異世界でVtuber事務所を立ち上げた馬鹿〜初配信まで数百年〜   作:哀上

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英雄譚

「エルン様、おはようございます」

「ふぁ〜。おはよ」

 

 この世界に転生してから、そして幼女メイドの裏の顔を目撃してから、しばらくの時が経過。当時はそのストレスからの暴力性がこちらに向くことを恐れていたが。今のところ、まだその気配はない。

 

 寝起きの俺に呆れ半分の笑顔を向けつつ。ベッドから出して、服の着替えを手伝う彼女。側から見る分には面倒見のいいお姉ちゃんである。

 

 現代日本から突然ファンタジーなこの世界に来たわけだが、日々の生活に関しては彼女のおかげもあり大きなトラブルもなくこなせている。生活レベル的な面で言えば、そりゃ不満も多々ある。ベッドが硬いとか、布団が重いとか、服の肌触りがとか。けど、それを言っても仕方がない。

 

 そういうとこを抜きにすりゃ、概ね問題ないと言えるだろう。

 

 ……が、言語習得と魔法の進捗はイマイチ。一応、出来る努力はしてるつもりなんだけどね。チートもなけりゃ、頭の出来も平凡となると。まぁ、こんなものだろう。神童ルートはまだまだ遠い。

 

 それに、今の所問題はないが相変わらず幼女メイドのことが怖くてかなり大人しくしてるからってのもあるか。転生者といえば、魔法を覚えるために多少の無茶はセットみたいなとこあるじゃん? 狭い部屋ん中で魔法使おうとしてみたり、危険だって言われてる方法で自分の魔力ドーピングしようとしたり。

 

 ま、それが後の無双に繋がると言えばそうなんだが。幼女メイドに変な負担をかけたくない。俺はそもそも魔法の魔のじも使えないので、ただの杞憂。全然その前の段階だろって話ではあるが。万が一やらかしてからでは遅いのだ。

 

 結果。異世界転生なんてして、見た目3歳児中身いい歳した大人という特殊もいいとこの状態なのにだ。現状、ただの凡人と化している。

 

 幼女メイドは俺を着替えさせるなりテキパキとベッドの片付けを始めた。前世の感覚的に、自分の寝たベッドの片付けなんてちょっと手伝いたくなるが。これも彼女の仕事である。手を出す方が良くない気もするのでそのままお任せ。素人に手伝われても邪魔だろうし。

 

 あ、もちろん着替えを手伝ってもらってるのも彼女の仕事を尊重してのことである。決して朝が弱いからとか、幼女に着替えを手伝ってもらえて役得だとか、そんなことは考えていない。彼女の浮かべていた呆れ顔は、俺に着替えを任せたら昼過ぎまでパジャマのままでその時のことを思い出してたからとか。そんな事実は一切ない。

 

 お仕事中の幼女メイドを尻目に、近くにあった本を手にとる。

 

 これを見ると前世の記憶を思い出してすぐに目撃した、彼女の荒れようを思い出す。が、幸いなことにあの日以降まだ見ていない。失敗して気をつけるようになったのか、本当に限界であれのおかげである程度発散出来たのか。そこは不明。少なくとも部屋の本があれ以来行方不明になったことはないので後者だと思いたい。

 

 本の中身を眺める。ちなみに、相変わらず文字は読めない。まぁ、文字が単純そうなのは朗報である。漢字とかみたいな複雑なやつだと詰むからね。どちらかというとアルファベットより。学ぶ側からすればありがたい限りだ。

 

 魔法に関しては完全に停滞。一度断られた以上、しつこくねだってもしゃーないし。わざと怪我をしてって計画も完全に凍結。ストレスかけて暴発させたくはない。だから、やってることといえばたまに自然と使ってるところを観察するだけ。見て覚えるにも限度がある。しばらくは無理そうだ。

 

