新しきヘラクレス   作:アーっr

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ヘラクレスは最強であって欲しい
でも作劇の都合上どうにかして退場してもらわないといけない
面白いことを思い付いた


新たな英雄

 

 

 ヘラクレス・パパドプロス。

 神父の息子(パパドプロス)はギリシャにありがちな名前で、ヘラクレスもやはりありがちな名前だった。

 

 母は彼を産んで死に、父もまた病気でこの世を去った。

 だが、その名前に込められた願い───『強い男になれ』という思いは叶ったと言える。

 

 2mをゆうに超える巨体。ただのヒョロガリではなく、鍛えあげられた肉体。

 神話の大英雄ヘラクレスの名前に劣ることのない、頑健な男に育った。

 

 強いのは肉体だけではない。精神(こころ)もまた、紳士的で英雄然としていた。

 困っている人がいるなら手を差し伸べ、持ち前の肉体で困難を超克する。

 

 男の鑑、模範的な存在として彼は生を全うしていた。

 

 

 

 その日は嵐の日だった。空は荒れ、雷が満ち、曇りが天を覆った。

 

 当然、彼は安全確認のために街を歩いていた。

 

 「我が肉体は嵐の只中であろうと健在である。しかし、皆はそうもいかない」

 「建物の中に居ようとも、壁や屋根に損傷があれば危険だろう」

 

 そう考えた彼は、周囲の人々のために動いた。

 

 彼は強く、優しく、そして運が良かった。

 

 ────。凄まじい閃光と破裂音が鳴り響いた。雷が落ちたのだ。それも、すぐ近くに。

 

 「────、っ!」

 

 ヘラクレスは走った。自分ならまだしも、他の者が雷に打たれれば即死しかねない。

 

 

 

 数秒の疾走の後、彼は現場に辿り着いた。

 

 「な────」

 

 そこに、男が居た。とても大きな………本当に巨きな男が居た。

 石像のような美しい筋肉を備えた、人の完成形のような男だった。

 

 「───我が名はヘラクレス」

 「大神ゼウスが一子、女神の栄光の名を授かった男、ヘラクレスである」

 

 

 

 ヘラクレス・パパドプロスは知っている。大英雄ヘラクレスが、どのような難行をこなしたのか。

 

 ネメアのライオン、レルネのヒュドラ退治、ケリュネイアの魔の鹿の捕獲、エリュマントス山のイノシシの捕獲、アウゲイアスの家畜小屋掃除、ステュムパリデス沼地の怪鳥の退治、クレタ島の牡牛の捕獲、ディオメデスの人食い馬の退治、ヒッポリュテの帯の入手、ゲリュオンとの戦い、黄金のリンゴの入手、番犬ケルベロスの捕獲、ギガントマキア!

 

 まだまだ語り切れないほどある。ヘラクレスという英雄は途轍もなく偉大な男なのだ。

 

 その偉大さは時代や場所を超えても不変のもので、ペルシャやエジプト、仏教などにもそのエッセンスを垣間見ることが出来る。

 

 

 そんな英雄が、自然に抗う人類の代表とも言えるヘラクレスが、目の前にいる。

 

 現代を生きるヘラクレス・パパドプロスは憧れに会えた興奮と、これほどの男ならあの難行を成し得るだろうという納得に襲われた。

 

 「我が名はヘラクレス・パパドプロス!あなたにあやかってヘラクレスと名付けられたんです!この名前に恥じないように生きて来ました!」

 「是非とも、勝負の機会(チャンス)をいただきたい!」

 

 神話の大英雄がそこに居る。間違いなく本物のヘラクレスだ。

 ならば、勝負を。これほどの男に認められるという名誉を得たい。

 

 「───その意気や善し」

 

 

 

 

 円盤投げ、槍投げ、ボクシング、競走、幅跳び、レスリング。

 古代ギリシャから続く伝統的な競技の数々でヘラクレス達は競い合った。

 

