明けの明星はゲヘナにいる   作:シャケナベイベー

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今回は新キャラがちょっとだけ出ます


第四頁 セイント・ネフティス

「…………暑い!!」

 

 

 燦々と降り注ぐ太陽の熱線を浴びる中、空に向かって叫んでみたものの、そのせいで余計に体力を消費した気がして虚しくなった。

 

 時は夏真っ盛り。夏休みもあと数日すれば訪れるだろうというそんな時期だ。

 

だと言うのに俺はこうしてだだっ広い砂漠の上を横断している。何故か?それはあの雷帝(馬鹿アホクソ議長)が俺に割り当てた仕事が原因だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ユウキ。ネフティスに行って契約書を回収してきてください」

 

 

 今日も今日とて雷帝の唯我独尊な独裁政治の一日が始まりを告げ、俺たち万魔殿の人員たちはそんな雷帝を補佐、或いは割り振られる仕事を熟すいつも通りの日々を過ごしていた。

 

 俺自身、給食部から提出された新商品開発の許可を判子を押して出していたところにマコトが騒いだりしたので殴って気絶させ……と多忙に過ごしていたのだが、そろそろ一限が終わろうかという時間に雷帝に呼び出され、そんなことを言われたのだ。

 

 

「ネフティスから契約書を? 何か取引でも?」

 

「私がゲヘナに来てしばらくした頃でしたか……当時の議長から許可を引き出してネフティス、そしてアビドスと合同で、ある計画を実行したんです。彼らにとっても利益になり、かつ私の好奇心を満たせるだろうと考えてのことでした。結果は実行段階で頓挫しましたが」

 

「アビドスというと廃校寸前の? なぜあそこに?」

 

「諸事情ありまして。とにかく、その時にネフティスと交わした契約書を回収してきてほしいのです」

 

 

 結局それに戻るわけか、と俺はため息を吐く。セイント・ネフティスと言えばアビドス自治区がかつて全盛を誇った時代にそれの経済を回していたとされる大企業だ。

 

 何らかの理由で今はアビドス自治区を放棄したらしいと情報部からの報告にあったのだが、まさかこの目の前の女がそのネフティスと組んでアビドスで何かしていたとは思いつかなかった。

 

 

「ゲヘナ駅からアビドス駅まで行けば、ネフティスからの使いの者がネフティス社まで送迎してくれるでしょう。あの広大な砂漠を横断する必要はありませんよ」

 

「ヘリで行くっていう選択肢は?」

 

「残念ながらヘリの殆どはつい先日暴徒たちが破壊してしまいまして」

 

「ボケがよ」

 

 

 何を貴重な移動手段を潰してくれているのか。ケッ、と吐き捨て、議長室を去りゲヘナ駅へと向かった──までは良かったのだ。

 

 そして電車に乗ったらゲヘナの馬鹿どもが騒ぎを起こすわ電車が爆発するわで、こうして砂漠を横断する羽目になったのだ。ほんとクソ。

 

 

「念のために持ってきていた水が役に立つとは……」

 

 

 何せ砂漠であり、アビドスは熱帯地だ。水分補給はこまめにしておいたほうがいいだろうと水筒を三つほど持ってきておいて助かった。

 

 

「ネフティスの人に迎えを頼んでも『砂漠を走るのに向いていませんので……』とかで断られたし、どうなってんだあの企業」

 

 

 やはり大企業というのはどこかしら変でなければならないのだろうか。カイザーとかカイザーとかカイザーとか。

 

 その時、ブロロロ……というエンジンの音が微かに聞こえてきた。音のする方に目を向けてみれば、土煙を上げながらこちらにやってくる一台のトラックがあった。

 

 トラックはやがて俺の前まで来ると急停止し、そこから数人のヘルメットをつけた不良集団が銃を構えながら降りてきた。

 

 

「うわヘルメット団……」

 

「よお兄ちゃん。こんな砂漠のど真ん中で何してんだ?」

 

「電車が爆発されて止むなく砂漠を歩いてるんだよ」

 

 

 面倒な奴らに会ったな、と顔を顰める。ヘルメット団たちは無遠慮に俺に近づきつつ、逃さないと言わんばかりに囲うような配置を取る。

 

 その内のリーダー格だろう赤ヘルメットが俺の全身をジロジロと舐め回すように見てきたかと思えば、一歩近づいてきた。

 

 

「兄ちゃんさぁ、ヘイローないんだな。怪我したくないだろ? だったらそのリュック置いてどっかいきな」

 

「おいおい、ヘイローの無い人間に水を捨ててこの砂漠を歩けって? そりゃ自殺教唆もいいところだぜヘルメット団さんよ」

 

 

 赤ヘルメットの言葉を鼻で笑えば俺の周りにいた下っ端だろう三人の黒ヘルメットが銃を突き付けてくる。

 

