大変お待たせしてしまい、申し訳ありませんでした。
活動報告に書きました通り、インフルエンザに罹患して寝込んでおりました。
先週、一度はかなり回復したのですが週末くらいからぶり返してしまい、結局昨日まで床に着いておりました。
なんとか起き上がれるようにはなりましたが、まだ本調子には程遠く仕事も休んでいますので、本作の更新も遅れ気味になると思いますがご容赦下さい。
それでは、今回もお楽しみ頂ければ幸いです!
眩い光を放ちつつアムロのゲドが飛び去り、バーンがその後を追ってもう一機のゲドで出撃するのを見送ったショット・ウェポンは、状況を確認するために自室へ戻ろうとしていた。
「アムロの乗ったゲドは恐らく機体の限界を超えている。無事に戻って来れたら分解して解析・検証すれば、また新たな発見が有るかもしれないな……」
ショットも根っからの技術者であるので、興味深い研究対象が現れたことに大きな高揚感を覚えていた。
と、その時。
〜〜〜〜〜〜〜♪ 〜〜〜〜〜〜〜♪
「ん? なんだ?」
どこからか、澄んだ女性の声のようなものが聞こえて来て、ショットは首を傾げる。
「美しい声? と響きだが……これは……唄、なのか? どこかでフェラリオが唄っているのか? いや、こんな神秘的な声を持つフェラリオなど、この周辺にはいないと思うが……」
空気を震わせ、まるで精神に訴え掛けるようなその美しくもどこか悲しげな唄声は、ラース・ワウ全体に響き渡っているようだ。
「ふむ……」
周りを見ると、演習場にいる兵士やオーラ・マシンに取り付いている整備兵にも聞こえているらしく、大勢の者が不思議そうに周囲を見回している。
「ううむ、フェラリオどもの悪戯と言うわけでも無さそうだ。だが、念のためにシルキー・マウのいる水牢の警備を強化するように指示を出しておくか」
ショットが正体不明の唄声に首を傾げながらも、再び自室を目指して歩き出した時。
「ショット殿!!」
息を切らせつつ、ショットと同じく地上から迷い込んだコンピューター技術者のゼット・ライトが駆け寄って来た
「どうした、ゼット殿。そんなに慌てて。もしかすると、この唄声の事か?」
「そうだ。今聞こえているこの声なんだが……」
「ああ、美しい唄声だな。なにか心当たりでも有るのか?」
「……あそこから、聞こえて来ているようだ」
「あそこ……? まさか!?」
真剣な様子のゼットの言葉に、ショットが驚く。
「そうだ、あそこだ。あの、アレを封印した場所からだと思う。事情を知っている者に確認に行かせているが……」
「まさか……あれだけ厳重に封印したのだ。オーラ・スピリットの完全停止を確認したし、ましてやオーラ・コアは取り出して保管しているだろう」
「ああ、確かにそうなんだが……だが、アレには憑いているだろう?」
「……そんなバカな、と言いたいところだが、地上とここでは霊的なものの概念が全く違う。有り得ない話ではないが……だが、なぜ今突然……」
ショットは顎に手を当て、そこまで呟いたが。
「! まさか……いや、あのオーラ力の奔流ならば……」
一つの可能性に気付いた。
「どうした、何か心当たりでも有るのか?」
そんなショットの様子を見たゼットが不審げに尋ねる。
「ああ、ゼット殿はアレを見ていないのだな。もしかすると彼の……アムロ・レイの余りにも強大なオーラ力に反応しているのかもしれん」
「アムロ・レイ? 昨晩召喚された四人目の地上人のことか?」
「ああ、そうだ。色々有って彼は先ほどゲドに搭乗して出撃したのだが、その際に驚くべきオーラ力の奔流を見せ、ゲドの性能など知った事かとばかりの速度で飛んで行った。ゲドは確かに旧型で性能も低いが、地上人専用に設計した特殊な試験型であるダンバインと同じく限界オーラ力は設けていない。そのゲドを途轍もない力で、暴走させることも無く駆動出来るような地上人ならば……」
