朝のニュースを見て柊家も食べる手が止まってしまう。
……超巨大な謎の存在が世界各地を襲撃、これによって数千を超える戦車や戦闘機が破壊されて国の武力にある程度痛手が入った。
普段怪人VS魔法少女の世界の中で過ごしているが、他国がミサイルを飛ばせばすぐさま速報が入るくらいには平和というものはいとも簡単に崩される、世界征服をしている以上相手は世界でもあることに気付くにはあまりにもうてなは遅すぎた……。
問題はこの事件の後、ロードエノルメは堂々と世界に宣戦布告している。
「世界に住む人類全てに宣言する、我々こそエノルミータ……腐りきったこの世界に革命をもたらし、歪みきった情勢に天誅を下すもの、この攻撃は始まりに過ぎない……」
(くっ……あの人ちょっと考えが足りなさそうとは思っていたが強硬手段に出ましたか、空気読めよ!魔法少女と戦う組織ならまず魔法少女を倒せよ!)
「どうすんだコレ、なんか思ったより規模でかくねーか」
「だな、これから戦争にでもなりそうって雰囲気だ……あーあ、面倒なことになるぞ、トレスマジアだけで済む問題か?」
「まあ……魔法少女は彼女達だけではないので……どっちにしても戦争規模の戦いになって街の被害は避けられないてしょうが……怖いのは海外からの報復ですね……」
「私今のうちに非常食作っておいたほうがいいですか?」
「やめろ、それだけはマジでやめろ……ってかなぎさっちはどうしたよ、いつもみたいな戦隊トークはどうした」
「戦隊イイイィッ!!くぁせdrftgyふじこlp504545」
「うわぁ姉様が人間が発してはいけない悲鳴を」
「よく分からないけどこういう時は戦隊絡みでとんでもないニュースを見た時だ!構っちゃダメだよほむら!」
こんな時でも柊家の団欒は相変わらずだが、かなはうてなを手招きしている、サインの内容を察したうてなは朝ごはんを早めに食べ終わって片付け……かなの部屋に入る。
かなは家に帰ると基本的に風呂に入ってすぐに寝るのでゴミは少ないが凄く臭い、つばめが定期的に洗濯しているがかなりムワッとしたものが染み付いているのでよほどのことがないと近寄りたくもない。
その辺の着替えと仕事の資料が散乱している部屋で、うてなとかなが対峙する。
「この部屋には特別な結界が貼ってあるので例のヴェナリータとやらが訪れることもないです」
「姉さんの技術力どうなってるの……それで私を呼び出したのって……」
「無論……マジアベーゼとしてのビジネスの話ですよ……単刀直入に言えばこのままでは世界がヤバいです」
「ええ……なんというかすみません、うちの総帥がここまで思い切りがいいとは」
「いえ、こちらも正体は薄々察してましたが……少し挑発しすぎましたね、戦車がどうとか勝てるかはともかくめんどくさいじゃないですか、もしそういうのに喧嘩を売ればそれはもう戦争ですよ」
「一応聞いておくけど姉さんもクロノス・シンジケートもそれを避けたくて時間停止の魔法を作ってたんですよね?」
「世界征服というのは建前……いや間違ってはいないか、でもまあ世界が滅んでもらうのは違うなとは考えてます、その為に大幹部にまで出世したんですがねぇ……」
「それはまあ右に同じかな、私は無理矢理エノルミータに入ったものだけど出来ることなら魔法少女を生で拝みたいというか……その……なんだろう、まだはっきりとした答えは出ないけど」
別の悪の組織の幹部同士であっても姉と妹、なんだかんだでうてなにとって心を許せるのは次女だった。
仕事……という体でもしっかりと妹の話を聞いてくれる姉と、素直に姉に甘えられる妹……。
「そういえば小さい頃の私やほむらの面倒を見てくれたのって大体かな姉さんだったよね」
「ああ……姉さん昔っからあの身体でしたので……3歳くらいまで姉さんの痛々しい姿見るたびギャン泣きしてましたよ貴方」
「それはつばめ姉さんには悪かったな……でもかな姉さんもよくやってくれたよね、その頃ってまだ今の私より歳下だったのに」
「アレがきっかけだったのかもしれませんね……働くことの楽しさを覚えたのは、今となってはクセになって壊れてしまいそう……うてな、時間停止という答えをトレスマジアが導いた時どう思いました?」
「その手があったか〜って思った、何もかも止めてしまえばトレスマジアも対処できない……けどそれはなんかズルい、悪役なんだから堂々と戦うべきです」