 どちらも人間離れした成績を叩き出した。投擲は山の遥か向こうに届き、彼らは風より速く走った。

 

 しかしやはり大英雄ヘラクレス。現代を生きるヘラクレス・パパドプロスよりも上を行った。

 

 パパドプロスは一つ負けるたび悔しがり、次こそはと気炎を燃え上がらせ、しかし届かない。

 

 「………?」

 

 ここでパパドプロスが異変に気付いた。いつまで経っても雨が止まないのだ。

 

 ヘラクレス達が競い合って数時間ほど経過した。その間雨は止まず、それどころか更に勢いを増していくばかりであった。

 

 神々の王、天空神ゼウスの息子ならば何か感じているのではないかとこの疑問を英雄ヘラクレスに問うた。

 

 「我が顕現に伴い、嵐が発生したのだろう。この身は神々の王ゼウスの息子であるが故に」

 

 「ならば、あなたが居る以上雨は止まぬということですか!?」

 

 「………済まないが、止められない。我が意思ではなく、性質として当然起こり得る現象だからだ」

 

 これに困ったのはヘラクレス・パパドプロスである。これ以上雨が降るようであれば、街が水没しかねない。

 当然、そこに住む人々にも危険が及ぶだろう。

 

 「なにか………解決策は無いのですか?」

 

 「私を殺せば良い。我が身が滅びれば、この地に降り注ぐ雨も晴れよう」

 

 「な────」

 

 言葉に詰まる。

 “殺す”だって?あの(・・)ヘラクレスを?

 

 あらゆる怪物を叩きのめし、時には神と争うほどの、人類最高の戦士。

 死後神に迎え入れられたあの女神の栄光(ヘラクレス)を、英雄(ヒーロー)の語源を、一体誰が殺す?

 

 「本当に………」

 

 パパドプロスは口が乾きながらも声を上げる。

 

 「本当に───他に、道は無いのですか?」

 

 信じたく無い。ヘラクレスとは自然に抗う英雄、人類の代表。

 神話的大英雄ヘラクレスならば、なにか違う方法を────

 

 「────無い」

 

 

 

 

 息を整える。覚悟を決める。相手が何者であろうとも、それが例え尊敬する英雄であったとしても、戦わなければならない。

 

 「────我が名はヘラクレス」

 「この名前に恥じぬために、そして、この地に生きる人々のために!」

 「今ここで、貴方を、超える!」

 

 殺す、とは言えなかった。

 

 

 

 勝負は明白だった。パパドプロスはヘラクレスの名に恥じない強さを持っていたが、真なるヘラクレスには及ばない。

 

 拳を打ち合う度にパパドプロスは傷付き、ヘラクレスは無傷のままだ。

 人は負ける。英雄には勝てない。

 

 「グぁっ───」

 

 顔面に拳を打ち込まれ、左目が潰れた。溜まった雨水の中に倒れ込む。もはや勝負は決まったと言えるだろう。

 人は負ける。だが、運は良かった。

 

 複又の大蛇が現れた。

 

 「かつて私が乗り越えた試練(ヒュドラ)。我が身に呼応し顕現したか」

 

 ヒュドラ。複数の頭を持つ蛇、或いは竜。

 血肉は猛毒であり、不死なる神すらも自ら死を選ぶ程苦しみを与える。

 

 英雄ヘラクレスが乗り越えた試練であり、その毒は死因でもある。

 

 神話的弱点であるこの猛毒を受ければ、いかに英雄ヘラクレスといえども絶命するだろう。

 

 「────フン!」

 

 しかし、相手は大英雄ヘラクレスなのだ。二度も同じ方法でやられることは無い。

 

 ヒュドラは血を噴水のように噴き出すだけのアートに成り果てていた。

 文字通り、手も足も出ていない。

 

 人は負ける。英雄には勝てない。

 ───しかし、忘れてはいないだろうか?

