「え?私の両親?」
「そうだ、ルベルブルーメにお前の家族関係を調べさせていたが……両親に関してなど不可解な情報も多いとのことだ」
「ああ……私のことまで調べてたんですか、ヴェナさんの差し金ですか」
「私の質問にだけ答えろ、お前はエノルミータで、いやこの街で……下手すれば世界でお前達家族の存在は異質だ」
電話越しに公園でロードエノルメと会話するうてな、いつの間にか電話番号が登録されていたが魔法とは実になんでもありらしい。
ひとまず切ったら面倒なことになるので絶妙に気付かれなさそうな所で通話に応じる。
だが自分の両親について聞かれることは想定外だった。
「ええと……つまり私のお父さんとお母さんについてですよね?実を言えば私覚えてないんですよね……物心ついた頃からもういなくなってたので、まあどこかで幸せに暮らしてるんじゃないですか?」
実際、うてなから見たら両親との思い出は特にない。
たまにさみしいのかと心配されることもあるが、つばめが自分やほむらにとっての母親みたいなものなので気にしたことがないと答えている。
強がってるわけでもなくそんな生活をしてきたのだから本当にそんなものだ。
聞いても無駄と判断したのかロードエノルメは話を切り上げて、肝心な方へと入る。
『クロノス・シンジケートについて何かしらの情報は掴めたんだろうな?』
「はい、ビジネスの話ということで色んなことを語ってくれました……ええとその、私も唐突だったので行き方までは推測できませんが巣灯裏亞駅という謎の場所を電車で通るらしくて」
『ナハトベースのような異次元空間だろうその程度察している、だが公共機関を介するとは大胆な移動だな……それで奴らの行動は?』
「びっくりしましたよ……動きを見せなかったのも納得です、奴らは滅多に行動を見せないのではなく
『何!?魔法を作るだと!?そうか、確かにわざわざ喧嘩を売らなくてもこっそりと核兵器並の威力を開発して叩き込めば魔法少女や我々も一網打尽……だがそんな魔法を使っていればすぐに魔力で嗅ぎつけられるぞ、私なら太平洋辺りで実験するからな』
「魔法の内容まではさすがに教えてくれるわけもありませんし確かにその通りです、巣灯裏亞駅も焦げてません……そこで私は考えたのですがクロノス・シンジケートは戦闘に使う魔法を作ってるわけではないと」
『戦闘用魔法ではない?ならばどうやって世界征服を行うという、我々や魔法少女を倒さないことには敵の排除など……まあいい、そこは会議に回す、お前も幹部である以上出席しろ』
「了解しました」
電話を切って一息つくと、ヴェナリータが缶コーヒーを飲みながら近づいてきてうてなにも一缶奢ってくれる。
こういうマスコットも飲食したりするんだなと思いながら奢りで一杯飲む、どれみがよく飲んでいるが意外と甘党で一緒にミルク入りを飲ませてもらったものだ。
気がつけばマジアベーゼになってある程度経ったが、トレスマジアと戦えたのはあの2回だけだ。
「しかし君も最初はあんなに嫌がっていたのに、今ではすっかりマジアベーゼのつもりだね」
「別に貴方達に従うわけではありませんし、今でも嫌とは思ってますよ……ただ、なんというか楽しかった、トレスマジアと相手した時のあの胸の高鳴り……あの気持ちは何だったのか知りたい、それにもしかしたら関わってるのはかな姉さんだけじゃないかもしれませんし」
「隠しカメラは最初に見た時はボクもビックリしたよ、いやぁ珍しく失態だったね……さすが柊家、面白いね」
「人の家を面白がらないでください」
「それにしても君のお姉さんはよく話してくれたね、マジアベーゼのことは知ってたにしても会社を裏切る行為になるはずだが」
「かな姉さんは会社に対して恩義があるわけでもありません、ただ働くという行為に快楽を見出してるわけで……自分の仕事に支障がきたさない程度に面白みを求めた結果なので私はある意味期待されてるのかと」
「ふーーん、そういう言い回しだと君やその姉は随分自分勝手だね」
「自分勝手じゃない人が、悪の組織なんてやれますか?あの総帥みたいに」
「君も言うようになったね、そろそろ会議の時間だから案内するよ」
すっかりこの生活にも慣れてきたうてな、かなもきっとこの数倍は(勝手に)苦労した上で適応しているのだろう。
あの姉の背中を見て育ってきたのだ、きっと上手くやっていけるだろう。