ショットが、ゼットに滔々と説く。
「そうか……それほどのオーラ力の持ち主が現れたならば、彼女を完全にコントロールすることも可能かもしれない、のか……」
ショットの言葉に、ゼットも納得したように呟く。
その呟きの中に彼女、と言う言葉を無意識に組み込んだらしいゼットを見て、ショットはふ、と笑い。
「彼女、か……ああそうだ。この唄声は、彼女からアムロ・レイへの恋唄なのだろう。そして、我々へのアピールだ。自分に相応しい男が現れたのだから、早く封印を解いて逢わせろ、とな」
「……そうか、そうだな。だが、どうするんだ? アレは核爆発にも余裕で耐え、バイストン・ウェル……いや、地上の兵器を含めてもあらゆる敵を事も無げに薙ぎ倒すようなシロモノだ。いくらコントロールできるかもしれない男が現れたと言っても、ホイホイと封印を解いて渡すのもどうかと思うが……」
納得はすれども、それを気軽に行う事には賛成しかねると言った風のゼットがショットに言い募る。
「ああ、もちろんその通りだ。アムロ・レイは強力かつ清廉なオーラ力の持ち主であり、恐らく尊敬と信頼に値する誠実な男だと思う。ただ、それだけに今後の我々の野望の前に立ち塞がる可能性も有る。その時、アムロが彼女を手にしていたら絶望的な壁になりかねないからな」
「そうか……まあ、個人的には多くの奇跡を得て完成した彼女をこのまま眠らせるよりは、相応しい男の所に嫁がせたい気はするが」
「おや、現実的な実利主義者のゼットにしてはえらくロマンチックな事を言う」
「からかうなよ、ショット。君だってそう思っているくせに」
馴れ合わないために、とお互いに呼ぶときには敬称の殿を付けようと決めた二人だったが、この時ばかりはバイストン・ウェルに迷い込んだ直後の様な呼び捨てで軽口を叩き、笑い合う。
「何はともあれ、今夜は地上人のお披露目会が開催される。ドレイク様への謁見も有るし、全てはそこからだ」
「わかった。とりあえず、さっき出撃していった地上人は全員無事に帰って来てほしいものだな」
「そうだな。ではまた夜に会おう」
「ああ、後程」
二人は頷き合い、自分の持ち場へと戻って行く。
(さて、戦況はどうなっているかな。なんとなく、全てアムロが終わらせている予感もするが)
既にすっかり時間を取ってしまった事に苦笑いをし、ショットは自室へと足を向ける。
今度こそ、何事も無く自室に辿り着けるようにと何者かに祈りながら……
ショットが自室へと向かうために歩き出したその頃。
ドロの機内に入り、座り込んだ二人の無事を確認したマーベルが涙を浮かべて駆け寄った。
「ニー! ミイナ! 無事だったのね。良かった……」
「ああ、マーベルも無事で安心したよ。不甲斐無い男で済まない……」
「マーベル!!」
そんなマーベルに対し、ニーは正座の様な座り方になって頭を下げ、ミイナは中腰になり駆け寄って来たマーベルと抱き合った。
再会の喜びに沸く三人を眺めつつ、ショウはバーンに向かって尋ねる。
「そうだ、バーンさん。トッドとトカマクは大丈夫なのか? トカマクのダンバインは酷い姿だし、トッドのダンバインは居ないし……まさか、トッドのヤツはやられちゃったのか?」
ショウの問いに、少し間を置いてからバーンが答えた。
「……うむ、トカマク・ロブスキーは負傷したので他のドロの中で治療を受けている。命に別状は無いので心配は要らないが……ただ、撃墜されかかったのが相当利いたらしく怯えてしまっていてね。トッド・ギネスに関しては本人も機体も全くの無事だが、念のため付近の森の中にドロ一機とともに待機させている」
「そっか、なら良かった。いや、トカマクの事はあまり良くないかもしれないけれど……」
こちら側に誰も死人が出ていないことを知り、ショウはホッと息を吐いた。
「まあ、今は仕方がない。心の傷を癒すには時間が掛かるだろうが、何よりも生きている事が肝要だ。それだけでも幸運だった」