 こっちは完全に魔導書だより。そういうのがあるのかは知らないが、幼女メイドも使えるぐらいには一般的な技術なのだ。読めば魔法が使えるようになるタイプのものはなくとも、教本的なものぐらいいあるだろう。まず、文字を覚えないと。話はそれからだ。

 

「エルン様は本当に本がお好きですね」

 

 ベッドの片付けが終わったのだろう。幼女メイドが俺の横に座り、本を覗き込む。ちなみに読めてないのはバレバレ。ってか、普通は読めてるとは思わないだろう。そう思われていたなら苦労して神童ぶる必要もなくなるのだが。

 

「お読みしましょうか?」

「いいの!? ありがとう!」

 

 読み聞かせしてくれるらしい。彼女、多分忙しいのだろうがあまり忙しそうではない。俺の専属だからね。常に仕事中といえばそうだし、余裕を作ろうと思えばある程度は作れるって感じだ。

 

 3歳児相手。やってることがほぼ子育て、いや完全に子育てである。つまりイレギュラーだらけなのだ。そんな状況で仕事パンパンに詰め込んでたら対応できない。だから普段の仕事は傍目には余裕がありそう。まぁ、ストレスはその辺の激務以上なのだろうが。

 

 優しい顔。笑顔を浮かべて、3歳児の子供に読み聞かせをしてあげる小学校低学年の女の子。絵になりそうな心温まる状況……これも自己プロデュースなのだろうか? そう思うと途端に恐怖映像に見えてくるから不思議だ。

 

 いやまぁ、何でもかんでもそう斜めに見るものじゃないが。せっかく優しくしてくれてるんだから素直に受け取るが吉。

 

「それでは、今日はこのお話にしましょうか」

 

 この本は短いお話が何話か入ってるタイプの本らしい。彼女はペラペラとページを捲り、大体半分ぐらいのところを開く。

 

 幸い、話し言葉は大体わかる。幼い頭万歳! 

 

 こういう機会にと、聴覚情報と視覚情報を頑張って整理して文字を覚えようとしているが。これが、なかなか上手くいかない。何の役にも立たない前世知識がインストールされたせいか、記憶の定着率が悪い気がする。

 

 いや、客観的な比較対象なんてないし。前世の幼少期の頃の記憶なんか覚えてないので、ただの妄想の可能性大だが。ともかく順調にはいかないって話。

 

 彼女が読み聞かせてくれる物語。正直、内容に関しては子供向け。とっくに成人済みの、それも前世じゃ娯楽の海に浸かっていた様な俺的には物足りないものではあった。けど、だからって退屈かと言えばそんなこともない。俺はまだ文字が読めないのだ、この手の物語も大事な情報である。

 

 描かれてる食料、街並み、武器、移動手段。多分、中世ヨーロッパぐらいの文化レベルなんだろうなっていう俺の大雑把で曖昧な認識への肉付け。後は、神童ルートが上手く行った時に使える前世の知識の選定。

 

 登場人物、王族に貴族そして庶民。一口に王族といっても絶対王政なのか立憲君主的なのかじゃまるで違う。貴族も、庶民と比べてどの程度特権が認められているのかは場所と時代により様々だ。

 

 ストーリー、配役。この世界の倫理観と常識、善悪の基準。この辺りがわからないと、神童やるときに大ポカをしかねない。俺に医療知識なんてほぼ無いので例え話だが、不治の病と診断された病人を手術して腫瘍とって奇跡の復活! と思ったら「人体を切り刻むとは何事だ!」と、騒ぎになって衛兵が殴り込んできてお縄に。なんて可能性もあるのだ。

 

 さて、今日のお話は英雄譚らしい。悪い魔王がいて、それを勇者が倒して、国が救われて、お姫様と結婚。ハッピーエンド。わかりやすい、勧善懲悪な物語。

 

 ……魔王とか勇者とか本当にいるんだろうか? いてもおかしくないよな。だって異世界だし、見たことないけど魔物はいるっぽいし。




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