「じゃあこの人達みんなほむらちゃんのお姉ちゃん!?あっ、もしかして同じクラスだよね!あたしは花菱はるか!公園でよくほむらちゃんと遊んでるの!」
「あっ、ああ……その、柊うてなです、なんというか……ほむらがお世話になったみたいで……」
「おいほむら、まさかあたしらの話こいつにしたんじゃないだろうな」
「……だめでしたか?」
「いやいいってほむほむ、こいつが余計なことを気にしすぎなだけだし」
「あ?インフルエンサーがその程度のネットリテラシーでどうすんだお前」
ちょっと話すだけでこの姉達は自由気ままだ、本質がアレなのもあるがグイグイ絡んでくるので唯一ボソボソ系陰キャのうてなとしては心臓をプロレス技で締め付けられるような思いがする。
そもそも彼女たちが陽キャなのか?という疑問はブラックバスの餌にして食わせておけばいい。
とりあえず今は登校中であることを思い出してほむらを引っ張って学校に急ぐ。
「いいから姉さん達は高校・大学・会社に早く行きなよ!!もう遅刻しちゃうから!!」
「つーわけだから行くぞうさぎ」
「あっちょっと姉さん誰か運んでくださいよ……じゃあなぎさ」
「私かよ!?そんじゃあまぁ、また暇な時に会いに来るから!」
「来なくていいから!!」
ようやく散り散りになった姉達、なんだって今日は急に自分に絡もうとしたのか……いや考えすぎかもしれない。
ほむらだっているし皆ほむらが好きなのはわかる、自分が突然悪の女幹部になったことで神経質になっているだけだろう。
改めて本格的にバレた時が恐ろしい……そんな気持ちで授業を受けて何事もない生活を送り……。
少し歩いたところでようやくつばめは目を覚ます。
なぎさは高身長の成人女性を担ぎながら若干遠い高校まで走っていたのでヘトヘトだった。
「やっと起きた!?もうつばめ姉ちゃんのせいで遅刻じゃん!!」
「おっとすみませんねなぎさ、この辺りで下ろしてくれていいですよ」
「ああ重っ!この分はツケにしてね戦隊グッズで!それじゃあ行ってきます!」
交差点でつばめを下ろして大急ぎで高校に向かっていくなぎさ、大きく背伸びをして自分の城でもある大衆食堂『ひいらぎ』まで徒歩で数分歩きボロボロの引き戸を開ける。
定期的に掃除はしているが古臭い、つばめが言うには時代を感じて風流のある内装の埃を払い厨房の下ごしらえを済ませて鳥の骨と唐辛子とゴボウを鍋に沈めてヤバい料理を作り……双眼鏡でうてなの学校を監視する。
「おっ始まりましたか」
つばめは以前からうてなとほむらをスト……観察している、店がガラガラで暇を持て余しているからこそ出来る芸当だが今回はちょっと事情が違う。
SNSでもいつの間にか名前が生まれていた『マジアベーゼ』トレスマジアの敵ということを考えると秀逸な名称だし、うてなも自然とそれを名乗らないといけない気がしている。
「本当にやらないとダメなんですか……」
「ボクの気分次第で君のその姿を妹に見せつけることも出来ることを忘れないように」
「いやあああそれだけは本当にやめてください!!ほむらにっ、ほむらに見られたら私生きていけません!!」
と、こんな流れでヴェナリータに酷い脅しをかけられて放課後にマジアベーゼとして出撃することになってしまった、闇の魔力を感じ取ってすぐにトレスマジアとの戦いも始まるだろう、認識阻害の力は凄いものでぐっと意識してみても変身後の姿は妹とはかけ離れた……まるで赤の他人のように感じてしまうが気合でデッサンする、顔までは分からないがマジアベーゼを描き上げて店に貼り付ける、一見するとお尋ね者注意みたいになって店にあっても違和感がない。
「うーんそれにしても……いけませんねぇあの露出度、胸なんて殆ど隠れてない、実はそれなりに発育がいいことがバレてしまいますねぇ、あらやだうなじも背中も丸出しですし……おーっと鼠径部!!あそこまで大胆にあーいけませんいけませんいけませんいけません」
「もしもし警察ですか?飲食店の中で傷の多いおばさんが盗撮しているのですが……」