「やだ、私がケンカなんかしてもメリットなんかなにもないじゃないですか……大体クロノス・シンジケートは魔法を作ってるだけで戦いとか出来ないんですよ……」
「戦闘用の魔法を作ったりとかは?」
「ああ〜……篝火の魔法なら行けるか?いやでも対人戦の実験とか後が面倒だからなぁ……さてそろそろ本格的な話……貴方、クロノス・シンジケートで何か目的がありますね?」
「え?ああ、えーと……」
うてなが改めてスマホを確認してみるとロードエノルメからメールが届いていた、以前も電話番号どころかメールアドレスも教えてないはずなのに何故しっかり届いてるのか怖くなってくるがひとまず書いてある内容としては単純に『黒い切符』を奪い取るというものだった。
黒い切符とは、巣灯裏亞駅に突入するのに必要なものらしい。
「なんか姉さんから黒い切符を取ってみろって……」
「はあ……ま、そうなりますよね……世界を武力制圧して尚且つ邪魔な我々を潰すわけですか」
「もし切符を奪ってエノルミータが攻めに行けば?」
「まぁ……まー間違いなく負けますね会社、めでたく無職ですよ……何せうちの面々、コードネームだの肩書だの立派だけど喧嘩もしたことない張子の虎共ですので」
「となると……私とかな姉さんで切符を奪い合う……のは、なんか嫌だなぁ悪VS悪っていまいちやる気が出ないんですよ」
「え〜……私はトレスマジアと戦うほうが嫌なんですけど……もう見てますもん、魔法作ってることバレて無謀に飛び出したスリー(幹部格)がそのままボコボコにされたんですよ、こんなの束になっても負け格です……拍子抜けじゃないですか……」
「じゃあ私と喧嘩して、悪いけど私もエノルミータの立場のためなら育ててくれた姉さん相手でも倒す!」
「……うーん、そういうことであれば力づくで奪い取って見なさい、はいよーいスタート」
「ちょっ!?」
宣戦布告に対してかなは窓から飛び出して全力疾走、2階から綺麗に着地してそのまま外に抜け出していく姿に呆気にとられるが目的に気付いてすぐにマジアベーゼに変身、かなを追いかけていく。
恐らく行き先は駅、黒い切符を使って巣灯裏亞駅を越えてしまえば足取りを掴めなくなる。
だが労働者の通勤スピードは常人の想像をはるかに超える、駅の場所は把握しているはずなのにかなのスピードに全く追いつけない、空を飛んでいるのに大地を踏みしめる足に及ばない。
このままではピッタリのタイミングで駆け込み乗車されてしまう……。
ただし、かなでも想定外なことが一つだけあった。
巣灯裏亞駅に花菱はるかが偶然誘い込まれた……うてな達にとっては無縁な存在故に気付かない、彼女がトレスマジアであったことに、情報が……届いていたことに。
電車に乗ろうとするが、待ちかねていたのはマジアサルファ。
一応生身の人間なので手加減程度にデコピンで済ませるがそれでも尋常じゃない吹っ飛び方をしてなんとか間に合ったマジアベーゼを巻き込む形になる。
正義は悪には決して勝てない、これはテレビから飛び出してきた絶対的な常識である。
たとえエノルミータが世界に宣戦布告をしても、クロノス・シンジケートがこの世のすべてを支配する魔法を作ったとしても……この世界の正義のヒロインであるトレスマジアは絶対に負けることはない。
何故魔法少女に気付かれたのか?それを考えるのは野暮というものだ。
だって正義が勝つのは当たり前のことで、自分達は悪だから最終的にやられることもまた当たり前だから……。
そんなこともあり、黒い切符はトレスマジアの手に渡ってしまった。
「さてこの後私はどうなるのでしょうか、法的処置を受けるんですかね?」
「まあ人間相手ならそうなって然るべきなところやが、こいつの場合どんな罪に引っかかるかやな、魔法を作っただけやし……武器等製造法違反とかか?」
「武器ではありませんよ、だからこそ貴方達と直接やり合いたくないという感じでしたし……それより私よりエノルミータの彼女をなんとかしたほうがいいのでは?」
「そっちもなんとかするが全部潰さんと気が済まん、特にお前みたいなコソコソしとる卑怯者はな」
「ふふ……言ってくれますねぇ、では貴方に敬意を払い、このまま全て自供するか、マジアベーゼを優先して私を逃がすか選ばせて……あれ?」
気がつけばマジアベーゼの姿はなかった、彼女が自分から逃げ出すような性格ではないので恐らく意図的に仕組んで別次元に飛んだのだろうか?
