明けの明星はゲヘナにいる   作:シャケナベイベー

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第五頁 契約成立

「そう言えば自己紹介がまだだったね。私は瀬戸(せと)アヤカ。よろしく」

 

 

 アビドス高等学校に向かう途中、案内してくれていた女子生徒が名前を教えてくれた。彼女はやはりアビドスに通っている生徒で、彼女以外の生徒は同級生の一年生と生徒会長の三年生だけらしい。

 

 噂には聞いていたがアビドスの人員不足は相当深刻なものだった。それでも何とか『学校』という体裁を整えられている辺り良くやっている方だろう。

 

 

「他の学校に行こうとは思わなかったのか?」

 

「う〜ん、確かにその案もあったかもしれないけど、ユメ先輩──生徒会長の真摯な言葉を聞いたらそんな気も無くなったかな」

 

 

 俺の問いを瀬戸は否定する。生徒会長──梔子ユメの事が本当に好きなのだろう。その証拠に顔が綻んでいた。

 

 そうこうしている内に目的地のアビドス高等学校が見えてきた。確かに案内がなければかなり迷ってたな……。

 

 

「ただいま〜……あれ、ホシノもユメ先輩もいないのかな」

 

 

 校舎に入り、『アビドス生徒会室』と書かれたプレートが掛けられている部屋の扉を開けた瀬戸は中を見回して首を傾げる。

 

 少し待ってて、と俺を椅子に座らせてスマホを取り出した瀬戸が画面を操作して、しばらくして「あちゃ〜」と額に手を当てた。

 

 

「何かあったのか?」

 

「うん。どうにもトラブルに巻き込まれたみたいでその対応に行ってくるってホシノ──同級生の子からモモトークが来てた。多分、そろそろ戻ると思うから悪いけどもう少し待って「戻ったよアヤカ」あ、噂をすれば」

 

 

 扉が開き、桃色のショートカットの小柄な少女と緑色の髪をしたのほほんとした雰囲気の少女が入ってきた。小柄な子の方は噂に聞く小鳥遊ホシノだろう。

 

 神秘の量が尋常じゃない。空崎や我らが雷帝こと丹花カオルに匹敵するほどだ。ちなみに瀬戸もその枠に入っているが、緑色の髪の少女──多分梔子ユメ──はそこまででもない。

 

 そして小鳥遊ホシノの鋭い眼差しが俺に向いた。

 

 

「……誰ですか?」

 

「もしかしてアビドスに入学したいとか!?」

 

「そんなことあるわけないでしょうユメ先輩。彼の制服、ゲヘナですよ」

 

「初めまして、桐藤ユウキだ。お察しの通り、ゲヘナの万魔殿に所属してる学生だよ」

 

 

 学生証を机に置けば梔子ユメは「そっかそっか! ならお客さんだね!」と朗らかに笑う。その一方で、小鳥遊ホシノは未だ俺に対する警戒を解かずにいる。

 

 

「……ゲヘナの生徒がどうしてアビドスに?」

 

「ん、ちょっと用があってね、君に」

 

「……私?」

 

 

 指名すれば小鳥遊ホシノはさらに警戒を強める。なんだか野良猫みたいだ。

 

 

「用と言っても、君のことが俺の周辺で噂になってたから、ちょっと気になってね」

 

「え、ホシノちゃんの噂!?」

 

「何ホシノ、いよいよ他校にまで喧嘩売ったの?」

 

「そんなことしません!!」

 

 

 純粋に目を輝かせる梔子ユメとからかう瀬戸に挟まれ、小鳥遊ホシノは必死に否定しながら恨めしそうな目を向けてくる。その鋭い眼光は人一人くらい殺せそうなほど鋭く、俺は肩を竦めて手をヒラヒラとさせた。

 

 

「ちょっと、どうしてくれるんですか」

 

「ごめんごめん。まさかここまで反応が良いとは思わなくて」

 

「撃ちますよ?」

 

「ホ、ホシノちゃん! 暴力は駄目だよ!」

 

「ユメ先輩、これは暴力じゃなくて正当な権利のための行いです」

 

「その割には私怨が凄そうだけど」

 

 

 瀬戸の一言に「うぐっ……!」と声を詰まらせた小鳥遊ホシノは渋々といった様子で目つきの鋭さを和らげる。

 

 そしてようやくといった様子で自己紹介をしようと瀬戸が二人を俺の前に連れてきた。

 

