Pokémon World Online 作:アラワナイアライグマ
始まりの街・ウノタウン。
新規で始めたプレイヤーが最初に降り立つタウン。過去にネットサーフィンをしていた時に見た情報だと、チュートリアル要素が非常に多く盛り込まれており、付近に出現するポケモンも序盤に相応しいラインナップたちだった。
キョロキョロと周囲を見渡す。似たようなタイミングで遊び始めたプレイヤーたちや、少し早めに始めたのか各々見たことない装備に身を包んでるプレイヤーもチラホラ見受けられる。
ウノタウンを一言で言えばだだっ広い田舎町といったところで、噴水エリアも無ければ二階建て以上の建物がない。視界に見える限りで、最も大きいのはポケモンセンターとフレンドリーショップ。ここが中心部なのかチラホラ露天を開いているプレイヤー、またはNPCみたいなのがいる。
「ケロマツは……この腰についてるモンスターボールの中か」
腰についてるモンスターボールが一つ。最初に見たサイズよりもかなり小さくなっている。移動の邪魔にならないような仕組みか不明なところではあるが5つは他に追加で付けられそうだな。
街中ではポケモンをボールから出しているプレイヤーの方が多い。3匹の人気率としては結構綺麗に分散している。
それよりも気になるのは、チュートリアルで見たことがない衣服をプレイヤーが着ていることだ。
「もしかしてプレイヤー側にも装備とかの概念があるのか? スキンだけなのか?」
画面の横側にチラつく『初心者チュートリアルはこちらから』を無視して、フレンドリーショップへと足を運ぶ。ボールとかはチュートリアルで貰えるだろうが、装備品は買わないと手に入らないはずだ。スキンなのか、装備により効果が発生するのかは確認しておいた方がいい。
フレンドリーショップ。
他RPGでは雑貨屋などと呼ばれるような場所で、ポケモンを捕まえるために必須となるモンスターボール、ダメージを負ったポケモンのHPを回復するきずぐすりなどを購入することができる。
「いらっしゃいませ。ゆっくりご覧になってください」
店内に入る。
棚に色々と商品が並べられている姿はまさに現代のコンビニにそっくり。
思わず癖で栄養ドリンクを買ってしまいそうになるが、こっちの栄養ドリンク(回復アイテム)は、
「きずぐすり500円…げんきのかけら15,000円!? たっけぇ!」
クソほど高いわけで、現状の財布にある3,000円では、げんきのかけらなど到底買うことすらできない。きずぐすりは6個買えるが、それでも決して安くはない。無駄遣いをしようものなら、財布が空っぽになるのも早い。
「こりゃ戦闘不能になったらポケセン直行になるなぁ」
うろうろしていると、お目当ての装備品は店員の後ろに飾られていることに気がつく。
「えーっと、装備品って」
「装備品ですね。ごゆっくりご覧になってくださいね」
「これで通じるのかよ。性能いいな、やっぱり」
NPCに搭載された高性能AIに関心しつつ、装備品を確認する。
プレイヤーには5箇所の装備枠が設けられている——頭、上半身、下半身、足、そしてアクセサリー。ちなみに現在の初期装備はバフもクソもない、さっさと着替えてしまった方がいい。
軽くスクロールする。装備することで『特定タイプの技の威力が少し上昇』、『特定タイプの捕獲率が少し上昇』などなど。戦闘を主軸とするか、冒険を主軸にするかで装備は大きく変わってくる。
とは言っても、序盤も序盤なためか効果はさほど高いものがない。
「回避と火力が上がるやつがベストだな。序盤は防御力とかは気にしなくていいし」
よしよし買うものは分かってきた……分かってきたのだがこれで良いのだろうか。
「ご利用ありがとうございました!」
フレンドリーショップから出てきたのは『ウッウヘルム』を被った短パン、裸足の男性キャラであった。道ゆく全員に質問すれば、全員が変質者とかで通報すること間違いないだろう。
言い訳として、こんな変態装備になってしまった説明をさせて欲しい。
みずタイプの技の威力が上がる装備は2種類ほどしかなかったのだが、一つは何故か女性アバター専用の『ラブカスイヤリング』であり残念ながら装備が不可能。そうなると選択肢は一つしかなく、同じ効果の『ウッウヘルム』を被らざるを得ない。
