異世界でVtuber事務所を立ち上げた馬鹿〜初配信まで数百年〜 作:哀上
『あなたはそんなに立派な人生を歩んだ自覚がお有りで?』
ジトっとした視線を感じる。目の前に浮かんでいるのは相変わらず光の玉、目なんてないはずなのだが。少なくとも呆れられているのだけは伝わってくる。随分な言われよう、けど言い返せないのが悲しい所だ。
(……いえ、無いです)
『よろしい』
俺の言葉に、満足げにそううなずく高次元存在。
こう、率直に天国に行く資格がないと突きつけられるのはなんともいえない気持ちになる。多少ショックではあるが、別に天国に行こうと何か努力した心当たりもないからな。地獄に落ちるほど悪いことをした覚えはないが、天国に行けるほど立派だったかと聞かれれば確かにノーかもしれないし。
天国にはいけないらしい。これはもう決定事項である。ここで文句を言っても仕方ない、ルールも何も知らないのだから。頷くしかない。
それに、天国にどうしても行きたいかって聞かれると疑問だしね。退屈だとかなんとか、創作の世界じゃそんな描写をされることも多い。理想郷って扱いのモノも無論あるけど、実際はよくわからないし。だから正直あんま惜しくもないというか……
しかし、人生のやり直しか。
子供の頃に戻って知識無双。神童として生きて、未来の記憶を生かして大金を稼いで。何度かそんな妄想をしたことはあった。そういう題材の小説を読んだこともある。でも、真剣に考えたことはなかったな。
まぁ、当然の話ではあるが。夢物語、実際に起こるわけのないただの妄想の種だし。これを真剣に検討する方がどうかしている。
『地獄って選択肢もありますけど』
(誰が行くか!)
光の玉がふわふわと俺の前を漂う。さも当然のようにもう一つの選択肢の方を提示してくるが、当然拒否。流石にその選択肢はない。地獄って、だって地獄でしょ?
『最近は男女平等が進んでますから、鬼娘に鞭打たれながら剣山の上を歩くなんてイベントもあったり?』
……
ちょっと惹かれてる自分が居るのが嫌だ。
無しだ、無し! 地獄に行くのは流石にない。別にドMってわけでもないしな。鬼娘とやらに興味なくはないが、実現しても多分あんま嬉しくない……はず。
それよりやり直しの方だ、人生のやり直し。何者かになりたくて、でも何者にもなれなくて。別に努力して挫折したわけじゃない。ただぼんやりとそう思っていただけ。俺は怠惰でどこにでも居るような凡人だった。
でも、これなら? 俺みたいな人間でも何者かになれるのかもしれない。
生まれながらの天才、そして神童。無論、勉強面のアドバンテージが長持ちするとは思えない。そんな人間なら初回からいい大学に行って大企業に入れてたはずだし。けど、幼い間だけでもそう扱われてみたい。どれだけ居心地がいいのだろうか。
他にも、勝つと分かってる馬に大金突っ込んで競馬で増やしたり。株やらFXなんて選択肢もあるか? 勉強面で通用しなくなったって、未来の知識の用途は無限大。きっと物語の主人公のような人生が、そこに。
それに、これだけじゃない。Vtuber、これまでの俺はただ側から見てるだけだったけど。先行者利益、いずれ流行ると知っているって事実。これがどれだけでかいか。もしかしたら、憧れの人たちの隣に並べるなんて可能性も。
別にこんな機会があるなんて想定してたわけじゃない。記憶は曖昧。例えで競馬なんて出したが、でかいレースの単勝は取れてもそれ以外は勝ち馬知らないし3連単なんて夢のまた夢。株やらFXの値動きなんてもっとあやふや。正直、無双できるほどアドバンテージを稼げるかって聞かれると怪しいところもある。簡単に行くとは思えない。
でも、もしかしたら。そう思えるだけで……
『ふーん、あなたはそのVtuberってのになりたいんですか?』
(なりたい! 無理だとしても関わりたい)
『なるほど。なら、便利なスキルをあげましょう』
(え?)
スキル? どゆこと?
『チートってやつです。テンプレでしょ? やり直しを選んだ人にはいくつかあげることになってるんです。そうですねぇ、人物鑑定(Vtuber)。Vtuberの才能がわかるスキルをおまけしてあげます』
マジか。未来の知識だけでもチートなのに、そこにそんな便利なスキルまで。んなの無双確定やんけ。人生楽勝か?
『スキルこれだけでいいですか? 他にもありますよ。たとえば魔法とか、王道ですし何かと便利ですよ』
ま、魔法? 欲しいけど、でも現代でどう使うんよ。マジシャンとかか? 本当に種も仕掛けもないとか、話題にはなりそう。でも、Vtuberやるんじゃ見えないし……
『ご不要なら無理にとは言わないです。あんまりつけても転生の成功率下がりますしね』
(……へ?)
どゆこと? 今、聞き捨てならない不穏なセリフが聞こえたような。
『魂の形を変えるわけですからね。あんまり歪にすると、魂が耐えきれずに弾けちゃうんですよね』
(ちょ、まって!)
『じゃあいってらっしゃい。あなたの……初配信? 私も楽しみにしてますよ』
(おい! その辺りもっと具体的に。この鑑定スキルは持ってても大丈夫なのか? 無事に人生やり直せるんだよね!?)
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ランデイ領、屋敷
「いっつー」
「エルン様、お怪我はありませんか?」
転んだ、のか? 足元を見ると何冊かの本が散乱していた。これに躓いたらしい。背後からメイドの声が聞こえる。でも、頭に入らない。返事をする余裕がない。転んだ衝撃で全てを思い出した。
推し、Vtuber、転生、尊死……
どうやら俺は転生者だったらしい。この世界に生を受けて3年。赤ちゃんプレイがスキップされたのはあの謎の光の玉の親切心だろうか? いや、鬼娘がどうとか言ってたしな。たまたまか。
それより、だ。この世界、これまで生きてきた記憶から推察するにちょっと予想外の事実が。まだ3歳だから行動範囲なんてほぼ家の中に限られてはいるが、それでも現代日本じゃないのは確定。文化感的にはおそらく中世のヨーロッパとかそれぐらい、しかも。
「ほら、痛い痛いの飛んでけー」
メイドがそう言いながら俺の膝に手を当てる。淡く緑色に光る患部。ここ、ファンタジー系の世界だ。
あの光の玉、『あなたの初配信、私も楽しみにしてますよ』とかなんとか言ってやがったけど。配信サイトどころかインターネットも無い、なんならテレビすら無いんだが? どうなってんねん。
初配信って、数百年は先の話やんけ。それに、こんな世界で鑑定(Vtuber)なんてスキルどう活かせと。俺の勝ち確人生は何処へ……
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