連「――あ、アブねぇッ……!」
イザナミ様から放たれた、ただの「視線」が物理的な衝撃波となって連を襲う。
先ほどまで「遊んでいた」空気が一変し、黄泉の主としての絶対的な支配力が場を支配した。
レイナ「連、逃げろ! それは死ぬぞ!」
レイナが叫び、援護しようと駆け出すが、イザナミ様が軽く左手を払うだけで、重力場が固定されレイナはその場に縫い付けられる。
イザナミ「手出しは無用よ、レイナ。……さぁ、連。先ほどの『閃き』、もう一度見せてちょうだい?」
イザナミ様が優雅に歩み寄る。一歩ごとに地面が凍りつき、魂が削られるような寒気が走る。
レグニード『連! くるぞ! 全魔力を右腕に集束させろ! 防御ではない、カウンターだ!』
レグニードの叫びと同時に、連は前世の喧嘩で培った「死線を見極める勘」を極限まで研ぎ澄ませた。
連「(……来る。左から……いや、上か!?)」
イザナミ様の扇が、音もなく連の首筋に迫る。連は反射的に薙刀を「盾」に形状変化させようとしたが、間に合わない。
連「――っ、なら……これで!!」
連はあえて防御を捨てた。
扇が喉元を裂く寸前、彼は自らの左肩を差し出し、肉を斬らせることでわずかな隙を作った。
連「(今だ、レグニード! 最大出力!!)」
レグニード『ウムッ!!』
薙刀が再び、巨大な壊槌(パルガトリー・ヴォルカニクス)へと変幻する。連はその重さを利用し、イザナミ様の懐に潜り込みながら、至近距離から爆発的な焔を纏ったアッパーを叩き込もうとした。
イザナミ「……あら、いい反応。でも――」
イザナミ様が細い指先で、連の全力の拳を「トン」と受け止める。
イザナミ「――『欲張り』さんには、お仕置きが必要ね」
その瞬間、連の視界が反転した。
強烈な衝撃が腹部を突き抜け、背後の岩壁まで吹き飛ばされる。
レイナが必死に抗う中、イザナミ様は倒れ伏す連の元へ歩み寄り、その顔を扇の先で持ち上げた。
イザナミ「合格よ。殺気を受け流し、肉を斬らせて骨を断とうとするその執念……神の子でもなかなか持てぬものだわ」
イザナミ様は満足げに微笑むと、連に手を向けた。その瞬間、連の全身の傷が急速に癒えていく。
イザナミ「連、お前に『黄泉の神酒(アムリタ)』の加護を与えましょう。これでお前は、死の淵に立つたびにさらに強く、恐ろしく成る……私の期待、裏切らないでね?」
連の胸元に、禍々しくも美しい紫色の紋章が刻まれた。
連「……はは、最高だよ。神様に気に入られるなんて、前世じゃ考えられねぇな」
連はふらつきながらも自力で立ち上がり、レイナに向かって不敵な笑みを向ける。
連「おい、レイナ。次はあんたの番だ。これ、もっと面白くなりそうだぜ」
ハイスクールD×Dの世界での連の快進撃は、ここから加速していく。
連「――よし、今日はこのくらいにしてやるよ」
10歳になった連は、愛用の「変幻壊槌」を消滅させ、額の汗を拭った。この5年で身体は驚くほど引き締まり、前世の喧嘩のキレと、今世の極焔竜王レグニードの魔力操作が完全に融合しつつある。
隣では、11歳になりさらに禪院真希に似た凛々しさを増したレイナが、愛用の獲物を手入れしていた。
レイナ「……フン、少しは様になってきたな。だが、まだ私を驚かせるには程遠い」
連の脳内に響く声は、かつての強大な龍王の声とは思えないほど穏やかだった。
レグニード「まあまあ、そう邪険にするな。連の成長は凄まじいぞ? 母としてこれほど誇らしいことはない」
そんな二人の前に、冥界の主であるイザナミが、優雅に扇を揺らしながら現れた。
イザナミ「連、レイナ。修行に明け暮れるのも良いけれど、そろそろ『外の空気』を吸ってくるのも修行のうちよ」
イザナミの目が、いたずらっぽく細められる。
連「外? 冥界を離れるのか?」
イザナミ「ええ。東の島国日本――クノウたちが住まう『妖怪の里』へ行きなさい。そこに、あなたたちの新たな仲間となる可能性を秘めた子がいるわ」
連は思わずレイナと顔を見合わせた。
「連新しい仲間、か……。まあ、レイナと二人きりってのも飽きてきたしな。いいぜ、行ってやるよ」
レイナ「おい連、 ……まあいい。イザナミ様、その『仲間候補』ってのはどんな奴なんですか?」
イザナミは連の問いには答えず、ただ微笑んで頷いた。
イザナミ「それはお前自身の目で確かめるのよ。準備が出来次第、出発よ。連、レイナをしっかり守ってあげなさい。ふふ、どんな旅になるか、楽しみだわ」
