時を止める……というよりは封じ込める財布。
この中に時間を入れることで実質明日を迎えることは出来なくなり、認識できないが実際は同じ日付のまま日々を過ごしているということになる。
しかし当然、学力のないかなが完璧なものを作れるわけもなく……しっかりとした説明が入る。
「堪忍袋の話は知ってますか?あれと同じ原理で溜め込みすぎると封印された時が一気に放出されて大惨事を巻き起こす……その為に財布をちょっとずつ開けて時を戻してるんです」
「最大でどれくらい貯められるの?」
「100年です、つまり許容オーバーなので……今は1日ずつ開放しては溜め込むの繰り返しです」
「なんやそれ!?そんなん時を止める魔法として本末転倒やないか!」
「実際そうですよねぇ……だからこうして堂々と人に見せられるわけですが、これ以上に時間を止められる技術は、私の頭では思いつかなかったわけなので」
確かにこれは失敗作だ、クロノス・シンジケートに居座り続けてもこれ以上に優れた時を止める装置は開発できないと判断したのも出ていった理由だろう。
しかしクロノス・シンジケートは変身術で作り出したかなの虚像とはいえ、自分が抜けたことで大困りしていたことを伝えると頭を掻く。
「ちょっと適当過ぎましたかね……分かりました、私の不備で仕事が出来なくて困っているのならその場でなんとかしなくては……後、これもうてな達に伝えなくては」
「え?」
「……ほら、うてな達は許しましたが、ほむらの件もありますし……何か抱えたまま家族だけで過ごしていくのも限界があるだろうって、いっそのこと我々のこと全部話してしまおうってわけです」
「ああ、だからウチらにも堂々と話したわけか」
「うてなとは仲良くしてくれてるので、あとほむらにも……それにしても、一緒に泊まるようなことになっちゃって……」
「い、いえいえ!つばめさんが電法で送るなんて言い出されたら帰るに帰れないですよ!!」
「ま、それもそうですか」
ということでよく分からない慰安旅行に巻き込まれるのも悪いのでロッジ近くでテントを張ってもらい寝袋を使うトレスマジア3人。
その時は色んなことがありすぎて眠りについたが……その翌朝、普通に目が覚めて改めてすぐ帰る準備を整える。
「あの……今日は巻き込んでしまってすみませんでした」
「いいよ気にしないで、あたし達の方からそっちに来たわけだし」
「柊さんこそ……かなさんが全てつつみ隠さず話すと言ってたけど」
「大丈夫ですよきっと、ずっと姉妹仲良くやっていけましたから……これからもずっと」
自分がエノルミータにならなければこんな修羅場にはならなかったのか?いいやそんなことはない。
変身術について知っておかなかったら遅かれ早かれ、ほむらは同じ事をして何も分からないまま突然死して、深い絶望に包まれただろう、わかだまりもなくありのままになることで生活していけるだろう。
「あっ……その、えっと最後に……ほ、ほむらちゃんは大丈夫?」
「あっうん!昔みたいに大人しくなったから」
(それいつ来るか分からん寿命に怯えてるか、あるいは老人と自覚して動くことも怖くなったんやないか?)