ナハトベースに入る最中、ヴェナリータはポツリと呟いた。
「君、本当にお母さんのことは覚えてないのかい」
「ええ、生まれてすぐにしか会ってない人なので」
「ふーーん、そうなんだね」
それから更に3日後、慣れない二重生活はやはり身体が追いつかず寝込んでしまう。
頭痛が体を縛り付けて腰が悲鳴を上げる、風邪まで引いてしまい気力も湧いてこない。
典型的な過労の症状だ、ロードエノルメがあまりにもスパルタなことに加えて家業に学業、そして魔法少女アニメをリアタイするための徹夜で本格的に身体が砕けようとしている。
つばめとうさぎが看病してうてなの面倒を見てくれる。
「最近頑張りすぎでは?」
「なんかずーっとあっちこっち色々やっててさぁ、無理すんじゃねって感じっこ」
「ご……ごめんなさい姉さん……あと出来れば今日やるアニメの録画もしておいてください」
「真っ先に出る要望がそれかい!まっうてなっちらしくて悪くないけどさ」
「うさぎ、消化にいいものって何がありましたっけ」
「ググれよその程度、えーと鳥のささみとかヨーグルトらしいってさ」
「なるほど!ではお昼はささみのヨーグルト漬けにしますね!」
「やめろアホォ!!可愛い妹にトドメさす気かつば姉ェ!!」
姉達がいつものような漫才芸じみたことをしていると、柊家の呼び鈴が鳴る。
うさぎにうてなの面倒を任せてつばめが応じる、扉の先にいたのは……小柄で袖が手に届いてない、それでいてスタイルが良く泣きぼくろがセンス。
うさぎとはまた違うタイプのギャル、それでいてうてなと同じ学生服……。
「うてなちゃんいるー?」
「……うてなって友達いたんですね」
中々失礼なこと言っているが、こんなところにこの姿で来るなんてお見舞い以外にありえないと中に入れることにした。
「えーと貴方名前は?」
「阿良河キウィ!ちょっとうてなちゃんと用事あるから」
「そうですかではごゆっくり、うさぎ、今から鳥のささみのブロッコリー漬けヨーグルト添えを……」
「ああもういいからつば姉何もすんな!!あーしが適当にサッとうどん茹でとくから!!」
「……私、一応飲食店やってるんですが」
姉2人がバタバタしている隙を突いて何食わぬ顔でキウィはうてなの部屋に侵入、うてなからすれば突然知らない人が堂々と上がり込んできたので驚いて叫びそうになるが即座に口を抑え込まれる、その時のキウィはまるで営業スマイルのような胡散臭い笑い方から一転して見下すような冷たい表情だ。
「アタシだよアタシ……エノルミータのレオパルトだよ、こんな大事な時に寝込みやがってよ、ああ?」
「しゅ、しゅみません……明日までには気合で治しておきますので……」
「いやいいよ、あんな生活してるならマジで命いくつあっても足りないから、どうせアタシも総帥も期待してないし」
酷い言い草だが自分の組織での価値なんて結局そんなものか……と思っているとキウィが首を振る、役立たずというわけではない、ロードエノルメにとって自分以外の格下など駒でしかない、そういう意味では平等らしいことをスマホのメッセージで伝えられる。
悪の組織生活をして分かったが人間関係がシビアだ。
「ここには居ないが姉ちゃんの一人がクロノス・シンジケートなぁ……アタシからすればあの傷だらけの姉ちゃんも怪しいぞ、何あれ伝説の番長?」
「はは……やっぱりそう思います?つばめ姉さんは昔からあんな身体だったんだけどその理由は誰にも分かんないの、怖いってこともないしそんな気にすることもないなって……」
こうして接して見るとよくこれで普通の姉妹を気取れるものである、キウィも発見したがこの部屋にも無数に隠しカメラがある……それも大量に。
恐らく柊かながあの話の後に一斉に取り付けたのだろう、会社員はただでは転ばない。
このまま表舞台に出ない以上、奴らは一方的に世界征服を進めてしまうだろう。
「それでどうするよ、お前の姉ちゃんの組織このままじゃ世界の支配者だぞ」
「も……もちろん想定の内ですよ、総帥にも話しておきましたが……この体でなければ……」
「じゃあもうアタシが潰しとくから巣灯裏亞駅の行き方に心当たりとかないか?」
「そこは後からでも構いませんよ……忘れてませんか?この世界には魔法少女がいる、悪の組織を倒すのは私達同業者ではなく彼女達の仕事ですよ」
「だから関わらないようにしてんだもんな情けない……それで?」
