「悪魔か……」
あれからマジアベーゼはというと、学生テンションでロードエノルメに失言してしまったことを今更後悔してエノルメにオシオキとしてパンツ丸出しで清掃させられるという醜態を晒されている。
改めて見る幹部たちもその姿を笑ったりすることはないが、引いたり同情したりする顔がある辺り珍しいことでもないらしい、総帥がここまで横暴な時点でエノルミータの未来は明るくないかもしれない。
しかし元はと言えば自分に責任があるのでベーゼは仕方なく掃除する、出来ることなら魔法少女と戦いたいが今はこの立場を受け入れる他ない。
しかし勉強としてトレスマジアとエノルミータの戦闘をテレビで視聴することは許可されてるので他の皆が頑張っているところを見せてもらえる。
問題は嫌がらせなのかロードエノルメがすぐ隣でポップコーン食ってることだ。
「お前以外の幹部格はもう覚えたか」
「まあはい、個性抜群すぎるしめちゃくちゃタイプでしたので」
「そろそろ反省しただろうと思って私が特別に戦闘以外の任務を用意してやった、ヴェナリータは悪魔がどうとか言っていたが私はそんな物関係なくお前を切り捨てるつもりだ」
「そうしてもらったほうがこっちとしてもありがたいので……えっと、資料とかもらえるタイプですか?」
ロードエノルメはマジアベーゼに特別任務を与える、これまた小学生みたいなパワポで構成された資料で説明に入ったので何か言いたくなってしまうがまた口にしたら今度はパンツもただでは済まなさそうなので必死に口をキュッと塞ぎ込む。
そんなことは露知らずロードエノルメは作戦指示書を見ながら任務を語る。
「お前、魔法少女には詳しいな?」
「それはまあ……10年以上は推してきてるので!」
「その反面エノルミータへの知識は薄い」
「嫌いではないんですけど……そっちはそこまで夢中になるものなかったので、メディア展開もしてないし」
「ふむそうか、世界征服の為にも我々を大衆に印象付けさせるのも課題だな……それはいい、ならばお前は知らないはずだ、『クロノス・シンジケート』というもう1つの組織のことを」
「クロノス・シンジケート……?ま、まさかトレスマジアの敵はエノルミータだけじゃなかったと!?」
うてなどころか世間のニュースでも名前が挙がったことは一度もない謎の組織クロノス・シンジケート。
トレスマジアが出向けばなんでもニュースになるこの国で名前が出てこない悪の組織なんてありえない、エノルミータの知名度も殆どトレスマジアありきなことを考えると名前が出てこない理由は一つしかない。
「もしかしてクロノス・シンジケートはまだトレスマジアと接触していないんですか?」
「その通りだ、水面下で細々と活動しているが目的は我々と同じ世界征服、その実態は分からないトップシークレットな存在だ」
「悪の組織と断言出来るのは?」
「奴らは表に出ないが以前からエノルミータに宣戦布告している、こちらとしても不穏因子は潰しておきたいが奴らは極めて慎重、動きを見せることも稀だ」
「……そんな得体の知れないものを新人の私に調べろと?」
「どうせ成果は期待していない、失敗しようが成功しようが現状は害がないからな」
つまり、何をするかも決まってないので適当にやれという今の自分の立場にふさわしい雑な仕事だ。
ある意味ここの清掃のような雑用と何も変わらない。
マジアベーゼは世界征服には興味ないがそういう文句を口に出すだけでもやっとな以上、己の立場や身の振り方も考えなければならない……資料を受け取りながらそう思った。
このままではトレスマジアに会うことすらままならないのでこの任務で何かしらの結果を見せなければ本当にボロ雑巾になってしまう。
しかしこの任務は予想外の道へと進む、資料代わりに見せてもらったエノルミータへの宣戦布告の手紙に違和感があり、その答えがすぐに分かった。
「えっと……総帥、いきなりですけどこの手紙見てくれますか?」
「どうした藪から棒に……字汚なっ!!だが同じだ!!クロノス・シンジケートから送られてきた宣戦布告の嫌がらせベーパーと同じ筆跡だ!!」
都合がいいことにうてなは同じような筆跡の手紙を持っていた、なんというかあまりにも都合が良すぎるのでロードエノルメもスパイを疑いたくなるがうてなとしてもマジで偶然としか言いようがないのでどうしようもない。
というか、うてなが異様に色々詰め込んでいるだけだ。
「この間も思ったがお前の懐どうなってるんだ……」
「姉さん達が扱いに困ったものとかゴミとか善意で渡してくるんですよ……マジアベーゼになってからはそれが役に立ってるんですがね」
「だが流れからして……クロノス・シンジケートの観劇者にお前の身内がいることになる、あと6人の中に」
「この字の書き方からして……次女のかな姉さんです、ブラック企業で朝から晩まで働き詰めで中々帰ってこない人ですがまさか世界征服に加担してたとは……」
