クロノス・シンジケートの情報は即座にメディアを通して伝わり大騒ぎになった。
その一方で新たな敵の登場と魔法少女との戦いを見たくて期待に胸を膨らませる者もうてな以外に数多く存在した。
しかし『時間を止める魔法』の在り処、並びに巣灯裏亞駅に繋がる方法は掴めなかった。
「すみません……こちらとしても新しい魔法を作るなんて思いつきもしなかったので何の情報も」
「無理もないわ、私達だってあの場で突然……向こうも急に乗り込んできたということは向こうもそれは同じ」
「まさか、あたし達と戦わずに世界を支配しようとするなんて……」
「合理的やがふざけとるなぁ、どこのRPGに隠れながらしっかり目的果たす魔王がおるんや、勇者なら乗り込んで直接叩き潰してこそやな」
「サルファの言うことも最もね、だから私達は魔法を作れないように会社ごと倒さなくてはならないけど……」
「あたしは駅っていうくらいだからちょっと電車の路面図とか見てみたんだけど……やっぱり巣灯裏亞駅なんて知らないって」
「てかなんやねん巣灯裏亞って、アメリカとかイギリスを無理矢理当て字にしたキラキラネームみたいになっとるやん」
「その駅に関してだけど……私もいろいろ調べてみたの、『きさらぎ駅』とか有名じゃない?駅にまつわるオカルト話……」
「あっ、それあたしも知ってる!」
「アレはほぼ創作やけど、巣灯裏亞駅は……実際にあるんやろな」
「皆さん、もし巣灯裏亞駅を発見したとしても油断しないでください、僕も色々調べてますがもしもその『きさらぎ駅』と似たような空間だった場合、下手したら魔法少女の力でも脱出できるかどうか……」
「ふむ」
トレスマジアはクロノス・シンジケートとの戦いに向けて異次元空間への突入準備を始める。
更にこの経験が同じく異次元にあるとされるエノルミータのアジト発見に繋がるかもしれない。
そして……エノルミータの方も同じ事を危惧しないわけがなく、ロードエノルメがヴェナリータに直談判していた、もちろん異次元空間について。
「あのね〜ボクもこの時点で色々手を尽くしてるんだよ?今更引っ越しなんて言われても困るんだよ」
「奴め……クロノス・シンジケートを引っ張り出したはいいがトレスマジアにナハトベースが気付かれる可能性も考えればプラスマイナスゼロではないか!」
「普通はそんなことにならない、あくまでネットの都市伝説として巣灯裏亞駅というものが広まっただけに過ぎない、考えすぎだよ」
「くっ……場合によってはここを捨てなければならない、それかいっそのことこちらから攻めに入るか……?それだとトレスマジアのアジトを探す手間が……!!」
「おはようございますー、あれどうかしましたか」
「ああうてな、ちょっと相手よろしく」
休みの日なので朝からエノルミータの様子を見に行ける、うてなが来たことを確認するとヴェナリータは即座に逃走しロードエノルメも怒りの矛先をうてなに向ける。
向けるが一気にまくし立てても面倒なのでかくかくしかじかで答えてくれた。
「あ、あー……いやまあこの本拠地が絶対安全って保証もありませんし?戦争みたいなものなのでどちらか一つしか生き残れないみたいなところは……」
「どうしてくれる!ナハトベースに攻め込まれたらエノルミータは一環の終わりだ!私の魔法にも限度はあるんだぞ!!」
「と……トレスマジアがまだそこまで行ったのか曖昧だと思いますよ、それに時間を止める魔法がある以上クロノス・シンジケートを優先するはずですし……」
「くっ……厄介な勢力が現れたどころか事態は何も進展していない!盛大に何も進んでないじゃないか!!」
「……だったら無理矢理にでも乗り込むのはどうですか?」
うてなは総帥の事をよく思ってない、だからこそ対等に口を挟めるし多少の罰なら受け入れてでも妨害する一方だ。
何故ならロードエノルメは『魔法少女狩り』の先導者だからだ、トレスマジアと戦う姿は見てみたいが折角の
その為マジアベーゼは現在、己の悦びを満たして尚且つロードエノルメに嫌がらせをするプランをアドリブで実行するのみだ。
「だったらお前はあるのか!クロノス・シンジケートを潰したり巣灯裏亞駅に入る方法!!」