 

「私は梔子ユメ! アビドスの生徒会長をやってるよ。よろしくね」

 

「……小鳥遊ホシノです」

 

「改めて私も。瀬戸アヤカだよ」

 

 

 三者三様の自己紹介に「よろしく」と一言返し、もう一度小鳥遊ホシノに視線を向ける。

 

 

「やっぱり凄い神秘だな。そりゃうちの議長が気にするわけだ」

 

「なんなんですかホントに」

 

「君ほどの神秘を持ってるやつを早々お目に掛かれないから興味があって」

 

「うえ〜……」

 

 

 そんなに心から嫌そうな顔をしなくてもいいと思うんだけどなぁ。とはいえジロジロ見るのも失礼に当たるので視線を瀬戸に移す。

 

 

「思ってたんだが、アビドスは大昔の大砂嵐が原因で人が減少したんだよな?」

 

「うん。当時の生徒会も何とかしようとして試行錯誤したけど、結局カイザーにお金を借りることになって……」

 

「アヤカ!」

 

「え? ……あ」

 

「カイザーに?」

 

 

 アビドスまでの道中、情報部から提供されたデータに目を通したがそんなことは一つも書いていなかったはずだが。

 

 慌てたように口を塞ぐ瀬戸とそんな彼女をジト目で見つめる小鳥遊。二人を他所に梔子ユメがこちらに寄ってきた。

 

 

「え、えっと、ごめんね? 実は、今アビドスには借金があって……」

 

「カイザーからの? だいぶヤバいところから借りたんだな……金額を聞いても?」

 

「……9億6235万円」

 

 

 疲れたように息を吐き出した小鳥遊が告げたその金額に目を丸くする。三人で返していくにはあまりにも膨大過ぎる。

 

 沈痛な空気を変えようと梔子ユメが口を開きかけるが、それよりも早く小鳥遊が一歩俺に近付いた。

 

 

「誰も、誰も手を差し伸べてなんてくれなかった。連邦生徒会も、トリニティも、ミレニアムも……ゲヘナも。だから私たちだけで何とかするしか無かった」

 

「……ッ」

 

 

 その気迫に、こちらを責めるような目に俺は唇を噛む。

 

 助けを求めたのだろう。それでもその手を掴んでくれるものは無く、かつてのアビドスはカイザーと取引した。誰の責任なのか、と問われればそれはきっと誰でもないのだろう。

 

 少なくとも言い分からしてカイザーとかつてのアビドスの取引は正当なもののようだ。

 

 

「だから出てって。私たちに関わらないで」

 

「ホシノ、そんな言い方……!」

 

「じゃあ今さら誰かの手を借りるの? これまで誰も助けてくれなかったのに?」

 

 

 瀬戸が咎めるのも聞かず、小鳥遊は吼える。その主張に反論できる何かを、俺は持ち合わせていなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「桐藤!」

 

 

 アビドス校舎を出たところで俺を呼び止める声が響く。振り返れば瀬戸がこちらに駆け寄ってくるところだった。

 

 

「瀬戸? どうしたんだ?」

 

「さっきはホシノがごめん。あの子も悪気があってあんな風に言ったんじゃないんだ」

 

「ああ、それは気にしてないよ。俺も配慮が無かったし」

 

 

 頭を下げる瀬戸に俺はそう返す。さっきの小鳥遊の言い分は最もだ。いきなり見知らぬ他人にあれこれと詮索されれば堪ったものではないだろう。

 

 

「でも……」

 

「俺の方こそごめん。小鳥遊はまだ怒ってたか?」

 

「ううん。ユメ先輩と話して落ち着いたみたい。私はホシノの分まで君に謝っておきたかったから来たの」

 

「律儀だな」

 

 

 そして二言三言会話をした後、モモトークを交換して別れた。「もし良かったら暇な時にアビドスに来てね」という一言も添えられたが。

 

 そして校舎を離れ、さて帰るかとなったところで俺のスマホが着信音を鳴らす。画面を見てみれば知らない番号。普段なら切るところなのだが、何故か『出なければならない』様な気がして通話を始めた。

 

 

「……もしもし?」

 

『一昨日ぶりですね、明星のルシファー』

 

「うっっっわ」

 

 

 通話をかけてきた相手は最悪も最悪。つい先日、俺に妙な取引を持ちかけてきたゲマトリアの『黒服』だった。

 

