レイナ「――連、覚悟しろ! その不運(ラッキー)ごとぶった斬ってやるッ!」
レイナの猛攻は苛烈を極めていた。もはや嫉妬が魔力となって刃に宿っている。このままでは宮殿が壊れると確信した連は、一八二五の勝負に出た。
連「クソっ、こうなったら……! 形態変更(フォーム・シフト)――『縛鎖』!」
連は薙刀を消滅させ、神滅具を細くしなやかな鎖へと変幻させた。そして、襲いかかるレイナの刃をあえて避けず、懐へ飛び込むと――。
レイナ「……っ!? な、何すん――」
連はレイナの攻撃を巧みにかわしながら、鎖を使って彼女の動きを制限しようとする。
レイナ「離せ! 殺すぞ!」
連「離さねぇ! レイナ、お前と話がしたいだけなんだ!」
連の真剣な態度に、レイナの怒り狂った表情に微かな変化が現れる。その隙を見逃さず、連は鎖を緩めずに語りかける。
連「悪かったって! 冷静になってくれ!」
真っ直ぐな言葉に、レイナは顔を赤くして硬直した。
レイナ「……ば、馬鹿かお前は……! ……もういい、離せ。斬る気が失せた」
毒気を抜かれたレイナが顔を背ける。ようやくその場が収まりかけた、その時。
八坂「あらあら、朝から賑やかですね?」
桜の花びらと共に、聞き覚えのある妖艶な声が響く。八坂が、扇で口元を隠しながら優雅に現れた。
九羅真「母様!? なぜ冥界に……」
八坂「連さんの噂が京都まで届きましてね。九羅真、あなたを預けた主殿が、色々と騒がしいことになっていると聞いて、つい居ても立ってもいられず……」
八坂は連に歩み寄る。
八坂「連さん。色々と大変そうですね?」
八坂の登場に、九羅真の堪忍袋の緒が、今度こそ完全に切れた。
九羅真「母様!! からかうのも大概にしてください! それに連! 貴様も油断するなッ!!」
連「いや、俺は別に油断なんて――」
九羅真「黙れ! 貴様は一度、我の妖術で根性から叩き直してやる! いざ尋常に勝負だッ!」
九羅真が数本の尾を逆立て、青白い妖火を全開にする。
連「……はぁ。次は九羅真かよ……。レイナ、助けてくれ……」
レイナ「知るか。……勝手にやられろ」
レイナが冷たく言い放つ中、連は九羅真の猛攻を回避するために再び「呪い」の気配を感じ取る。
連「――いい加減にしろ、九羅真! 八坂様の前だぞ!」
連は叫びながら、神滅具(セイクリッド・ギア)を新たな形へと変幻させた。
連「形態変更(フォーム・シフト)――『双盾(デュアル・シールド)』!」
薙刀でも剣でもなく、連の両腕に現れたのは、龍の鱗のごとき意匠が施された二枚の小盾。九羅真が放つ、怒り狂った青白い妖火の弾幕を、連はボクサーのような軽快なステップで受け流していく。
九羅真「逃げるな! 我の誇りにかけて、貴様のその軟派な根性を焼き尽くしてやるッ!」
九羅真は空中で舞い、九つの尾から極大の妖力波を放つ。だが、前世の修羅場で培った連の「先読み」と、強化されたレグニードの防御力が、そのすべてを弾き返した。
レグニード『連、いい反応よ。でも……そろそろ「来る」わね』
脳内のレグニードが予言した瞬間、連の足元の石床が不自然に隆起した。
連「――っ!? またかよ!!」
『不可抗力の接触(ラッキースケベ)の呪い』が、九羅真の妖力の乱れに呼応して最大出力で発動する。
連は防戦一方だった勢いを殺せず、反動で前方へ弾き飛ばされた。その先には、扇を手に優雅に観戦していた八坂の姿が。
八坂「あら、連さん? またそんなに勢いよく……ふふっ」