 

 英雄とはまず初めに、人だったのである。

 

 「天上の神々よ!偉大なる英雄(ヘラクレス)よ!」

 「我が行い、御照覧あれ!」

 

 血を噴き出すヒュドラに向かってパパドプロスは走った。

 英雄ヘラクレスすら予想出来ない行動だった。

 

 なにせ、その苦しみを知っている(・・・・・・・・・・・)

 

 「ウゥッ、ぐ、アアァァッ!」

 

 只人であるヘラクレス・パパドプロスは、自らヒュドラの毒を浴びた。

 

 

 人は負ける。英雄には勝てない。

 ───しかし、人で無いなら?

 

 竜殺しの英雄というものが世界各地に存在する。彼らは竜と戦い、勝利し、血を浴びた(・・・・・)。彼らは不死の力を手に入れた。

 

 それは単なる強化では無い。灰被り姫(シンデレラ)などにも見られる、“より強固な存在への変生”。

 

 即ち、英雄的存在への再誕である。

 

 

 

 

 

 「────オオオオォォッ!」

 

 ギリシャ最強の毒の痛みを無視して、新たなる《鋼》、最新の英雄は拳を打ち込む。

 

 「ヘラクレス・パパドプロス!並の男ではないと思っていたが、これほどとは!」

 

 旧き《鋼》、神話の大英雄もまた拳を合わせる。

 

 そこには武具も、奇怪な技も、魔術も無かった。男と男の殴り合いだった。

 

 「想像を絶する苦痛だろう!私は立つことすらままならなかったというのに、お前という男はッ!」

 

 神話のヘラクレスは喜色を露わにする。

 

 神話の時代、英雄ヘラクレスに伍する人間など居なかった。

 己を超える精神を魅せた新たな英雄が目の前に現れたのだ。心も昂るというものである。

 

 それこそが、《鋼》の性質故に。

 

 

 

 

 

 嵐が吹き荒れる夜だった。

 

 「見事なり、現代の勇者。我が時代に其方が居れば良き友になれただろう」

 

 「………俺の、勝ちか?」

 

 新たなる《鋼》と旧き《鋼》が向かい合っている。どちらも傷付き、毒に侵され、死を迎えようとしている。

 

 「嗚呼、その通りだとも。肉体の剛力、積み重ねた業、毒を自ら呑む精神。其方はまさに英雄だ」

 

 「ハ………嘘、だな」

 

 旧き《鋼》の賞賛をしかし、新しき《鋼》は受け入れない。

 

 「弓はどうしたんだ。槍は、剣は?」

 「なぜ盾を使わなかった。貴方の武具の中でも、盾が一番気に入っていたのに」

 

 現代を生きるヘラクレス・パパドプロスは、英雄ヘラクレスを知っている。

 

 武芸百般は言わずもがな、不壊金剛が用いられたヘラクレスの盾。

 更には神たる権能を用いれば、新参者の《鋼》如き一撃だっただろう。

 

 手を抜かれていたのだ。兄が弟にそうするように、父が子にそうするように。

 

 「それでも、其方が勝った。それが絶対的な真実である」

 「私に勝利したのだ。何か、欲する物を差し出そう」

 

 やはりヘラクレスという男は強く、優しく、偉大だった。

 ならば、欲する物は決まっている。

 

 「───名前を」

 「ヘラクレスの名と盾を、戴く」

 

 その栄光を。ヘラクレス・パパドプロスが憧れ、尊敬した物を戴く。

 

 「───ははハハハッ!良いだろう、好きなように持っていけ!」

 「しかし忘れるなヘラクレス(・・・・・)。いつか必ず、奪還するぞ!」

 

 「───いつでも来い、ヘラクレス!」

 

 そうして、ヘラクレスは英雄(ヘラクレス)になったのだ。

 

 




ヘラクレスがヘラクレスを倒せばヘラクレスの株は下がらない
天才だぁ‥‥

ヘラクレスの盾
 約180行の解説文がヘシオドスによって描写されている
 ゲーミングに光ったり見たら死んだりするらしい
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