 

「なんで俺の番号知ってるんだよ」

 

『調べれば出てきますからね』

 

「クソが」

 

 

 堂々と違法行為を暴露した通話越しの相手に思いっきり顔を顰める。そんな俺の心情など露知らず、悪い大人は口を回す。

 

 

『現在アビドスにいらっしゃいますね。その近くに私がいるビルがありますので是非ともお越しいただければ』

 

「プライバシーの侵害にストーカーか。いよいよ持って救えないな」

 

 

 ケッと吐き捨てる。何が悲しくて犯罪報告を受けねばならないのか。

 

 とにかく黒服の提案を断ろうと声を上げるより早く、メールボックスにURLが届く。どうやらコイツは俺が来ると確信しているらしい。癪に障るやつだ。

 

 

『お待ちしております』

 

「行きたくねぇ〜……」

 

 

 無視すればいいのだろうがその場合何されるか分かったもんでもないので実質行くという選択肢しかないのだ。ホントに嫌だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 指定された場所にあったのは立派なオフィスビルだった。アビドス郊外にあるそのビルにはデカデカと『カイザーPMC』のロゴが飾られている。

 

 中に入るが人っ子一人の気配もしない。その時点で嫌な予感しかしないが取り敢えずエレベーターで四階に上がり、廊下の角にある部屋の扉を開いた。

 

 

「ようこそお越しくださいました、明星のルシファー」

 

「来てやったぞゲマトリア。そして俺を帰せ」

 

 

 一秒でも早くコイツから離れたい一心で声をかける。椅子に腰掛ける黒服は何が面白いのかクツクツと笑いながら話しかけてきた。

 

 

「先程、『暁のホルス』と『黄昏のセト』と接触したそうですね」

 

「誰それ」

 

「小鳥遊ホシノと瀬戸アヤカ、あの二人のことですよ」

 

「お前他の人にもあんな小っ恥ずかしい異名付けてるのか……」

 

 

 中学時代の俺が聞けばさぞ盛り上がったのだろうが、今の俺からすれば地面にゴロゴロ転がって悶えたい気分になるというのに。

 

 

「あの二人については私の考える契約に承諾していただこうと考えておりまして」

 

「お前見るからに怪しいから乗らないだろ」

 

「お察しの通り、今に至るまで良い返事を頂けておりません」

 

 

 やれやれ、と肩を竦める黒服を鼻で笑う。良い気味だ……だがこのまま引き下がるということもしないのだろう。

 

 

「それで? あの二人と会ったからなんだって言うんだ」

 

「いえいえ。ただ単純に私の興味を引く三人が一堂に会したという状況に運命を感じずにはいられない、というだけです」

 

 

 そんなロマンチシズムな事を言って黒服は立ち上がり、俺の前まで歩いてくるとデスクに置かれていた一枚の紙を差し出した。

 

 チラと目を通せばあれこれ書かれていたが、どうやら同意書のようだ。

 

 

「俺の血を提供しろ? 献血でもしようってか?」

 

「ある意味ではそうなるのでしょうか。なにせ、私の研究成果を確認するためには貴方の血が必要なものですから。そしてご協力頂いた暁には私の研究成果を確認すること以外に、貴方の血を、そして貴方自身を悪用しないとお約束します」

 

「この前言ってた俺の協力が必要な計画か?」

 

「正しくその通りです」

 

 

 断りたいのが本心だ。見るからに怪しい大人と取引して剰え自分の血を差し出すなど何に使われるか分かったものではない。だがこの大人の言葉に嘘は無いだろう。言っていることは最悪だが少なくとも何かしら俺やその周囲に害を及ぼそうという気はないようだった。

 

 

「…………はあ。良いぜ、乗せられてやる」

 

「クックック、感謝します桐藤ユウキさん」

 

 

 渋々黒服から同意書を受け取り、軽く目を通してサインする。血を提供し、その見返りとして俺に害を成さず、何かあれば協力するとまで書いてあった……血を提供しただけでここまでするのはいっそ不気味さすら覚えてしまう。

 

 取り敢えずサインした紙を渡せば黒服はそれを丁寧にデスクの引き出しのフォルダに収め、俺を別室の医務室のような部屋に案内するとそこにあるベッドに寝かせ、せっせと器具を準備していく。

 

 