 面倒なことになる前に銃口の一つを掴み、引き寄せて体勢を崩した黒ヘルメットに膝蹴りを叩き込む。

 

 

「ぐっ……!!」

 

「なっ!? テメェ!!」

 

 

 面白いくらいにくの字に曲がった黒ヘルメットの襟首を掴んで持ち上げると、激昂した別の黒ヘルメットが撃った弾丸からの盾代わりに使う。

 

 そして手榴弾を素早く括り付けてそれごと身体を仲間のもとに蹴り飛ばす。蹴られた仲間を慌てて抱き止めた仲間が手榴弾に気付いた瞬間に起爆して黒ヘルメット三人が倒れた。

 

 

「後はお前だけだな赤ヘルメット」

 

「テ、テメェ、よくもアタシの仲間を……!」

 

 

 赤ヘルメットが銃口をこちらに向けるより早く間合いを詰め、サッとマガジンを抜いて腹に拳を叩き込んだ。

 

 

「ぐふっ……!」

 

「はい終わり」

 

 

 崩折れる赤ヘルメットの襟首を掴んで持ち上げ、他三人の黒ヘルメットと纏めて荷台に積んであった縄でギチギチに縛り上げて荷台に放り込む。

 

 

「いやはや、移動手段まで提供してくれるなんてヘルメット団はなんて心優しいんだ」

 

 

 運転席に乗り込み、トラックで砂漠を突っ切りながらヘルメット団に感謝する。お礼にネフティスの近くにあるヴァルキューレ支部に送り届けてやらなければ。

 

 そうして砂漠を進むこと三十分。ようやく一面砂の景色から抜け出し公道に出ることができた。小さく息を吐き、ヴァルキューレ支部の前にトラックを停める。

 

 

「こんにちは〜。お届け物で〜す!」

 

 

 ヴァルキューレ支部のオフィスに入り、声を張り上げればヴァルキューレの生徒がトコトコとやってくる。その生徒に事情を話し、ヘルメット団を引き渡した。

 

 

「わざわざありがとうございます。アビドスの方……ではありませんよね。どこから?」

 

「ゲヘナからですね。セイント・ネフティスの方に用があって」

 

 

 なるほど、と金髪に犬歯の生徒はサラサラと書類に何かを記入し、「道中お気を付けて」と敬礼してからヘルメット団を引っ張っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お待ちしておりました、桐藤ユウキ様」

 

 

 ヴァルキューレ支部からネフティスまでは徒歩三十分ほどの距離のところにあった。オフィスに入り、受付に用件を伝えれば程なくしてスーツに身を包んだ人型ロボットの社員がにこやかにやってきた。

 

 

「ゲヘナ自治区からはるばるお越しいただき誠にありがとうございます」

 

「どうも」

 

 

 こちらへ、と案内する社員に従ってネフティスのビルを歩く。やはり大企業なだけあって抱えている社員の数も相当なものだ。

 

 

「失礼します。桐藤様がお見えになられました」

 

 

 社員が扉をノックし、大きく開け放つ。足を踏み入れれば、椅子に座るスーツを着こなす社員ロボットよりも威厳ある人型ロボットが椅子に腰掛けていた。

 

 

「ようこそお越しくださいました、桐藤ユウキ様。私はセバスチャン。このセイント・ネフティス社の幹部を務めております」

 

 

 椅子から立ち上がり、深々と頭を下げた幹部社員は歩いて俺の前まで来ると右手を差し出してくる。俺もそれに応えて握手を交わし、幹部社員に促されて来客用のソファに腰掛けた。

 

 

「して、本日はどういったご要件で?」

 

「二年前、あなた方ネフティスとアビドス高等学校、そして我が校の現議長の間で行われたとある事業の契約書の回収に参りました」

 

 

 それを聞いた瞬間、彼の顔がやや強張る。何か隠している顔だ。

 

 

「……ええ、確かにその契約書は存在します」

 

「ではそれを渡してください」

 

「何故か、お聞きしても?」

 

 

 セバスチャンはかなり渋々と言ったように聞いてくる。何か契約書を手放すことで不都合でもあるのかと考えたが、取り敢えず話を進めるのが先かと頭を振った。

 

 

「俺も詳しいところまでは聞いていません。ただ、あの雷帝が要求したのなら、それは今後必要になるものだと俺は考えています」

 

「それは我々にとってですか? それとも──」

 

「どちらもかと」

 

 

 間髪入れずに答えればセバスチャンは身を固くする。ややあって、彼は言いづらそうに口を(というかスピーカーを)開いた。

 

 

「実は、その……現在、砂漠横断鉄道の権利は我々には無いのです」

 

「と言うと?」

 

