Pokémon World Online    作:アラワナイアライグマ

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1話 

フルダイブ型VR技術が当たり前となった現代。

一般家庭では、頭に”被るだけ”のヘッドギア型デバイスが主流となり、装着して寝っ転がれば数秒で仮想世界へ接続できる。この時代、モニターを前にコントローラーを握るゲームはすっかり”レトロ”扱いされている。

FPSも、推理ゲームも、音ゲーすらも完全VR対応となり、ゲームは画面の向こう側ではなく、自分が体験する現実の一部になった。

そんな中で、最も人気を集め続けているジャンルがMMORPGである。

現在、日本を含めて世界で最も流行しているVRMMORPG『Pokémon World Online』——略してPWO。去年の夏頃に販売され、全世界で販売数数千万本突破、同時接続数が某世界記録に登録されたほどの人気作だ。

しかし俺はまだプレイしていなかった。

同時期に発売したVRFPSを優先してしまい、タイミングを逃していたのだ。

だが、そのFPSでの目標も——今日、ついに達成する。

 

『VR Tactical Gunner』、通称VTG

完全没入型のタクティカルFPSで、銃器の重量感、反動、弾道まで徹底的にリアルに作り込まれている。プロリーグも存在し、eスポーツシーンでも屈指の人気を誇るゲームだ。

普通のプレイヤーは5種類以上の武器を使い分け、チームで連携して戦うのだがー俺は違う。

ナイフオンリー。

銃は一切使わず、ナイフだけで敵を倒し続けるという完全な変態プレイ。

 

「ハル、あと3キルだぞ」

「分かってるよ!」

 

廃工場マップの薄暗い通路。俺のキャラクター、黒いタクティカルスーツに身を包み、壁に背中を預けて息を潜めている。

手にはコンバットナイフ。それ以外、何も持っていない。

ヘッドアップディスプレイの右上に表示されたキルカウント——249,997。

目標は25万。あと3人。

 

「敵2名、西側階段から降りてくる」

 

パーティーメンバーのAzuLが、偵察ドローンの映像を共有してくれる。

 

「了解」

 

俺は音を立てないように移動を開始する。VRの利点は、実際に体を動かす感覚があること。足音の大きさも、自分の動き次第でコントロールできる。

階段の影に身を潜める。

足音が近づいてくる。

2人だったな。

最初の1人が階段を降りきった瞬間——俺は飛び出した。

 

「ナイーー」

 

相手が反応するより早く、ナイフを喉元に叩き込む。一撃。

【KILL】249,998

即座に次の敵へ。驚いて銃を構える相手の懐に潜り込み、脇腹を抉る。

【KILL】249,999

 

「あと1人も地獄にごあんなーい。隠れててもチラチラ見えてんだよなぁ」

 

AzuLの声が弾む。

 

「どこだ?」

「屋上。スナイパーが1人」

「…マジか」

 

屋上のスナイパー。開けた場所で、遠距離の敵。ナイフで倒すには最悪の状況だ。

 

「煙幕炊こうか?」

「いや、このまま行く」

「お前、ほんと変態だな」

 

俺は階段を駆け上がる。

屋上への扉を開ける——瞬間、銃声。

頭上を弾丸が通過する。

 

「っ!」

 

すぐに物陰へ転がり込む。

スナイパーは屋上の反対側、給水タンクの影に陣取っている。距離は約40メートル。

 

「…走るしかないか」

「マジで?」

「マジで」

 

深呼吸を一つ。

タイミングを計る。

スナイパーがリロードするモーションまで待つ。

 

「リロード」

 

全力疾走。

モーションをキャンセルした相手が再び照準を合わせる。

銃声。

耳元で風切り音がする。危うくヘッドショットされかけたぜ。

20メートル。

また銃声。

足元に着弾。

10メートル。

相手がサイドアームに持ち替える。

5メートル——飛び込んだ。

ナイフを振り下ろす。

相手の首筋に刃が吸い込まれる。

 

「記念すべき25万人目だ、ありがたがれよ」

 

ニヤリと笑う。

【KILL】250,000

【★ 達成:ナイフキル 250,000 ★】

画面中央に金色の文字が浮かび上がり、派手なエフェクトが弾ける。

最後の生存者であるスナイパーを倒したことで戦闘も終了した。

 

「っしゃあああああ!!」

 

AzuLの歓声が響く。

 

「やったな、ハル!ついに25万だ!」

「…ふぅ」

 