そして遠くからでもしっかりと視線を感じるマジアベーゼは嫌なオーラを感じて嫌々ながらもトレスマジアと戦う。
推しを傷つけたくない、汚したくないのに逆らえない、その為自分は極力関わらずにモンスターと戦わせる。
マジアベーゼの魔法は鞭で叩いたものに魔力を込めることで眷属を作り出せるものらしい、初めて戦闘していた時も近くの花壇から植物の怪物で応戦したものだ。
「えーと使えそうなもの……使えそうなもの!」
マジアベーゼはズボンのポケットに手を突っ込んでどこかのネコ型ロボットのようにガラクタを取り出して使えそうなものを探す、しかし陰キャオタクの懐にあるものなんてたかが知れているのでとてもモンスターとして使えそうなものは出てこない。
ヴェナリータはガラクタを手で抱えながらうてなに返す。
「別になんでもよくない?早くしないとトレスマジア来ちゃうよ」
「ダメです!!なぎさ姉ちゃんも言ってたんです怪人のコンセプトは拘れって!〇〇獣とか〇〇人とか!大体エノルミータって色々怪物あるのに名前とかないんですか!?」
「変なところに目をつけるんだね君は、そんなに気にするならうてなの方で勝手に名付けていいよ」
「え?いいんですかそんなことして……うーん、名前かぁ」
「まあ余裕があればの話だけどね」
「あっ」
長考している暇なんてない、自分達に余裕はなくついにトレスマジアに囲まれる。
ピンク色で王道チャーミングなマジアマゼンタ、冷静沈着、大人びてセクシーなところもあるマジアアズール、おっとりとしているが奥底に情熱と力強さを感じられるマジアサルファ。
トライアングルで囲まれるようにしっかりと包囲されて逃げ場なし、押しに囲まれるなんてそれだけで死ねるが今はそれどころじゃない。
「昨日は随分やってくれたが今日は同じようにはいかんで」
「あわわ……と、とりあえずこれでいいや!!お願い!!」
いつまでも待たせてはいけないととりあえず適当なものを拾って鞭で叩く、どうやら上手く見えなかったがアロマキャンドルか何かだったらしく巨大な蝋燭の怪物が誕生した。
この時もつばめはしっかり見ているし、うさぎを始めとした大手のインフルエンサーが我先にとバズるために見えないところから呟いたり撮影してトレスマジアの戦闘風景が人々の元に届けられる。
まだ無理矢理戦わされているマジアベーゼは抵抗があり怪物の後ろに隠れるが、3対2では分が悪く逃げようとしてもすぐに追いつかれてしまう。
(……この子、戦おうとしない?初めて会った時もあまり積極的に戦おうと……いや今はこの怪物をなんとかしなきと!)
(私は……私は一体どうすれば……わざとクビになる?いやそしたらヴェナさん間違いなく私のあれこれをバラそうとして……ああ!)
揺れ動く魔法少女と幹部の深層心理と連動するように蝋燭の怪物はドロドロと少しずつ溶けていき、溶けた蝋を飛ばしていき避けていく、しかし戦闘している場所は公園のすぐ近く、撮影のために次々と人が集まっていく。
市民を避難させようと視線が誘導したその瞬間蝋燭が炸裂、魔法少女達の靴から膝下まで蝋で固まってしまう。
蝋燭モンスターがゆっくりと迫り、垂れてくる蝋が顔にべたりと張り付く。
「あッッツ!!」
思わずサルファも素が出て叫ぶ、SMに慣れてる人でも蝋燭はキツイので仕方ないが乙女の綺麗な柔肌に容赦なく焼けたばかりの蝋が垂れてぽたりぽたりと身体に張り付いてくる。
マジアベーゼはその姿を見守ることしか出来ない、今自分は推しにとんでもないことをしているはずなのに……目が離せない、昨日鞭で叩いた時もそうだ。
(なんで?私は魔法少女にこんなひどいことをしているのに、苦しめてるのに……なんでこんなにもドキドキするの?)
胸が高鳴る、目が離せなくなる。
蝋人形に変わっていくトレスマジアの姿が愛おしく感じてしまう、苦しむ姿を見てどうしてこんな気分になるのか分からなかった。
だが即座にマジアベーゼは現実に引き戻される。
観客の中に紛れていたのは……!!
