「え……姉さん、じゃあうてなが悪の組織にスカウトされた時に心当たりが?」
「いえ、まさかとは思いましたが身元や住所なんか教えてませんし、来るにしてもそっちかぁ……って思ったりはしましたね」
「ヴェナリータ、つばめがスカウトした魔法少女は私が倒したか?」
「そうなんじゃないの?別に魔法少女もちょっとしかいないってわけじゃないし色々やってきたじゃないか」
「え?田中さんマジで魔法少女とやりあってたの?」
「お前ら、私がエノルミータの総帥である以前にエノルミータがどれだけ驚異的な組織かも理解してないな……元々私と他の幹部はこの街を離れて、何人か始末している……つばめが雇った奴も大方討ち滅ぼしたぞ」
「殺したんですか?」
「なんの言い訳にもならないが全部がそうではない、もともと我々の付き合いは悪の組織のビジネス的な関係だったはずだろう」
「いや……だからって姉ちゃんの前で言ってやることもないだろ!?」
「……仕事というものはそういうものですよ、彼女たちもそういった使命と責任のもとで戦った結果ですし、私に怒る権利はありませんよ、同類みたいなものですし」
「だからってよ……まあ姉ちゃんがそう言うならいいけど、なんかやりきれねえなぁ……でもあたし、そんな組織の裏方か……」
「どれみ姉さんは話すことないの?」
「ねーよ、あたしに関して言えばこの電法で必殺技作ってたのが隠してた秘密だしな」
柊どれみの中の秘密だけが唯一事前に解明されていた情報、魔法以前の技術……中でも柊家がよく使われていたのが電法と変身術。
更に家の地下には数多くの基本書があり、田中みち子がつばめに接触したのだから、ある意味ではターニングポイントともいえる。
電法もそうだが、ここにある技術を独占すれば……敵無しと思っていた。
この間にもルベルブルーメに調査を行わせている……ここ街の外、奪われてない未来の先がどうなっているのか……。
「うてなの秘密はエノルミータそのものだから省略でいいよね?」
「そうだな……むしろお前の秘密はこれから知っていく必要がある、ここまでの情報を持ちながら何故ヴェナリータがお前1人にのみ執着しているかは私も興味があるからな」
「は、はぁ……とすると、後はなぎさ姉ちゃん?」
ほむらに関してはもう完全になかったことにしているというか、下手に触れないほうが良さそうなのかもしれない。
……柊ほむら改め柊まどか、変身術で性質を作り変えて末っ子のフリをした母親、まだ認識阻害が効いているのかあるいは関わりたくないのか……どっちにしてもほぼ真相を無視していることが却ってケジメになっているのかもしれない。
だが田中みち子には関係ない、ほむらを連れ出して一人で壁ドンし答える。
「私としては気になるんだよ、お前のこと……なんで変身術を使ったのか私だけにでも聞かせろ、言っておくが私はお前の娘と結婚するんだからな、柊まどか」
「…………っ、あ、あの人が……先に捨てたのはあの人なのですよ!!私はあの人に従って、魔法少女アニメと同じ名前の女を5人も産んで、この家まで作って、ここまで尽くしてきたのに……」
「あの人というのはお前のソレか?」
「そうです……突然あの人が現れて、結婚まで申し込んできた……つばめ、かな、どれみ、うさぎ、なぎさを産んで、家を作り、苗字を柊に仕立て上げて、変な本を作り出した……」
「変な本?」
「貴方が電法と呼んでいるもの」
「はあ!?」
つまり、まどかが言うには逆。
電法、呪法、変身術といった類は後から魔法少女達の技術をパクったもの……つまりは価値観としても真逆になる、技術の始祖ゆえに不安定があるものではなく劣化コピー。
それが本当だとすれば一気に暴落するし……まさか、そうやって教え込まれていた?それにどっちが真実か分からなくなってしまう。
「私だって裏切られたのです!!つばめを産んでもかなを産んでもあの人は違うと首を振り……双子でもなぎさでもない……」
「求めていたのはうてなということか?」
「ええ……忘れもしない14年前、あの人は突然あの娘を連れてきた。そして確信した……最初からアレが欲しかっただけだと」
「連れてきた!?欲しかった!?じゃあアイツは……」
実子じゃない、それどころか……『その人物』は誘拐してきたことになる。
全部、全部虚像だった……?柊うてなには本当の家族がいた、赤子をその人物は奪い取って……姉たちは失敗作、しかしそれを誤魔化すために『柊』の姓をつけてこんな家まで作り、呪われた家族ごっこ?