「なんとも都合が良い……そうと分かれば柊かなを調査しろ!」
「私だって学校があるんですよ!?それに電車とか色々乗り次いでいくから皆追いつけたことはないんです!」
「尚更怪しい!何が何でも行け!無理言ってでも職場体験しろ!!これは総帥命令だ!!」
「ひいいい横暴すぎる!!わかりましたよなんとかやってみます!……その代わり支給してほしいものがあります、総帥の今履いてるパンツをちょっと貸して
ギャアアアアアア!!!!!」
この日、総帥室から会議室まで雪崩のようにエノルメの怪物が流れ込んできたことによりマジアベーゼはもうあと3時間清掃作業をすることになったのだった。
そして今まさに掃除している頃、事情を説明してどうにかロードエノルメのいいパンツを差し出すしかないと判断、あんなやつに変態じみたことをさせたくないがクロノス・シンジケートの情報を掴み取る唯一の鍵が奴の姉なのだから仕方ない。
悪魔というものに興味があるわけではないが、柊家周りだけ自分達と比べて異質すぎるというか世界観が違う。
事前に柊家の下見に行ったこともあるが、何故かあそこだけ郊外にある古びた洋館のようになっており、幽霊屋敷というか吸血鬼でも住んでもおかしくない、アレで悪魔なんて存在しないと言うのが無理があるレベルだ。
「よく一般的な生活できるな奴らは……まぁ、あまり知られたくない気持ちもわかるが怪しすぎないか、ということだ分かるな?」
「言いたいことは分かった、それでアタシにあいつの家庭環境を調べてこいと?」
ロードエノルメの背後の影からぬるりと現れたのは青い髪の幹部格ルベルブルーメ、ロードエノルメの優秀な部下の一人でありエノルミータ古参だ。
影を操り侵入したり動きを制限するなど諜報・妨害に特化したうってつけの人材であり、クロノス・シンジケートの任務に抜擢しなかったのは曖昧な所に使いたくなかったからだ。
「というかアタシらの町、こんな如何にも胡散臭い所あったんだな……下手したらアタシらの次に悪の組織してるぞ」
「クロノス・シンジケートがあまり目立たないようにする気持ちも分かる気がしてきたな……」
「まあ実態を確認するのがアタシの仕事だからな、どんな怪しくても所詮は民家だ、軽く済ませてくる」
「期待しているぞルベル」
ルベルブルーメの魔力反応でトレスマジアが来たところで逃げることも得意だし、中にいるのはマジアベーゼの身内と言えど所詮は一般人。
現状一番のイレギュラーである柊かなも連れ出してくれるのでルベルブルーメの失敗はありえない。
かくしてエノルミータの真実に迫る特別任務が始まった……。
翌日、いつものようにトレスマジアが戦いそれぞれの姉達が行動を開始する中。
作戦なので仕方なくかなについていくうてな。
自分がマジアベーゼであることを知られてはいけない六女、もしかしたらクロノス・シンジケートの関係者かもしれないがそれを周囲に隠しているということは自分と同じ状況かもしれない。
しかしかなは1手先を読んでいる、そもそもマジアベーゼであることを見抜いていることに気付かれないように立ち回っている。
エノルミータに入ったということはつまり……ということは今は考えず、うてなを隣に置いて共に電車に乗る。
「しかし良かったんですか……私の会社の見学したいなんて……働くにはまだ早い年ですよ……それでいえばどれみ達にも見習ってもらいたいものですが……もう大人なのにバンドだの自撮りだの……ああ、姉さんも趣味みたいなものだし」
「ま、まぁ……あははは、かな姉さんって普段どんな仕事してるんだろうってちょっと気になってね、働くの楽しそうだし」
「いえ、働くこと自体はきついですよ?めちゃくちゃしんどいです、私が楽しいのは休むこと!極限まで追い込んだ後に一気に休んで体を追い込むと気分が良くなるんですよ……サウナみたいなものですね」
「見ている方としてはいつか死ぬんじゃないかって怖いんですけど……」
「実物のサウナじゃもう足りなくて……へへへ、脳も体力も存分にフル稼働した後の体臭は頑張った勲章みたいなものです」
「風呂には入っ……いかん、風呂入ったまま寝そうだ姉さんは」
「うてなも心配性なんですよ……まったく、そんなに私の働く姿が見たいならいくらでも見せてあげますよ、ただしお仕事は魔法少女の戦いよりもつまらないものですよ?」
電車が止まり、かなとうてなは目的地へと辿り着いたのだが……何か様子がおかしい。
駅の名前が見たことない、都会ではないことは確かだが妙に寂れている、電波は繋がっているが何か珍しいものがあったりしない一面田畑。
とても会社があるように見えないが……。
「あ、あの……かな姉さん?電車乗り間違えたんじゃ……」
「いいえここで合ってますよ」
(ま……まさか行くつもりなの!?堂々とクロノス・シンジケートに!?妹同伴で!?)
