた顔で見下ろしている。端っこに、傷だらけの頬をした当時18歳の自分が、ぎこちなく微笑んでいるのが見えた。
「あの頃の事は今でも覚えてますよ」
つばめは写真を膝の上に置き、遠くを見つめた。
あの頃の家はもう限界だった……両親が失踪してから三年。
残された預金は底をつき冷蔵庫は殆ど空っぽで、電気代の督促状が山のように積み重なっていた。
町の人たちは「呪われた家」と噂し、誰も近づかなかった。
児童相談所に電話しても「調査します」と言われたきり、二度と来ることはなかった。
当時16歳のかなはこの頃からもう何日もまともに眠っておらず目は充血し、髪はボサボサで、唇は噛みすぎて血がにじんでいた……ただし、あの頃のような狂気性はなく迫りくる負の現実に押しつぶされそうで限界が近い。
深夜、台所で二人はずっと喧嘩ばかりしていた。
「今更どうなる?ずっと生きられると思っているのか!?下に5人も抱えて!右も左も分からない脳みその奴らをこのまま生き地獄に巻き込むのか!?」
かなは包丁を握りしめたまま、震えていた。刃先は自分の方を向いている。死ぬなら自分だけでいい、そう言わんばかりに……それでもつばめは黙って、かなの前に立った。
「……頑張ったところで何になる? 生きていて妹達は救われる? だとしたら、今自分達が生きている理由はなんだ?」
かなの声は掠れていた。涙はもう出ない。ただ虚ろな目で、姉を見上げている。
だがつばめはゆっくりと、かなの手から包丁を取り上げた。
「頑張り方は多分いくらでもあります。こんな顔でも、誰も頼ってくれなくても……頑張ってみます。どうせ死ぬなら……あの子達は幸せになってほしい」
「馬鹿かよ……あんたのエゴに付き合わされて、あいつらの為になるのか」
「……それでいいのですか、かな。もう頑張らないという道は、私にはないんですよ?」
つばめは静かに微笑んだ。それは、どこか諦めたような、でも確かに光る決意を宿した笑みだった。
だって、私はこの日を待っていたんですから……十八歳になるこの瞬間を。
夜が明ける前、つばめは家を出た。傷だらけの顔をフードで隠し、町外れの廃工場街へ向かった。そこには、普通の人間が絶対に近づかない場所へ行くようになった。
一体何をしているのか?かなはとてもそれを聞くことは出来なかった、姉にそんなことをさせるようになったのは自分のせいかもしれなかったから……。
その瞬間から柊家の冷蔵庫は不思議と空になることがなくなった。
督促状は忽然と消え、郵便受けには毎月、差出人不明の封筒が入るようになった。
金額は決して多くはないが、七人姉妹が普通に暮らすには十分すぎるほどだった。
つばめは夜な夜な出かけ、朝になると傷だらけで帰ってくる。
妹達は怯えながらもそれ以上は何も聞かなかった。
だが、つばめが稼いだお金でうてなは魔法少女を見れるようになり、なぎさは戦隊グッズを買って……うさぎとどれみは夢を見つけられた、間違いなく幸せになっていった。
妹達が寝静まるながらただ一人、かなだけが時々台所で姉の帰りを待っていた。
「……また、血の匂い」
「大丈夫、すぐに洗ってきますから……何、生きることとはそういうものですよ」
「嘘つき」
かなは小さく呟いた。でも、それ以上は何も言わなかった。ただ、姉の背中にそっと毛布をかけるだけだった。
さらに時は経ってかなも同じ歳になるとすぐに就活を始めた、そして彼女もまたどんな手を出したのか分からないがクロノス・シンジケートに入社して……時代に人が代わったかのように労働に快楽を見出すようになり不潔な人物になっていった。
滝の前で、つばめは写真を財布に戻した。
「だから……私たちは今も、こうして暮らせてるんです。あの子達が大人になるまで、せめて普通に生きられるようにって、それだけのために」
小夜は言葉を失っていた。
「……それが、どれほど重い契約だったか。どれほどつばめが傷つき続けてきたか。想像するだけで胸が締めつけられる。
「でも……もうどれみも大人になりました。私が守る必要は……いつか、なくなるのかもしれませんね、まあうてなやほむら達もしっかり高校、大学まで行かせないといけませんが」
つばめは立ち上がり、籠を背負い直した。
「だから、どれみが疑問に思うのも当然です。でも……教えてあげたくないな。私がどんなことをしてでも、あの子達が笑っていられるなら、それでいいんです」
水着姿の小夜に向かって、つばめはふと笑った。
「ところでその格好……自分で作ったんですか? なかなか大胆ですね……でも私、それくらいスケベなほうが好みですよ」
「っ……! そ、それは……!」
小夜が真っ赤になるのを、つばめは楽しそうに見つめていた。
滝の音だけが、静かに二人の間を流れていった。
――小夜はこの間にも冷静にグループチャットに送りながら、つばめのことをながめていた。
多分この人は……はぐらかしているようで、嘘が多い。
妹達を生かすためにどんな手を出したのも、幸せになってほしいのも事実だろう、しかしそのなかには常軌を逸した闇が潜んでるように見える。
その秘密は……ここで掴める、だがそれは悪魔に喉元を掴まれるような危険な賭けだ。
それでも知らなくてはならない、柊家というものを……悪魔を!