つまり、目的は最初から『柊うてな』を手に入れること……だがそれはつまり、エノルミータが出来るずっと前から仕組まれていた?
悪魔……。
「ルベルブルーメ、予定変更だ……すぐに調べてほしいことがある、もしかすれば街の中に……『柊』という名字で10年以上前に赤子が失踪した事件が……あるいは家族ごと抹消されてるかもしれない!!」
柊家の闇は深い、というよりもおぞましい。
一体ヴェナリータが、そのすべてを作った男が……何をうてなに対してそこまでさせるのか?
「おい!!そいつは何者だ!!何故うてなにこだわる!!一体この家は」
「解らない……あの人のことは何も分からない!!私はただ言われた通りにして、私がうてなを手に入れるために利用されていたと分かって……構ってほしくて!!うてなの妹にまでなったのに……あの人はそのまま見捨てたの!」
「お前もお前でキモいな!!こんな奴から生まれて命がけで育ててきたつばめにはただただ同情だけはしてやる!!」
……これをうてな達が知らないままでいいのかもしれない、隠し事はなしといっても世の中知ってはいけないレベルの話題というものが存在している。
これはもう全ての前提が狂うのだ、自分の計画までめちゃくちゃになってしまう。
「いいか……絶対何も言うな!それを絶対にお前の娘たちに漏らさず寿命でくたばれ!!これ以上めちゃくちゃになったらもうどうしようもならん!!」
「で、でも……今更貴方達に何が出来ますの!?もっと上の概念に立っているのがあの方ですのに!!」
「そんなもの知るか!思ったより厄介なものを抱えているな……だが、何が出来るかよりは何が出来なくなるか考えてみろ」
「ないだろ!現状のお前ら家族の問題はヴェナリータただひとり!そいつが裏切ろうがなんだろうが、お前達姉妹の生活を脅かすような問題はないだろう!お前らはのうのうと暮らしていろ、10年以上もやってきたんだろう」
「そ、そんなこと今更出来ますの?そんな能天気なこと……」
「出来る、この私も傍から見れば能天気に世界征服という大仕事を大真面目にやっているのだからな……」
言うだけ言ってほむらの元を離れる田中、ロードエノルメとして生きてきて世界征服の為に数々の魔法少女を倒し、世界に宣戦布告して……下手したら大きな脅威も知ったが却って都合がいい。
それに、つばめに加えてほむらを懐柔させておけば姉達も余裕だ……柊家を手中に収め、世界征服を実現させる!
……問題は、ちゃんとその世界が存在しているかだが。
改めて元の部屋に戻る。
「田中さん……もしかしたら貴方、悪の組織もだけど魔法少女の才能もあったんじゃないですか?」
「バカみたいな事を言うな、私はもうそんな年じゃない」
……色々ありすぎて忘れてたが、まだなぎさの話を聞いてなかったが向こうも向こうで修羅場だったらしいのかとんでもない騒ぎになっていた。
上のバカ3人は完全に酔いが回っていたのかもう既にどれみのスタンガンパンチで沈んだ後であり、残されたうてながオロオロしている。
向こうも向こうでめんどくさいことあったらしい。
「ちょっと個人的な話をしている間に何があった?」
「うえっ、えっ、えっ、えっと……なぎさ姉ちゃん、なぎさ姉ちゃんが……とんでもなくて!!」
「はぁ……気にしないでください、このバカ3人が騒ぎすぎただけなんで、実はその、なぎさがな……あたしらに内緒で付き合ってるやつがいると」
「なるほど、確かに大したことないが大袈裟に騒いでウザかったと」
「まあそうなんだけどな?んで、さっきなぎさを問い詰めてみたらそいつがな、なんかの戦隊ドラマの中の人?だと」
「中の人じゃねーし俳優だし!その辺の扱い考慮しないとやべーんだって!」
「あーはいはい」
「ふむ、憧れの人物と親愛関係か……待て、それを隠していたのか?」
「違う、隠しといてって言われたの!」
なぎさは何もわかってないような言い方をして、ここにきて田中も本格的にめんどくせーという顔になりキウィに耳打ちして調べてもらう。
そう、柊なぎさはエノルミータ所属、それに加えて所属してから結構な月日が経っているので他メンバーもよーく理解しているのだが……なぎさ、姉妹の中で、エノルミータの中でもうどうしようもね〜ほどにぶっっちぎりでバカなのである!