俺は仮想空間の中で、大きく息を吐いた。

達成感と疲労感が同時に押し寄せてくる。

マッチが終了し、訓練場のロビーに転送される。

ロビーは広々とした空間で、ベンチや自販機、射撃レンジなどが配置されている。パーティーメンバー専用の場所なので、他のプレイヤーはいない。

AzuLのキャラクター——ミリタリージャケットを着て、タバコを吸うモーションをしている男——が、ベンチに座っていた。

 

「お疲れ〜。いや、マジでやっちまうとはな」

「途中頭おかしくなるかと思ったけどよぉ、やりきったぜ」

 

俺も隣に腰を下ろす。

 

「でもこれで、FPSは一区切りか」

「これ以上やっても、ってとこだしな」

 

25万キル。

ナイフだけで。

普通の人間なら絶対にやらない縛りプレイ。途中で何度も「もうやめようかな」と思ったが、結局最後までやり遂げてしまった。

 

「んで、次はポケモンやるって話だっけ?」

「ああ、殺伐としたFPSをやりすぎて荒んだ心を癒そうかなと」

「ぷはは、ハルの生まれつき荒んでる心を癒せるのかよ」

「うるせぇ」

 

AzuLは笑いながらタバコの煙を吐き出す。もちろん仮想空間だから実際には煙は出ないが、エフェクトとして表現されている。

 

「つーか、お前もナイフキルなんて変態プレイによく付き合ったよな」

「まあ、面白かったし。お前の無茶な突撃をサポートするの、結構楽しかったぞ」

 

AzuL——本名、北条藍。

プロゲーマーで、VTGの大会にも何度も出場している実力者だ。俺が最もよく一緒にゲームをしている友人で、FPSでもMMOでも、大体こいつと一緒に遊んでいる。

 

「とりま、ハルがそっちに移動するなら俺もやってみるかなポケモン。ガキの頃に携帯型でやって以来かな〜、なっつ!」

「マジで?」

「ああ。お前と遊ぶと暇しないからな」

 

AzuLはニヤリと笑う。

 

「んじゃ、とりあえず適当に進めたら落ち合おうぜ」

「おっけー。俺はこれで落ちるから、やる時メールする」

「了解」

 

AzuLがメニュー画面を開き、ログアウトを選択する。彼のキャラクターが光の粒子になって消えていく。

俺も立ち上がり、同じくメニューを開いた。

 

「さて、と」

 

【ログアウト】を選択。

視界が白く染まり、意識が現実へと引き戻されていく——。

目を開けると、そこは見慣れた自分の部屋だった。

六畳一間。窓際にはベッド、壁際には本棚とゲーム機のコレクション。床には脱ぎっぱなしの制服と、空になったペットボトルが数本転がっている。

典型的な高校生男子の部屋だ。

俺はベッドの上で寝転がったまま、頭に装着していたVRヘッドギアをゆっくりと外した。

 

「ふぅ…」

 

天井を見上げながら、小さく息を吐く。時計を見ると18時を少し回りそうな頃。

スマホを手に取り、ゲームストアを開く。

『Pokémon World Online』

検索バーに打ち込むと、トップにゲームのパッケージ画像が表示された。色とりどりのポケモンたちが駆け回る草原、空を飛ぶ伝説のポケモン、そして冒険者たちの姿。

評価は星4.8。レビュー数は数百万件を超えている。

 

「…よし、買うか」

 

購入ボタンをタップ。決済が完了し、ダウンロードが始まった。容量はそこそこ重め。回線速度的に、完了まで40分ほどかかりそうだ。

 

「その間に、準備するか」

 

まず、買い出し。

昼間のうちにコンビニで買っておいた飲み物と食料をベッドの脇に並べる。栄養ドリンク、口がパサパサになることで有名な携帯食料の定番コンボ。

長時間プレイには必須の装備だ。

次にトイレ。今のうちに済ませておく。

部屋に戻り、スマホを充電しておく。

ヘッドギアの充電も確認——満タンだ。連続稼働時間は約2時間。2時間ごとに10分の休憩を挟めば問題ない。

ダウンロードも完了している。

 

「よし、準備万端」

 

俺はベッドに横になり、VRヘッドギアを手に取った。

深呼吸を一つ。

ゲーマーとしての血が騒ぐ。新しい世界。新しい冒険。新しい発見。

 

「行くか」

 

VRヘッドギアを装着する。

電源ボタンに手を伸ばし——

押した。




2話からゲーム始めます…
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