薫子はツッコミを入れつつ後にする……改めてクロノス・シンジケートが復帰するので、また警戒しなくてはいけないところだが抜かりはない。
実は彼女、ほぼ徹夜しているので目が凄いことになっているが真夜中はるさめ達が寝ている間にパソコンを奪い、トレスマジアの名義でクロノス・シンジケートに入るためのIDを作成していたのだ。
黒い切符は使えないので過去には行けないが、時間さえ越えられるようになればいつでもクロノス・シンジケートに侵入できる、彼女たちの慰安旅行が終わる頃には壊滅しているくらいになればいいが。
まあ、柊かなにとっては知ったことではないが問題はあの時を止める財布だ……本末転倒で意味がないとはいえ封印したほうがいい気がする。
「ヴァーツに言って財布を差し押さえるか?あの手のやつはウチらが騒ぐより専門家に見てもらった方がええ」
「そうね……ひとまず今は時を超えられる技術を教えてもらうためにもパンタノペスカさんに会わなくては……」
見えないところでトレスマジアに変身して空からパンタノペスカを探そうとするが意外とすぐに見つかった、未来の技術を欲していることぐらい分かるのだろう、未来人だから。
「随分と遅かったので心配してましたのよ、一体どこをほっつき歩いてるのかと思いましたわ」
「あーすまんすまん、ちょっとマジの野暮用でなぁ」
「エノルミータやクロノス・シンジケート以外にも各地に悪者はいるみたいで……」
「誘拐事件が……」
「そういうものは警察に任せておけばいいものを……何か珍しいことでもありましたの?」
「ええ、クロノス・シンジケートのこととか……電法を覚えた田中さんのこととか」
マジアマゼンタは全て話した、電柊姉妹の騒動にクロノス・シンジケートの揉め事や真実、柊ほむらや変身術のこと……だが、パンタノペスカは話の途中で顔をしかめて冷や汗をかく。
電法……田中が電法を覚えてワープしたという話だ。
「電法で……あの方がワープして……なんと?」
「ええ、なかなか扱いにくい技術だそうで少し移動するだけでも身体が傷ついてしまって、すぐ直したけど傷跡が残ってしまって……」
「その傷跡の場所は!?顔なのですね!?」
「え、ええ……確か目の辺り、顔の半分!」
「ッ……!!は、早すぎる……この段階でもう既に!?」
「どういうこと?まさか未来で田中さんに何か……」
「……いや、どうすればいいのですのコレ、これネタバレとかしていいライン?いや私がいる時点でわりと似たようなものとはいえ……あーやっべ」
露骨に焦り出すパンタノペスカ、何か様子がおかしいと思いパンタノペスカの頬を掴む、だが変身術の類ではなく頬は柔らかい……いや、柔らかいのだがまさにお餅のように信じられないくらい伸びる、手で伸ばしてそのまま叩いてラーメンが作れそうだし伸び切ったまま戻らず美少女顔が台無しだ。
「ギャッここまで伸びるのかよ」
「な……なにこれ!?まさか変身術……にしては変!!」
「……ま、まぁどこかでバレる気はしてましたがこんな早いとは、というかもしかして全く進んでない!?」
「それはまあ、時が止まってますので」
「時が!?……はあ、とりあえず一言、私は未来人ではありますがパンタノペスカというのは嘘です!まあ、未来でパンタノペスカという魔法少女がいることは事実なんですが名前と身体を借りただけといいますかね」
――
そしてロッジ内はほぼ姉妹で独占されて?これまで抱えてた秘密を全部公開しちゃいましょう会が始まっている。
ほむらは一周回って生まれたての小鹿みたいにプルプル震えており、改めてつばめの旦那?の田中も堂々と参加する。
問題ありまくりな連中とはいえ、ここで全部知っておけば楽になるからだ。
「あーもう、抱えてる秘密つってもなぁ」
「仕方ないだろうさぎ、これ以上なんか隠してたら一生ヴェナリータになんか言われるぞ」
「つーか、元はといえばほむら誘拐したのそのウサギ野郎じゃん、わたしは許さんからな」
と、先陣を切って秘密を打ち明けたのはかな、しかしまあこれはトレスマジアにも言ったことそのままなのでほぼ省略するがプチサザエな時空を過ごしてきたと知らずに生きてきた田中は少しゾッとした。
「この日ほどお前の頭が悪くて良かったことはない、つまり私実質ほぼ120歳ということにならないか?」
「ははは!全員ババアじゃん!」
「100年コツコツ溜め込んできましたからまあそうなりますよね……ああそうそう、ここから先はあの子たちにも言ってないことなんですがね、これを」
かなが風呂敷を広げてばっと落ちていくものを見て腰が抜けた。
財布だ、あの財布が何個もある。
1つや2つじゃない……何十個も売れ残りみたいに!!
「あっははははは!!!ハーッハッハッハッ!!!出来は悪いですが1個しか作れないわけないじゃないですかバカがよぉ!!ちゃんと量産体制に入ってさぁ、エノルミータの力でガンガン増やしてその分貯金したんだよ!!いや、貯時か、はははは!」
正直になるために酒が入ったせいかテンションが高いかな、酒癖が悪いのはどうやら長女や三女並らしいがこっちとしては見ているだけで吐きそうだ。
これら全部に未来の時が貯蔵されている、そんなものデメリット関係なく完全なる時間停止……どころかむしろ好きな時に好きなだけ時を戻すことができる……自分の組織の力で!
