「っつーわけで、この度エノルミータの裏方事務になりました柊どれみでーす、世界征服目指して頑張っていきましょー」
「嘘でしょどれみ姉さん」
「ウチの組織がどんどんこいつの身内で埋まっていく……つーか次女四女六女で偶数はコンプリートしてるじゃんかよ」
「このまま姉貴も呼ぶか?」
「勘弁してください」
なんと柊どれみ……並びにブラックノイズがエノルミータに新しく入ってくるというのだ。
悪の組織エノルミータも随分大所帯となったものであるが、うてなはいい加減ロードエノルメに聞いておきたいがあいにくの留守……。
こんなにガンガン仲間に引き入れて大丈夫なのか、特にどれみはいよいよ独断でエノルミータに乗り込んできたわけである。
うてなは忘れそうになるが、本来エノルミータのスカウトはヴェナリータが受け持つ役割であり、柊姉妹以外は全て連れてきたのは彼によるもの……そしてヴェナリータ自身は、うてな以外に素質がないと判断している。
「こんな勝手に詰め込んでいたら、さすがにヴェナリータさんでも怒るのでは?」
「あいつな……正直あたし達としても仲良くしたくないが、あたしの場合はちゃんとした仕事が見つかるまでの間だ、金稼ぐために貢献はするしな」
「それでどれみ姉ちゃんはどんな名前にするの?トゥエルブ、アンチマスコット、マジアベーゼ!姉ちゃんもいい感じの名前にしなよ」
「やめろやめろ、あたし裏方だから出張ることもねえし……いやでも本名はまずいよなこの界隈」
どれみはいきなり仕事しながらサインの練習から始めている、コンプライアンスとかそういうの意識しているような人とは思っていたが変なところでマジメだ。
こういう事言うと互いにキレるのでなぎさもうてなも絶対口にしないが、素が出ると「あのバカ」「アホ」呼ばわりの2人が一番よく似ているというなんか色んなところで見るシチュエーションである。
だがそれ以外にも問題は積み重なっていく、こりすがうてなとなぎさに耳打ちする、「ん」の一言に大量の言語圧縮が為されているがお姉ちゃんなのでしっかり理解できる。
その内容は今までなかったことにしてきたことの集大成のようにも感じたので、緊急会議勃発、家でやれ。
「そのチビッコなんて言ってたんだ」
「いい加減ほむらに隠し通すのにも限界が来たんじゃないかって」
「思ったよりマジの課題じゃねえか」
相変わらず世間体以上に清楚な末っ子、ほむらにだけは絶対にバレたくないと派手な行動を取らず嘘をつき続けていたうてな、しかし隠すどころかエノルミータのメンバーが頻繁に柊家に訪れるようになった上に大半がエノルミータ所属。
親交関係で言っても、うてなキウィうさぎは最近つるんでいるし、当のほむらと遊んでいるのがこりす、かなが加入してからは他メンバーが手を焼くようになり、なぎさは今でもアンチマスコットとして派手に暴れてトレスマジアやサンマジカルを寄せ付けている。
そして今回のブラックノイズ加入……ほむらがいくらぽわぽわしているとはいえ怪しまないほうが危機感を感じるくらいだ。
「つばめ姉ちゃんにはなんていう?」
「姉貴だってほぼ綱渡りであたし達を育ててきたんだ、あまり世話かけたくねえ……まあ普段はあんなんだがマジで稼いでくれてたとわかっただけになんとも言えんが……」
「それにしても、実際ひいらぎは毎年のように閑古鳥が鳴いてるのにどうやって稼いでるのか……」
収入源、言われてみると皆気になってしまう。
キウィの家もかなり裕福な方であるが七姉妹が毎日生活して、おまけに学費を用意して更に好きなように趣味に没頭できるとなると……かなやうさぎも収入はあるが、自分の家と同じかそれ以上の金が動いていることになる……怪しすぎる。
阿良河キウィはまだ柊うてなに心を開いていない、しょっちゅう絡むこともあるが同僚としての付き合いと悪魔のような異質な姉妹への好奇心に過ぎないのだ。
「なあおめぇの姉ちゃんの店どこでやってたっけ?」
「え!?もしかしてキウィちゃんひいらぎに行くつもり!?私もたまに行くけどしょっぼいラーメンしか出てこないよ!?」
「姉貴は大衆食堂の意味すらわかってねーからな、ああそうそうひいらぎだったら……」
――
「なんの真似だ……柊つばめ」
「うーんなんのつもりかと言われたらラブコールですかね」
「いい歳こいてそれは真剣に妹共が泣くぞ」
そして、噂にしていた大衆食堂ひいらぎ……こちらも最近 では情報を聞き出すためとはいえ頻繁にトレスマジアの3人が訪れるようになり暇を持て余すことはなくなったが、つばめがそっち系の性癖だったらしく田中にベタベタするようになった、青春を妹たちの生活に絶やしてきたとはいえめっちゃ楽しそうにしているのはいいが、田中としては自分よりずっと年上の傷だらけのおばさんが性欲向けてくるのがキモくてしょうがなかった。
