連「……冗談だろ、おい」
連が通されたのは、冥界の主・イザナミ様の広大な寝室。しかし、そこには既に妖怪の里の総大将、八坂までもが当然のような顔でくつろいでいた。
イザナミ「さぁ、連。まずは妾(わらわ)の隣へ来なさい。夜は長いのよ?」
八坂「あらイザナミ様、強引ですね。連さんは私の隣の方が落ち着くでしょう?」
イザナミ様が連の右腕を引き寄せれば、八坂が連の左腕を抱き込む。二大美女による「連のシェア」は、最初から一歩も引かない争奪戦と化していた。
連「ひ、二人とも近すぎだって! 呪いが、呪いが暴発する……ッ!」
連の警告も虚しく、二人の強大な魔力と妖気が混じり合う空間で、何かが起こりそうな緊張感が高まる。
連「おっと――っ!?」
連の身体が不自然に跳ね、バランスを崩す。イザナミ様と八坂は、それぞれのやり方で連を引き寄せようとする。
イザナミ「ふふ……本当にこの子は慌て者ね。そんなに焦らなくても、妾がじっくり話を聞いてあげるというのに」
八坂「あらあら、連さん。私のところにいたいのですか? では、夜が明けるまでこのまま『お話』を続けましょうね」
イザナミ様は連に優しく語りかけ、八坂は連をしっかりと抱きとめる。
レグニード『連、頑張るのよ。冥界と現世の頂点に挟まれるなんて、龍王の試練より過酷かもしれないけれど……お母さんは見守っているわ』
脳内のレグニードが、感動で声を震わせる(?)中、連は二人の間でどうすればいいのか分からず、ただただ赤面し続けるしかなかった。
連「……はは、もう好きにしてくれ」
連は天を仰ぎ、全身の力を抜いた。抗えば抗うほど「呪い」は加速し、事態は泥沼化する。前世で「最強」と呼ばれたプライドも、冥界と現世の頂点に立つ二人の美女の前では、ただの調味料に過ぎないことを悟ったのだ。
イザナミ「あら、ようやく『覚悟』が決まったのかしら? 殊勝な心がけね、連」
イザナミ様が勝ち誇ったように微笑み、連の首筋に冷たくも心地よい指先を滑らせる。
八坂「ふふ、連さん。そんなに脱力して……まるで可愛いぬいぐるみ(おもちゃ)のよう。これなら、私が何をしても許してくださるのかしら?」
八坂様が妖艶な吐息を漏らし、連の耳たぶを甘噛みするように囁く。
連「……ああ、もう勝手にしてくれ。その代わり、俺を飽きさせないでくれよ? 俺を楽しませられるもんなら、やってみろよ……!」
連は前世の不良時代の「ヤケクソな不敵さ」を思い出し、開き直って二人を睨み返した。その瞳に宿った反抗的な光が、逆に二人の支配欲に火をつける。
イザナミ「生意気な口を……。妾の遊びがどれほど愉快か、その身に刻んであげましょう」
八坂「あらあら、挑発的ですこと。私のおもてなしも、少々『刺激的』になりそうですわね」
左右から迫る、冥界の主と妖怪の総大将。
連は二人の腕の中に沈み込みながら、これから始まる「果てしない遊び」を全身で受け止める覚悟を決めた。
レグニード『連、お見事よ! 逃げずに受け入れる……それもまた男の器だわ! レグニードお母さんは、お前のその勇姿を魂に刻んでおくからね!』
脳内のレグニードの場違いな大絶賛を最後に、連の意識は芳醇な香りと圧倒的な美貌の渦へと呑み込まれていった。
連「……死ぬ。今度こそ本当に死ぬ……」
翌朝、食堂に現れた連は、幽霊かと思うほど青白い顔をしていた。10歳という若さあふれる肉体のはずが、その足取りは生まれたての小鹿のように震え、魂は口から半分ほどはみ出している。
レイナ「……連。お前、その顔……何があった」
レイナが朝食の手を止め、禪院真希さながらの鋭い眼光で連を凝視した。その瞳には、軽蔑を通り越して「未知の生物」を見るような困惑と、隠しきれない猛烈な嫉妬が混ざり合っている。
九羅真「き、貴様ッ! 母様とイザナミ様に一体何をされたのだ! その……妙に色っぽくなったというか、毒気が抜けたというか……!」
九羅真が顔を真っ赤にして叫ぶ。彼女の言う通り、連の全身からは、昨日までとは比較にならないほど濃密で、それでいて澄み渡った魔力が溢れ出していた。
レグニード『ふふ、当然よ。冥界の主と妖怪の総大将……二人の強大な「気」を夜通し全身で浴び続けたのだもの。連の魔力回路が強制的に拡張・精錬されたのよ』
脳内で、レグニードが満足げに喉を鳴らす。
連「回路……? ああ、そういえば、体がやけに軽い……」
連がふらつきながら右腕を上げると、『煉獄の変幻壊槌(パルガトリー・ヴォルカニクス)』が呼び出しもしていないのに、より禍々しく、より洗練された姿で自動的に具現化した。
レイナ「な……変幻の速度が、私の動体視力を超えた……?」
レイナが驚愕に目を見開く。イザナミと八坂による「おもちゃ(調律)」の結果、連の魔力は神格に近い領域へと無理やり引き上げられていたのだ。
イザナミ「あら、もう起きたの? 案外タフなのね、連」
八坂「ふふ、昨夜の続きが楽しみになりますわね」
背後から、余裕たっぷりの微笑みを湛えたイザナミと八坂が現れる。
連「――っ、もう勘弁してくれ! 特訓ならレイナとやるから!!」
連は悲鳴を上げ、強化された脚力で食堂の壁を突き破る勢いで脱走した。