「キウィちゃん……なんか変身できないんですけど、何か知りませんか?ちょっと魔法を使うだけでいいんです」
「言った所で今のお前じゃ無理だよ」
ヴェナリータが言っていたがエノルミータの魔力は感情に左右される。
強く感情を昂らせる、つまり興奮状態に入れば魔力は何倍にも増幅するがその逆として体調を崩したり迷いを感じれば通常の何分の1まで引き下がる。
こんな姿ではとても戦闘どころか作戦すら出来やしないとヴェナリータは判断したという。
「何か作るにしても一つが限界だし戦いは出来ないとさ」
「それでも充分です……ちょっとなぎさ姉さんの部屋からロボットの玩具取ってきてくれませんか?」
「戦隊ロボか?街を破壊するほどにはなんないだろ」
「いえ、通信できるくらいで結構なので……あるいは録音」
「なーるほどアタシも乗り気になってきた」
キウィはなぎさの部屋から適当にロボットを取り出して枕元に起き、うてながなんとか手を伸ばして魔法の杖で叩くと大きさはそのままに『マジアベーゼロボ』に変化、それをキウィに持ってもらい窓から出る。
後はトレスマジアを呼び出せば準備万端だ。
「何から何まですみません」
「クラスメイトで同僚なんてお前くらいだからってだけだよ、魔法少女がアタシより目立つとか本当はマジ許せね〜けど陰キャ組織が好き放題してるのはもっと許せね〜、このツケはしっかり払ってもらうからな」
「当然ですよ、私だってこの作戦は賭けみたいなものですからね……!!」
キウィは窓から出て飛び降りながら変身、瞬く間に下半身が際どい豹の要素が込められた軍服姿に変身し大通りで巨大なロケットランチャーを作り開戦の狼煙を上げる。
レオパルトの魔法は即座に銃火器を作成する力、幹部達全員の中で圧倒的戦闘特化の彼女は対トレスマジア戦で最も期待されている人材だ。
空に向けて爆発させていると即座にトレスマジアが急行し、魔法が飛んできても手榴弾の爆風で跳ね返す。
「来やがったな……トレスマジア!」
「堂々と破壊行動とは舐めたマネしよるわ、そんなにお仕置きされたいんか?」
「そりゃこっちの台詞だバーカ、四六時中アタシ達よりチヤホヤされるお前らをこの手で始末しなきゃ気がすまねえ!悪いが今日は大バズリタイムだ!!」
「いくわよ皆!相手は見たところ銃火器を持っているから街や市民に当たらないように周りに警戒して!」
「だったらこんなのはどうだ!?」
キウィは両腕に多連装ロケットランチャーを付け替えて空に向けて全弾撃ち込むとミサイルが次々とバラけて周りに飛んでいくが、青い魔法少女マジアアズールは冷静に周囲の水分を操り一瞬にしてミサイルを凍結し両手を握るのに合わせて一斉に空で爆発。
しかし視界を見るとレオパルトの姿はなく一気に詰め寄って手を伸ばすがサルファが割って入りバリアを展開、彼女の手にはC4爆弾が握られておりバリアの表面で爆風が遮られるがすかさずショットガンを作り出すもののマジアマゼンタの槍が銃を落とす。
長い事エノルミータの怪物と戦ってきたこともあり純粋な真っ向勝負では中々引き下がらない。
次から次へと武器を作っても即座に対策してくる、魔法少女って頭ふわふわでファンシーだと舐め腐っていたが、見た目がオシャレなだけで全然戦闘兵じゃないか……レオパルトもこれにはびっくりした。
「どうした?武器を作る勢いが落ちてきてるやないか、もしかしなくとも相当魔力を食うんやないか?」
「黙ってろ……もっとだ、もっとどでかいものぶっ放せば!!」
『レオちゃん、その辺りにしておいてください』
「れ……レオちゃん!?なんか馴れ馴れしいなお前!!」
「その声……あん時好き放題した女幹部!!」
頃合いを見てレオパルトの帽子からマジアベーゼロボが飛び出してくる。
トレスマジアからすれば嫌な思い出しかないのでサルファは踏み潰そうとするがアズールが制止する。
「なんで止めるんや」
「前のように直接現れるのではなくこんな形でわざわざ……何か話があるのね?」
『さすがアズールはわかりやすくて助かります、如何にもその通り……おっと先に自己紹介、私はエノルミータ諜報隊長マジアベーゼ、この子は戦闘隊長レオパルトです』
(総帥が適当に決めた肩書だけどな……)
『さてトレスマジアの皆さん、単刀直入に言わせてもらいますが貴方達の敵は我々だけではないことをご存知ですか?』
「えっそうなの!?」
「……詳しく聞かせろや」