「かな姉これどんだけ止めたの?」
「さあ……ヴェナリータさんに量産していいかって頼んだら500個くらいは作ってほしいと言われましたので……ここにないだけで800個作っちゃいました」
「はっぴゃくううう!?というと、1個で100年だから……全部で八万年分じゃないか!!そんなに時止めてどうするんだ!!ヴェナリータも500個もいらんわそんなの!!」
何個も同時解放したら時が進みすぎて寿命突破どころか転生何回してもお釣りが来る……どんな時の流れだと頭がぐるぐるしてきたがすかさずうさぎがフォローにはいる。
「心配ね〜ぞミッチー、宇宙の寿命は何億年とかだからまだギリ滅ばねー」
「そのレベルのスケールの話はしとらん!!待てよ……地球全土が止まるわけじゃないんだよな!?」
「それはまあ停止範囲は財布の周囲、広さでいえば私の街くらい……ああ大丈夫ですよ、街にも何個か置いてあるので向こうの時も……」
「そうか……シスタギガントのやつを最近見ないと思ったら、まさか時が動いたままの海外に!?」
そう、クロノス・シンジケートに喧嘩をする前のこと、ロードエノルメとして世界に宣戦布告して襲撃するように命令したのだがヴェナリータからの申告で魔力不足と言われて急遽撤退。
……したはずだが、あれからシスタギガントの姿を見ていないわけだがまさか攻め込んだ先の海外から帰れなくなっているのか……あるいは変貌先でとんでもないものを見たのか!?
「……地雷を片付けるのはまた別の地雷を片付けてからだ、次はお前だ柊うさぎ!」
「え!?次あーしかよ!?かな姉のインパクトに勝てるヤツいんのか!?」
「いたらダメなんだよあのレベルの奴がいたら!!お前とんでもないもの隠してくれたな!?」
常識的な反応をする田中がいないとこの会は破綻する、こんな話を聞いているのに眉一つ動いてないのだから全部打ち明けてなあなあにするつもりだったように見えるから恐ろしい。
後ろで見ているキウィ達も同じ反応をしている。
「でもさぁ、あーしの秘密なんてそんな大したものじゃないから安心しなよミッチー……そうだな、つば姉かな姉は知ってるもんな、あーしがアセクシャルってこと」
「は!?お前そんなデリケートな話題を双子の妹にも隠してたのか!?」
「でもまあ……確かに、それっぽいところはあったような?」
チャラチャラした見た目で派手に演出して、堂々とパンツを見せつけたりしていたが、性欲というものを一切感じていないというか本当に下着や胸もファッション感覚で見せつけているように演出して誘う素振りはないし、ナンパされたこともあるが大体かるくあしらっている。
確かに話としてはインパクトが弱いというか、田中が言うようにかなを超えちゃいけない。
「アセクシャルって確か性欲がないんだっけ?実際どんな感じなの?」
「どうつってもさー、別によくわからんのだよね無いって感覚、でも調べてみたら性欲ってエロティックなことだけじゃなくて単純な好意とかもないからさ、あーしがちゃんと皆のこと好きなのか不安なときもあったよ」
「そっか、だからつばめ姉さんは知ってたんだね」
「ええ、貴方がちゃんと妹達を大事にしてることはわかってますよ」
「……そうだよ!そういうのでいいんだ、全員が闇抱えてるわけでもあるまいしそれくらいのレベルの話でいいんだよ!」
「いやこれ本題じゃなくてさ、実はあーし貯金してたんだよね結構」
どれみが生活に不安を感じていたのだから、双子の姉のうさぎもチャラチャラしながら同じ事を思っていた。
そもそも金の消費量が一番激しく、かなの次に稼いでいるのがうさぎなのだが…うさぎの部屋から箱を取り出して、当たり前のようにつばめと田中の二人でそれを確認する。
中には集めて500万円くらい入っていた。
「貯金を始めたのはいつからだ?」
「高校生になったぐらい?ちょうどどれみもその頃にバンドしてたよな」
「ああ……売上を多少もらってはいたが、うさぎも貯金してたんだな……で、どんぐらいなんだ田中」
「インフルエンサーと考えるとこれだけ貯めたのは大したものだが……この7人姉妹を養っていくにはまだといったところか」
身体がボロボロの長女、ほぼ仕事になっているか怪しい次女……そしてこの三女、今後の生活で不安がある。
時間はいくらでもあるとはいえ……。
だが……田中は貯金を見て何か変なことに気付く。
