ディストピア世界にTS転生したので、尻軽商人として生きていくドM   作:聖成 家康

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熱ある中書いたので心配……


二話 犬には首輪が必要

 

 《アウトランド》と要塞都市を行き来していると、そのコントラストだけで疲れる。

 ドームに護られた都市内部は、前世の世界と同等かそれ以上の文明を維持しており、パイプやネオンにより彩られた高層ビルが立ち並んで人や自動車が行き来している。

 

「こちらが品物ね」

「ありがとうよ、姐さん」

 

 要塞都市に帰るや否や、彼女は残った仕事を片付けた。

 彼女と接して鼻の下を伸ばすのは、リヴァイヴ財団の下で働く傭兵たちだ。街の一角に、さながら飯屋のノリでオフィスを建てて、依頼があれば《アウトランド》だろうがすっ飛んでいく。

 財団が面倒臭がってやらない彼らとの武器のやり取りを担うのが、彼女の収入源だ。

 

「いやぁ、姐さんが来てくれる日は気分があがっちまうなぁ」

「ホントホント。むさい男だらけの空間はイヤになっちゃうのよ」

 

 ――あぁ分かるぅぅ。

 彼女も前世はそうだった。女子の気配がないわけではない。ただ、自ずと男子ばかりで群がるようになり、男子ばかりのコミュニティに身をおいてしまう。

 そんな中、自分たちの手の届かない範囲でもいい! 拝んでも文句を言われない女子の存在はなんとありがたいことか。

 

「そう? あんまり私に依存しないようにね」

 

 外の彼女と、中での彼女はサーベルタイガーと子ネコくらい違う。外でも中でも女性らしさはあるが、棘の多さは千差万別だ。

 

 彼女からすれば、これも堪らなく気持ちがいいそう。

 いつ裏の顔がバレるか分からない緊迫とした空気……常人には理解不能である。

 

 

 

 ーーリヴァイヴ財団本部ーー

 

 財団本部は、一際巨大なビルに設けられている。

 財団には主に四つの部門が存在し、彼女が主に雇われているのはもちろん「軍事部門」だ。雇われている……と言っても正式に財団職員というわけではない。あくまでも彼女は民間の商人で、財団に協力しているという関係だ。

 

「お勤めご苦労。アルモンド・アサルト」

 

 軍事部門総括のセルシウスは、冷酷な顔立ちをこれでもかと際立たせながら、チェアから腰を上げた。総括と呼ぶにはいささか若く、整った男性だ。

 

「経過報告を」

 

 赤い短髪とサングラスがギラ、と光る。黒いスーツも相まって台詞の威圧感が半端ではない。

 

「はい。都市部の民間PMCからの売れ行きは、アサルトライフル、ショットガンが良好です」

「それで」

「やはり傭兵集団も《アウトランド》からの小規模なモンスター、機械兵器の侵入や反乱分子によるテロといった事象が制圧対象だと考えられます」

 

 セルシウスはサングラスを外しながら、赤々とした眼光で彼女を突き刺した。

 何かマズイことを言ったかと身構えていると、ジャケットの懐から封筒を取り出し、彼女の掌に置いた。

 

「また用ができたら呼ぶ」

 

 給料袋とその一言を残し、セルシウスは完全に自分の仕事に戻った。

 なんだかやるせない気持ちはあるが、いつもこうだ。アルモンドも割り切って、自分の生活に帰る。

 

 

 ◇

 

 

「おや、その後ろ姿は」

 

 人通りが少ない街の一画を歩いていたアルモンドは、偶然目の前に知り合いの姿を見る。

 空色のつやつやした長い髪、長身で自分と同じく黒のロングコートを羽織る女性。振り向いた彼女は、趣味の悪いピアスを揺らしながら、中性的な顔立ちをやや緩ませた。

 

「アルちゃん」

「ロナじゃないか。奇遇だね」

 

 無機質にも思える翡翠の瞳は、駆け寄ってきたアルモンドをしっかりと見つめていた。

 ロナと言う名の彼女は、こんな世紀末の世界で「何でも屋」を営む物好きだ。仕事の関係上、彼女と何度も絡むうちに仲良くなった。

 

「仕事帰り? 私もなんだ」

「ウチに来る?」

「ほんと? いいの?」

 

 思いがけない提案に、アルモンドはぱぁっと表情が明るくなった。

 男から女になって長い。もう女の子同士の絡みは慣れてしまったが、未だに楽しい。それは単に、ロナのような気が合う子と絡むからだろうが。

 

 