『その名はクロノス・シンジケート、異次元で会社を作り我々のように世界征服を掲げていますが、エノルミータと違い直接貴方達とは戦わない……いえ戦う必要がないんです、奴らの活動内容は魔法の開発ですから』
「魔法の開発?世界を支配する上で尚且つあたし達と戦わなくてもいいって……そんなこと出来るの?」
「……そうか!クロノス!もしそれが事実ならとんでもないことね、事実ならね」
「せやな、こいつが本当の事言ってる保証もあらへんし」
『うーん疑うのが早いですね……我々エノルミータとしても面倒な相手なので一度手を組みませんか?って言いたいところでしたが』
「ふざけんのも大概にしろや、無謀に堂々と来るか臆病者かなだけで世界を荒らしとるのは同じやろ、自分の立場考えてみろや」
「ねえアズール、もしマジアベーゼの言うことが本当だとしてどんな魔法を作っているの?」
「……もし事実だとすれば完成したら私たちでも手も足も出ない、エノルミータが共闘を持ちかけるのも納得する程には禁断、それでいて世界の理に触れるような恐ろしい力よ」
「……クロノス・シンジケート、クロノスというのはギリシャ神話に伝わる時間の神、シンボルにする以上無関係というのもなさそうね」
「ということは時間に干渉する魔法……それで戦わなくても世界征服って……あっそうか!!時間を止める魔法!!」
戦う必要もない、大きな作戦を起こす必要もない。
魔法によって時を止めてしまえばその瞬間全てがクロノス・シンジケートの掌の上、何もしなくてもミニチュアを飾るかのように世界を我が物に出来る。
時間停止とは本来それだけの能力を秘めている、ただでさえマンガの時間を止める力ですら数秒ちょいだの厳しい制約があるのにシンジケートが世界征服に利用するなら間違いなく無制限に自由自在に止められるものを作る。
あくまでこれが本当であればの話であるが……事態は急転する。
「殺意隠しきれてへんで、間抜け」
サルファの背後から時計のようなマスクを被った人間が針のような針を振り下ろしてくるが視線を向けることもなく顔面を殴り抜ける。
「ちっくっ……ちっくっくっ……どこから我々の計画が漏れたというのだ、トゥエルブは何をしている!」
「う……嘘!?今の話って本当だったの!?」
「段取りが良すぎるわ、エノルミータとグルって線もあるかもしれんが……これがホンマならさっさと潰しとかんとなぁ!その次にお前やマジアベーゼ!!」
「もう切れてるぞ」
「言うだけ言っておしまいかい!!ほんまムカつくなあいつ!!」
そして一仕事終えたうてな、ロボ越しなので声からバレることはないと思いたいが病み上がりなので喋ってて疲れてしまった。
ヴェナリータがナース服で現れてカプセルを与えながら話しかける。
「これはボクからの選別だ、しかし中々思い切ったことをするね、これでクロノス・シンジケートは引きずり下ろされてトレスマジアに構わないといけなくなった……その逆も然り、結果的にエノルミータには余裕ができた」
「ふふふ……これで更に面白いものが見れます、かな姉さんはより一層忙しくなり私は魔法少女の活躍を見れますしWin-Winということで……!!」
「時間を止める魔法の製作か……ボクやヴァーツも知らないところでそんな物が動いているとは興味深いね、ああそうそう、トレスマジアに組んでほしいと言ったのまさか本気じゃないだろうね?」
「ふふふ……いやですねヴェナさん、皆が憧れる正義のヒロインが悪の組織と手を組むなんてことありえるわけないじゃないですか!これからもっともっと楽しませてもらいますよ、トレスマジア!!」
うてなは心が躍る、これからはトレスマジアVSクロノス・シンジケートの戦いが始まるだろう。
向こうの組織もコソコソと出来なくなるし両者共に本部に突撃したりするかもしれない。
マジアベーゼはただ魔法少女の素晴らしい戦いをその場で眺めたいだけだ、たとえその時の敵が自分じゃなくても……結果的に身内を裏切ることになっても。
「だがこの結果で君は……」
「わかってます、身内を蹴落とすことになるかもしれないし……かな姉さんは仕事の為なら私も始末するでしょう」
そして同じ頃、巣灯裏亞駅の先にあるクロノス・シンジケート社。
会社にいる現在11人の幹部は大騒ぎだ、何せ計画が全て台無しになってしまったのだから。
トゥエルブ……柊かなだけがその様子を楽しんでいたのだが。