「では針を通します。少し痛いでしょうがご容赦を」

 

「へいへい」

 

 

 横になり、肌を晒した俺の腕に針が刺さる。チクッとした痛みの後に血が抜き取られ、それが三本ほど続いて終わった。

 

 

「これで終わりです」

 

「容赦なく抜いてくれやがって……」

 

 

 針が刺さった場所にガーゼを張り、黒服を睨めつける。遠慮というものを知らないのだろうかコイツは。

 

 

「そう言えば貴方にはヘイローがありませんでしたね」

 

「良い機会だハチの巣にしてやる」

 

 

 器具を片付けていた黒服がふとしたようにそんなことを俺に言ってきた。嫌味だろうと思い銃に手を掛けたが「安静にしていてください。悪気はありませんよ」と制された。

 

 

「考えたことはありませんか? 何故他の人達と同じであるはずの貴方だけ、ヘイローが無いのかを」

 

「男だからとかか?」

 

「そんなことで差異が生まれることはありませんよ。私が思うに、貴方にヘイローが無いのは未だ貴方の『神秘』と『恐怖』、どちらの側面を顕現させるか判断がついていないからかと」

 

「哲学か何かか?」

 

「ヘイローとはこのキヴォトスにおいて『崇高』が齎す『神秘』、もしくは『恐怖』の象徴です。それによって生徒は例外なく『神秘』の側面を表として今現在の在り方を取っています。ですが貴方だけはそのどちらに寄る形を取るのか決めきれていないのでしょう……クックック、実に興味深い。『崇高』の表裏が決まっていないにも関わらず生徒としてこのキヴォトスに身を置いている……やはり貴方は大変興味深い」

 

 

 自分の世界に入ったらしい黒服に胡乱な目を向けながら俺は頭上に手を翳す。業腹だが黒服の言葉には思うところがあった。

 

 生まれた時から俺にはヘイローが無かった。妹にはあったにも関わらず、だ。男だからなのかもと考えて気にしないようにしていたが、黒服の言葉は確かに俺の心の端に傷をつけたのだ。

 

暫くして自分の世界から戻ってきた黒服は一言俺に詫びてから、腕時計を俺に渡してきた。

 

 

「……これは?」

 

「私からのささやかな贈り物です。以前お話した『天使の焔車輪(ウリエル・スターゲイザー)』を起動するために必要な物です。不自由のないよう腕時計の形に最適化しておきました」

 

「宇宙兵器か……使う機会なんて無いと思うけどな」

 

「クックック……そうとも限りませんよ。少なくともそう遠くない未来に貴方はこれを使うでしょう」

 

 

 根拠でもあるのか確信に満ちた声で言う黒服に「そうか」と一言だけ返して踵を返す。

 

 

「もうお帰りに?」

 

「用は済んだだろ。さっさと帰って寝たいんだよ。どうせ雷帝への報告書も書かなきゃならないんだし」

 

「フフ、そうですか。それではまたいずれ」

 

「もう御免だよ」

 

 

 そう言って部屋を出るとオフィスビルからも撤退する。去り際に黒服の視線が背に突き刺さる感じがして実に落ち着かなかった。

 

 

 ──どうぞ、雷帝にお気をつけください

 

 

 黒服のその一言を聞き逃したとも知らずに。

 

 

 

 

 

 

「失礼、遅れました」

 

 

 薄暗い会議室でそう口にした黒服はすぐに自分の席に腰掛けた。用意されている席は自分のものを除けば三つ。そのうちの二つには既に同僚が腰掛けているがもう一つは空席だった。

 

 

「マダムはいらっしゃらないのですか?」

 

「ベアトリーチェは欠席だ。アリウス自治区での仕事に掛かりきりになると」

 

「そうですか。分かりました」

 

 

 黒服の向かい。そこに座る木で出来た二つの顔を持つ紳士──『マエストロ』の言葉に黒服は頷く。何にせよ、同僚が研究に勤しんでいるのならそれを邪魔する気はない。

 

 

「それでは会議を始めましょうか」

 

 

 黒服の言葉にマエストロがギギギ…とその体を揺らしながらディスプレイを円卓の中心に投影させた。

 

 

「ではまず私から。トリニティ自治区を調査したところ、やはり古聖堂には『太古の教義』が眠っていることが分かった」

 

「太古の教義……つまり『天使』の?」

 

「恐らくはな」

 