「……あるにはありますよ、会社なんですから社員として潜入すればいいんです、かな姉さんが確か新入社員を集めるために見学させているというのでどさくさ紛れに別の姉さんを送ります、なぎさ姉さんとか」
「お前平然と作戦に自分の姉を利用したな……ん?おい待て、
「……まあはい、そうじゃないですか?」
「よし、考えがある……これはエノルミータ最大の危機だ、私自ら動かなくてはならない時が来たようだな」
そして当日、朝早く起きてつばめが用意したえげつない色の味付けのソースみたいなものがかけられた食パンを齧り朝を迎える柊家。
ここ最近の話題はやはり巣灯裏亞駅のことだった。
「なーなー、最近有名なオカルト駅入れたりしたらめっちゃバズれんじゃねえの?」
「やめとけってうさぎ、猿夢みたいになってもあたしは見捨てるからな」
「ひどくねー?ああそうだうてなっち、あーしお前のダチ友とちょっと楽しんでくるけど」
「え?うさぎ姉さんもうキウィちゃんと仲良くなったの?まあ性質は似てる気はしたけど……」
「そ、ばっちり息合うやつは現実でもフォローしとかんとね、あいつも中々バズろうと頑張ってるしインフルエンサーとして一肌脱ぐかと!ほら今日は勝負パンツだって履いてんだよ」
「ぶっ!!」
「うさぎお姉様!!本当に一肌脱がないでください!」
「飯食ってる時にそれまじでやめてくんないかなうさぎ姉ちゃん……ああそうそうかな姉ちゃん、私姉ちゃんの会社の体験行くんだけど」
「ええ……あそこにですか……なぎさ含めてもあと2人くらい来るんですよね……物好きすぎませんか?ドブラックですよ?」
「いやうてながなんかめちゃくちゃ勧めてくるからさぁ、戦隊みたいな雰囲気って聞いたから」
「お前のその戦隊脳なんなんだよ……じゃあアレか?今日はあたしがうてなを独占できるわけか」
「お姉様ずるいです!私もいます!」
「はは……とりあえず二人とも気をつけてね」
こうしてうてなは久しぶりの留守番、命令もないのでマジアベーゼに変身しなくてもいいので普通の推し活が出来るようになりほむら、どれみと一緒に家で過ごせるように。
なぎさとうさぎの事が気になるが姉妹きっての陽キャであるあの二人なら多分大丈夫だろう。
特にほむらには最近姉らしいことも出来なかったので甘やかそうと思う。
「お姉様!新しい魔法少女のアニメを一緒に見てほしくて」
「えっ新しいの!!?見る見るめっちゃ見たい!!……あーでもどれみ姉さんは」
「あたしだって妹の頼み無下にするほど脳みそ腐ってねーっての、いいよどうせ今日はバンドもやることなすてヒマだし」
うてな達が家で思い思いに過ごしている頃、今度はなぎさを連れて駅まで歩くかな。
あの時以来会社までの道のりで隣に誰かがいるというのが珍しいことでもなくなってきた、嫌じゃないが。
なぎさも駅に行くのはわざわざアキバまで行って戦隊グッズ買いに行く時ぐらいなので仕事も楽しみだ。
「かな姉ちゃん、うてなからの又聞きだけど実際戦隊っぽい仕事ってなんなの?」
「貴方もよくそれ鵜呑みにして私の会社入ろうと思いましたね……姉として一番心配な妹は貴方ですよ……まあ、間違ってはいませんが」
「いやまあ、私もちょっと軽率とは思うけど……かな姉ちゃんもちゃんと聞き入れてくれたじゃん?」
「ただでさえ姉さんと一番下の妹があんな調子なんです……ちゃんと就職出来る子が増えてもらわないと困るんです……その点で言えばうてなはしっかりしてますね」
「なんか言った?」
「いえ、こちらの話です……ところで今日は貴方以外にも二人見学者がいるので合流しますよ」
「合流って会社でやるんじゃないの?」
「遠すぎます……偶然同じ街出身なので一気に集めてから電車に乗ることにしました、自己紹介も中で静かに済ませましょう、ここです」
かなは駅の近くにある噴水で一旦珈琲を飲んで他の見学者を待っていると、自分達を見て即座に駆け寄ってくる影がある。
どうやら自分と同じ見学者らしいがなぎさはちょっと引く、黒髪ロングで身長は高くスタイルや美貌は悪くないのだが濃いめの化粧が軽く邪魔している、なぎさもかなも化粧に詳しいわけではないがなんとなくすっぴんのほうがなぁ……と思っていた。
それを言えばかなは少しはメイクどころか髪型のセットはしてくれと言わんばかりの酷い有様だが。