何にしてもここにあるのは、かなとマジアサルファだけだ。
「……自供しますか、少々自分語りになりますがいいですか?」
「時間稼ぎする気ちゃうやろな」
「私の為に動くような人間はあそこにいませんよ、自分が可愛いから悪の組織なんてやってるわけですし」
「ほーん……じゃ、洗いざらい世間に向かって吐いてもらうで」
「ま、仕方ありませんか……ではそうですね、何から聞きたいでしょうか……あら、私まで」
そして、本当に突然異次元空間に放り込まれてナハトベースに強制送還されたマジアベーゼと、後から続くように落ちてきた柊かな。
以前自分が尋問をかけられてきた場所にかなはいる。
「どういうことですかヴェナさん、なんで急にこんなところに」
「今はクロノス・シンジケートに潰れてもらったほうがいい、どうせ5人も姉がいるんだ1人くらいロードの手で消えたところで特に気にならないだろう」
「そういうことを言ってるんじゃなくて!!どうして逃がしたんですか!私マジアサルファと戦いたかったのに!!」
「状況を考えなよ、悪の組織だって好き勝手に戦っていいわけではないんだ、何事もタイミングというものがある……お約束なら君も分かっているだろう」
「それは……そうなんですが」
今更何か言ったところで今の立場では意見を通してもらえないことを察して座り込む、かなが大幹部にまで出世したと言った時の気持ちがわかるような気がする。
自分も『幹部』という肩書ではあるものの分類的には一番下の下っ端程度でしかない。
ヴェナリータもロードエノルメも、怪しいところにある自分の家族の情報を引っ張り出すための駒としか思っていないことがこれで分かった。
偉くならなければ、尽くさなければ……うてなは誓った、あの人みたいになればきっと頑張れば。
そう考えていたところに、かながすっと起き上がってうてなにビンタした。
「こら、今貴方頑張るために理由付けしましたね?」
「えっ……ダメだった?」
「ダメですよ……仕事なんて辛くて苦しくて当然なんですから、私はあくまで体を追い込むほど苦しめた後に休むのがいいんですから」
「姉妹同士話は終わったか?」
ロードエノルメがようやくかなの元に姿を現した、ついこの間クロノス・シンジケートに潜入したときと真逆の構図になっているが特に驚いた様子もない、ロードエノルメの正体は自ずと察してきたのもあるが自分の末路を分かっていたかのようだ。
「エノルミータの給料とか労働環境ってどうなってますか?」
「お前……まさかクロノス・シンジケートを捨てるつもりか?」
「捨てるもなにも……社員の戦いなんてその程度ですよ……面倒になれば世界ごと逃げ出すでしょうし、あの黒い切符もサインみたいなものなので引き込む方法も……かわります」
「またクロノス・シンジケートの情報は集め直しか……ちっ、それはまた後でいい……洗いざらい話すのだろう?」
「まぁそうなりますよね……えーと、本当はトレスマジアに話す予定でしたが……我々が作ろうとしているのは時間停止の魔法というのは、まあ4割正解といったところです」
「4割……?どういうことだ、時間を止めて万物を支配し世界征服をするのではないのか」
「あれはうてな達のただの推測です、そうですね……時を止めても周りが動かなくなる、という思い込みによる結論ですよね、時を止めても周りが動かなくなるわけじゃないですよ」
「ありえない、それでは世界征服にならないぞ」
「何をもって世界征服としますか?国の掌握?あるいはこの間貴方がやったような破壊行動?いいえ、世界が思い通りになってしまえばそれでいいんです」
かなとロードエノルメの口論は止まらない、ここまでハキハキ喋ってる姿は見たことないが仕事中はそんな感じなのかもしれない、しかしいつ殺されるかも分かってないのにこの余裕ぶりはなんなのかとマジアベーゼも違和感を感じる、かなが言っていた『時間停止は全てが止まるわけではない』がどうにも引っかかる。
魔法を開発している以上、何かを知っているような……空間を止めずに全てを支配する?