 彼女と暫く歩き、ロナの自宅に招かれる。

 町外れにある普通のマンション。そこの五階に彼女の部屋はある。夜は静かで仄かに暗く、朝は車のちょうどいい騒音で起きれる、とロナが絶賛していた。

 

「ロナおかえりーーあれ、アルモンドさん」

 

 部屋に入ると、清楚な雰囲気を感じさせる女性が出迎えてくれる。赤色の髪の大きな三つ編みをゆらゆら揺らし、人形のような顔立ちながら少し背の高い、ピンクのロングスカートがよく似合う美人な女性。名前はノール。

 こうしてロナと一緒に暮らしているが、アルモンドには未だに二人の関係性が分からない。ただの同居人にしては親密すぎるような気もするし。かと言って恋人同士かと言われれば、そんな気配はないし。

 

「いらっしゃい。またロナに連れてこられたの?」

「そうそう。これでもう何日ウチにまっすぐ帰ってないことやら」

 

 アルモンドは皮肉っぽく言うが、内心嬉しかった。家に帰ったって特段することもない。仕事柄家にいないことのほうが多いから、何もないのだ。

 

「ノルちゃん、ご飯食べよ」

「はいはい……お酒はほどほどにね」

「やだ」

 

 ロナは彼女の制止も聞かず、冷蔵庫から四本缶ビールを取り出して、ダイニングテーブルに置いた。

 

「悪いねぇ」

「アルちゃん、泊まる?」

「あー、そこまではなぁ。明日も仕事だし」

 

 そう聞いておきながら、その返事にロナはなぜか安心したように思えた。

 彼女の反応に怪訝な思考を巡らせながらも、ビールを流し込んでアルコールを入れた途端に気にならなくなってきた。

 

「……そうだ、ロナ。依頼してもいい?」

「2000イートゥね」

 

 現金な彼女に出鼻をくじかれるも、仕事の対価としては大した金ではないため割り切った。

 

「明日また《アウトランド》行くから、護衛してよ」

「いいけど……」

 

 ロナは了承はしたが、視線を逸してから尋ねてくる。

 

「何してるの。前々から思ってたけど」

「あーとね」

 

 誤魔化してもしょうがないし、アルモンドは潔く答えることにした。

 

「商売」

「……?」

 

 ロナとノール、二人揃って首を傾げた。妥当な反応である。だって、《アウトランド》と要塞都市は完全に隔離された社会なのだから、交易のしようがない。それなのにほんな場所に商売しに行くと言われても、彼女たちからすれば「海賊が陸に出航する」と同義だろう。

 

「私はね、《アウトランド》に新しい経済圏を作りたいと思ってるんだ。既に独自の通貨は流通させたし、暫くすれば人同士の取引も始まると思うよ」

「…………????」

 

 彼女たちの首が更に曲がった。ツッコミを入れないのは優しさからか、それとも相応理解に乏しい事を言っているからなのか。

 ようやく口を開いたノールが、警戒心マックスで尋ねる。

 

「それ、大丈夫なの……? 財団に目をつけられたら、お仕事危なくなるんじゃ」

「別に私は財団の物を外に流通させているわけじゃない。現地で取れるものをどうにかやりくりしているだけさ。怒られるような事は何もしてない」

「そういうことじゃなくてさ……」

 

 ノールは口を開きかけて、ぐっと飲み込んだ。これ以上何を言っても無駄だ、と確信したのだろう。

 

「まぁ、依頼ならやるよ。アルちゃんの言うことはおかしいけど、芯は通ってると思うから」

「ロナ……!」

 

 ロナが快く受け入れたのを見て、ノールに焦りが滲んだ。

 ――やはりこの二人、単なる同居人ではないな、とアルモンドは勘付いたが、あえて言及はしなかった。

 

「あんまり危ないことしないでよ」

「アルちゃんはそんな人じゃないから」

 

 と、ロナは口ではそう言っている。

 しかし、彼女を見る目はあまりに異なっていた。「怪しい動きをすれば殺す」と言わんばかりの冷たい、凍てつくような視線が、アルモンドを突き刺して離さない。

 その感覚をも、アルモンドには快楽としか捉えようがなかった。

 言動ではこちらを信頼しきっているのに、その節々から垣間見える心情では、こちらは全く信頼されておらず、いつ寝首をかかれるか分からない……そのギリギリの状態が、アルモンドは気持ちがいいらしい。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 翌日。