「ホムャアァァァ!!?ぎゃあああ!!?」
ほむら!なんとこの教育に悪い醜態を可愛い妹が観察しているではないか!!こんなものとても見せられないマジアベーゼは焦りに焦って鞭で蝋燭モンスターを縛り上げながら大急ぎで空を飛んで徹底していく。
「し、しししししっ失礼しますううっ!!」
この土壇場で逃げ出すなんて信じられないだろう、トレスマジアもそれを見ていた人たちも……何が起きたのか分からない、見逃したという素振りでもない。
しかしヴェナリータはしっかり逃さずワームホールのようなものを作成してマジアベーゼを吸い込んでいった。
「なっ……消えるとはなんてド定番な、悪の組織は別次元にあるとでもいうのですか?ううん……あの格好がスケベすぎると抗議したかったのですが……あれなんでうちの店の近くにパトカーが」
その一方でずっとこの光景を見ていたつばめも試練が待ち受けていたのだがそれはまた別の話。
なおインタビューを受けた関係者の次女、柊かなはこの件に関して『姉は定期的に妹を良くない目でみてました』と供述しており……。
そしてマジアベーゼ……うてなは変身を解いて真っ暗な空間に落とされる、スポットライトが当たって自分がよく分からない場所に落とされたことに気付く。
「あれ?ヴェナさん?ここは一体どこですか?」
「ナハトベース、別次元に存在する彼女達の真の拠点だ」
「拠点!?ということはここって……」
「ああ、皆君のことを待ちかねていたよ」
ヴェナリータの発言と共に一斉に闇が晴れていき、自分がまるで裁判所の証人のような場所に座らされて……その奥にはこれまた露出度の高い5人の美女の絵画、全員が見覚えがないが恐らく同時期に自分のようにスカウトされた精鋭だろう、本人じゃなくて絵なのは忙しいからと見た。
そして真ん中で玉座に座り、真っ黒な髪で大人びた女性がこちらを見下すように眺めている、恐らくあの人がこの場所のトップ。
「改めてようこそ、エノルミータへ」
「……あ、あのー、私まだ本気でこの組織に入ろうと思ってるわけではないというか、人聞きの悪いこと言うつもりはないのですけど、ヴェナリータさんに脅された形と言いますか……」
「……ヴェナリータ、こんな奴がお前の期待したものか?つい先程の戦闘を見物したが酷いものだ、自分から積極的に戦わない、作り出す怪物に決定打はない、しまいには突然の敵前逃亡……お前は一体何がしたい?」
「何がって言われても!!見られたくないんですよ可愛い妹にあんな姿!!いえっ私のせいではあるとはいえ!!一応ほむらの前ではちゃんとしたお姉ちゃんでいたいんです!唯一の妹だから!」
「認識阻害についてはヴェナリータから聞いているはずだ、身内がどうとか気にしている暇があれば世界征服の為の作戦でも建てろ」
「え?エノルミータの世界征服ってアレってガチのやつだったんです?」
正直なところ、うてなも魔法少女オタクではあったが敵勢力であるエノルミータの目的に関してはわりと不明瞭だった、毎度のように怪物が現れてトレスマジアを撃退する流れ……ヴェナリータに出会った頃も含めて最初は全く異なる次元の存在が人間を支配しようとかそういうシナリオとばかり思っていたが、こうして実態を見てみれば偉そうなことを言っているこの総帥もほぼ自分と同じ人間ではないか。
もしかしたら変身前は認識阻害でそう見えただけでトレスマジアは以前から分かってて同じ人間とも戦ってたかもしれないと思うと夢がなくてため息が漏れる。
「……それでえっと、総帥さんって多分何かしらの私の姉さんと年近いですよね?下手したら30近くか……そんないい歳越して大真面目に世界征服とか言い出すの正直みっともないと感じるんですよね」
魔法少女との戦いを夢見ていたうてなにとって、あまりにもしょうもなくて見るに堪えない現実、ファンタジーな世界において現実的で虚しいのが黒幕が人間という存在だ。
エノルミータを見て怖いところもあったが……。
「なるほど、話すだけ無駄だったようだな……貴様は不要だ、というか今すぐ殺してやる、最後に一つだけ言っておくが」
「うわっ」
「私はまだ20歳だボケエエェェ!!!」
総帥はうてなの態度に激昂し怪物が現れてうてなを丸ごと包み込む、同じ魔法……しかし、マジアベーゼと違い媒体を介さず無から暗黒の化け物を自在に作り出すことができる、そして不要な存在を容赦なく消し飛ばせるその技量……。
「お前らもこの屑みたいになりたくなければ身の程を弁えることだな」
「油断しないほうがいいよ、まだ生命反応がする」
「時間の問題だ、いずれ餌となって心臓の鼓動も潰れ……何!?」
「なんのこれしき!!!」
しかしマジアベーゼはここで止まらない、突如しゃぼん玉が膨らんだかと思えばバリアのようにマジアベーゼの体を包み込んでおり怪物を全部跳ね返す。
