現地の皆さんは楽しんでおられるでしょうか。自分は配信で見ることになりますがいつかは行けたらいいですね
空崎ヒナは間違いなくこのキヴォトスにおいて『強者』に分類される側の人間である。神秘の量もさることながら耐久力とスピードにおいても群を抜き、状況判断と戦略眼においても優れているまさに傑物。
対する桐藤ユウキはと言えば、ヘイローが無く、それ故に耐久力はキヴォトス人と比べれば差が大きいと言わざるを得ない。弾丸で致命傷というわけでもないが、当たればかなりのダメージを負う。
それ故に両者の差は歴然であり、空崎ヒナの圧勝で片が付く──
(……と、思っていたのだけど)
ヒナの愛銃『終幕:デストロイヤー』から銃弾が連射され、火花を散らす。
それに対し、ユウキは身体を地面スレスレにまで屈めてジグザグに動くことで迫る鉛玉の嵐から脱していた。
(予想していたよりも動きが素早い)
まさかヘイローも無しにここまでの速さを出せるとは思っていなかった。ヒナはさざ波程度の動揺を押し込め、再びデストロイヤーによる掃射を行おうとして──ユウキの手に持つ双銃の銃口がこちらに向いているのを見てその場からすぐさま飛び退いた。
ズガガガガガッッ!!というけたたましい音と共に吐き出された銃弾が先程までヒナが立っていた地面を全弾正確に撃ち抜いていく。本来狙った場所に当たりにくいはずのサブマシンガンを使っておきながら全てを正確に敵手の場所へと到達させることができる──その技量は確かに凄まじいの一言に尽きる。
最もそれは──
「けど、甘いわ」
「……マジか」
飛び退いたヒナ目掛けて再度火を吹く無数の弾丸の中を彼女は意趣返しと言わんばかりにジグザグに動くことで突っ切っていく。そしてユウキ目掛けてデストロイヤーを棍棒のように振り回して攻撃を仕掛けてきた。
「扱い方雑だな!?」
「この子にはこれくらいでいいのよ」
なんてことだ。あんまりの扱われ方をするデストロイヤーにユウキは憐れみを込めた視線を向ける。いくら長物のような銃とはいえあまりにもあんまりな扱いだ。可哀想。
ブンブン振るわれるデストロイヤーを避けながら、ユウキは何とか潜り込んでゼロ距離射撃を行おうと隙を伺うが、ヒナの小柄な体躯が幸いしているのか中々的を絞れない。それならとデストロイヤーを銃の片方で受け止める。
(……いや力が尋常じゃない!!)
受け止めてもなお押し込まれそうになる事実に冷や汗を流しつつ、がら空きになったヒナの胴体に鉛玉をぶち込んだ。
「……ッッ!!」
(当たった……けど浅いか!!)
舌打ちを一つ。弾丸をまともに食らったはずの空崎ヒナは衝撃に飛び退きこそしたものの、大して堪えた様子はない。どうなってんだと叫びたくなるが、そもそもこれまでの攻防で分かっていた事だと思考を切り替える。
一方のヒナも、まさかここまで目の前の先輩が己と撃ち合えているという事実に再度気を引き締める事となる。
ヘイローが無い?耐久力は自分より低い?
それがなんだ。そんなものでもはや目の前の男を測るには認識不足だとヒナは思い知らされた。短期決戦になるものと踏んでいたが、こうなってはそうもいかないだろう。
素早くリロードを行い、再度銃口を男へ向け、攻撃を再開しようとした時、カァン!という甲高い音と共に銃口が逸らされた。何が起きたと目を見張り、ヒナはユウキの手にいつの間にか握られていた金槌に気付いた。
──なるほど。ぶつけて逸らした訳ね。
器用な真似をする、と舌を巻く。
銃口を弾いたユウキは流れるような動きで一歩踏み込み間合いを無くす。そのままデストロイヤーを持つヒナの腕に銃を捨てたことで空いた左手による掌底を当てて得物を取り落とさせた。
そして続けざまに金槌をヒナの腹に叩き込もうとして──
「そこまで!!」
突如響いた静止の声に動きを止めた。
ゆっ……くりと声のした方に振り返る。誰だこれからという時に…と若干の苛立ちを以て見つめた視線の先に立っているのがゲヘナ風紀委員会の面々だと認識したユウキは直前までの苛立ちを彼方に追いやってすぐさまヒナと距離を取り愛想笑いを浮かべた。
「は、ハハハ……どうも風紀委員長……」
ユウキに名を呼ばれた風紀委員長……風紀委員会の集団の先頭に立っていた委員会の腕章とコートを羽織った『鬼の風紀委員長』こと
「騒ぎがあると駆けつけてみれば……お前は何をしている桐藤」
「え、ええと……き、気になる一年生の実力が知りたいな〜、と」
「だからと言って放課後だというのに決闘をする馬鹿がいるか。来い」
「……へい」
ユウキはレイカの宣告に肩を落とし、ヒナに一言謝ってから、肩を竦めるカヨコと共に風紀委員会の後に続いた。
「お前は本当に……とにかく、今回は厳重注意で済ませるが今後、同じようなことがないように」
「分かりました……失礼します」
バタン、と扉を閉めて風紀委員会の部屋を離れ、俺はようやく一息ついた。
あの後、俺とカヨコは『後輩相手に何をしている』と鬼灯委員長からカミナリを落とされ、懇々と説教を受けた。ちなみにカヨコと空崎はお咎め無し、俺は厳重注意という結果で事が収まった。謹慎とかにならなくて良かったと思う。
「あ、先輩……!」
「空崎? どうしたんだ?」