「あっ、見学の人……ですよね、えっと名前は……田中さん、ウチは学歴……気にしないので実力あればどうぞという形で」
「ワケあって大学を中退したのでな……1日でも早く仕事が欲しいところだったんだ」
この田中という人物こそ他でもないロードエノルメ総帥そのもの。
柊かなに近づけは何かしらクロノス・シンジケートに繋がる情報が出てくるだろうとうてなを通して見学を無事繋げることに成功した。
『田中』だけ残して住所も経歴もデタラメなものを魔法で細工、ところどころ事実ではあるが嘘を交えて潜入した時のリスクを和らげている。
「なるほど……そしてあと1人はどちらに?」
「こちらですわ〜」
「うおっいつの間……!?なんだその格好!?」
「まあ別に構いませんよ……うちの会社、服装自由ですし……スーツの人間も落とすしダサTも使えるなら捕まえます」
田中となぎさ、そして3人目の見学者はこれまた異様な見た目。
緑色の髪にメガネをかけて……この衣装はなんというか、ドレスコード気にしなくてもいいとはいえなんと大胆な姿だろうか。
「一応聞いておきますが、名前は?」
「パンタノペスカ、前職は……一応フリーの魔法少女ですわ」
「はああああ!?」
イカれたメンバーを紹介しよう。
悪の総帥、戦隊オタク、そしてフリーの魔法少女。
今宵彼女達は就活を始めるため電車に乗ろう!と足を踏みしめた先でばったりとギャル2人プラスアルファと巡り合う。
「あっ」
「あら」
「あれ?うさぎ姉ちゃん」
「おーなぎさじゃん、同じ電車乗るんか〜?」
「あっ、うてなちゃんのお姉さん達!」
何故かうさぎ、キウィのギャルコンビに加えてはるかまで混ざっている。
目的はやはり巣灯裏亞駅なのだろうが、それにしては各自の両手に買い物した痕跡が多すぎる。
明らかに余計なところをハシゴした帰りだ。
「うさぎ……貴方またムダ遣いしましたね……バズりで稼ぐお金は一時的なものだから貯金しろとあれほど言いましたよねぇ……」
「この家の収入源は殆どあーしだからいいじゃん」
「その現状が問題だと言ってるんですよ……てかなんですそれ、またパンツですか、見せる相手もいないくせに」
「パンツは第二の顔や髪型みたいなものだから、付けるだけでその人のスタイルがわかるんだよ、ほれ」
「見せないでください本日2度目です、てかさっきと違うパンツだし」
道端で変態じみた会話がナチュラルに繰り広げられて止まらないがはるかも田中も唖然とするしかない。
彼女達は普段からこんな生活しているのだろうか、姉妹喧嘩にしてもなんか生々しくてこんなところでやめてほしい。
「いいですかうさぎ、結局のところパンツなんて下着です、履いて身体を防護するために使うのが服というものです、そして服は一緒に頑張った分汚れるんですよ……その証とも言えるこの臭い香り……これが生命力を吹き込むんですよ……」
「いやそれこそ道端でやるなっつーのきしょいわ」
「というかそれこの間アイツに貸した私のパンツじゃないかァァァァ!!」
「えっくっさ、近寄るな」
「あのそれ洗濯とかは……」
「え?なんで?」
「……私もう既にこいつのいる会社に入りたくなくなってきたが」
「田中さんはいいよね、私の場合だとこいつら身内なわけ」
「おいなんであーし含んだ?」
「うさぎさんもその……仕方ないと思います」
はるかにすらここまで言われてしまうが、ここで長話をしていると電車に乗り遅れてしまうことに気付いたかなは一人逃げ出すが逃さんとばかりにうさぎが飛び出してそれを追いかける形でどんどんくっついていく、電車は駆け込み厳禁。
そしてかなを追いかけていくうちにキウィ達まで電車に乗ってしまった。
「あっどうしよう乗っちゃった!」
「まあよくね?かな姉も迷惑じゃねえっしょ」
「ええまぁ……我が社は来るものを拒まず去る者を追わずですが」
「お前の会社の実態が見えてこない……ところで今更だがそっちは何をしていた?」
「何って決まってんじゃん?巣灯裏亞駅に入れたら間違いなくバズれるから情報集めて……そんでついでにショッピングって感じ!」
「あたしは服を選んでたらたまたまクラスメイトのキウィちゃんと会って……巣灯裏亞駅にはちょっと興味があったから」
「実を言えば私もその駅には個人的に興味があったな」