バーンも少し苦い表情でそう言った後、アムロに向き直る。
「だが、それ以上に幸運だったのはアムロ・レイという希代の聖戦士を得られたことだ。彼が参戦してくれなければトカマク・ロブスキーは確実に死んでいた。トッド・ギネスもかなり危なかっただろうし、そうなると一人残って勇敢に戦ってくれたショウ・ザマ。君も一人で三機のオーラ・バトラーを相手にせねばならぬ所だったからな」
「……アムロさんは、そんなにすごいのか」
バーンの褒め殺しに、もう諦めたような表情で苦笑しているアムロを見てショウがそう呟くと。
「ショウ、呼び捨てで良いよ。あとバーン、そんなに煽てないでくれ。後が怖い」
アムロはショウの肩を叩きつつ、そう言った。
「いや、アムロさんと呼ばせてほしい。俺はあなたを呼び捨てになんて出来ない」
「……そうか、まあ君が呼び易ければそれで構わないさ」
アムロは肩を竦めてそう言い、少し寂し気に微笑んだ。
二人のそんなやり取りを満足気に見つめていたバーンだったが、さて、と呟きながら捕虜となったニー、ミイナ、マーベルの三人に視線を投げる。
「とりあえず、馬車が迎えに来るまでは時間が有るが……ニー・ギブン。詳しい話は城に戻ってからドレイク様にご臨席頂いた上で聞かせてもらう。が、かつて轡を並べて戦った戦友としてのよしみだ。この場で何か言いたい事や聞きたい事が有れば聞かせてもらうが」
そんなバーンの言葉に、ニーは俯きながらもしっかりと声を出す。
「ああ、かたじけない。いくつか頼み……いや、願いがある。俺はどうなっても構わないが、マーベルとミイナ、あと一緒に掴まった我が領の騎士や兵士にはどうか温情を掛けて欲しい。特に地上人である二人はわが父ロムンが地上から強引に呼び寄せてしまい、有無を言わせない状態で協力してもらっているんだ。どうかこの二人には咎が及ばないようにしてほしい」
そこまで言い、ニーはバーンに向かい土下座のような態勢で頭を下げた。
「ニー!」
「ニー! そこまでしなくても!」
それを見たマーベルとミイナが悲鳴のような声を上げる。
特に、日本人であるミイナにはその光景は衝撃だったようだ。
「……ニー・ギブン。相変わらずの義理堅き男だな。わかった、貴殿のその思いは御屋形様に伝えよう。悪いようにはなさらないだろう」
「……ありがとう、バーン。いや、バーン殿」
「ふっ。そんな呼ばれ方をすると却って気持ち悪いな。今後どうなるかはともかく、今は昔通り呼び捨てにしてくれて構わないぞ、ニー」
「……わかった、バーン。改めて礼を言わせてもらう」
かつては友誼を築き、また戦友でも有った二人には今でもどこか通じるものがあるのだろう。
バーンとニーは視線を合わせると、ふっと笑い合った。
「バーン。今回のことと今後について、腹を割って話させてもらいたいのだが構わないだろうか?」
「む、もちろん構わないが……」
どこか吹っ切れたような雰囲気を醸したニーがバーンに頼み込み、それを聞いたバーンが周囲を見廻す。
と、その様子を見たアムロがショウの肩を叩き。
「ショウ、俺たちは外に出ていようか。えーと、マーベルさんにミイナさん、だったかな? お嬢さん方二人もご一緒してくれないか?」
女性二人に向かって、優しく声を掛けた。
「え、ええ……」
「でも、ニーが危険じゃ……?」
「大丈夫だ、心配は要らない。さあ、行こうか。バーン、俺たちは周辺に居るから、終わったら声を掛けてくれ」
「ああ、ありがとうアムロ」
そして、戸惑う女性二人とショウを引き連れたアムロがドロの外へと出て行った。
「……あの、アムロという地上人は、一体何者なんだ?」
それを見送った後、ニーがバーンにそう尋ねると。
「そうだな。なんというか……あの伝説の聖戦士の再来とでも言うべき、凄い男だな」
「……そうか……」
微笑んだバーンの答えに、ニーも納得するしかないといった様子で頷いた。