今、自分が座っているテーブルにはスッポンとかラッコの鍋があるがこのままメインディッシュとして喰われるビジョンしか見えない。
「……私がお前の店に来たのはこんなくだらんことの為じゃない、お前の妹達が来てから色んな事がありすぎてな……整理しておきたい」
「確かに長いもので貴方達と縁が出来てからもう1ヶ月くらいは経ってますものねえ……」
田中は鍋を適当にその辺に置いてカードを並べる、悪魔のような見た目をしているがモチーフにしているのは柊姉妹、うてなとかなとなぎさ、そしてどれみがなんとなく似ているようにデザインされている。
多分こういうのはヴェナリータが作ったやつだろう、大きなテーブルを借りてカードを並べていき、線を引きながらこれまでの経緯を振り返る。
まず、始まりとなったのはどこからなのかは分からないが少なくとも……ヴェナリータがうてなを見込んでマジアベーゼに変えてしまったところに姉達にバレた件だ、田中はこの件をスカウトされてからたった数日ぐらいしか経過していないと推測できる、何故ならヴェナリータに見込みがあるとして呼び出されたばかりの出来事だったからだ。
「本来私や一部の仲間は遠征に出る予定だった、魔法少女狩りの為に各地を回っていたからな……それを悪魔がどうとかでヴェナリータに呼び出されこうしてこの街に居座っているわけだ」
「他所に行く暇はなかったんですか?」
「実際あるか?お前のようなものを野放しにして……」
「まあそうですね」
「ここで聞いておきたいが、お前の次女が手を下さなかったら気付かないままだった、隠し通す気はあったのか?」
「さあ?気にかけるつもりはありますが」
「まあいい……次からが本格的におかしくなっていったところだ」
クロノス・シンジケート……以前からエノルミータと衝突し敵対していた未知のもう一つの悪の組織、そのメンバーが柊うてなの姉、次女柊かな……通称トゥエルブだったことが偶然発覚。
更にはうてなの陽動作戦によって目的が時間停止魔法を作ることによる世界征服と発覚し、大っぴらに正体がバレたことで別空間に存在するアジトは逃走を選択、トゥエルブはそのままエノルミータに所属した。
……ここで大きく展開が変わった、未来から来た謎の魔法少女パンタノペスカ、世界への攻撃を開始したものの深刻な魔力不足による断念、この時点で色々あった。
「思えば田中さんとの付き合いもここからでしたねえ……私、あの頃から惚れてたんですよ」
「そんな事よりだ……実際お前は妹がどんな会社にいるのか知らなかったのか、一緒に稼いでいたんだろう」
「お互いに仕事の事は言及しないようにしようと決めてましたので……ほら、うてなから聞いたんでしょう10年前のこと、口には出しませんがかなはあの件を後ろめたく感じてるので……」
「そうだな、詳細は分からんがお前だって妹に隠すような後ろめたい仕事をしていたわけだからな」
「それを言われたら困っちゃいます……何か引っかかるところがあるのでは?」
「そうだな……まずその前にだ、そこにいるんだろうパンタノペスカ」
話している最中にもかかわらず引き戸を空けて出てきたのは……胡散臭いがどうにも柊姉妹とはまた異なるミステリアスな魅力を持っている魔法少女かどうかも曖昧な未来人、パンタノペスカ。
いずれ相対しなくてはならないと分かっている以上、邪魔者は早めに潰さなくてはならない。
「あの時私と同じタイミングで現れた以上私のことも知っているんだろう?」
「ああいえ、貴方がロードエノルメであることは二の次で実際は私の方から貴方に個人的な付き合いがあっただけですので」
「敢えて未来で私がどんなことになっていたかは聞かないでおくが、おおかた未来から来た理由など過去に問題が発生したからだろう」
過去に何かしらのトラブルが起きている以上、パンタノペスカは本格的に自分達に危害は加えてこない。
田中としての自分に接触してきた以上、目的は過去で自分を始末することによるタイムパラドックスではないという理屈らしい、それなら未来や魔法少女の情報として共に今起きている事象を整理しておきたい。
まずこの時点の問題は、クロノス・シンジケートは本当に撤退したのか……あれからトゥエルブが暴れることで表向きはトレスマジアもシンジケートが存命であると思っているが彼女が言うには完全に撤退したという、元々この組織はコソコソとしたもので大っぴらに正体がバレた時点で正面から喧嘩を売ろうとはしない。
……そんなもの信じられるのか?