問題は商品の金額が3,500円であったことだ。初期装備を全て売却することで500円手に入り、初期資金3,000円と合わせてギリギリ購入できる計算になる。バフもない装備を着るよりも、少しでも上昇する装備が買えるのであればそちらの方が良いのは明白なのだが。
「俺が売ったのは装備じゃなくて、品性だったのではないだろうか……」
流石に下半身の装備を外すとパンツじゃなくて短パンになるんだな、じゃなくてだな。
これはケロマツのためなのだ。俺はケロマツの攻撃を強くするために、自らを犠牲にして購入したトレーナーの鏡とも言えるだろう。こうしてウッウヘルムを被る半裸、金欠が爆誕してしまった。
所持金:0円の文字がメニュー画面に表示される。悲しい気持ちになるな。
「……まぁ、想定内だ」
「あれ、やばくないか」
「なんか半裸の人がいるんだけど」
「やべー奴じゃん」
よし、騒ぎになる前に最初のフィールドに移動するとしよう。
ウノタウンを東に駆け抜けていくと見えてくるのは、『始まりの草原1番道路』。出現ポケモンは大まかにポッポやヤヤコマなどといった鳥ポケモン、コラッタやビッパなどといったまさに序盤に相応しいポケモンたちである。
『始まりの草原1番道路に到着しました』
どうやらチュートリアルの一つをクリアしたらしい。報酬はモンスターボール10個と太っ腹である。せっかくだからチュートリアル通りに進めていくか、なになに、次はポケモンをモンスターボールから出しましょう。
モンスターボールはボタンを押すことでサイズを大きくできるらしい。戦闘前ではあるが、ボールに入れっぱなしのケロマツを外に出してやるか。
「よし、いくぞケロマツ」
「ケロ!ケ……ロ?」
「おぉーい忘れるなー。お前のご主人様だぞー」
不思議そうな顔でこちらを見るケロマツ。反応が現実のペット動画とかでありそうな感じで、ものすごくリアル。
『ポケモンをモンスターボールから出しました』
きずぐすりが5個もらえた。次は戦闘チュートリアルね。くさタイプは相性的によろしくないから、コラッタかビッパあたりをシバきに向かうか。
「草原のグラフィックやばいな…無性に寝っ転がりたい衝動に駆られるぜ」
「ケロケロ」
「おっ、お前もこの感覚理解してくれるか」
「ケロ!」
「なんか反応がもらえるのも新鮮だな」
1番道路は、その名の通り最初の冒険者が踏み出す草原だ。背の低い草が一面に広がり、所々に木が点在している。遠くには森が見え、さらにその奥には山々が連なっている。風が吹くたびに草が揺れ、リアルな自然の音が聞こえてくる。鳥ポケモンの鳴き声、虫ポケモンの羽音、そして草を踏みしめる音……全てがリアルだ。
VRならではの没入感。これが、PWOが人気を集める理由の一つだろう。
草むらを歩き進めると、目の前に小さな影が現れた。
紫色の毛並み。鋭い前歯。長い尻尾。
コラッタだ。
ケロマツの最初の相手には問題ない。
ケロマツは初期の5レベル。技はたいあたり、なきごえ、みずてっぽう。野生のコラッタはレベル2と低い、やられることはまず無い。
コラッタはこちらに気づき、警戒するように身構える。野生のポケモンとの遭遇。
これが、俺の最初の戦闘だ。
「先手必勝!ケロマツ、たいあたりだ!!」
「ケロ!!」
ケロマツが地面を蹴り、一直線にコラッタへと突進する。小さな体だが、その勢いは侮れない。
ドスッ!
鈍い音と共に、ケロマツの体当たりがコラッタの脇腹に直撃する。
「ラッタ!」
コラッタが吹き飛び、草むらに転がる。だが、すぐに立ち上がり、反撃に転じた。
「ラッタァ!」
コラッタが鋭い爪を立てて飛びかかってくる。ひっかき攻撃だ。
だが、ケロマツは、俺が何も言わなくても自然と横に跳んで回避した。
「おっ、回避した。これって……ケロマツ、右に避けろ!」
次の瞬間、コラッタが再びひっかきを繰り出す。今度はケロマツ、俺の指示通りに右へ跳ぶ。
爪が空を切る。
「ケロ!」
避けきったケロマツが、こちらを振り返って誇らしげに鳴く。
プレイヤーの指示はポケモンたちに有効であることが分かり、俺はニヤリと不敵に笑った。指示による回避、相殺、アニメ的な立ち回りが可能なわけだ。これは確かに売れるわけだ。
「なるほどなるほど、とりあえずケロマツ、もっかいたいあたり!」
「ケロッ!」
ケロマツが再びたいあたりをする。
コラッタは避けようとするが間に合わない。
ドガッ!