「先日、アビドス生徒会と契約を交わし、その権利をあちらに売り渡しました」

 

 

 

 

『ほう?』

 

 

 

 

 セバスチャンが答えた途端、壁に設置されたディスプレイにノイズが走り、そこから底冷えするような声が響く。

 

 やがてノイズが収まった先に映し出されたのは、椅子に脚を組んで腰掛け、セバスチャンを冷たく見下ろす雷帝の姿だった。

 

 

『つまり()()()()は私との契約を反故にし、アビドス生徒会にあれの権利を売り渡したと?』

 

「ら、雷帝様……!?」

 

『私の質問に答えていただきたい』

 

 

 セバスチャンの驚きを無視し、雷帝は冷たく言い放つ。

 

 セバスチャンの額には汗が浮かび、身体も軽く震えている。雷帝の持つキヴォトスでの影響力は一生徒であるにも関わらず、大企業のそれと匹敵するほど。つまり雷帝を敵に回すということは企業を相手にするということと同義なのだ。

 

 

「め、滅相もございません! 私共は決してあなた様の意に反するようなことは──」

 

『しかし売り渡しましたね? アビドス生徒会に。何か理由があってのことなのですか?』

 

 

 ニヤニヤと、意地の悪い笑みを浮かべながら雷帝は問う。決して言葉通りの意味をこの幹部が行ったわけではないと知りながら。

 

 

「せ、先日、アビドス生徒会の梔子ユメ様がお越しになられ、その際に例の契約書の件をお話しました……」

 

『梔子ユメ……ああ、いましたねそういえば。なるほど、つまり契約書は彼女の手にあると?』

 

「はい……」

 

 

 力無く頷いたセバスチャンを尻目に、何事か考えついたらしい我らが議長様は口端を吊り上げて俺に視線を移した。

 

 

『ユウキ』

 

「……なんですか」

 

『仕事です。アビドス高等学校に向かいなさい。契約書の件はもはや構いません』

 

 

 その言葉にセバスチャンがバッと顔を上げる。その表情は安堵と喜色に満ちている。

 

そんな彼に雷帝は笑みを見せ、再び俺に視線を戻した。

 

 

「契約書はもういいんですか?」

 

『ええ。新たにアビドスとネフティスとの間で契約が結ばれた以上、我々の介在する余地は無くなりましたので』

 

「じゃあなんで俺がわざわざアビドスに行かないといけないんです?」

 

『確か今年にアビドスに入ってきた一年生に『小鳥遊ホシノ』という少女がいたはず。その子とコンタクトを取りなさい』

 

 

 もう既に面倒くさい案件の匂いしかしないので帰りたいのだが、雷帝にそんなことを言おうものなら胴体に風穴が空くだろう。

 

 

「コンタクトを取って、それで?」

 

『帰ってきた時に報告書を上げてくれればよろしい』

 

「軽率に仕事増やしやがってよぉ……」

 

 

 ジロリと睨むも睨まれている張本人はコロコロと笑って画面が消えた。やな奴。

 

 

「こ、これは、つまり……私共はお咎め無しと……?」

 

「まぁ、そうなんじゃないっすかね」

 

 

 恐らく意識が例の『小鳥遊ホシノ』とやらに向かったことでネフティスなぞ眼中になくなったのかもしれないが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……迷った」

 

 

 ネフティス社を離れ、えっさほいさとアビドス自治区に到着したのは良いが、あまりに広大なので迷ってしまった。流石、全盛期は三大校を凌ぐと言われただけあるか。

 

 

「辺りは砂に埋もれた建物だらけ……はぁ、気が滅入る」

 

 

 アビドスに通っているという生徒たちには驚嘆するところだ。よくもまぁ一見してお先真っ暗なこの地に留まることを選ぶ。

 

 そして歩き続けてしばらく。ようやく市街地らしきところに出た所で、ヘイローのある制服を着た少女が前を歩いているのを見つけた。

 

 制服からしてアビドスの人だろう。追いかけて声をかけるか。

 

 

「すみませ〜ん」

 

「ッ、はい?」

 

 

 俺の声に振り返った少女の顔が顕になる。肩の下あたりまで伸ばされた黒髪と綺麗な青い目に黒縁眼鏡を掛けている。そして肩にはケースに収まった銃がある。

 

 

「突然ごめん。俺は桐藤ユウキ、ゲヘナの二年生だ。アビドス高等学校に用があって……君、アビドスの生徒だろ? 良ければ案内してくれないかな」

 

「ゲヘナがどうして……あー、分かりました。じゃあ案内するので着いてきてください」

 

 

 取り敢えず考えるのは後回しにしたらしい少女がさっさと歩いていくのについていく。

 

 この時の俺は、何事もなければ良いなんてフラグでしかないような事を思ってしまっていた。

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