こうして、連とレイナの、初めての「外の世界」への旅が始まった。
連「――うわっ、すげぇ……空がちゃんと青いぜ」
初めて冥界の淀んだ空ではなく、現世の澄んだ空気を吸い込んだ連は、大きく伸びをした。10歳になり、少年の若さと戦士の鋭さを併せ持つようになった彼は、隣を歩く一人の少女を振り返る。
連「おいレイナ、そんなに警戒すんなよ。せっかくの遠征なんだからさ」
レイナ「……バカ言え。ここは妖怪の里、京都の裏側だ。九尾の狐が仕切ってるって話だろ? 油断して首を飛ばされたくないんだよ」
11歳のレイナは、眼鏡の奥の瞳を鋭く光らせ、禪院真希さながらの威圧感を放ちながら周囲を索敵している。
里の境界を越え、朱塗りの鳥居が並ぶ参道を進んでいたその時――。
レグニード『連、止まれ。……熱い「気」が来るぞ』
脳内のレグニードが母性的なトーンから一転、戦士の響きで警告を発した。
?「そこまでだ、異邦の者共。我が母、八坂様が統べるこの地に何の用だ?」
桜の木の上から、音もなく一人の少女が舞い降りた。
黄金色の髪をなびかせ、背後には揺らめく数本の尾。九重九羅真だ。彼女は幼いながらも、その瞳に誇り高い炎を宿して連たちを睨みつけた。
連「……あ? 用があるのはイザナミ様の方だよ。俺たちは仲間を探しに来いって言われただけだ」
連が前世のクセで少し生意気に顎を上げると、九羅真の眉がピクリと跳ねた。
九羅真「イザナミ……黄泉の主か。だが、そんな小僧が我が里に相応しい仲間だと? 笑わせるな。その力、本物か試させてもらう!」
九羅真が地を蹴り、妖力を纏った拳を突き出す。
連「ハッ、いいぜ! レイナ、手出しは無用だ。こいつは俺が分からせてやる!」
連の右腕に『煉獄の変幻壊槌』が、瞬時に片刃の剣の姿で具現化する。
連「行くぞ、九尾の姫さん!」
九羅真「――いい度胸だ、小僧! 我が妖火の露と消えよ!」
九羅真が印を結ぶと、周囲に無数の青白い炎が浮かび上がる。それは意思を持つ生き物のように軌道を変え、全方位から連を包囲した。
連「ハッ、花火にしちゃあ地味じゃねぇか!」
連は不敵に笑い、『煉獄の変幻壊槌』を逆手に構える。前世で数え切れないほどの修羅場を潜り抜けてきた彼にとって、囲まれる状況は「日常」だ。
連「レグニード、出力三割! 薙ぎ払うぞ!」
レグニード『心得た。存分に暴れなさい、我が息子よ!』
爆発的な極焔が剣から噴出し、連は独楽のように回転。妖火を力技で霧散させると、その勢いのまま地面を蹴り、九羅真の懐へと一気に潜り込んだ。
九羅真「なっ……速い!? だが甘い!」
九羅真は空中で身を翻し、狐の尾を鞭のようにしならせて連の側頭部を狙う。だが、連はそれをあえて避けず、前世の喧嘩殺法――「肉を切らせて骨を断つ」の精神で、尾を左腕で強引に抱え込んだ。
連「捕まえたぜ、お転婆姫!」
九羅真「な……離せ、無礼者ッ!」
焦った九羅真が連を引き剥がそうと、さらに妖力を爆発させた瞬間――。
――パキィィィィィィィィィン!!
激しい衝突音と共に、二人の間に火花が散る。連の腕と九羅真の尾が絡み合い、拮抗する力が空間を震わせた。
九羅真「離せと言っているだろう! この無礼者めが!」
九羅真は怒りに震え、さらに妖力を高める。青白い炎が再び周囲に燃え上がり、連を焼き尽くさんと迫る。
連「無礼なのはそっちだろうが! 人を掴まえて離さないなんて、まるで子供だぜ!」
連も負けじと力を込める。絡み合った腕と尾の間に、圧縮された極焔が宿る。
二人の力がぶつかり合い、爆発的な衝撃波が発生する。地面が抉れ、周囲の木々が吹き飛んだ。
連「ぐっ……!?」
九羅真「くそっ……!」
両者ともに吹き飛ばされ、距離が離れる。
九羅真は空中で体勢を立て直し、怒りの形相で連を睨みつける。連は地面に片膝をつき、口元を拭いながら不敵な笑みを浮かべた。
連「なかなかやるじゃねぇか、お転婆姫。だが、俺はまだ本気じゃねぇぜ?」
九羅真「ほざけ! 次こそ貴様を塵芥にしてくれるわ!」
九羅真は再び妖力を集中させ、かつてないほどの巨大な妖火を創造する。それはまるで小さな太陽のように輝き、連に向けて放たれた。
連「上等だ! 来やがれぇ!」
連は剣を構え、全身から極焔を噴出させる。赤と青、二つの巨大なエネルギーが、妖怪の里の中心で激突しようとしていた――。