異世界でVtuber事務所を立ち上げた馬鹿〜初配信まで数百年〜 作:哀上
……ん、ここは? 辺りを見回すも、見渡す限り真っ白な空間。気が付けばそんな妙な場所にいた。
『あなたは死にました』
頭の中に声が響く。振り返ると、さっきまで何もいなかった空間にふよふよと謎の光る玉が浮かんでいる。
(何これ、どういう状況!?)
声を出そうとしたが、声が出ない。喉やら肺に変な引っ掛かりを感じるというわけでもなく、ただただ音が出なかった。自分の体を見ようと視線を下に向けるもそこにはただただ真っ白な空間が広がるばかり。
(体が無い……?)
どうやら俺は本当に死んだらしい。
不思議とそう思考するのに抵抗はなかった。すんなりとその事実を受け止めることが出来た。自分でも驚きだ。それだけ現状が現実離れしてるから、か。
イタズラやらドッキリの範疇でない事は確かだし、仮に嘘だったとしてそれを確かめる手段もない。目の前の人智を超えてそうな存在が死んだと言うのだからそういう事なのだろう。
しかし、死因はなんだ? 多少不健康な生活をしていた記憶はあるが、それでも即刻命に関わるほど体が不調だった覚えはない。仕事はただのデスクワーク。少々黒いが、それでも過労死するほどじゃない。命の危険に関わるような労災とも無縁の職場である。
この謎の空間にくる前、記憶を思い返してみる。確か、今日は推しのVtuberの周年記念の配信があって。なんとか残業を2時間以内に終わらせパソコンの前にスタンバイ。コメ欄と一緒にカウントダウンして赤スパ投げて3Dライブを楽しんで……
そこで記憶が途切れている。素晴らしいライブだった。それは覚えているが、よくよく思い返してみれば最後まで見た覚えがない。グッズを買った記憶もないし。
あの後何したっけ? 全然覚えてない。
と言うことは、その辺りで死んだのだろう。心当たりはまるでないが。どうしてこうなった? あそこから何をどうしたら死ぬことになるのだろうか。
『尊死しました』
(……は?)
そんし? どゆこと?
『はい、尊死です。正確には、推しのライブに感動して気絶したあなたは目の前のカップラーメンに頭を突っ込んで溺死しました』
……
淡々と、まるでニュースの原稿でも読み上げるように俺の死因を伝えてくる高次元存在らしき光の玉。
にしても、Vtuberのライブで気絶してカップラーメンで溺死って。マジか。賞でも貰えそうな程度には愚かというか、なんというか。情けない死に方である。彼女いない歴=年齢である以上、ガッツリ受賞資格があるのを喜ぶべきか嘆くべきか。
喜ぶ選択肢があるのかって?
承認欲求ってやつは死んだ程度では無くならないらしい。バカは死んでも治らないって言うけど、あれ本当だね。何者かになりたくて、でも何者にもなれなくて。だからこそ、たとえ不名誉な賞でも受賞資格があって受賞するかもしれない死に方をしたってだけでちょっと嬉しかったり。
しっかし、スパチャのしすぎやらグッズの買いすぎ。それで自分の生活が犠牲になってる自覚は一応あった。栄養バランスとか、そんなの一切考えてなかったし。働いてる職場も、ブラックよりではあったと思う。何人も死人が出るようなとこと比べればずっとマシだが、それでも過労なんて単語が脳裏をよぎったことは何度かあった。
すぐに死ぬような心当たりは皆無だったが、それでも寿命を削ってる自覚はあった。そういうののせいではなく?
『尊死です』
宙に浮かぶ光る玉にはっきりとそう断言される。そうか、尊死か。
でもまぁ、最後に見た光景が推しのライブなら悪くない人生だったのかもな。全部見れなかったのは残念だったけど。推しのライブで感動して天にって、ファン冥利に尽きるといえばそうだし。
(それで、死んじまった俺はこれからどうなるんだ?)
『あなたには選択肢があります』
選択肢? てっきりこのまま天国的なところに行って、のどかでどこか退屈な悠久の時を過ごすことになると思っていたのだけど。
『地獄に落ちるか、それとも子供時代から人生をやり直すか』
……え? 天国は??
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