八坂は余裕の笑みで連を受け止めようと両手を広げたが、呪いの「補正」は神格の予測すら上回る。連の身体は空中で一回転し、八坂の懐へ飛び込むと同時に、彼女が広げた扇の親骨に指が引っかかった。
連「あっ、やべ――」
バリィッ! と、八坂の豪華な着物の帯と扇が同時に悲鳴を上げる。
連は八坂を押し倒すような形で地面に転がり、さらにその反動で、背後から突っ込んできた九羅真までもが二人の上に重なった。
九羅真「きゃっ!? な、何が……!?」
連「ぐえっ……重っ! 九羅真、どけって!」
結果、地面には八坂をクッションにし、その上に連が、さらにその上に九羅真が重なるという、冥界史上類を見ない「カオスなサンドイッチ」が完成した。
九羅真「……連。貴様、本当に万死に値するな」
離れた場所で見ていたレイナが、禪院真希のような冷徹な眼差しで、静かに刀の柄を鳴らす。
八坂「ふふ……ふふふ。連さん、九羅真と一緒にそんなに私を攻めるなんて……。このお母さん、少し驚いてしまいましたわ」
下敷きになっている八坂は、顔を赤らめながらも、どこか楽しげに連の耳元で囁いた。
八坂「もう……合格と言ったのに、まだ『追試験』を望むのかしら?」
イザナミ「……ふふ、実に愉快な光景ね」
カオス極まる状況の連たちの前に、冥界の主・イザナミ様が、あえて足音を響かせながらゆっくりと歩み寄ってきた。その瞳には、悪戯が成功した子供のような、それでいて底知れない威厳の光が宿っている。
連「イ、イザナミ様! これは今、その、九羅真が突っ込んできて……!」
連が必死に弁明しようとするが、イザナミ様はそれを優雅に扇で遮った。そして、場にいる全員が凍りつくような、決定的な一言を放つ。
イザナミ「決めたわ。連よ、今日から妾(わらわ)の元で妾が面倒を見てやろう。お前のその『呪い』がどうなるか、一番近くで見極めてやろう」
連&レイナ&九羅真「「「はぁぁぁぁぁぁぁぁ!?!?!?!?!?!?」」」
宮殿内に、連、レイナ、そして九羅真の絶叫が重なる。
だが、事態をさらに混沌へと叩き落としたのは、下敷きになっていたはずの八坂だった。彼女は連の腕の中で艶やかに微笑むと、あろうことかイザナミ様に「交渉」を持ちかけたのだ。
八坂「あら、それは素晴らしいお考えですね。……ですがイザナミ様、私も少しの間こちらに滞在させていただこうと思っておりましたの。ですので、連君を4日ほど私にお預けいただけません? 京都の流儀で、じっくりと『話を聞いてあげたい』ですから」
九羅真「……お、お母様!? 何を言っているのですか!?」
九羅真が真っ赤になって混乱する中、イザナミ様は面白そうに目を細めた。
イザナミ「あら、八坂。あなたもこの子に興味を持ったの? 良いでしょう、折半(せっぱん)といきましょうか。前半は妾が、後半はあなたがこの子を預かる……ということで」
八坂「ふふ、話が早くて助かりますわ」
連は、自分という存在が「冥界の主」と「妖怪の総大将」の間でシェアされる厄介ごとのような扱いになっていることに戦慄した。
連「おい……助けてくれレイナ! 俺、このままだとどうなるんだ!?」
レイナ「……知るか。二大巨頭に目をつけられたんだ、諦めて精々『お役目』に励め。……大変だろうがな」
レイナはもはや呆れを通り越し、憐れみの眼差しで連を見つめ、禪院真希さながらの冷徹さで愛刀を鞘に収めた。
レグニード『連、頑張るのよ。今日からきっと「修行」になるわね。レグニードお母さんは、お前が無事に乗り越えられるか心配だわ……』
脳内のレグニードの慈愛(?)に満ちた声を最後に、連の安穏とした時間は終わりを告げた。