「つばめさん……パワースポットに来たのは私と同じ理由じゃないですか?魔法以前の源流の力の為とか」
「……ああ、どれみから聞きましたね?最近はよく使ってますからね、確かスタンガンパンチと名付けてましたか?」
つばめはどれみに離したことを隠そうともしない、あるいはそこまで重要なことでもない?
何故そんなことを知っているのかについては、柊家の地下に色々あったらしい……悪魔みたいな一族と言われるだけはある。
だが、どれみに軽く教えたものは軽く静電気を増やすもので必殺技みたいになるのは想定外だという。
ちょっとした手品のつもりだったらしい。
「では、貴方もそれに近い物を……」
「ええ、ひいらぎを始めるときには苦労もありましたのでその際には……といっても今はかなり暇を持て余してると言われますが、あはは」
確かにこんな生活をしていては大人になってからずっとやっていけるかと不安になるのも分かる。
それにどれみに話せば何があって真剣に自分たちを育ててくれた上の姉2人が腑抜けていることに疑問を感じることだろう。
「……妹さんにはちゃんと話したほうがいいですよ、幸せな生活を維持したいのならお金の出処ははっきりさせてください」
「ふふふ、お客さんに言われちゃ頭に入れなくては」
一通り山菜を採ったつばめは山をおそるおそる下っていき、人がいなくなったのを見た小夜は元の服に戻り魔力の変化を確認したあと……すぐに下ってはるか達の所へ向かう。
今回の一件は平和に終わったものの……ただでは済まない気がする。
トレスマジアの三人の中に不安という感情が渦巻く……。
そしてつばめはというとその日の晩、かながまだ働いている間に10年前の事をちゃんと妹達に話した。
いずれ頃合いが来たら説明するつもりであったが、悪の組織だの色々あったうてなでも自分達がかなり危険な道を進みながら生活をしていた事にはド肝を抜いた。
なぎさやどれみはかなが荒んでいたことを知っていたが、彼女なりに思い詰めて危うく死んでいたかもしれないということに焦りも感じた。
そして……当の一方的にどれみに絡まれてロコムジカはというと、喧嘩を売る相手を間違えてしまった感で関わりたくないと組織で歌の練習をしていたところでロードエノルメが泥酔したかなに絡まれているのを見た
この姉三人、酒にだらしなさすぎである。
「おいロコムジカ、マジアベーゼに伝えろ……お前らの姉に今後一切酒を飲ませるな!!」
「いや……なんかロコとしても関わりたくない……というかその人臭い」
「うん臭いんだよこいつ!!ただでさえ不潔なのに酒のせいで!適当に捨ててこいこんなやつ!」
「まあまあ、かながお酒飲む機会なんてめったにないのですから……ほら、一緒にどうです?」
「やめろ尻を触ってくるな!!くっ、なんなんだこいつら……」
「おい、ロードエノルメってやつはいるか?……ってこのバカもかよ!!!どいつもこいつも酒に溺れやがってくたばれや!!」
「ヴォエエエエッ!」
入ってきて早々にスタンガンパンチを受けて吹っ飛ぶ次女、巻き散らかれる汚い虹。
そして次元を空けて手を出してきたのは……どれみだった。
「総帥さんよ……金出してくれるなら、なんでもするぞ」
生きるためなら手段を選ばない……つばめもかなも選んだ道だ。
どんなに意地汚くてもそうして育ててくれた、だから……親の背中を見て育つ。