形の良い豊潤な胸を揺らしながらイザナミが歩み寄ってきた。
イザナミ「よくぞ耐えた。その若き身で力の端緒を掴んだ褒美に、これを与えよう」
彼女が虚空から取り出したのは、禍々しくも美しい、紅蓮の輝きを放つ「重圧」の塊――。
イザナミ「神器(神滅器)(セイクリッド・ギア)名:煉獄の変幻壊槌(パルガトリー・ヴォルカニクス)。黄泉の深淵に眠りし、概念を砕く槌よ」
イザナミ様の手から放たれた光が、俺の右腕へと吸い込まれる。その瞬間、視界が真っ赤に染まり、俺の意識は精神世界へと引きずり込まれた。
一面、火の海。
足元の岩が溶け出すような極限の熱気の中、山ほども巨大な「影」が蠢く。
?『――ほう。我を目覚めさせたのは、よもやこのような童(わらし)か』
炎の中から現れたのは、黄金の瞳を持つ巨大な竜。その体表は冷え固まった溶岩のように黒く、隙間から漏れ出す熱量は太陽すら凌駕している。
連「あんたが……このギアの中にいるのか?」
レグニード『我が名は極焔竜王レグニード。かつて神々すら焼き尽くさんと欲した、終焉の焔の化身なり』
レグニードは鼻から火花を散らし、俺を値踏みするように睨みつけた。
レグニード『連よ。その槌は、使い手の意思次第で万物を砕く「壊槌」にも、形を変える「変幻」の武具にもなる。だが、貴様に我を飼い慣らす器量はあるか?』
連「あるかないかじゃない。俺はこの世界で、レイナやイザナミ様と並び立つために……あんたの力が必要なんだ」
俺が真正面からその眼光を跳ね返すと、巨大な竜は一瞬の沈黙の後、腹の底に響くような哄笑を上げた。
レグニード『くははは! 言うではないか! 良い、ならばその魂に刻め。我が焔は絶望を焼き、希望を鍛え上げる金槌よ!』
現実世界に戻ると、俺の右腕には、まだ熱を帯びた神滅具の紋章が刻まれていた。
レイナ「……目覚めたか。顔つきが変わったな」
レイナが眼鏡を拭きながら、心なしか嬉しそうに口角を上げる。俺、レグニード、そしてレイナ。この三人が揃った修行は、さらに過酷なものへと加速していく。
連「……ふぅ、これが俺の武器か」
意識が現実へと戻った時、俺の右腕には重厚な片刃の剣が握られていた。
神滅具(セイクリッド・ギア)としての本来の形は「槌(ハンマー)」のはずだが、俺の意志に呼応し、扱いやすい「剣」の姿へと変幻している。その刀身は、まるで脈打つ溶岩のように赤黒い輝きを放っていた。
レグニード『ふふ、驚いたか? 連。お前の扱いやすい姿で構わぬのだぞ』
脳内に、先ほどまでの威厳ある竜王のものとは思えない、包容力に満ちた柔らかな女性の声が響く。
連「レグニード……? さっきと随分雰囲気が違わないか?」
レグニード『当たり前であろう。これからは、お前の魂の中で共に歩む身……いわば私は、お前のもう一人の母のようなもの。我が愛しき「主」を、優しく、時には厳しく見守るのが務めだ』
精神世界で見せた荒々しさはどこへやら、今の彼女は慈愛に満ちた、まるで聖母のような「母性」を全開にしていた。
レイナ「おい、ボーッとしてんじゃねぇよ」
その温かな空気を切り裂いたのは、レイナの鋭い声だ。彼女は木刀を肩に担ぎ、さらに険しくなった禪院真希のような眼光を向けてくる。
レイナ「武器を手にした途端にニヤけやがって。その剣、飾りじゃないんだろ? ほら、さっさと構えろ。その『トカゲ』の力、見せてもらおうじゃねぇか」
レグニード「トカゲだと……? 礼儀のなっていない娘だ。連、少々痛い目を見せてやりなさい。母として、お前の初陣を特等席で見守ってやろう」
レグニードの母性に火がついたのか、剣から溢れ出す熱量が一段と跳ね上がる。
連「わかってる……。レイナ、いくぞ!」
しかし、その手にあるのは極焔竜王の加護を受けた最強の剣。俺は一気に地を蹴り、レイナの懐へと飛び込んだ。
レイナ「――遅い。眼球だけで追うな、肌で気流を読めって言ってんだろ!」
レイナの鋭い踏み込み。6歳とは思えない速度で放たれた木刀が、連の横腹を掠める。
連「ぐっ……!」
レグニード『焦るな連。左足に魔力を集中させ、軸をずらせ。今の攻撃、紙一重で躱せるぞ!』
脳内に響くレグニードの冷静な助言。連は言われるがまま、片刃の剣の重みを逆に利用し、独楽のように身体を回転させた。
レイナ「……チッ、今のは偶然か?」
レイナの眉がピクリと跳ねる。彼女は天賦の身体能力で、追撃の手を緩めない。だが、連の剣からはレグニードの極焔が漏れ出し、周囲の酸素を焦がして彼女の動きを僅かに阻害する。
連「偶然じゃない……これなら!」
レグニード『いいぞ、連! そのまま剣の重さを消せ。焔を推進力に変えるのだ!』
連は剣の背から爆発的に火力を噴出させ、ジェット噴射の要領でレイナの死角へと加速した。一瞬、彼女の目が驚愕に見開かれる。連の片刃の剣が、彼女の木刀を真っ向から受け止めた。
レイナ「ははっ、やるじゃねぇか……!」
激しい火花が散り、熱気と闘気がぶつかり合う。
その時、戦いを見守っていたイザナミ様が、扇で口元を隠しながら優雅に立ち上がった。
イザナミ「素晴らしいわ。幼き二人の切磋琢磨、実に目の保養になる」
だが、その瞳の奥には底知れない「神」の試練が宿っていた。
イザナミ「だが連、レグニードの助言に頼りすぎるのは、真の強さとは呼べぬ。……少し『環境』を変えて差し上げよう」
イザナミ様が指先を鳴らした瞬間、周囲の景色が霧散した。
気づけばそこは、重力が数倍に跳ね上がり、四方八方から黄泉の亡者が無限に湧き出す呪われた戦場だった。
連「あ?、……なにこれ!?」
レイナ「……ハッ、最高じゃねぇか。おい、連。レグニードに甘えるのは禁止だ。自力でこの群れを捌ききれ。できなきゃ、ここで亡者の仲間入りだぞ」
レイナが獰猛に笑い、連の背中を叩く。
レグニード『連、ここからは私が直接指示は出さぬ。だが、我が焔は常にお前の心と共にある。……死ぬでないぞ』
レグニードの声が静かに遠のく。
連「……上等だ。まとめて焼き切ってやる!」