二度目の体当たりが、コラッタの顔面に炸裂した。
コラッタがよろめき、その場に倒れ込む。
次の瞬間、倒れたコラッタの体が光の粒子へと変わり始めた。ポリゴンのような幾何学模様が浮かび上がり、まるでデータが分解されていくように、コラッタの姿が消えていく。
数秒後、完全に消失。
あとには何も残らない。
「……野生ポケモンって、こうやって消えるのか」
少し違和感はあるが、これがゲームということか。倒されたポケモンは、その場から退場する。リアルだが、やはりゲームなのだ。
ケロマツと俺に経験値が入っているのが、目の前に浮かぶ画面に表示される。今回はコラッタの爪がドロップした。
『ポケモン初戦闘を確認しました』
画面中央にメッセージが表示され、報酬として、またモンスターボールが手に入った。いくらあっても困るものでもないし、貰えるもんはありがたく貰っとくぜ。
次の瞬間、新たなメッセージが表示される。
『チュートリアルはこれで終了です』
『この世界を、自由にお楽しみください』
『ポケモン図鑑を入手しました。詳しくはメニュー画面から確認してください』
ケヤキ博士のホログラムが一瞬だけ現れ、優しく微笑んで消えた。
「よし、これで自由か」
俺は深呼吸を一つして、草原を見渡す。
チュートリアルは終わった。
それから俺は、ひたすら戦闘を繰り返した。
コラッタ、ビッパ、ポッポ、ヤヤコマ、次々と現れる野生ポケモンを相手に、ケロマツを鍛え上げる。
最初は苦戦した。
くさタイプのマダツボミに苦戦したり、ビッパのたいあたりをまともに食らったり。
だが、戦闘を重ねるごとに、ケロマツは強くなっていった。
「お、もう1時間経ってるのか」
画面の隅に表示される時計を確認する。リアル時間で1時間。ログイン時間が2時間推奨ということは、ちょうど折り返し地点か。
「結構集中してたな。まぁ、悪くないペースだろ」
ケロマツのレベルは7まで上がっている。手持ちのドロップアイテムも徐々に増えてきた。
アイテム欄を開いて確認する。
【素材】
・コラッタのキバ ×8
・ビッパのけがわ ×5
・ポッポのはね ×4
・マダツボミのつる ×2
・ヤヤコマのはね ×1
「クラフター職なら、これで何か作れるのかもな。まぁ、俺には縁のない話だが」
どうやら倒した時は確定でドロップするらしい。レアアイテムなんかもありそうではあるが、手持ちを見ても今のところは無さそう。
『ケロマツがレベル8になりました』
「お、レベルアップか」
レベル8。次の瞬間、新たなメッセージが画面中央に浮かび上がる。
『ケロマツが でんこうせっか を覚えました!』
「新しい技! でんこうせっか……優先度高い先制技か。これは便利だな」
ケロマツの技欄を確認する。
【ケロマツの技】
1.たいあたり
2.なきごえ
3.みずてっぽう
4.でんこうせっか
5.FREE
6.FREE
7.FREE
8.FREE
「よし、試してみるか。ケロマツ、そこのコラッタに でんこうせっか!」
「ケロッ!」
ケロマツの姿が一瞬ブレる、次の瞬間にはコラッタの目の前に肉薄していた。
ドスッ!