うてなにはトレスマジアの戦闘を見てきた実績がある、その為
「マジアサルファのバリア魔法を見様見真似でやってみましたが……上手くいくものですね、ありがとううさぎ姉さんのくれたガラクタ」
「なんだと貴様……しゃぼん玉!?その程度で私の眷属を突破したとでも言うのか!?」
「えっと改めて……ヴェナさん、1つ聞いてもいいですか?どうして私だけを……というか私を雇ったんですか?」
「何が言いたい?」
「私って七人姉妹なことはヴェナさんから聞いてませんか?」
「聞いてないというかめちゃくちゃキャラ濃いなお前、だが要するに姉達のほうがよほどエノルミータの素質があると?」
「つばめ姉さんは年齢的にアレでかな姉さんはこれ以上働かせたらマジにお亡くなりになってしまうとして……うさぎ姉さんどれみ姉さんなぎさ姉さんは興味湧くしやると思いますよ」
「君の妹は」
「ほむらは絶ッッッ対ダメです、変身させてくれたのは嬉しいですがどうしてそこまで?」
うてなに問い詰められてヴェナリータも少し首をひねった後、突然手元から紐が伸びてきて引っ張ると小学校の授業で作るような雑な映像がマジアベーゼ達の目の前に、そこで紹介される柊家と『悪魔』と呼ばれる伝承の話……。
七人姉妹のうち一人どこかに悪魔に繋がる鍵がある、だからこそ自分は選ばれた、世界の命運はこの存在にかかっている以上トレスマジアよりも先に掴んでおきたいというものらしいのでうてなは呆れてしまう。
「ヴェナさん……悪魔のこと信じてたんですか?柊家は確かにワケありですがあんなものただの都市伝説ですよ」
「それはどうかな、ボクはとても絵空事のように感じられない、魔法少女はいるだろう?ボクらは悪魔みたいにも見えるだろう?」
「そうはいっても……私にこだわる理由はわかりましたがエノルミータでどうすれば?」
「それは君次第だ、改めて紹介するけど彼女がエノルミータ総帥ロードエノルメ20歳、君からすれば痛い人かもしれないがれっきとした権利者で既に何人ものの魔法少女を葬り去っている」
「……というよりは、魔法少女の討伐任務の際にこいつに呼ばれ幹部を何人か連れて帰還したが!こんな!!こんな!!!」
「はいはい君もそんなキレたりしないの」
「……こ、この人が総帥?それにハタチってうさぎ姉さんどれみ姉さんと同い年か……」
「こんな世迷い言のためにこんなやつを幹部にするとは……もういい、お前の顔を見るのも嫌になってきた」
ロードエノルメはさっき引っ張ったヴェナリータの紐を利用してもう一回引っ張るとマジアベーゼの真下に落とし穴が出来て綺麗に落下、嫌な予感がしたので咄嗟に変身解除すると落ちてきた先は柊家のダイニングテーブルだった。
なお、テーブルでかなが寝ていたので腰にうてなのケツが綺麗に直撃する形となり、文字通りの魔女の一撃が走る。
「アッ!!」
「あっごめんなさい!!ちょっとワケありで……って、かな姉さんこんな時間から帰ってるなんて珍しいね」
「はぁ……姉さんがまたほむらを盗撮してたとかで警察のお世話になってたんですよ……だから今日は私が料理しますね……」
「またお店から私達観察してたんだつばめ姉さん……心配性なのは分かるけど変態一歩手前だよね」
「うてな、貴方は人の事言えるんですか?以前から度を越した魔法少女推しなのは大目に見てますが最近は性欲を向けていることは知ってますよ?」
「そういうかな姉さんだって体臭フェチじゃないですか、どれみ姉さんの使用済みパンツの匂い嗅ぐのやめてようさぎ姉さんドン引きしてたよ」
「そういううさぎだってエグいパンツコレクションするのが趣味ですし、どれみはキュートアグレッションキメてますし……なぎさは言わずもがなですよね、だってマスクで顔の見えない人間に興奮してるんですよ……」
「もしかして柊家って悪魔かどうかはあやふやでも変態ばかりなのは否定しきれないのでは……」
「くれぐれも全員でほむらが私達みたいにならないのうに善処しましょうね……うてな、疲れたので晩御飯の支度手伝ってください」
「いいけど……晩御飯何?」
「本格中華の麻婆豆腐」
「疲れてるんだよね!!?」
うてなとかなは重い腰を上げながら晩御飯の支度をすると、うさぎとどれみもちょうどほむらを連れて帰ってきたところだった。
つばめも慣れたものなのでのらりくらりと警察をかわして合流するだろう、それまでには麻婆豆腐を完成させておきたい。
「あのー姉さん達、自分と同い年の女の人が世界征服目指してますって派手な格好して宣言したらどう思う?」
「ネットのおもちゃにする」
「今回ばかりはうさぎに同意して一緒におもちゃにする」
(何が何でもあの人にこの二人は出会わせないようにしよう……というか総帥って、エノルミータ以外だと何してるんだろう、かな姉さんみたいに働いてるのかな?それとも同じ大学だったりして……)