連「――ッ、しつこいんだよ、お前ら!」
四方八方から押し寄せる亡者の群れ。重力に押し潰されそうな身体を、連は無理やり奮い立たせた。レグニードの助言が途絶え、静寂が訪れた脳内に、代わりに響いてきたのは――自分自身の「前世」の記憶だった。
連(……ああ、そうだ。思い出してきたぜ。綺麗事抜きの『殺し合い』の感覚をよ……!)
前世での連は、裏社会ですら「最強」と恐れられた規格外の不良だった。型に嵌まった武術じゃない。目突き、金的、周囲の物はすべて武器に変える、泥臭くも圧倒的な実戦の勘。
連「レイナ! ちょっと下がってろ。ここからは『俺のやり方』でいく!」
レイナ「……あ? 何言って――」
レイナが驚きに目を見開く。連の右腕の片刃の剣が、本人の高揚する闘争本能に呼応して、脈打つように形状を変えていく。
連「砕けろ、そして伸びろ……! 『煉獄の変幻壊槌』、形態変更(フォーム・シフト)――!」
熱風が渦巻き、片刃の剣は長い柄を持つ薙刀へとその姿を変えた。亡者との距離を保ちつつ、一振りで複数を両断できる最良の選択。
レグニード『ふふ……ようやく目覚めたか。それでこそ私の主だ』
レグニードが満足げに喉を鳴らす。
連は薙刀を低く構えると、前世で培った「獲物を狩るための足運び」を再現した。
連「ははっ、懐かしいなこの感覚! 死ねよ、クズども!」
一閃。
薙刀の刃が獄炎を纏い、亡者の群れを薙ぎ払う。ただ振るのではない。刃の重み、遠心力、そして炎の推進力を完全に同調させた、合理的かつ暴力的な旋風。
レイナ「……何だあいつ。急に動きが変わった……」
呪いで戦う作品の2年生の女の人を彷彿とさせる厳しい表情を崩さないレイナも、連の豹変ぶりには舌を巻いていた。洗練された型はないが、一撃一撃が急所を貫き、無駄が一切ない。
連「イザナミ様、見てろよ。こんな試練、一瞬で終わらせてやる!」
連は不敵に笑うと、薙刀を旋回させながら、亡者の中心へと突っ込んでいった。
連「――おい、まとめて地獄へ帰りな!」
薙刀の切っ先が地面を滑る。かつてストリートで恐れられた「連」の気迫が、幼い体から溢れ出す。群がる亡者の群れを前に、連は不敵に笑った。
連「雑魚どもが、まとめて相手してやるよ!」
薙刀を高速回転させ、炎の渦を生み出す。それはまるで紅蓮の竜巻となり、亡者たちを吹き飛ばし、浄化していく。
レイナ「すげぇ……!」
離れて見ていたレイナが、思わず感嘆の声を漏らした。先ほどまでとは見違えるような連の戦い方。その迫力に、彼女は胸を高鳴らせていた。その時、空間が歪み、優雅な女性が現れる。イザナミ様だ。彼女は面白そうに目を細め、連に近づいてきた。
イザナミ「見事なものだわ、連。その小さな体によくぞあれだけの力を宿せたものね」
イザナミ様は連の周りをゆっくりと回りながら、観察する。
連「お前……イザナミ様、か?」
連は警戒心を露わにしながら、薙刀を構え直した。
イザナミ「そうよ。そして私は、面白いものを見つけた時には、どうしても手を出さずにはいられない性質でね」
イザナミ様の言葉遣いが変わり微笑みは優雅だが、その奥には底知れない力を感じさせる。
イザナミ「少し、相手をしてもらいましょうか」
イザナミ様が手を軽く上げると、周囲の空間がざわめき始める。
連「面白ぇ。神様相手か。上等だ!」
連はさらに笑みを深め、イザナミ様に向かって薙刀を構えた。
連「――ッ、化け物かよ、あんたは……!」
連は息を荒くしながら、薙刀を杖代わりに地面に突いた。
イザナミ様は指先一つ動かすだけで、連の渾身の連撃をすべて無効化している。その圧倒的な力の差を見せつけながらも、微笑を崩さないその姿は、文字通り「子供の遊び」に付き合っているような余裕そのものだ。
イザナミ「どうしたの、連? 前世の『最強』とやらは、神を前にしてその程度かしら?」
レグニード『連、冷静になれ。今の彼女は力の1割も出していない……だが、隙がないわけではないぞ』
レグニードの声に、連は口の端を吊り上げた。
連「……ああ、わかってるよ。正面からじゃ、掠りもしねぇ。なら――!」
連は再び地を蹴った。薙刀を振り回し、獄炎の壁を作り出して視界を遮る。
だが、イザナミ様は退屈そうに扇を振るい、その炎を一瞬で霧散させた。
イザナミ「同じ手は通じないと言っ――」
連「同じ手なわけねぇだろ!!」
霧散した炎の向こうに、連の姿はなかった。
彼は前世の喧嘩術を応用し、炎を「囮」にして地面を這うような超低空のタックルから、背後へ回り込んでいた。
連「(重力、魔力、全部一点に……!)食らえッ!!」
連は薙刀を消滅させ、瞬間的に「壊槌」の重質量を拳に宿した。
神速の裏拳。イザナミ様の意識の外、極限の死角からの一撃。
パァンッ!
鋭い乾いた音が響く。連の拳が、イザナミ様の白い頬を僅かに、本当に僅かだが「掠めた」。
イザナミ「…………あら」
イザナミ様が動きを止める。
彼女の頬には、細い紅い線が走り、一滴の血が真珠のようにこぼれ落ちた。
連「やった……一太刀、入れたぞ……!」
連が膝を突くと同時に、隣で見ていたレイナが絶句したように眼鏡をずらした。
レイナ「嘘だろ……あのイザナミ様に……かすり傷とはいえ……」
静寂が支配する戦場。イザナミ様は自分の頬に触れ、指先についた血を眺めると、ゾクッとするほど艶やかな、そして「本気」の混じった笑みを浮かべた。
イザナミ「ふふ、ふふふふ……! 素晴らしいわ、連。まさか神の顔に泥を塗られるなんて、何千何万年ぶりかしら。……ねぇ、今のもう一度やってみて? 今度は少しだけ『痛く』してあげるから」
イザナミ様から溢れ出すプレッシャーが、先ほどまでとは比較にならないほど重く、濃密なものに変質していく。