 要塞都市と《アウトランド》を繋ぐ小さな扉。

 要塞都市を護るバリアは、名前ほど万能ではない。電磁魔力結界によるそれは、都市まるまる覆うことは不可能で、それを行おうとすればどこかが崩壊する。そのため、意図的に大きな四つの穴、そして小さな穴をいくつもを作り、そこを《アウトランド》とつながるゲートして設置している。

 故にモンスターや機械兵器の侵入者が絶えないが、仕方のないことである。

 

 扉付近で待っていたロナが、無表情のまま「よっ」と言いたげに軽く手を上げた。

 背が高く、髪色が奇抜のためわかりやすい。

 腰には剣のような、ライフル銃のような武器が提げられている。白銀のブレードと銃身が彼女のスマートなルックスによく映える。

 ハイブリッドと呼ばれる複合武器だ。見た目の通り、彼女のものはブレードとライフル。

 剣と銃それぞれの使い方もできるし、銃口を塞ぎ、内部で空気を圧縮破裂させて、その衝撃で威力を底上げする使い方もできるのだとか。

 

「大きいリュックだね」

「全部品物よ」

「ほんとに、商売しに行くんだ」

 

 アルモンドは、ロナが見上げるほど大きなリュックサックを背負っていた。

 

「しっかり護ってね」

「依頼は果たすよ」

「頼もしい」

 

 金属で固く閉ざされた扉を開けば、乾いた空気が一気に入り込んでくる。

 さっと出て、さっと扉を閉じなければ、待ち伏せするならず者やモンスター、機械兵器に入られてしまう。そうなると、首が飛ぶどころでは済まないだろう。

 

 

 キラキラと煌めいていた要塞都市とは一変し、《アウトランド》のくすんだ空気が彼女たちを出迎えた。

 とはいえ、見慣れた二人は大して触れることもせず歩き出した。アルモンドを先頭に、ロナは犬のように付き纏う形で。

 

 おそらくは、旧時代には村であっただろう跡地に差し掛かったところで、沈黙に耐えかねたロナが口を開いた。

 

「……《アウトランド》で通貨を流通させたって言ってたけど、それをしてアルちゃんにどんな利益があるの」

 

 もっともな疑問を投げかけられ、アルモンドは唸る。

 利益……利益……その言葉を反芻しても、これといった、納得できる返答はできそうになかった。

 ただ刻々と時間だけが過ぎ、いつの間にかまたもや草原に差し掛かっていた。

 

 ようやく、アルモンドが口を開く。

 

「そうだなぁ……例えばさ、ロナの生活からノールちゃんが消えたら、きみはどう感じる?」

「……味気ない」

「でしょ? それと一緒。私は、財団の下で細々働く生活に何の旨味も感じられなくなっただけだよ」

 

 そう、とそれを聞いたロナはポツリと呟く。

 顔は見ない。見ずとも、背面からズブズブと突き刺さる彼女の警戒心と細やかな殺意が読み取れたからだ。

 《アウトランド》は財団の管轄外。法律、秩序、ルールなど一切存在しない。ゆえに、ここで誰が誰を殺そうと大した問題にはならない。

 

(あぁ〜っ! ロナ最高! その殺意、警戒心……! たまらない〜っ!)

 

 ロナが真正面から彼女を見ていたら、今すぐ殴り飛ばしているだろう。有頂天になったアルモンドの顔は、最高に腹立たしい。

 多分、これまで家にあげてくれたのは今までの《アウトランド》外出が「機械兵の素材集め」などというきちんとした名目があったからだろう。

 今はといえば……正直、彼女目線からは信頼度がゼロであろう。

 

 ある時、ロナが駆け足になってアルモンドの前に立ち塞がる。

 

「下がってて」

 

 愛用のハイブリッドーーハティを抜刀した彼女は、陽光の少ないこの中でも輝かしき刃を構える。

 

 ふお、前を見れば旧時代のレンガ建ての構造物の廃墟からぞろぞろと姿を現すモノたちがあった。

 煤をかぶった鋼鉄の肉体。サソリを思わせるフォルムで、尾からはレーザー機銃が覗いている。

 機械兵器ーー財団からは"アンタレクス"と呼ばる個体。

 

「お仕事よろしく」

 

 アルモンドはこの数程度なら一人でもやれるが、リスクはなるべく低いほうがいい。ロナのほうが専門なのだから、餅には餅屋というやつだ。

 

 彼女は手始めにぶっ放されたレーザー機銃の雨を、細身を靭やかにしならせながら回避し、一番近い個体の脳天に剛刃を突き立てた。

 機械兵は決して脆くない。しかし、か弱く見える女の子の一撃で沈んだ。

 