「クロノス・シンジケートに行く原理自体は単純だ、時を止めて電車に乗る我々を入れ替えて組織がある別次元の駅に向かうように移し替える……が、そうなれば大幹部といえど向こう側の支援が必須だ」
「貴方はかなさんが一方的に切り捨てられたと考えてるようですが……逆もありえますわよ?大幹部なのですから」
時を止める魔法が作られている以上野放しにできないのがクロノス・シンジケートという存在、出来ることなら叩き潰して安心したいところだったが過去の作戦からも分かるように極めて慎重になっておきたい、何故なら同じ時期に別の懸念がある……シスタギガントに襲撃させて世界に宣戦布告したが、魔力切れですぐに終わってしまった件だが……。
あまりにも魔力の枯渇が早すぎるのでは?と考えている、シスタギガントはロードエノルメとも長い付き合いで巨大化魔法も散々見てきたがそこまで燃費が激しいようには見えてなかった、にも関わらずヴェナリータは魔力切れでろくに動かせないと語り作戦を中止させている。
それにあれからかな、なぎさ、どれみ、うてなの魔力生成速度は桁外れで巻き返せるはずだが時期が早いとヴェナリータは取り持つこともしない。
「このまま魔力を作らせていいのか……と思っていてな、軽い島国くらいならアレで攻め落とせる、ましてやなぎさの件でカジュエンダーというロボットまでしっかり用意したんだ」
「では貴方は世界大戦をするつもりですの?」
「いや、大戦にならないように早めにシスタギガントで踏みつぶしたりして片付けるという話をしているのだが」
「ではこのままなぎさの頃まで時系列を戻しましょう……ああそうそう、何やら不思議なことを聞いたんですよね」
つばめはなぎさが戦隊を欲しがった時期と同じ頃、戦隊絡みでおかしな出来事が起きている。
最近店に来るようになったうてなのクラスメイト三人、それが急に家に親戚のような存在が上がり込んで来てしかも周囲は最初から存在していたかのように認識していたという。
その親戚は……魔力戦隊サンマジカルを名乗っていた。
「存在しないはずの身内か、確かにそれは胡散臭い……お前達に匹敵するほどにな」
「実を言えば私達も疑われたものですよ〜、田中さんか貴方が何か手を出したのかと思いましたよ」
「私が何故顔も名前も知らん奴らの身内になりすまして戦隊を用意せねばならん、それに忙しかったしな……パンタノペスカこそ何かしたのものじゃないのか」
「…………さあ?突然知らない人間が増えることなんて私の時代ではありふれてますので」
「どんな未来だ……」
最後に柊どれみ、ロードエノルメというかエノルミータとしては突如裏方として入れろと言ってきただけなので大したことはないが、元より裏方として扱う気はない。
静電気を用いたスタンガンパンチ、更に魔法以前の未知の技術……興味深いことは山ほどある、戦闘員として使う価値はいくらでもある。
そして……柊つばめの謎の収入源、それを調べさせてほしいというのがどれみの願いだった。
「魔法以前の技術を知ってることはこの際驚かん、どれみのあれはなんだ?」
「フィラデルフィア計画というものをご存知ですか?磁場実験の失敗が起きた悲劇……という都市伝説、アレの力ですよ」
要するにだ、柊どれみは技を使っているときだけ電磁石の何十倍ものの電力を溜め込み放出する……人間テスラコイルにでもなったというべきか、元より魔法以前の特異な力は人間を異なる物体に『当てはめる』ことによって成り立たされている。
つまりは憑依術に近いらしい、安全性を考慮して現在の魔法が生まれたとか。
「大昔の火や氷の魔法は、別次元からそれに近い元素を召喚して発動していたといわれています、アレに近いものが何故か我が家に沢山ありましたわけで」
「それら全てをエノルミータに提供するくらいは出来るだろう?」
「ええ、どうせ私もあまり使いませんし」
「貴方本気で?」