「うてな、貴方はきさらぎ駅って知ってますか?」
「き……きさらぎ?どこのローカル?」
「時代を感じる……まあそういうオカルトが昔流行ってたと思ってください、ここはまあそれの派生みたいな場所、
「自分の世界に入らないでくれますか?」
「まだわかりませんか?ここならどこの誰も入ってこないからちゃんとしたお仕事の話が出来るわけですよ……エノルミータ幹部マジアベーゼ」
「ひ、ひいええっ!?」
プライベートならともかく業務で隠すことなどない、わざわざ自分の所に乗り込んでくる理由なんて互いに『気付いたから』しかありえない。
あの時盗撮した時点でいつか分かると思っていた、なら仕事中は堂々とすればいい。
どうせ敵なのだから。
「改めてまして名刺を差し出します、私こういうものです、一応こっちでは『トゥエルブ』と名乗ってます」
「えっああ、はいどうも……うっ、やっぱりクロノス・シンジケート……大幹部!?」
一方その頃。
「おいっすただいまー……あれ、うてなっちいねーの?」
「いねーよ、あのバカの会社の社会科見学だとさ」
「へーマジかよ、かな姉の仕事とかそんな興味あるか?」
「しらね」
(呑気なものだ……姉がこれだけいるんだ、合鍵代わりにさせてもらうぜ)
同じ頃にうさぎどれみの双子が暇潰しを終えて家に帰り、そのタイミングを見計らってルベルブルーメが影に入り込み柊家の内部に入り込む。
内装は思ったより普通の家といった印象であり、拍子抜けと言うかそこそこ大きめの家といった印象だ。
逆に意味が分からない、なんであんな如何にも何か出てきそうな家からこんな風になる?
(ま、まあいい……クロノス・シンジケートの情報もついでに調べてみるか、柊かなの部屋を探さなくては……)
影から飛び出して一旦上がり地下施設へ、魔力からトレスマジアが来ないように牽制してスニーキングミッションを開始する。
目的は『悪魔』の噂になるもの、あるいは柊家の核心的な情報……だがルベルブルーメは抜かりがない。
(なっ!?カメラ!?なんで部屋のあちこちにこんなものが!?)
そう、うてながマジアベーゼだと姉妹達にバレた要因であるかなが家の各地に配備した隠しカメラ。
つばめに咎められて取り外した……ようで少し残っていた光るものにルベルブルーメは即座に気付いて持っていた星型の短剣で破壊する。
(なんで自分の家にこんなものがあるんだよ!?やっぱ普通じゃねえこの家……というか、あいつもしかしなくても家族にバレてんじゃねえのか!?)
