異世界でVtuber事務所を立ち上げた馬鹿〜初配信まで数百年〜   作:哀上

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知識無双

『ごめんなさい、ちょっとズレちゃいました。てへぺろ』

 

 そんな幻聴が脳内に響く。なぜだろう、あの高次元存在。光の玉の状態しか知らないのに、俺の中でムカつくタイプの女神でイメージが固定されつつある。

 

 数世紀をちょっと扱いするんじゃねぇ! 

 

 いや、これは八つ当たりか。そもそもこれただの幻聴だし、やつがこんなこと言ったわけじゃない。勝手に妄想してそれにキレるとか酷い当たり屋もいたものである。

 

 よくよく思い返してみれば、だ。子供時代から人生をやり直すって言われたが、どこでとは言われなかった様な気がするし。文明の発展度が数百年ぐらい前だったり、そもそも魔法なんて物があったり。多少の差異は仕方な……いや、やっぱ詐欺だろ。

 

 何も言われなかったら現代日本だと思うじゃん。普通。それが、こんなファンタジーな世界に放り込みやがって。

 

「……エルン様?」

 

 俺がひとり考え込んでいたからだろう。顔の前でおーいと手を振るメイド、心なしかその表情には焦りが見える。3歳児が転けて、泣くでもなく強がるでもなくただただ黙り込んでいたらそりゃ怖いか。しかも、雇用主のお子さんである。

 

「あ、だいじょうぶ。だよ」

「よかったです」

 

 そういいつつ、まだ心配そうな視線を向けてくる彼女。ちょっと申し訳ない気持ちになる。ごめんね。一気に情報が溢れて、返事をするどころじゃなかったのだ。

 

 転生のことを思い出す前の、ただの3歳児の記憶なのでかなり飛び飛びかつ曖昧なものではあるが。それによるとこのメイドは俺の専属のメイドらしい。年齢は俺よりちょっと年上。今の俺より、である。前世でいえば小学校に入るかどうかってぐらいの子。

 

 そんな子をこんな表情にさせて、そりゃ申し訳なくもなる。

 

 なんで幼い彼女が俺のメイドなのかは不明。そりゃ、んなことを幼児相手にわざわざ説明する人間もいないしね。多分、メイド業務だけじゃなくて友達も兼ねてって事で、わざわざ年齢が近い子をメイドにつけているのだろう。きっと……、おそらくはそのはず。出来ればそうであって欲しい。

 

 幼児におつきのメイドなんている時点で察してはいたが、自身のあやふやな記憶を整理するにうちは貴族らしい。ただし、田舎の弱小貴族。屋敷はそれなりに立派だし、使用人も複数人雇ってはいるが、その維持費でかなりカツカツ。貴族としての体裁を保つのに精一杯って感じだ。

 

 俺はそこの次男。2番目、予備。それも余裕のない貧乏貴族の家の。あまり物をつけられたなんて可能性からは目を逸らす。ただでさえファンタジー世界に放り込まれて人生イージーモードの択が消えかかってるというのに、ハードモード直行は勘弁してほしい。

 

 しかし、どうしたものか。

 

 人生やり直し、当然のように現代日本に転生すると思ってた。というか俺の子供の頃に戻ると思ってた。そこから小学生の間ぐらいは神童モードを満喫して、記憶に残ってるg1の単勝を転がし、俺でも知ってるぐらいの大企業になる企業の株を買って、悠々自適な第二の人生。途中Vtuberデビューもしちゃったり? と、かなり楽観的な妄想をしていたのだが。こんなの想定外もいい所である。

 

 俺の勝ち確人生、未来知識での無双、夢のイージーライフが……

 

 あのー、女神様。行き先がファンタジーなら先に言っといてくれません? 心の準備とか、チートスキルだってもっと別のを選んだし。そういや、魔法系のスキルとか勧められた覚えが。そういう事かよ、確かにこれ系ならそれがテンプレだわ。

 

 本当にどうしろと? 俺が貰ったの人物鑑定(Vtuber)って、使い道ないやんけ。この世界じゃチートどころか特技とすらいえないじゃん。俺にこの先どう生きろと。

 

 田舎の弱小貴族の次男坊。そりゃただの村人よりはマシかもしれないけど、でも命の保障すら結構怪しいぞ。生活水準前世より落ちるの確定だし。チートもなしに、こんな世界で現代人が生き残れるわけないじゃん!

 

 ……いや、一応無理では無いのか?

 

 前世の知識を使って無双って、よく考えればこっちでも出来はするのか。この世界、科学がお約束のように未発達だし。前世の物語でテンプレのように使われてきた、中世ヨーロッパ風のファンタジー世界。まぁ、実際の中世ヨーロッパがどうだったのかとかは知らんけど。そこはこの際どうでもいい。

 

 未来の知識を使って、科学を発展させる。産業革命を起こし、蒸気機関の技術を独占して、ハーバーボッシュ法? を使って領地を豊かに。色々と名前は知ってる。が、肝心の中身の方はあやふや。

 

 こんな状態で知識無双……行けるか? いや、やるしかない。せっかく人生やり直して、何者かになれるかもしれないと期待して。その結果、生活水準すら下げてまた平凡な人生を繰り返すのはいかがなものかと。

 

 それに、使いづらいとはいえ明確なアドバンテージはあるのだ。無理って事はないはずだ。必ず、多分、きっと。

 

 何をやるにしても、元手がいる。今の俺はただの3歳児。権限も使える金も皆無。貴族の生まれってことで将来に期待したいところだが、貴族の体面を保つので精一杯の家である。領地に俺の裁量の効く場所とか、貰えるわけがない。継げるものは何もないと思った方がいい。

 

 となると、今から動かないとマズいな。知識があっても活かせないと意味ないし。それに、俺の未来知識。精度も量も微妙なのだ。となれば、大人になってからじゃ手遅れになる可能性が高い。

 

 ……神童パターンで行こう。

 

 そのほうが色々引き出しやすい。成長してからと子供のうちじゃ同じことを言ってもインパクトが違うし。それに、次男なんて予備ではあるが優秀なら話も変わるかもしれない。

 

 確か、10で神童、15で才子、20過ぎれば只の人だったか? 俺のスペックじゃ15で才子を維持できるか怪しい。タイムリミット、これ意外と短いぞ。

 

 足元に視線をやる。本が散乱していた。さっき俺が躓いたやつだ。手始めのアピールと、後は何をするにもこの世界の情報を集めなければ。

 

 適当に選び本を開いた。読めねぇ。絶望した。

 

「エルン様、お勉強ですか? 流石です」

 

 幼女メイドのあからさまなヨイショが、俺の小さくなった背中に虚しく響く。




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