支配にしても止めることでどんなメリットがあるのか……。
「……止まるってことは、進まないんですよね?」
「おっいい線いきましたね、止まった時間が動き出すことはありません、即ち時が止まった世界で我々は干渉されることはない」
「何を言って……」
「なるほど興味深い観点で、時間を停止させることで歳を取るという概念を取っ払う……疑似的な不老というわけか」
「は?勝手に納得しないでもらえるか」
「ほら君らのテレビ番組でもあるでしょなんとか時空ってやつ、春夏秋冬は普通に巡るけど決して歳は取らない、どんなに生活しても14歳のうてなは時を戻さない限りたとえ百年過ごしても14歳のままということさ」
つまり時間停止による世界征服とは、永遠に終わらず変わらない平穏な日々。
確かに何かしらのアニメだと話を終わらせないためにそういった法則が敷かれることはたまにあるが、それを現実で発生することで歳を取らないまま日々を過ごすことが可能、魔法ならそれが出来るというわけだ。
「まさかとは思うがクロノス・シンジケートはもう既に行動を終えているなんていうんじゃないだろうね」
「さあ?悪の組織とはいえ会社なので世界征服終わらせたらそれで仕事がなくなるわけてないので、それに止めたらそれっきりというわけでもないので維持という手段も必要ですし……魔力だって無限じゃないですよ」
「あ、あの姉さん……?もしも、もしもですよ?もう既にその時を止める魔法を発動して、私たちが知らない間に歳を取らないまま過ごしていたとして……それが解除されたら一気に解放されるタイプです?」
「うーーん……試してないので……わかりません、まあそんなことになれば何回転生しても足りませんねえ」
「えっ」
「なーーんて……冗談ですよ……私でも何百年も時を止めていたら魔法少女に気付かれるってわかりますよ……一つ言えることは……クロノス・シンジケートはもうこの世界にちょっかいをかけることはないでしょう……めんどくさいと判断して……」
言うだけ自供したあと、黒い切符は消えてなくなってしまう。
クロノス・シンジケートがかなを見切るというよりは、本当に彼女の言う通り面倒と判断して消え去ったのだろう、結局奴らは何者だったのか分からず終いだが……ここまで無関係を通そうとしていた奴らだ、案外いなくても変わらないのかもしれない。
「でも姉さん、あの会社が本当になくなってたら無職になるんじゃ」
「ああその点に関しては……大丈夫ですよ」
「なるほど、君エノルミータに入る気か」
「はあ!?ふざけるな、こんな得体のしれない組織の悪魔とか言われてるやつを私が認めるわけ……」
「魔力リソースの調整だったらできますよ、OL舐めないでください……なんとなくニュース見て察してますよ、エノルミータで保管している魔力の殆どをあの攻撃戦で消費しましたね?」
「よく分かったねその通りだ、世界大戦でも始まってしまえば枯渇して一気に不利になり世界を滅ぼすだけだね」
「枯渇だと!?バカを言うな、あんなに沢山あったからシスタギガントに任せて攻撃させたんじゃないか!ちょっと基地を踏み潰しただけだぞ!」
「あのねぇ巨大化って消費が馬鹿にならないんだからね?太平洋泳いで渡ってもらったりで世界移動は大変なんだからその分貯蔵した分を結構食うんだよ」
「そ……そんなに使うのか?今どれくらいだ」
「今まで貯めていた分の5分の1ってところかな」
「少なっ!!それだけか!?」
「もしかしなくてもめちゃくちゃやばくないですか?」
「やばいね、ナハトベースを維持するためにも魔力は必要だしトレスマジアとの戦闘なんて以ての外だ、急速な補給が必要になってくる」
「……ああ、その件でしたら私手伝いますよ……私暇さえあれば魔力増やしてましたし、同じもの両立とか出来ませんかね……?」
「ふむ、この際人手はいくらでも欲しいところだ……柊家ならなおさらね、魔力を増やせるならやってもらいたいところだ、言っておくが拒否権はないし総帥の判断ミスでもある」
「くっ……」
「えっ、じゃあこれからはかな姉さんも一緒に!?……うーん、一番バレそうな人に私のことが」
「ん?ああ、その件に関してだが……知らなかったのか?お前の家、隠しカメラ大量にあったぞ」
「ああそれ、私が仕掛けたやつですね……なんだ知ってたんですか」
「え?カメラ?それってどういう……」
「あー簡単に言ってしまえば……マジアベーゼのこと、お姉ちゃん達みんな最初から知ってました」
「え、えええええーーー!!!?」