ここにきて早い段階でエノルミータ側にもマジアベーゼの正体がバレバレなことを察していたがそれどころではない。
ただの怪しい家の侵入と舐めてかかっていたが本気でやらなければならない、一旦ロードエノルメに連絡を入れることにした。
「こちらルベルブルーメ、柊家に潜入した……一度ゲームで見て言ってみたかったがリアルでやると緊迫感はそっくりだな」
『無駄口はいい、何か分かったか?』
「胡散臭いなんてものじゃない、入ってすぐに隠しカメラを見つけた……自宅にこんなもの仕込むか普通」
『そうか、奴の身内がクロノス・シンジケートに関わってると見て間違いなさそうだ……柊かなに警戒しつつ調査を続けろ』
「了解……まぁバレたところでって感じだ、もし本当に悪魔ってやつならお陀仏だがな」
ここにあるのはただの怪しい噂のある変な姉妹の家ではない、間違いなく世界を大きく揺るがす何かがある。
こんなものどう考えても何か隠してますって言ってるようなものだ……。
何せ地下に続く階段に物置にしては広すぎる地下室と典型的なものまである、潜入ゲームみたいな感覚で来てみればまるで有名なホラーゲームみたいだ。
一旦ソファに腰掛けようとしたが、ここにもやはりカメラがあったので破壊した上で状況整理をする。
「このふざけた家の家族構成は……あいつが六女だから姉が五人、さっきの二人に……マジアベーゼが警戒する次女、あいつの妹、残る姉……ヴェナリータが言うにはこの中に悪魔が……ん?」
何かがおかしい、悪魔がどうとか以前にこの家系、この姉妹達の生活感がおかしい。
ロードエノルメが初めてマジアベーゼに会った時の会話は幹部全員がリモートしていたので把握している、ベーゼはエノルメを見てがっかりした時にこう言っていた。
『総帥さんって多分何かしらの私の姉さんと年近いですよね?下手したら30近くか…』
下手したら30近く、つまり少なくとも長女は三十路前後ということになる。
七人姉妹であればそんなものかもしれないが問題はマジアベーゼの年齢だ。
あの学生服はとある中学校のもの、つまり年齢は13〜15、妹がいるということは双子でなければ同じ学校として14歳以上……。
「30−14=16……ギリギリアルバイトとかは出来なくもない年齢だがあくまで長女だぞ!?5、6人の妹養っていけるわけがないだろ!?」
そう、
長女は年を取っているがそれでもうてなが生まれてくる頃と照らし合わせるととても生活なんて出来るわけない。
姉妹で助け合ったと考えるにしても今度は『総帥と同い年=20歳の妹』がいる、うてなが生まれてくる頃はたったの6歳だ、まだ生きることもままならない頃じゃないか、そもそも七女が生まれている以上うてなが生まれて1年間確かにいるはずだ。
……なのになぜこの家には彼女達の両親がいた痕跡がない?
考えれば考えるほどとんでもないことになってきた。
「ひとまずこの地下室はやばい……クロノス・シンジケートのこともだが長女の部屋に入ってこの家系をもっと調べる必要がありそうだ、悪魔とかいぜんにこの家相当闇が深いぞ……まるで柊家って存在自体がおかしいようなっ……」
だが考えてる暇はない、上から足音がするので誰かが降りてくる。
急いで適当な影の中に入り込んでやり過ごすと、つばめが先ほどの2人を連れて降りてきて埃まみれの箪笥を漁る。
「ウェッ汚っ!本当にこんなところにうちの秘伝の隠し味メモったのかよ!?」
「えーと確かこの辺りだったはずですがねぇ……アレ入れると塩ラーメンの味が本当に変わるんですよマジで」
「塩ラーメンなんてどれでも同じようなもんじゃね、てかつば姉が作るならマジで味がさぁ」
「おいバカやめろ、そんなこと言ったらマジで何出されるか分かんなくなるだろ」
「ただいまー」
「姉さん……疲れたから足の匂い嗅がせて……」
「おや、うてなが一緒とは聞いていましたがかなも帰ってくるのが早いですね」
(何!?まだ夕方だぞ、あいつ確かギリギリまで働き詰めって言ってただろどういうことだ!!)
更にそこから想定外の柊かなの帰宅、このまま関わっては何かあるかも分からないので影を通してボロい隙間を辿り、なんとか地下水路までワープしてマンホールからなんとか脱出、後は建て替えられない限りここから再度潜入できるだろう。
『……なるほど、奴の両親関係にも謎があると、確かにあの家でそれらしき人物を見たことはないな』
「ヴェナリータが悪魔がどうとか言い出すのも納得だな……あいつの方もちゃんと情報掴めたのか?怪しまれないように帰らないとな」
そして、悪の組織のあれこれが終われば即座に家族の団らん。
よく分からない未知の隠し味の塩ラーメンを家族一緒に啜る。
「どうですほら、ちゃんと変わってるでしょ?」
「変わってるのは姉貴の脳みそだよ」
「……かな姉さん、今回の話ってその……」
「いいですかうてな……くれぐれも社会の話は……家庭に持ち込むものではありませんよ……ここでは私はお姉ちゃんで……貴方は妹……いいですね?」
「う、うん……じゃあ、また明日ね」
「はい……明日も私は……忙しいのでね……ふふふふ……」