「実を言えばわたくしも!近頃のトレンドですわね?」
「あら……やはり噂というものは一度進んでしまえば止まらないものですね、まるで時の流れのように……」
「かな姉ちゃんは噂とか興味あるの?」
「興味というか……ある意味ちょうどよかったですね……我々の行き先はその巣灯裏亞駅ですよ?」
「なっ」
いつの間にか電車は止まっており、薄暗く寂れた田舎のような場所にポツリと『巣灯裏亞駅』と建てられた場所に降り立つ。
前にうてなが何が起こったかも分からないままこの駅にたどり向いていたが田中もキウィもなぎさも……はるかでさえも、普通に電車に乗っていたはずだったが別次元に放り込まれたような感覚、その中でパンタノペスカだけは平然としている。
常人であれば理解不能だが、この中でロードエノルメだけは前もってヒントを得ているようなものなので仮説を建てられた。
(突然別の駅に飛んだ……いや違う、クロノス・シンジケートは時を止める魔法を作ろうとしている、単純な話だ……
「やってくれたな……」
「えっ、姉ちゃんこの駅の行き方知ってるの?なんで!?」
「なんでと言われましても……感覚としては駅の切符を買うようなものですので……さて皆さん、ここから会社まで5分、もう一息ですよ〜会社に近づくほどテンションが高くなってくるのも職業病というものでしょうかねぇ?」
ハメられた?こんな堂々と誘ってくるなんて悟られたようにしか思えない。
フリーの魔法少女なる謎の存在がそばにいることも含めて孤立させて都合良く始末しようとした?ロードエノルメとマジアマゼンタは互いに正体を知らないが自分に牙を向けられていると感じた。
問題は実の妹達や(分類上)無関係な人を巻き込んでいることだ。
うさぎとキウィは写真を撮りまくっているがあまりにも殺風景なのでつまらなさそうだし、なぎさは黙り込んでいる。
「ああ……そういえばうさぎとなぎさには話してませんでしたね……私の会社のこと……では、改めましてようこそ、クロノス・シンジケートへ!我が社の活動内容は世界征服というものも言いますが実際はなんかこういい感じな魔法を作るためでその為なら世界なんてどうでもいいよねって感じです!」
自分達はもう後戻りできない。
一度進んだ針を後ろに動かせないように……いとも容易く乗り込めてしまった。
ロードエノルメはかなと会社を潰せるチャンスが出来たと同時に……もう1つの可能性に至った。
(まさか私はマジアベーゼにハメられた?さっきも思ったがここで奴を倒せば目的は達成される、しかし脱出手段を失う?ナハトベースを通してワープが出来ない、空間の性質が違うのか?つまり下手すれば永遠に出られない、都合の悪いものをまとめて……!?)
「クロノス……凄い!!凄いよ姉ちゃん!!本当に戦隊の組織みたいだ、うてなの言っていた通りだ!!」
その中でなぎさはより一層テンションが上がる、唯一非現実を追い求めて取り残されていた彼女にとってつまらない人生を変えられそうな道標。
クロノス・シンジケートの存在は現実に広がりつつある……!!
なお、姉達が異次元空間に迷い込んでいることは露知らずうてな達妹組は新作の魔法少女アニメを満喫する。
ほむらもまだまだこういう作品が好きな年頃であり、どれみも人付き合いが悪いわけではないので文句も言わずDVDの最後まで席を離れず付き合ってくれる。
「終わった終わった、そろそろ昼か……うさぎはどうせ勝手に飯食って帰ってくるだろうし……仕方ない食いに行くぞ」
「どれみ姉様、私スパゲッティが食べたいです」
「あーパスタかよ……うてな、少し金あるか?店のやつって高いだろ……うてな?」
「えっ?ああ、うん……いい店知ってるから行こうか」
「うてな姉さまー!」
(なんで?あんなに面白かったのに……夢中になって目が離せなかった、最後まで楽しめたのに……どうして物足りないの?)
ほむらと一緒に見た作品はとても素晴らしかった、ほむら以上にじっくりと感動して鑑賞したというのに終わってみると心の底で期待していた何かが訴えてくるような感覚がする、いつもと変わらない見方なのに何が足りないのかも分からない。
この柊うてなが魔法少女に向けていた本当の愛の形に気付くのはまだまだ先の話……。