体当たりよりも速い。鋭い。
「おぉ、速ぇ! これなら先手取れるな。みずてっぽう!」
ケロマツの口から放たれたみずてっぽうがコラッタに命中し、後方へと吹き飛ばす。
戦闘が終わり、ケロマツが誇らしげにこちらを振り返る。
「ケロ!」
「よくやった。じゃあもうちょい頑張るか」
さらに戦闘を重ね、ケロマツのレベルは9まで上がった。
俺自身も戦闘のイロハとかが分かってきた。回避指示のタイミング、技の使い分け、リキャストタイミングなどが少しずつ、身についてくる。
過去に努力値と呼ばれていたマスクデータは、今作では『ステータスポイント』となっている。レベルが1上がることに5ポイントもらえる仕組みだ。
メニューを開き、ケロマツのステータスを確認する。
【ケロマツ Lv.9】
HP: 28
攻撃: 14
防御: 12
特攻: 16
特防: 15
素早さ: 18
ステータスポイント残り: 40
「レベル5でケロマツをもらった時点で20ポイント持ってて、レベル9まで4回上がったから追加で20ポイント。合計40ポイントか」
とりあえず素早さに振ってみよう。FPSでもそうだが、速さは正義だ。
素早さに12ポイント振り分ける。
画面が一瞬光り、ステータスが更新される。
【ケロマツ Lv.9】
HP: 28
攻撃: 14
防御: 12
特攻: 16
特防: 15
素早さ: 18 → 21 (+3) ★
ステータスポイント残り: 28
「素早さが3上がったか。努力値4でステータス1上昇……まぁ、こんなもんか」
感想としては、ぴょんぴょん跳ねてる動きが速くなったようなぐらいの分かりにくさであり、現状でもケロマツが相手より遅く動いている場面がないのでより一層分からない。
「ケロ!」
本人は満足してそうなので良しとしよう。
「そろそろポケモン捕まえにでもいくか」
捕獲したときはアイテムドロップするのだろうか。ボックスに入ってるアイテムの傾向から、倒した時以外は手に入らないように思える。あまりにも楽しみすぎて攻略サイトを読まなかったのが響いてるな。
「ケロケロ?」
「とりあえず、1匹捕まえてから考えるか。よし、ケロマツ!もっと奥までいくぞ」
「ケロ!」
俺たちは、フィールドの奥へと向かって歩いていった。
ポケモンの捕獲。
過去にはボタンを押すだけで投げてくれるシステムもあれば、ポケモンの背後に回ったりして投げるタイプまで様々あった。
今回は自ら仮想空間に入っている以上、投げ方一つとってもプレイヤーによって様々なモーションになる。
ここでポイントなのは、ボールを投げた時にプレイヤー側がノーコンだったらどうなってしまうのか。あらぬ方向へ飛んでいってしまうのか、補正がかかってゲーム的な軌道を描くようになるか。
正解はある程度の補正がかかるリズムゲーム扱いになっているということだ。投げるモーションに入ると、ボールを離すタイミングやら何やらが目の前に2本のリング状になって表示される。二つのリングが重なった状態になった瞬間に離せば、現実世界でいくら投げるのが下手くそな人間でも、ポケモン相手に真っ直ぐ飛ばすことができるわけだ。
近くの草むらから、どこか遠くを見つめるポッポに狙いを定める。戦闘して弱らせてもいいが、ここは一つボールを投げてみよう。
「どっせい!」
かつて音ゲーを無音でクリアしていた俺からすれば、この程度造作もない。
真っ直ぐ飛んだモンスターボールはポッポの頭にヒットする。『Critical!!』と表示されたあと、モンスターボールに吸い込まれる。
コトン。小さく一度揺れたあと、再度揺れたあと動きが止まる。
「クリティカルヒット……投げタイミング完璧だと捕獲率上がるのか。なるほどな」
「ポッポゲットだぜぃ!!」
「ケロケロ!!」
「いやーやっぱり一度くらいは言っておかないとな」
野生の初ゲットはポッポになった。
ボールから出すとパタパタと飛んだあとケロマツの横に降りた。
「アイテムドロップは無し…経験値取得はあり。今までの戦闘だと倒したときは確定でドロップしていたし、無しの認識で良さそうだな」
アイテム枠を圧迫せず、レベル上げをこのまま可能であることは確認できた。
手当たり次第ポケモンを捕まえていくことも考えたが、モンスターボールの手持ち数は19個なことと、どうせならレアなポケモンなどが序盤にいるかも含めて確認をしておきたい。
ここは一度、
「ログアウトして攻略サイト見にいくか……」
俺は一度ウノタウンまで戻り、メニューからログアウトを選択する。
視界が白く染まる。
意識が現実へと引き戻されていく。