学力でこりすに負けているようなやつは、話の意図も掴めるはずもなく……キウィが2秒で検索してすぐに分かった。
「ほらやっぱり、思った通りこいつ既婚者だぞ」
「そんなことだろうと思った」
「はあ!?き、既婚者だあ!?つまりあたしの妹は不倫に加担させられたってことかよ!?」
「ここに来て一番リアルな緊急事態が発生したものでリアクションに困るな……まあ、お前らなら簡単に解決する問題だ、ここに来て最低値だな」
「いやそれがさ……ちょっとごにょごにょ、あいつの身体がごにょごにょ」
「やっぱファンタジーに突っ込んでる!!お前まさか魔力悪用したな!!あーもう!!改めて扱いにくいなこの家族!!ちょっとあのバカ起こせ!!」
どれみとうてながなんとか3人を起こしてスタンガンパンチで黙らせてなんとか全員正座する。
いつの間にか田中はロードエノルメに変身しており、仕事モードだ……前々から仕事モードみたいなものだが。
この間に黙々と何かを書いて姉妹全員分に差し出す、しっかりほむらまで含まれている。
「アレってミッチーでいいんだよな?」
「そういえば私とうさぎ姉ちゃん認識阻害あるもんな……うん、見慣れてるから分かるけどアレしっかり田中」
「この姿ではロードエノルメと呼べ、そしてお前達は今日からロード団の尖兵となるのだ!!」
「ろ……ロード団?」
配られたものはまるでポイントカード、よく見ると手書きなのかしっかり書き込まれている。
ロード団の説明書なるものまである。
「待ってください総帥!!私もしかしてクビですか!?」
「クビじゃない異動だ!ロード団はとにかく私ロードエノルメに尽くしてエノルメポイントを貯めて、ポイントを交換して様々な恩恵に携わることができる!」
つまりロードエノルメに尽くすためだけに準じる部隊、それがロード団。
メンバーは柊姉妹7人のみ、仕事内容も世界征服に関わることはほとんどない雑用じみたもの、どれみは変わらないがアンチマスコット、トゥエルブ、マジアベーゼからしたら結構格下げになっている。
「私なにか酷いことしました!?」
「酷いことはしてないがちゃんとしたこともしていない!!お前は時が止まっているから忘れているかもしれんが……お前がエノルミータに入ってから3ヶ月だぞ!?」
「え……マジですか、うてなその間何もしてないんですか……」
振り返ってみると無理矢理エノルミータに所属してから、トレスマジアとは全然戦ってないしクロノス・シンジケートの件もほぼ動いていたのは田中だしトゥエルブの所属であっさり終わり、それ以降にやっていたことといえばなぎさのワガママに答えて、どれみの話を聞いて……慰安旅行行って、つばめが総帥夫人になることなって……。
そう、これまでの件ほぼ動いているのは田中であり自分はただコツコツと魔力を貯めていただけでこれといったことはやってない、性癖を多少開拓してダラダラして3ヶ月過ごしてたことになる!?