と、廊下の突き当たりで空崎に声をかけられる。彼女はパタパタと駆け寄ってきて不安そうな目で俺を見上げる。
「私のせいで何か迷惑が掛かっていないかと思って……」
「空崎が? いやいや。謝るのは俺の方で空崎は何も悪くないだろ?」
「でも、私だって先輩のお願いを聞いて戦ったのに先輩だけ叱られるなんて……」
空崎の髪がシナシナになり、気落ちしたような雰囲気を醸し出している。優しい子なのだろう。で無ければわざわざ自分を巻き込んだ先輩の心配などしないはずだ。
「良いんだよ気にしなくて。俺が頼んでやったことだし、空崎が叱られる要素なんてどこにもない」
ヒラヒラと手を振る。それでもやはり納得いかなそうな顔をする空崎に口元を緩めて、俺はもう一度伝える。
「気にするな。先輩のありがた迷惑としてでも良いから受け取っとけよ」
「……そう、ね。そうさせてもらうわ」
ようやく笑みを見せた空崎の肩を叩いてから「俺飯食ってくるから、また明日な」と告げて俺はその場を後にした。
「すみませ〜ん、相席よろしいでしょうか?」
ゲヘナ自治区にあるファミレスで空腹のままに腹を満たしていた俺に店員が声を掛けてくる。他の席はどこも埋まっていて、取れる手立てが相席しかないのだろうと分かる。
特に断る理由もないので頷きを返すと店員は礼を言ってから立ち去っていった。恐らく客を呼びに行ったのだろう。
「クックック、失礼します」
そうしてカルボナーラを胃袋に収めていたところにそんな声が聞こえてきたと思ったら対面に人が腰掛ける。顔を上げてその人物をそれとなく観察する。
黒スーツに身を包み、顔には白い亀裂のようなものが走る異形のそれ。背丈からして大人だろうと当たりをつける。
「こうしてお目にかかれて光栄です。桐藤ユウキさん」
「……俺、貴方に名乗りましたっけ?」
黒スーツの大人の言葉に警戒心を顕にする。こちらの情報をある程度知り得ている相手だ。
彼は「そう警戒しないでください」とやんわりと告げ、胸ポケットから一枚の名刺を俺の前に差し出す……名刺も黒くて白い亀裂が走っているものだ。
「私は『ゲマトリア』の者です。以前私の同僚にお会いしたことがあるでしょう?」
「あの人形紳士か」
「ええ。ちなみに名乗っているかもしれませんが彼は『マエストロ』と言います──その彼が珍しく饒舌に貴方の事を話していたものですから気になってしまいまして」
まだ実家にいた頃、三年ほど前に一度だけ会った不気味な木の顔をした紳士を思い出す。そして目の前の黒スーツもその『マエストロ』のお仲間なのか。
……一気に関わる気が失せたなぁ。
「ちなみに私のことは『黒服』と。つい最近つけられたものですが、気に入りましてね」
「はぁ……で?その黒服さんが俺に何の用だ?」
胡乱な目を黒スーツ……黒服に向ける。こっちはあのマエストロの同僚というだけで胡散臭くて仕方ないのだ。
黒服はクックック…と奇妙な笑い声を漏らしながら、俺に一枚の紙を差し出してくる。
「これは?」
「契約書です。内容をご確認いただければと」
さあ、と促す黒服に従い『契約書』とやらに目を通す……なるほどなるほど。コイツ、要は俺が欲しいらしい。
「俺みたいな珍しい奴を飼い殺そうってか?」
「いえいえまさか。私が求めているのは貴方に付随するその神秘──そして貴方自身でもあるのです、『明星のルシファー』」
「なんだそのけったいな異名は」
「神秘とは宿す器が無ければ神秘足り得ない……故に貴方そのものを研究することができれば、私は貴方を通してこのキヴォトスに眠る神秘を解き明かせるかもしれないと考えました」
俺の声も何のその。黒服は熱に浮かされた狂人のようにベラベラと喋り始めた。何がそこまでコイツを掻き立てるのだろう?
「現在、私の好奇心で計画を二つほど進めているのですが、そのうちの一つに貴方の協力が必要なのです」
「最悪のカミングアウトだな」
「勿論タダで、とは言いません。私の実験に協力してくれたお礼として、我々ゲマトリアは貴方の望みを叶えるための手伝いをさせていただきたい」
「俺の望み?」
突拍子もないことを言い出した黒服を訝しげに見やる。はて、俺に望みなどあっただろうか。
実家からの援助金もあるので金には困っていないし、成績も申し分ない方だろう。それにこの得体のしれない大人の力を借りるなど御免被る。
俺の視線を受け止めた黒服はニヤリと笑い(口元は動いていないが)『それ』を俺に伝えた。
「ゲマトリアについてはある程度把握しているものとして話を進めさせていただきます。我々は探究者にして求道者。それ故にキヴォトスに古くからある強い神秘を帯びた武器にも多少の知見があるのですが、そのうちの一つを貴方にお渡ししましょう」
「別にいらないが」
ルシフェリスがあるし…と愛銃を取り出せば、「そうではありませんよ」と黒服は首を横に振る。
「これは、貴方が持っておくべきものです。そう──」
「
「…………は?」
桐藤ユウキ
銃も使うが専ら徒手空拳などの近接戦闘が大得意。ゲマトリアと何かしらの縁がある模様。
ちなみにユウキから見た黒服たちの印象は『信用できない大人』の模様。そりゃそうだ。
彼は何かしらの望みがあるらしい