新しきヘラクレス   作:アーっr

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戦いには苦戦が必要
ヘラクレスが苦戦するのは格が下がるようで嫌
説得力のある相手が必要───


不穏な雷雲

 

 

 亡霊(えいゆう)の軍勢が倒れ伏していた。

 

 「ハハハッ! まさか我が戦車を正面から打ち破るとは!」

 

 有象無象などでは無い。彼らはそれぞれ一角の英雄である。

 戦争を体験した、本物の戦士たちである。

 

 「貴様は相変わらず声が大きいなアキレウス」

 

 「そういうお前は珍しく笑みを浮かべているではないかアイアス!」

 「ヤツ(・・)の槍を受け止めた時以来に見たぞ、お前の笑顔など!」

 

 一騎当千の勇士たる彼らが膝を突く理由は、彼らを超えるほどの英雄だった。

 

 筋骨隆々という言葉を体現したような体躯。その長身を超えるのは、それこそ巨人でもなければ不可能だろう。

 

 

 人型の要塞。人界最高の英雄、自然(カミ)に抗う人の代表者。即ち───

 

 「ヘラクレス(・・・・・)、我が祖たる英雄! まさにギリシャ最強の益荒雄よ!」

 

 “スパルタの王”という概念、今はアガメムノンの弟メネラオスという形で顕現している英雄。

 彼は、国家の祖(ヘーラクレダイ)の祖たる大英雄の拳を、単なる盾で受け止めてみせた。

 

 もちろん、拳を受け止めたのは彼だけではない。アキレウス、アイアス、オデュッセウス。

 神話にその名を刻むギリシャ屈指の英雄達も、同じ偉業を成し遂げた。

 

 「………よもや、人界の盾に拳を阻まれようとは」

 

 しかし、彼らは神の技巧が施された盾を、加護を持っていた。

 それに対してメネラオスが持つ盾は貧相で、“スパルタの王達“が持つ単なる円盾だった。

 

 実際、ただの一撃で円盾にヒビが入っている。二度目は防げないだろう。

 

 しかし、一撃は防いだ。世界に名を轟かせる、天空すら支える怪力のヘラクレスの一撃を。

 

 「神に冥府から引っ張られた時は正直くだらないと思ったが、満足のいく戦いが出来たぞ!」

 

 「私も同じだ。亡霊の群れかと見てみれば、これほど優れた戦士の集まりとは」

 

 彼らはまつろわぬ神によって喚ばれた亡霊。従属神としての格すらない。

 

 権能は無く。神に与えられた武具や加護こそあれ、彼らは人の身であった。

 

 ヘラクレスは彼らに勝利(・・)した。戦いは成立していた。蹂躙では無かったのだ。

 

 「勝者として、敗者から略奪する。私が欲した物をお前達から貰う」

 

 「当然の権利だ。アンタほどの勇者になら何でもくれてやるぜ」

 

 敗者たる彼らは満足気な顔をして言った。それは尊敬であり、納得であり、友情でもあった。

 

 「人の意地の結晶。我が拳を受け止めた盾を戴く」

 「返して欲しければ、再び挑み、奪ってみせろ」

 

 「………ハハハははッッ!」

 

 亡霊たちはドッと沸いた。嬉しかったのだ。

 

 だってそうだろう。ヘラクレスは最強だ。槍や剣は体で砕き、盾を叩き割り、亡霊たちに勝利した。

 

 ヘラクレスに盾など不要だ(・・・・・・・・・・・・)。彼自身の肉体に勝る武具など、亡霊たちは持ち得ない。

 だと言うのに彼が盾を求める理由は、精神的な価値。

 

 ヘラクレスは、この大英雄は。

 ただ消え去るだけだった亡霊たちを、英雄として認めたのだ───!

 

 「持ってけ持ってけ!」「俺たちの精神(こころ)もな!」「頼むぜヘラクレス!」「我らの分まで、先へ進んでくれ」「いつか取り返しに行くからな!」

 

 だから。

 

 「それまでは、絶対に負けるな!」

 

 

 

 

 

 

 

 「さて、貴女の思惑はどこにあったのでしょうか。女神アテナ」

 

 「なに、面倒な《鋼》を感じたのでな。足止めに呼び起こしたまでよ」

 「もっとも、貴様が蹴散らしてしまったが」

 

 大人と子供……どころではない。

 大人と小人のような体格差の男女が二人、地中海を臨むギリシャの地に居た。

 

 「それに、奴らも戦を求めていたようだった。事実満足して逝っただろう?」

 

 少女───ギリシャ神話の女神アテナはそう言ってオリーブを食べる。

 上品さと、どこか老獪な雰囲気を併せ持つ彼女は単体の女神ではない。

 

 母メティス、娘アテナ、蛇たるメデューサ。三位一体の複合神である。

 

 「(ゴルゴネイオン)を探しに(インド)へ向かった際、アレ(・・)に捕捉された」

 「道中で別の《鋼》とぶつけてみたが、残念ながらアレが勝ったらしい」

 

 「──成程。確かに、因縁深き相手でしょう」

 

 視線の先には、雷雲があった。

 

 




軍勢
 神としての格すら無いような亡霊の集まり。余程名の知れた英雄でなければ会話すら出来ない。

 ───だというのに。彼らは拳を受け止めてみせた。

 此れ正に人の意地。精神的強さ。
 その象徴たる盾を、英雄は受け取った。

ヘラクレス
 負けることは許されない大英雄。少なくとも主神に匹敵する存在以外には負けない。

 この後無茶振りされる。

アテナ
 大嫌いな夫/父親に目を付けられた。ゴルゴネイオンは持ってる。
 なんとかしろ人間。

雷雲
 ギリシャ語で雷はケラウノス。『輝く』『硬い』が語源だとされている。
 閃光や破壊力を表す言葉として発展し、とある神の武器の名称でもある。

 説得力のある相手。
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