「い、いやいやいやちゃんと仕事してましたよ!?」
「仕事してたしてないはこの際良い!建前抜きにすればお前ら柊姉妹は組織で関わったらめんどくさいからロード団で隔離しておきたい!!」
「もしかしてあーしらめんどくさい奴らって思われてる?」
「もしかしなくても当たり前だろあたしら悪魔がいる姉妹だぞ……」
つまりはまぁ、本格的に関われないと遂に匙を投げられてロード団という名の窓際族送り。
しかしちゃんとエノルメポイントさえ貯めておけば色々なサービスがあるらしく、マジアベーゼの仕事はそのままだが相変わらずトレスマジアと戦わせてもらえない、そして肝心なのは柊つばめのポイントだが。
「エノルメポイントを100万貯めたら結婚式を挙げてやろう、それとひいらぎの売上をポイントに両替することも可能だぞ」
「やらせていただきます!!」
「てめぇコラ厚化粧ババア!!うちの姉破産させる気かボケェ!!今ここで財布空けて化石になって発見されたロードエノルメザウルスに変えてやろうか!!」
「お前ライン超えたな!!今ここでそのケツスパンキングして尊顔破壊してやるから覚悟しとけよ!!」
「トゥエルブもベーゼもそんなキレるな、0の位繰り下げさせろ稼ぎ期待できんから」
「どれみお前普段からこんな感じなのか」
「外食とかでいつか迷惑かけるんじゃねえかって不安に思うよ」
「お前もう結婚してこの家出たらどうだ……?」
「いや、んなことしたらマジでこの家どうなるか分からんぞ」
一応嫉妬心の塊で周囲にアンチも多い、暴力沙汰も頻繁に起こしているはずのどれみが一番ちゃんと受け答えしている。
しかしまあ結果はそうだ、3ヶ月といえば結構経っている。
それなのにうてなはニセの家族との生活に振り回された結果……キウィと親交を深めてない、こりすとはまあ仲良くやっている、ロコムジカとルベルブルーメをこちら側に引き込めてない、マジアアズールの覚醒も出来てない、ロード団との衝突はなくなった。
だがうてなとして何一つできていない。
いや、そんな決められた何かを必ずこなさなくてはいけないというのが固定概念で、実際はそんな事気にするのは野暮ではないのか。
田中みち子の狙いは……この問題児の中に一人、悪魔がいて、その悪魔を「柊うてな」に仕立て上げたい大きな動きがある。
そんなものを突破して世界征服を達成させておきたい、そんなロードエノルメの想いが込められている。
「ではみち子さんエノルメポイント200で今日は一緒に寝ましょう!」
「しまった姉貴は自分のことだと貯金出来ないタイプか!」
「普段姉さんが自分のことに使わないから全然気付かなかった!!」
……そして世界があまりにもおかしな状況に一足早く気づいていくのは、トレスマジアだった。
パンタノペスカを名乗る別の存在に連れてこられて向かった先は……ずっと先、背中に張り付いているとジェット機並みのスピードで一気に辿り着いた。
外は猛吹雪、ついさっきまでビーチで慰安旅行を満喫していた者たちがいたような真夏日を感じていたはずなのに……しかも、人の気配が全く感じられない。
「これは……ここはどこ!?」
「札幌、北海道と言ったほうがいいかな……正確には2426年の北海道、完全に人類はいなくなって札幌は危険区域として収容されてますわ」
完全に人気がなくなった北海道は、人が残されていた痕跡をかろうじて残しながらも雪に積もって……時代に取り残されたというか、文字通り丸ごとコールドスリープでもしていたかのように見るも無残にかわり果てていた。
絶望はしていない、あまりにもわけがわからない状況すぎて理解が追いつかない。
そして考えるまもなく……次の場所へ向かわされる。
「待って!!今北海道が2426年って言わなかった!?それってつまり北海道では400年以上も経ってることにならない!?クロノス・シンジケートの財布は100年だけ……」
「……ハメられたな、あいつは1個100年と言うとったが1個だけとは言っとらん!4個もあればアレは成立する!実際ウチらの世界は知らんところで400年以上も経過しとったんや!竜宮城から出た浦島太郎みたいにな!」
「ええ……アレは分かりやすい例として北海道に行ったけど……ここも」
「えっ……海?」
「四国ですわ、厳密には徳島県、香川県、愛媛県、高知県の4県が存在していた場所……でもそこにはもう存在しない、1200年も経てば無理もないけど」
「1200!?あの財布12個分とするなら……もう既にとんでもない時間奪われとる!」
「な……なんてこと、私でも分かったわ……クロノス・シンジゲートがつい最近まで知られず活動していたことも含めて……あの組織は世界征服をしていたんじゃなくてもう済ませた後だったのよ!!」
「ここまで仕組んでいたなんてわたくしも想定外……で済まされることでもないですわね、バカみたいでしょう?未来から来たという名目で現れてみれば、想像以上にとんでもないことになってたなんて」
隠されていた……というよりは言わなかっただけとでも言いたげな現実、ほぼ詰んでいた崩壊寸前の都市。
自分達の目の前には、ずっと社会の授業や地図で見て来たはずの四国地方は存在せず……どこまでも大海原が広がる。
その海も一部は凍結して白熊が歩き、鯱が跳ねている……まるで氷河期の前兆のように。
いや氷河期どころか、歴史という概念すら崩壊するのかもしれない。
街を出てから初めて時計を見た……364時3701分という、異常な数値を示していた。