 再び放たれるレーザーの雨。今度は的確に彼女の心臓を狙った。

 一歩、二歩とステップを踏むような身のこなし。尾による近接攻撃を仕掛けた個体を足場にし跳躍。落下の勢いに身を任せ二機目を沈める。

 その後、鉄屑となったアンタレクスを盾にレーザーを防ぎ、足場も問答無用で斬り倒した。

 

 そんな調子で、一切苦戦することなくアンタレクスの群れを駆逐してしまった。

 

「お見事お見事」

 

 息一つ荒げていないロナの肩に手を置き、彼女を労った。

 

「仕事だから」

 

 相も変わらず無表情だが、彼女はピースで応答してくれた。

 

(なんだぁ、まだ友達として見てるんだ)

 

 それが少し残念で、アルモンドはあからさまに口角が下がるのだった。

 

 

 ◇

 

 

 

 彼女らが辿り着いたのは、旧時代の町の廃墟を根城とする人々の居住区だ。

 機械兵やモンスターから身を守るためのバリケードが、寄せ集めの素材で作られ道を塞いでいる。

 

 警戒されてすぐには入れないと思ったが、警備の男がアルモンドの姿を見た瞬間に、居住区の奥へとすっ飛んでいった。

 

 しばらくしてその地域のリーダー的立ち位置の男が出てきて、彼女を迎え入れる。

 

「アルモンド・アサルト。君の話は聞いている。『グリップ』……だったか? あれは沢山貯めてあるから、取引の話は中でやろう」

「話が早くて助かるよ」

 

 アルモンドは男に誘われ建物の中に入ったが、ロナは完全に蚊帳の外だった。

 だが、中から手招きをする彼女によってロナも建物の中に招き入れられる。

 

 建物内はどこからか拾ってきたランプと、古ぼけたテーブルとイスが置かれた簡素な部屋だ。おそらく放置されていたものを良いように使っているのだろう。

 

「品物を見せてくれ。買うかどうかはその後だ」

「どうぞ」

 

 アルモンドは床に置いたリュックサックからカタログを取り出し、男に見せた。

 

「……アルモンド・アサルト、これは相談なんだが。俺たちはあんたのように商売をしていこうと思ってる。あんたのところで仕入れた商品を元にやっても構わないか」

「あぁいいとも。どうしようと君らの勝手だ」

 

 カタログを元に彼は欲しい品物を明示した。

 彼が購入したのは《アウトランド》に適応したトウモロコシと浄水装置、そしてジャンク品を掻き集めて作ったピストルを三丁にそれに応じた弾薬だ。

 彼らは割とグリップを溜め込んでいたようで、それだけ買ってもまだ余裕はあるように見えた。ミスリルは旧魔法でないと破壊不可能ゆえ、捨てるか溜め込むかの二択になる。

 

「そっちの人は?」

「護衛ちゃん。ぶっきらぼうだけどいい子なんだ」

 

 壁に寄りかかってじっと待っていたロナは、そう聞かれて視線だけ向けた。

 

「あんたが要塞都市の人間で、正直快く思わない者もいるようだ。もっといい物資を寄越せとかなんとか……でも、そんな事をしたら財団が黙っていないだろうから、あんたができる範囲で俺達を助けてくれているのは分かる」

「助ける……ふーん。そんなつもりは無かったが、そう思ってくれているのなら誇りに思おうか」

「あぁ、そうしてくれ。だからこそ、あんまりふらふら出歩かないほうがいい。脅威はモンスターや機械兵だけじゃないということを肝に命じてくれ」

 

 男の親身な言葉に対し、ロナは冷たく尋ねる。

 

「他の脅威というのは?」

「俺の憶測に過ぎないよ……忘れてくれ」

 

 男はため息混じりに応じた。ロナも軽く息を吐いてから、それ以降口を利かなくなった。

 

「では、取引成立ということで。今後ともご贔屓に。そして、晴れて商売が軌道に乗った暁には、良き商売仲間になれることを期待している」

 

 アルモンドがそう言い残して、取引は終了。

 建物から出ると、束の間味を忘れていた乾いた風が彼女らを出迎える。

 

 ロナは終始無言だ。ノールがいないとこんなものだ。彼女はもともと無口でドライな性格だ。

 

 

 今日はこれだけで終わりではない。

 《アウトランド》で商売をしていく上で、もっと儲からなくては軍資金も集まらない。

 

 ロナを連れて、崩壊した世界を淡々と歩く。

 

 彼女の殺意は未だひしひしと背中に感じているのだった。

 

 そうして、その日はもう二件程度取引を成立させて帰還することになった。

 

 

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