「何か?柊家の平穏さえ守れたらそれでいいんですよ、私は……」
カードをしまい、鍋をパンタノペスカに押し付けてつばめと話をする。
自分に対して好意を持っているということは、ある程度は無茶振りや我儘を一番面倒な相手にある程度融通が利く。
気になることはやはり、柊つばめが隠し持っている能力。
「柊どれみにスタンガンパンチを教えたのはお前だろう?お前自身も何か使えるはずだ」
「そんな大したことは出来ませんよ、本に書いている中で私が理解できたのが人間のテスラコイル化ぐらいなので……」
「その……仮の例えになるが理論上は人間をストーブにしたりクーラーにも出来るんだな?」
「恐らくになりますが」
つばめは田中に遠慮なく人間のテスラコイル化……通称『電法』を教わっていく。
遠い歴史を巡っていくと過去には呪法使い、召喚法使い、電法使いなど時代に合わせて様々な物が存在したが現代の主流によって召喚法使いを軸に現在の『魔法少女』が生まれたようだ。
だがパンタノペスカは浮かない顔をしている。
「電法が廃れたのは不十分だったから……更に危険が高いからですわね?フィラレルフィア計画はわたくしも知ってますわ、テスラコイルによる実験後帰還した駆逐艦は乗組員の一部が内部と融合した凄惨な光景だったから」
「私が読んだ本だと電法少女の戦いで犠牲になったと書いてありますねー、テスラコイル自体を題材にしたマンガもありましたっけ……電力を利用した空間の超越、転移……たとえばこんな風に」
つばめが指の先から電流を伸ばして爆発させると、軽く渦に飲み込まれたかのように姿を消し……たかと思えば田中の尻を撫で回していたので鉄拳制裁。
しかしこの瞬間、この能力の真意に気付いた。
電法とは……人為を超越した究極の移動能力、簡潔に言えばワープ機能である。
「まさか……どこまでも自在に超えられるのか!?」
「うーん……どこまでもはちょっと難しいかもです、パンタノペスカさんもですが空間を超えるって結構痛いんですよ?」
つばめは慣れているのか笑いながら言うが、パズルのピースがハマったかのように結論が埋まっていく田中からすればそれどころじゃない。
口ぶりからして柊つばめはどれみに電法のことをちょっと電気を操れる程度にしか教えてない、ワープ技術を独占している……どこからともなく現れてストーカーみたいなものをしているのもこの力によるものだ。
ワープならどうやって稼ぐかも推測できる、裏の世界での密輸や遺棄……都合が悪ければ相手を別次元に放り込むことも出来る。
そしてリスクがあるように語っているが……恐らく遠くまで転移すると身体が傷ついてしまうのだ、つばめの全身のように……!!
それでも尚……ロードエノルメには転移能力が必要だった。
つばめを懐柔すればこの力が自分のものにできる……!
パンタノペスカがその様子で焦りを隠せているのもそれを増長させる。
「おい柊つばめ、2つほど言っておきたいことがある……ヴェナリータはお前達姉妹を完全に鬱陶しく感じている、マジアベーゼにどれだけの期待をしているかは分からんが……」
「まあ、彼女達六人が不要に感じる気持ちはわからなくもありませんわね、貴方達は……」
「だが、逆に私はお前達に深い興味を抱いた……知れば知るほど世界征服に役立てるものを知れる、唯一の問題はマジアベーゼが私の計画に関心がないことだが些細な問題だ」
「えっ、ちょっと……田中さん?」
なんとしても柊つばめを我が物にする、いつの時代も移動権を手にしたものが世界を制したものだ。
たとえそれにどんなリスクがあったとしても技術だけ覚えてエノルミータの部下たちを利用して安定性が得られるまで使い潰せばいい。
「お前、私の女にならないか」
自分の心に嘘をついても、言葉に真実味がなくてもいい。
……柊つばめを総帥夫人にする、そうすれば電法の力を独占することが出来る。