「おい、この札束……高校生になった頃にしては質感が古すぎないか?いや、こいつが時を止めていたんだから実際はもっと長い時を過ごしているのはわかるが……10年くらい前に見えるぞ」
「まさかお前も変身術で年をごまかしてきたりして……」
「ねーわ!あーしはちゃんと二十歳でこいつと双子だよ!物持ちが悪いだけだっての!」
「まあ確かに……うさぎって結構物を大切にしないところありますし……」
「そういえばうさぎ姉さん、子供の頃はよくゴミとか拾ってましたよね」
「そうそう、だから一時期は姉ちゃんの部屋ってとんでもないゴミ屋敷だったんだよ」
なぎさが田中に古い写真を見せる、全部小さい頃のうさぎの写真らしくこの頃は化粧もしてないとうてなにそっくりだが、あまり見られたくない姿なのか現在の顔をしかめている。
「化粧してねえあーしとか、あんまイケてないからそれあんま見るなって」
「いやお前より写真の背景がヤバい、マジでガラクタばかりじゃないか」
田中が言うようにおぞましいほどのゴミの山、使えるかどうかも曖昧なとてつもないほどのスクラップの盛り合わせに震える。
何が使えるのか、何をしたらこんな拾ってくるのか不思議に思う、長女次女が掃除したのかあるいは……。
だが話の途中でうさぎがムカついたのか遮るように発言する。
「あのなぁ!あーしはゴミじゃなくて使えるものを手に入れてるだけだし、昔じゃなくて今もやってる!!」
「はあ!?」
「で、その金はいっぱい溜まってきたなーって時に無駄にしないようにフリマサイトとかリサイクルショップで売って換金してんだって、無駄にしてねーわけよ!」
「いやまず拾うクセなんとかしようよ姉さん!手当たり次第集めてるってこと!?」
「なんだったら私らが姉ちゃんから買ってたかのうせいも……」
「どうするよロードエノルメ様、非合法にひっかかる可能性あんじゃねーの?」
「まだ黙っていろ……私たちはいつでも奴を炎上させられる、脅しに使えると思え……」
こっそりとキウィと田中が耳打ちしながら喋りつつ、うさぎの弱みを握ってみる、キラキラした生活の裏では泥臭く汚い趣味と金が回っている……まあ、ドロドロした不倫がどうとかよりはとばっちりを食らわないだけマシか。
「ってか、あーしやかな姉よりつば姉だろ?」
「そういえば、電法で18歳から稼ぎ続けていたとか聞いたががその手段までは把握してないな」
電法による無茶苦茶なワープを覚えてから生活費がどこからか振り込まれるようになった……その秘密を知らなくてはならない、特に田中はつばめを利用する仲だから……。
大雑把にイメージするとするなら、密輸売買……あるいは何かしらの証拠隠滅。
樹海でもなんでも行き先を決めてさえおけば、確実に傷を負うことを代償に確実に仕事を遂行できる。
「田中さんは私の仕事、なんだと思いますか?」
「おおっぴらには言えないくらいの仕事だ、暗殺とか違法な取引とかそのあたりだろう」
「……正直に言えばそれらを引き受けることもありました、ですが、最初からそういった仕事が頻繁に来たわけではないんですよ?手際が良すぎて逆に怪しいと言われましたので取引は手間取りました」
「なるほど一理あるな、それで……軌道に乗ったのは?」
「あら、みち子さんならご存じのはずじゃないですか?……よくよく見てるはずですよ」
「私が……?あっ!!」
確かに身に覚えがある、裏で取引されて、金が多く貰えて、需要がありそうな……電法によるワープでどこからでも表れて多少胡散臭くてもいい、周囲に悟られないように目的のブツを渡しては撤退するという芸当が必要な役割……。
それでいて、世間から認知されない謎の……そんなの、すぐそこにいる。
何を求められているのかも……その答え合わせのようにヴェナリータが発した。
「つばめに金を振り込んでいたのはヴァーツを始めとした魔法少女の関係者だ、つまり彼女が運んでいたのは魔法少女の変身アイテム……人手不足なんて聞いてないが、まさか人間にあの仕事をやらせるとは思わなかったよ……」
「嘘……つばめ姉さんが魔法少女を作ってたって事?」
「とはいえ指で数えられる程度ですよ?トレスマジアが出来たころぐらいには見た目がおぞましいって引退しましたし」
「それでも、5人やそこらでも魔法少女という存在を作ってきたなら……相当な報酬は得られるだろうね」