 

 マエストロの言葉に反応したのは首から上がなく額縁を持つ人物……ではなくその額縁に描かれている背を向けた紳士だった。彼の名はゴルコンダ、そしてそのゴルコンダの肖像画を持つ者はデカルコマニーと言う。

 

 

「見つけたは良いが現状はそれだけだな。『複製(ミメシス)』の技術はまだ試験段階……それに完成したとしてもそれを制御できる手立てが無いからな」

 

「ではひとまず様子見といったところですか……ゴルコンダの方はどうです?」

 

「つい先日ゲヘナの雷帝との交渉に成功しました。いくつか作品を渡しております」

 

「そういうこった!」

 

「ふむ。やはり彼女は私たちに気づいていましたか」

 

 

 ゲヘナの暴君『雷帝』こと丹花カオル。その頭脳はキヴォトスの中でも群を抜いており、もしミレニアムにいたなら『全知』の称号を与えられたとされるほど。

 

 そして同時に災厄に等しい兵器をいくつも生み出している存在でもある。ゲマトリアはそれに目をつけ以前からそれとなく交渉していたのだが、この度ゴルコンダがやってくれたらしい。

 

 

「もし彼女が卒業しキヴォトスを離れるのであれば是非とも我々の一員に迎え入れたいのですが……」

 

「雷帝は敵が多い。不用意にこちらに引き入れてリスクを背負うわけにもいくまい」

 

「そういうこった!」

 

「デカルコマニーの言う通り、彼女をこちらに引き入れることはできずとも、今回その技術を一部手中に収めることが出来ました。現状はそれでよろしいのでは?」

 

「そうですね。大きなリスクを負うこともなく技術を手に出来たのは大変喜ばしいことですから」

 

 

 ゴルコンダの言葉で思考を切り替える。彼らは大人だ、目先のことに囚われて足元を掬われるようなことはあってはならない。

 

 

「黒服、貴下の方はどうだ? アビドスにいたのだろう?」

 

「ええ。キヴォトス最高の神秘である『暁のホルス』、そして『黄昏のセト』との接触に成功しました。取引を持ちかけたところ、残念ながら良い返事は頂けませんでしたが」

 

「ホルスとセトと言えば『神々の星座』の時代において世界の覇権を巡って対立したとされていますが……現在のお二人は仲がよろしいのですね?」

 

「そういうこった!」

 

「かつて相争った二柱と現在の彼女たちはイコールではない、ということなのでしょう」

 

 

 黒服は組んだ手を円卓に置き、ディスプレイに映されたホシノとアヤカに目を向ける。と、マエストロが咳払いをして黒服に問いかけた。

 

 

「黒服、貴下は確か『魔王』とも接触していたな?」

 

「『明星のルシファー』ですね? はい、いくつか取引を持ち掛けました」

 

「成果は?」

 

「血液のサンプルを頂きました。これでもう一つの実験に取り掛かれます」

 

「…………『楽園の蛇』の復活か」

 

 

 その言葉に黒服が静かに頷く。かつての時代、キヴォトスが現在の在り方に切り替わる以前の世界において猛威を振るった楽園の蛇。その復活により齎される結果を黒服は求めていた。

 

 

「蛇の復活は大きな危険を伴うものですが、それでも利益が勝るでしょう」

 

「ええ。『魔王』の血を使ったとなれば蛇はまもなく目覚めるでしょうから」

 

 

 その日が楽しみで仕方ない。復活した超越者は今の世界を見て何を思うのだろうか。壊すという手は取らないにしろ、何かしらの災禍を齎すのか。はたまた傍観するのか。

 

 鍵を握っているのはやはり、桐藤ユウキだ。




崇高とかヘイローとかの設定は独自設定を多分に取り入れてるのでそこのところご理解ください!


桐藤ユウキ

アビドスの件に不用意に踏み込んでしまったことを後悔している。瀬戸アヤカとモモトークを交換したのでちょくちょく連絡を取るように。
黒服に血を提供した。不利になる取引でもなかったので渡したがこの男、簡単に絆され過ぎな気もする。

自分には一切連絡もくれなかったのに他校の人間とモモトークを交換して早速連絡を取っているのをユウキの妹が知ったら嫉妬して大変なことになる。そんな彼女を見て彼女の親友のゴリr……天使もユウキにキレる。ユウキは死ぬ。
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